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アラタ君ちの家庭の情事

 一杯三千円相当の紅茶を丁寧に味わいカップが空になるとルシアがすかさずお代わりを訊ねてきた。


「アラタさん、お代わりはどうですか?」


「……ありがとう。でも大丈夫、もう十分だよ」


 ルシアが入れてくれるお茶も宮廷仕込みである以上、『ゴシック』式と同じくらいの価値はあるだろう。

 以前アンジェのお茶と飲み比べをした事があったがどちらも同じくらい美味しかった。

 そこら辺を色々と考えているとどうしても二杯目には手を出しにくい。


「えっ……いつもは必ずお代わりをしているのに……どこか調子が悪いんですか?」


 ルシアが心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。

 額に手を当てて熱の有無を調べたりしているが、当然身体の不調はないので原因が分からず悲しげな表情を見せている。

 今更ながらだけど、ルシア……君は少々過保護気味だよ。まるで赤ん坊にするように甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれているもの。


 違う、そうじゃないんだ。俺は元気だし食欲もあるけど一杯三千円のお茶をがぶ飲みするのは、庶民として気が引けているだけなんだ。

 罪悪感に頭を悩ませていると彼女の背後からルイスが顔を出し俺に対し恨めしげな顔を見せる。口元を見ると口パクで何かを言っているようだった。


『お・ね・え・さ・ま・を・け・が・し・た・お・ま・え・を・しょ・す・る』


 ……こいつ隙あらば俺を殺るつもりだ。完全にシスコンをこじらせていやがる。今後はより一層背後に気を配って生きていかなければならないようだ。


 立て続けに色々な事が起こりため息を吐いていると別の視線を感じた。ふと見るとクレアが笑っていた。俺の反応を見て楽しんでいるみたいだ。


「お主は中々に面白いのう。アンジェ達の給仕の価値を知って縮こまってしまうとは可愛い反応をする」


「そいつはどうも……」


 これで状況を理解したアンジェ達が怒り心頭でクレアに食ってかかった。


「クレア、あまりアラタ様をからかうのは止めていただけないでしょうか?」


「うーん、どうしようかのう? お主らのマスターは弄り甲斐があるから悩ましいところじゃ」


「……どうやら言い方が悪かったようだな。私たちのマスターにちょっかいを出すのは不愉快だから止めろと言っているのだが……これで理解したか?」


 沸々と怒りをたぎらせるアンジェの口調がメイド調から素の状態になる。さっきまで和やかだったお茶会の雰囲気が一気に殺伐としたものに変化した。

 アンジェの隣にはセレーネが並びこれ見よがしにクレアを非難する。


「わたくし達のご主人様を弄ぶのは気に入らないのは当然として、今までわたくしをエルフモデルだと偽ってきた事実も許せませんわ!」


「何じゃ、やっと自分がサキュバスモデルだと気がついたのか。お主の天然勘違いは面白かったからちょっと残念じゃの」


「このくそエルフ、案の定人をおちょくって楽しんでいやがりましたわ! 今日という今日こそ、絶対にしばき倒してやりますわ!!」


 セレーネは怒りで顔を真っ赤にし、指の関節をポキポキ鳴らしながらクレアににじり寄っていく。


 一触即発の雰囲気になる中、ロックとレオは焼き菓子を離れた場所に持って行きトリーシャも加わってそれを食べながら観戦している。

 本当に食い意地が張ってるな、こいつら……。

 

 本気で怒っているアンジェとセレーネ、それに表情こそ普通だが殺気立っているルシアに対してクレアは涼しい顔をしている。

 この状況に既視感を感じていると、これはレムール祭予選時のトリーシャへの態度と同じであることに気がついた。


「全く……どいつもこいつも盛りおってだらしないのう。マスターを大事に思うのと自分の男にちょっかいを出す女への嫉妬は別じゃ。今のお主らは明らかに後者の反応をしとるぞ。この数ヶ月の間にどれだけ骨抜きにされたのかは知らんが、そんな不抜けた状態ではマスターを守り抜く事はできぬぞ」


「「「……っ!!」」」


 余裕の表情でソファに座っているクレアは見せつけるように足を組み替え、悪戯な笑みを見せながら頬杖をついている。

 明らかな挑発行為だ。

 挑発されているアンジェ達は思うところがあったのか、怒りつつも何も言い返せない状況だ。


「ふふふ、千年処女どもが男を覚えたばかりで自制が効いていないようじゃの。さっきの話から察するにその男好きする身体で誘惑して毎晩ハッスルしとるんじゃろ?」


「そんなにする訳ないだろう。確かに家にいる時には毎晩一人あたり最低四回戦は当たり前だったが、さすがに旅の間は頻度は二日に一度、それも一人あたり三回戦までとルールを決めている!」


 アンジェがキリッとした顔をして言い切った。聞いていた当事者以外はその内容にドン引きしていた。


「一人三回戦て……つまりアラタお前、やるとなれば十回戦以上ぶっ通しでやってたのか? 身体大丈夫? 死なない?」


 ロックが本気で俺の心配をしている。

 やめて……そんな目で俺を見ないで……誰かアンジェを止めて、これ以上うちのトップシークレットを暴露させないで……。


 俺の願い虚しくアンジェの他うちのアルムス陣は「ちゃんと考えてます」という自信満々の顔をしているが、クレアは「はぁ~」とため息を吐いて呆れた顔をしている。


「そんな事じゃろうと思ったわ。これだから常識知らずのお嬢ちゃん達はたちが悪い。いいかよく聞け、お主たちの異常性欲に付き合っておったら普通の男ならとっくに萎れて使い物にならなくなっておったぞ。――そう思うじゃろう、アラタよ?」


 急にこっちに振られたので驚く。確かに常識で考えたら今の俺は異常な生活をしているかもしれない。でも――。


「はぁ、まあそうかもしれないけど俺はやればやるほど元気になるので、たぶん心配ないかと……」


「アルムスがアルムスならマスターも大概だったようじゃな……。とにかく言いたかったのはマスターとアルムスにとって絆は大事だという事と馴れ合いだけの関係にはなるなという事じゃ。それが出来ておれば後は好きにすればよい」


 つまり戦うべき時は頭を切り替えてちゃんと戦え、という感じで解釈していいのだろうか。

 仲良しなだけではこの先、魔人との本格的な戦いの中で生き残れないと教えてくれているのだろう。

 

 何はともあれこれ以上、うちのプライベート情報が流出しなくてよかった。

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