アラタ、ビキニアーマーを購入する①
作戦会議が終わって宿屋に戻ろうとすると玄関でルイスが仁王立ちして待っていた。
無視して通り過ぎようとするとルイスは必死の形相で俺の肩を掴んで逃がすまいとする。見た目は華奢なのになんつー力だ。それに凄い執念を感じる。
「何か用か?」
「ちょっと顔を貸してくれないかしら? 一対一で話がしたいのだけれど……」
「……分かった」
皆にはロビーで待っていてもらい、俺とルイスは人通りが少ない廊下側に移動した。
その場所に到着するや否やルイスは目にも止まらぬスピードで膝をつき一瞬で土下座が完成した。
「うおっ!?」
びっくりして変な声が出てしまう。そんな中、ルイスは額を床に押しつけ懇願してきた。
「お願いします! このカメラでビキニアーマーを着た姉と先輩方の姿を撮影してはいただけないでしょうか! 報酬はちゃんと払います! 何卒お願いします!!」
床に置かれた彼女の手の前には、ちょこんとカメラが置かれていた。
異世界人の影響か『ソルシエル』にもカメラは存在している。
原理はよく分からないが世界を満たすマナには記憶が内包されているらしく、それを利用したものらしい。
見た目はシンプルで使い捨てカメラに似ている。実家に置いてあったのを見たことがある。
そのカメラを拾い上げしげしげと眺めると俺は視線を土下座したままのルイスへと落とした。
「……目的は? 俺個人としては彼女たちのあられもない姿を記録として残したくはない。万が一それが周囲に漏れたら大変だからね」
「それは重々承知しています! 絶対に画像は周囲に漏らしません。現像する際も店は使わず自分でやります! ですから!!」
「その決意は評価する。けれど最初の質問に答えていないな……目的は何だ? 俺が彼女たちのビキニアーマー姿を撮影してきたとして君はそれで何をするつもりだ?」
「独りで見て楽しみます!!」
ガバッと顔を上げて言い切ったルイスの目は驚くほど澄み切っていた。
作戦会議の場で一瞬見せた濁った目とは違う清々しいほどの綺麗な目。とても同一人物のものとは思えない。
これは嘘偽りのない正直者の目だ。この娘……心の底から……本気で姉とアンジェ達のあられもない姿を独りで楽しむ気だ。
シスコンだとは気がついていたがまさかここまでとは……。
ルイスは一見とても真面目で可愛らしい外見をしており、スレンダーで華奢な姿が庇護欲を刺激する。
そんな小動物の如き彼女が内に秘めていたのは俺の様な変態紳士にも通ずる変態的資質だった。
そんな変態同士であるためか既に俺たちの間には同志とも呼べる不思議なシンパシーが通っていた。同志の心からの願いを無下にする選択肢など俺にはなかった。
「……分かった。君が満足できる様な画像が撮れるように努力してみるよ。ただしさすがにアレな時の画像は撮るつもりはないから、そこんとこよろしく」
「十分です。あたしとしても姉や先輩方のアレな時の姿を見たら嬉しさのあまりショック死するので控えたいと思っています」
俺は未だ廊下に座り込んだままのルイスに手を伸ばし、彼女はその手を取って立ち上がった。
この瞬間、似た者同士の俺たちの間に奇妙な同盟関係が生まれたのであった。
「それではよろしくお願いします、先生!」
余談だがこの時から俺はルイスに〝先生〟と呼ばれるようになってしまった。
――その夜。
俺はちょっと怪しい雰囲気を持つ防具屋に向かった。
店の中は一見普通の防具屋だったが、奥の方に行くとのれんが掛かっており、そこには『ここから先は成人のみ』と書かれていた。
日本であれば俺は高校生であり子供な訳だが、『ソルシエル』では十五歳からが成人であり、冒険者という職業に就いているので立派な社会人だ。ここを通過する資格は満たしている。
意を決し両手でのれんを左右に開いてくぐるとそこからは雰囲気が一変した。
防具屋の店内は無骨な男臭さのような重々しい雰囲気があったが、のれんを越えた先には何というかピンク色の雰囲気が充満していた。
これはもう防具屋じゃない……宝物庫だ。
あちこちに妖しいアイテムの数々や防具という名の際どい衣装が展示されている。
のれん付近に置いてあるのは比較的ソフトな内容の品物なのだが、奥に行けば行くほどハードな内容になっていった。
ハードなのは俺もさすがに引いてしまうような物ばかりだったので、俺がこの宝物庫で用があるのは部屋の中間あたりまでだ。
俺は自分のテリトリーと判断した範囲内で目的の物を探し始め、早々にそれは見つかった。
ビキニアーマーという名だけあって水着に申し訳程度の胸当てが付与されたデザインだ。
旅の途中でこの卑猥な装備を着ていた女性冒険者がいたので何処にあるのか探していたのだが、ついに売っている場所にたどり着いた。
ゲームなどのフィクションでこういう装備があるのは知ってはいたけど、まさか異世界で現物があるとは思いもしなかった。
これを考えた人と作ってくれた人に深く敬意を表し現物を手に取ろうとすると、ここで俺は重要な事を忘れていた事に気がつく。
「あ……サイズどうしよ」
ビキニアーマーと言えど一応衣類な訳でサイズが存在する。特に胸当て部分のサイズは重要だ。
適正なものでなければ、そこに収めるものが収められないし逆にゆるゆるになってしまうのも考えものだ。
まあ、うちの女性陣は皆巨乳なのでゆるゆる路線になる可能性は低いが……さて、どうしたものか。一回帰ってアンジェを連れてこようかな?
「呼びましたか? ふっ」
「はうっ!?」
突然耳に息を吹き掛けられて飛び退くとそこにはアンジェがいた。物静かにそこに立っている銀髪メイドに全く気がつかなかった。