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風と重力と①


 戦いが始まってから俺もスヴェンも魔術や闘技を使わずに斬り結んでいた。

 俺が攻撃すればヤツは見事な槍(さば)きでいなし、向こうが槍で攻撃して来れば俺は神薙ぎで凌ぐ。

 このやり取りを何度も繰り返しお互いの技量が段々と掴めて来た。


「……強いな。何度か死角から打ち込んだのに的確に受け止められた。あれはかなりの修練と実践を経験しなけりゃ出来ない芸当だ」


『そうね。他の勇者はどうか知らないけど、あのスヴェンって勇者の実力は本物よ。一瞬の油断が命取りになるわ、注意して』


「あいよ。それじゃ身体も温まってきたところだしそろそろ仕掛けるか! 風の闘技、壱ノ型――疾風はやて!!」


 練り上げた風の魔力を神薙ぎの刀身に集中し一太刀の斬撃波としてスヴェンに放つ。


「来たかっ! だがそんな単純な攻撃でやられる俺ではない。――グラビティウォール!!」


 スヴェンの前に半球状の魔力障壁が展開されると、疾風は受け流されるようにして軌道を逸れ競技場の壁に直撃した。


「何だ今のは。疾風が受け流された!?」


『重力のバリアで受け流したのよ。それにしても疾風があんなに簡単に逸らされるなんて……あのスヴェンって勇者とルイスの相性は相当なものね』


 トリーシャが敵をここまで認めるのも珍しい。それだけスヴェンがブリューナクの力を引き出しているという事か。

 遠距離から攻撃してもグラビティウォールで逸らされてしまう。こうなれば危険だが接近戦を仕掛けるしかない。


 身体の周りに風の魔力を放出し地面から浮き上がる。そのまま地上すれすれを高速で飛翔し、スヴェンの周囲を動き回りながら少しずつ距離を詰めていく。

 そして、ある程度近づいたところで一気に間合いを詰める。


「どれだけ速く動こうが攻撃の際は接近するしかない。その瞬間を叩かせてもらう! グラビティ!!」


『重力で押しつぶす気よ。離れてっ!!』

 

「くっ!」


 敵の重力系魔術を警戒していたトリーシャがいち早く反応する。急いで回避行動を取り攻撃予想範囲の倍はある二十メートル以上離れる。

 ここまで離れれば大丈夫なはずだが……。


「それで逃げたつもりか!」


 急に身体が鉛のように重くなり地面に落下転倒する。まさかこれが重力魔術の力なのか? 身体がどんどん重くなって地面にめり込んでいく。


「ぐああああああっ!!」


『こんな……嘘でしょ!? 効果範囲の倍以上は離れていたはずなのに……』


 敵の魔術で身動きが取れないばかりか重力が身体を押し潰さんとばかりにのしかかって来て苦しい。

 このままじゃ、さっきスヴェンが倒した魔物と同じ様に圧死してしまう。


「俺たちを甘く見過ぎたな。そのまま抵抗できずに潰れるか?」


『千年前と同じと思ったら大間違いよ。スヴェンと今のあたしの力はあの頃の比じゃないわ。グラビティの効果範囲一つ取っても当時の数倍はあるのよ』


「なるほど……な。確かにハンパじゃないみたいだ」


 普段の何倍も重くなった身体を魔力と筋力と根性で立ち上がらせる。

 するとさっきまで余裕を見せていたスヴェンとブリューナクの態度が変わった。


『立ち上がった? 嘘でしょ、これだけ加重を掛けているのにどうして立ち上がれるの?』


「落ち着けルイス。むしろこの程度でやられるようでは困る。ここからが本番だ。――はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 スヴェンが更にグラビティの威力を上げた。膝が折れ倒れそうになると神薙ぎから風の防御障壁が展開され重力効果が薄れる。そのお陰で何とか持ち直した。


「すまない。助かったよトリーシャ」


『礼を言うのは早いわよ。とにかくグラビティから抜け出さないと!』


「――やってみる!」

 

 魔力を高めて気合いと共に爆発するように放出した。

 身体にのしかかっていた重さが消え、その一瞬の隙を突いて全力で後方に跳び退き距離を取る。

 距離にして約五十メートル離れたがスヴェンがグラビティを使ってくる様子はない。


『これだけ離れればさすがに効果範囲の外みたいね』


「そうだね。それと魔力を高めれば一時的に無効化する事が確認できた。これで攻撃の糸口が掴めた。――行くぞっ!」


 真正面から突撃し接近すると再び身体に重力がのしかかる。それを魔力と気合いで吹き飛ばし肉薄するとスヴェンが驚く。


「なんっ……!」


「でええええええい!!」


 神薙ぎとブリューナクの刀身が衝突し火花が散る。

 それから何度か斬り合うと急に神薙ぎが重くなって振うことが出来ず、そこに刺突攻撃が打ち込まれ俺の頬をかすめる。

 再び距離を取り神薙ぎの重さを確かめると問題は無かった。


「一瞬、神薙ぎが重くなったと思ったけど気のせいか?」


『ちょ、失礼ね。私の体重は変わってないわよ! そりゃ『ティターンブリッジ』に入ってからは戦いが無くて身体を動かす機会が減っていたけど……あれ? 何だか不安になって来たわ……』


 困惑しているとブリューナクが得意げに話し出した。


『ふふふ、驚いているようね。さっきの斬り合いの途中、あたしと神薙ぎが接触した際に局所的に重力魔術を使用したのよ。連続で攻めればグラビティを使えないと考えたのでしょうけど残念だったわね!』


 俺はブリューナクの人間時の姿を知らないが声色だけで物凄く調子に乗っている事が分かった。マウントを取って楽しんでるなこれは。

 

『ちょっとルイス! あなた人の体重を爆上げしておいて何笑ってるのよ。頭にくるわねー』


 トリーシャはトリーシャで自重を上げられた事に怒っている。

 戦闘中だというのにアルムス二人はどっちが上かマウントの取り合いをしている。トリーシャとルイスの性格はどうやら似ているらしい。


 俺は深呼吸をして戦略を練る。接近すれば敵はグラビティを使ってくる上に、斬り合いをすればこっちの武器を重くしてくる。

 こうなると戦い方は自ずと限られる。一瞬のうちに単発で繰り出す大技で決めるしかない。


「トリーシャ……この作戦で行くよ」


『……分かったわ。私はリアクターを最大稼働にしておくわね』


「――頼む」


 俺の思考をトリーシャに送り彼女は準備を整える。後は俺次第だ。

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