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信頼と実績と自己紹介

「色々と話が脱線したが、この集まりは自己紹介と明日のレムール祭本戦へ向けての作戦会議を兼ねておる。与太話をする為に集まったのではないぞ!」


 意気揚々と再び場を仕切り始めたクレアを前に「お前が言うな!」という言葉が喉元まで上がってきた。

 みんな俺と同じように複雑そうな表情をしているあたり考えていることは同じなのだろう。

 指摘したらまた面倒くさい事になりそうだから誰も指摘しないが……。


「まずはわしから自己紹介をするとしよう。この場のほとんどの者は知っていると思うがの。――メイドを育成派遣している『ゴシック』の代表兼メイド長、クレア・アウ・ミストルティンじゃ。先の予選でも披露した通り弓型の武器に変身する。よろしく頼むぞ」


 クレアが意外にも簡潔に自己紹介を終えると次にシルフィが手を上げて二番手になった。


「はいはい! それじゃ次はボクだよー。ボクはシルフィ・シルヴァーナ。クレア達と一緒に『ゴシック』でメイドをしてるよ。種族は走るのが得意なオラシオン族、好きな食べ物はにんじんを使った料理全般。皆よろしくね」


 オラシオン族は馬の耳や尻尾を有した亜人族の一種らしい。活発なシルフィは尻尾を左右に揺らしながら元気に挨拶を済ませた。

 そこからは俺たちのパーティが続き、最後はスヴェンとルイスの二人になった。するとルイスがソファから立ち上がる。


「あたしはルイス・ゼル・ブリューナクよ。ルシアお姉様の妹で『アストライア王国』に仕えるアルムスの一人。そして勇者スヴェンのパートナーをしているわ。重力を操る槍、聖槍ブリューナクに変身するわ。以後よろしく。という訳でスヴェンもあたしとほぼ同じ内容だからこれで自己紹介は終わりね」


「――わしの記憶が正しければ現勇者の中に王族がいるという話じゃったな」


 ルイスが強制的に自己紹介を終わらせようとするとクレアが割り込む。するとルイスが鋭い目つきでクレアを睨んだ。

 この話の流れから察するにもしかしてその王族って……。


「ルイス、気を遣わせて済まなかったな。クレアと言ったな。お前が言う通りくだんの王族というのは俺の事だ。スヴェン・エスト・アストライア……それが俺の名だ。もっとも王位継承権は無いがな」


 マジモンの王子だったらしい。異世界に来てから数ヶ月経過したが一国の王族に会ったのは初めてだったので非常に驚いた。

 とりあえず手を合わせておいた方がいいかな。


「……手を合わせて何のつもりだ?」


「いやその、王族に会ったのなんて初めてだったのでありがてーと思って」


 スヴェンは呆れた様子で髪を指でポリポリ掻きながら話し出す。


「さっきも言ったが俺に王位継承権は無い。所詮(めかけ)との間に出来た子だからな。本来ならアストライアの名を語るのもおこがましい存在だ。それが許されているのは王の慈悲があったからこそ。それに報いる為に俺は勇者として戦っている」


 スヴェンは語りながら真っ直ぐにクレアを見つめている。その曇り無き眼に彼女は安心した様子を見せる。


「試す様な事をして済まなかったの。わし個人としてはどうしても『アストライア王国』の勇者を信用できなかったからの。しかし、お主の言動と目を見て信用に足る人物という事が分かった」


「それはどういう意味だ?」


 スヴェンが怪訝な表情でクレアを睨む。自分を含む仲間たちが信用できないと言われれば面白く思わないだろう。

 それにしてもずっとクレアは俺たちを試すような言動を繰り返している。その意図は一体何なんだ?


「……千年前の話じゃ。魔人戦争の折り魔人の軍勢と戦っていた同盟軍は召喚された異世界人の部隊を中心として結束しておった。しかし全てが一致団結していたわけではなく、同盟軍の中には魔人共と内通している者がいたのじゃ。重要な作戦の情報が魔人側に漏れ、その結果多くの仲間たちが犠牲になった。そういう過去があったが故に、わしは相手が信用できるかどうか確認する事にしているのじゃ」


「なるほどな。それで俺はそのお眼鏡にかなったと考えていいのか?」


「そう解釈してもらってかまわんよ。しかし他の勇者たちに限っては信用はしていない。それだけは覚えておいて欲しい。そして、その理由はこれからそこの童が話してくれるじゃろう。そうじゃな、アラタ」


「えっ、俺……?」


 またもや突然話を振られて驚いてしまう。これってつまり今度は俺が信用に値するかどうか試されるって事か?


「そう怯えなくてもよい。本当のところこの場を設けたのはお主と腰を据えて話をしたいと思ったからなのじゃ。重要な話になる故、最初は勇者殿には外してもらおうと思っとったが、今は問題ないと思っておる。実際刃を交えたお主の方がそのあたりはよく分かっておるじゃろう」


 そう言われてスヴェンの方を見てみる。

 予選で戦った時、神薙ぎとブリューナクを通して伝わってきたスヴェンの魔力は実に真っ直ぐなものだった。 

 戦い方に関してもそれは同じでパートナーであるルイスとの関係からも信頼できると俺は思っている。


「確かにその通りだ。俺もスヴェンとルイスに聞いてもらった方がいいと思ってる。それに魔人戦争に幹部として参加し、終結してから千年間活動を続けてきたあなたと色々話をしたいと俺も思っていたんだ。――まず最初に俺の事を話そうと思う。そこから順を追って説明した方が分かりやすそうだし」


 それから俺は自分が異世界から来た人間だという事実を話した。そしてアンジェと出逢い、『ソルシエル』に召喚されてからの経緯を話していった。

 そして今は冒険者として活動しつつ、新たな魔人の軍勢『アビス』と戦っている事、元の世界に帰還する方法を探して過去の異世界人の足跡を辿って旅をしている事を話した。

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