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それぞれの予選


 競技場は地獄絵図そのものだった。

 大量の魔物が追加されたことで大会出場者と魔物の戦いがあちこちで発生し、次々と棄権者が続出する。

 九十組になっていた出場者は今や五十組を下回り予選は終盤に突入していた。

 その結果レムール祭は前哨戦だというのに最高潮に盛り上がり観覧席で戦いを観ている客たちは歓声を上げている。


 その中で不安げな表情で戦いを見守っている三人の女性がいた。アンジェ、ルシア、セレーネである。

 彼女たちが注視しているのは今しがた魔物そっちのけで戦いを始めたアラタとスヴェンだ。戦いが始まると二人は真っすぐに向かって行き斬り合いを始めた。


 魔術の類を使わずお互いの武器を何度もぶつけ合う。刀身を包む魔力障壁が干渉して火花を散らす。

 戦いは少しずつ様相を変えていき、アラタは高速で動き回りながら神刀神薙ぎによる斬撃を繰り返し、スヴェンは聖槍ブリューナクによる刺突攻撃で応戦していった。


 仲間と妹が戦う状況を目の当たりにしてルシアはいてもたってもいられずに席を立とうとする。するとすかさずアンジェがその動きを止めた。


「ルシア、何処に行くつもりだ? まさかアラタ様の所へ行こうというんじゃないだろうな?」


 アラタの戦いから目を離さずにルシアを嗜めるその話し方はメイドとしての丁寧な口調ではなく、彼女本来の厳格なものだった。

 アラタがおらずアルムスの仲間と会話する時、アンジェはかつての話し方を使っていた。


「だってルイスとトリーシャちゃんが戦ってるのよ! 私が止めに行かないと!!」


「今お前が行けばアラタ様は失格になる。それでもいいのか?」


「それは……そうだけど……でも……」


 ルシアは鍔迫り合いをするアラタとスヴェンを見て顔を背けてしまう。アンジェはルシアの背中に手を当てると優しい声色で彼女を励ました。


「アラタ様とトリーシャなら大丈夫だ。それにルイスだってお前の状況は分かっているはず。後でちゃんと話しあってお前の意志を伝えればいい。今はここで見守ろう」


「アンジェちゃん……ええ、分かったわ」


 二人が緊迫したやり取りを終えるとすぐ側にいたセレーネは独りごちる。


「このシリアスな展開に入り損ねましたわ……」


 気持ちを新たに三人がアラタ達の戦いを見守っているとハイテンションな実況が再開される。彼等もまたアラタとスヴェンの戦いに気がついていた。


『おおーっと、先程から二人の選手が魔物を無視して決闘をしているーーーーー!! 両名とも最初にアーガムトレントを仕留めた選手です。情報によると剣を使用しているのは冒険者のムトウ・アラタ選手、槍を使用しているのはスヴェン選手。それにしても魔物が溢れかえるこの状況で戦うとは思い切った事をしますね』


『若いですねー。お互い強者と認め合って思わず戦い始めてしまったのではないでしょうか。ずっと肉弾戦をしていますが、純粋にお互いの技量を確かめ合っているんでしょうね』


 実況と解説のコメントに反応した観客がアラタとスヴェンの一騎打ちに注目すると、刀と槍による激しい剣戟に目を奪われていった。

 

 競技場内では二人の魔力を感知した一部の魔物が襲おうと移動を始める。その集団の前に立ちはだかったのはロックとシルフィだった。

 

「アラタの所へは行かせねーよ。全員俺が叩きのめす!」


「ロックはローバークラブを頼むよ。ボクは物理が効きにくいスライム系を始末する」


「そいつは助かる。それじゃ行くぜ。まずは挨拶代わりにこれを食らいな! はぁぁぁぁぁぁ、鉄鋼てっこう獅弾しだんッ!!」


 ロックは全身に魔力を纏い爆発的な加速力で魔物の集団に突撃した。高速で動く城壁と化した彼は前方にいる敵を次々となぎ倒し陣形を崩す。

 その突進力と攻撃力を後方から見ていたシルフィは感嘆の声を上げる。


「凄い……何てパワーだ。あれはボクには真似できないな……」


『それはそうじゃ。あのロックという少年の筋肉は鋼の様に鍛え抜かれておる。それと研ぎ澄まされた魔力が合わさる事によってあれだけの破壊力を生み出しておるのじゃ。お主とはまた違ったタイプの魔闘士じゃよ。じゃが、お主にはお主の戦い方がある』


「クレア……そうだね。ボクはボクなりの戦い方をすればいいんだよね。それならこれでいくよ。魔力集中……ライトニングレイン!!」


 シルフィは魔力を高めミストルティンから無数の雷撃の矢を発射した。

 その一発一発が意思を持ったように弧を描きながら飛翔し、ロックを取り囲もうとしていたスライムの群れを撃ち抜いた。


「スライムを全部一撃で倒したのか。……俺とは違って大量の敵と戦うのが得意みたいだな」


『獅子王武神流は一対一の戦いを想定してるからね。オイラ達が連携すればどんな敵にも対応できる。心強い味方ができたね』


「そうだな。これなら一匹も討ち漏らせずにいけそうだ。――そういう訳だから、しっかりとやれよアラタ!」


 魔物を打ち倒しながらロックは横目でアラタの様子を窺う。その視線の先では激しく斬り合うアラタとスヴェンの姿があった。

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