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風と重力と②

 魔力を高めながら少しずつ間合いを詰めていく。これまでの打ち合いでスヴェンがグラビティを使ってくるのは三十メートル前後の距離までだという事が分かった。

 それに戦いが始まってからあいつは基本的にその場を動かずに、グラビティウォールによる防御もしくは反撃で対応している。

 それが本来の戦闘スタイルなのか、それとも俺たちの実力を確かめる為にそうしているのかは分からない。


 しかし、向こうが基本的に防御の姿勢を崩さないのなら、それを利用させてもらうまでだ。

 約三十メートル離れた位置で立ち止まり神薙ぎに魔力を集中する。スヴェンは早くもグラビティウォールを展開して防御の構えを取った。


「狙いはそこだ。風の闘技、弐ノ型――穿空せんくうッ!!」


 刀身に集中した風の魔力を突きと同時に発射した。一筋の風の閃光が真っすぐにスヴェンに向かって行く。


「遠距離の魔術は俺には効かないと言ったはずだ。何を仕掛けて来るかと思えば、とんだ肩透かしだったな!」


「それは……どうかな!?」


 穿空はグラビティウォールのど真ん中に命中すると軌道を歪曲されことなく障壁を貫通しスヴェンの腹部に直撃した。

 苦悶と驚きが入り混じった表情を浮かべながらスヴェンの身体がくの字に曲がる。


「がはっ、そんなバカな!?」


『スヴェンッ!』


 鉄壁と思われていたグラビティウォールが突破されスヴェンがダメージを受けた事で敵の集中が乱れた。

 ――ここで決める!


 俺は神薙ぎを鞘に納めるとその場を跳び出し、体勢が崩れたスヴェンに向かって行く。

 俺の接近に気が付くと、スヴェンはブリューナクを向け魔術を発動させようとする。


「ちぃっ、させるか! グラビ――」


「遅いっ! ノ型――絶空ぜっくうッッッ!!」


 スヴェンの懐に入ると柄に手を掛け魔力を最大限に高めた抜刀術を繰り出す。

 目にも止まらぬ速さで鞘から解き放たれた風の刃は敵の身体を袈裟懸けにし、一瞬で空中へと斬り飛ばした。


「がはぁっ!!」


 血しぶきを上げながらスヴェンは地面に落下しうつ伏せのまま動かなくなった。絶空の直撃を受けたからには暫く立てないはずだ。

 周囲の魔物を倒そうとこの場を去ろうとすると背後で何かが動く気配がした。


「――何処に行くつもりだ。まだ、勝負はついていないぞ!」


 振り向くとスヴェンがふらつきながら立っていた。ブリューナクを杖代わりにして何とか立っている状態だ。

 絶空が完全に入ったのにすぐに立ちあがれた事に驚く。いくらローブを纏っているとはいえ相当なダメージだったはずなのに……。


「これは俺の実力を確かめる為のテストなんだろ? だったら目的は達成しただろ」


「そんな事はどうでもいい。それよりもさっきの技はどういうつもりだ!?」


「何の事だよ……?」


 俺が言うとスヴェンは更に怒気を強め少しずつ俺の方へと近づいて来る。

 確実にダメージはあるようで動きが重い。けれど気力を振り絞って目の前に立ちふさがる姿からは物凄いプレッシャーを感じる。


「あの絶空という技は神薙ぎを鞘に納めている時に魔力を蓄積し、抜刀と同時に爆発的に高めた風の刃で敵を一刀両断するものだろう? だが、さっきお前が俺に放った一撃にはまるで模擬刀を叩きつけられたかのような鈍さがあった。――穿空という技でグラビティウォールの中心を正確に射抜いた貴様なら俺を斬り裂く事も可能だったはずだ。手加減をしたつもりか?」


「あの一瞬で絶空がどういう技か見破るなんて大した観察眼だな。確かにお前が言った通りだよ。でも別に手心を加えようと思ったわけじゃないし思い切り叩きつけた事には変わりない。それよりも俺たちが命を奪い合う必要はないだろ。何よりお前悪い奴じゃなさそうだし」


「何だと……?」


「何度も斬り結めば戦っている相手がどういう人間なのかが見えて来るもんさ。お前とブリューナクの連携は見事だった。俺の経験上、相棒のアルムスとの間に信頼関係ができている奴に悪い者はいないと思ってる」


「とんだお人好しだな。俺はお前の様な楽観的な奴が……嫌いだ」


 「嫌いだ」と言った時のスヴェンは少し笑っている様に見えた。口はあれだがやっぱり悪い奴ではなさそうだ。というかこれ……絶対ツンでデレな人だろ。


『何よあいつ、素直じゃないわねぇ』


 いや……トリーシャは人のこと言えんよ。君も立派にツンデレな性格してるからね。あの勇者と似た者同士だからね。

 敵と味方のツンデレに挟まれた状態になっていると、敵のツンデレ――スヴェンがブリューナクを構えて戦闘続行の意志を見せる。


『スヴェン……』


「すまないルイス。でも俺はこの戦いをこのまま終わりにしたくない。あと一撃……本気であいつと打ち合いたいんだ!」


『……しょうがないわね。付き合ってあげるわよ』


「感謝する」


 どうやら向こうはやる気だ。神薙ぎの柄を握る手に力が入る。


『あの勇者かなりの戦闘バカだけどあなたも大概よね。向こうは次の一撃に余力を全てつぎ込んで来る気よ。アラタもそれに真正面から受けて立ちたいんでしょ?』


「……ああ。スヴェンは全力で挑んで来る気だ。あそこまでの覚悟を見せられたら逃げるわけには……いや、逃げたくない。俺も全力を出して応えたい」


『分かったわ。こうなったら思い切りやるわよ。後でルシアに何て言われるか分からないけど、その時は一緒に怒られましょう』


「ありがとう、トリーシャ」


 俺たちの意志も固まった。スヴェンも俺も全力で魔力を高め身体からオーラが放出される。

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