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勇者が現れた

「す、凄い威力だ。たった一発で仕留めた!」


「相変わらずバカみたいな攻撃力ね。……アラタ、私たちもいくわよ!」


 シルフィとクレアのコンビに触発されてかトリーシャはやる気に満ちていた。

 彼女の胸元にエメラルドグリーンの紋章が現れケモミミはピンと真っすぐに立ちボリュームのある尻尾は勢いよく左右に揺れている。

 

「分かった、いくぞっ。マテリアライズ――神刀神薙ぎ!!」


 トリーシャは巻き起こった風の中で日本刀の姿へと変身し、俺は武器化した彼女を携えてエスケープエリア前にいるアーガムトレントへと向かう。


「とりあえずあれを潰せばいいんだよな」


 魔甲拳グレイプルを装備したロックが俺に並走する。

 その逆側にはシルフィが並走し俺を中心として両隣に二人が並んでいる状態だ。


「既に戦意喪失している選手もいるみたいだし、とにかく退路は確保しておいた方が良い。あいつを仕留めるぞ!」


「「了解!」」

 

 前方にいるアーガムトレントはエスケープエリアから逃げようとしている何人もの魔闘士に無数の枝を鞭のように振い吹き飛ばしている。

 このままだと確実にやられてしまうだろう。


「まずはボクからいくよ。照準……そこぉ!」


 シルフィは急ブレーキをかけてその場で止まるとすぐに何発もの雷の矢を同時発射した。

 弓矢は逃げ惑う魔闘士たちに向けられていた枝を射抜き無力化した。


「あんな事も出来るのか。アンジェとセレーネの同僚はとんでもない実力者だな」


『こうなってくると『ゴシック』にいるメイドって皆普通じゃなさそうね。まあ、それはさておきこっちも仕掛けるわよ!』


「あいよ!」


 風の加護を受け動きが軽い。スピードを更に上げて一気にアーガムトレントの懐に入る。

 さっきのシルフィの攻撃で敵の攻撃手段は半減しており、俺に向けられる枝鞭は余裕で回避できた。

 神薙ぎの刀身に風の魔力を纏わせ斜め下から斬り上げる。


『ギャオオオオオオオオッ!?』


 アーガムトレントは胴体を斜めに斬り裂かれてずれ落ち、そこに止めを刺す為にロックが飛び込んだ。


「これでも食らいなっ!!」


 ロックのパンチはアーガムトレントの顔面を打ち砕いた。胴体部分は地面に轟音を立てながら倒れ込み動かなくなった。

 これでエスケープエリアから棄権できるようになった訳だが、ここからどうするのかは個人の自由だ。


 俺とロックとシルフィは並び立って残り八体のアーガムトレントの動きを見ていた。

 すると実況が興奮した様子で今の戦闘の様子を説明し始める。


『おおーっと、これは驚いたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! エスケープエリア前に陣取っていたアーガムトレント二体が三人の魔闘士によって瞬殺されたぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 一人目は反りのある片刃の剣を使う剣士、二人目は武闘家、三人目は弓使い。三者三様の見事な戦いぶりで凶悪なアーガムトレントをあっという間に倒してしまった。多くの選手が戦意喪失し逃げ惑う中、彗星の如く現れたぁぁぁぁぁぁ! これは面白くなってきましたね!!』


『そうですね。アーガムトレントは攻撃範囲が広く倒すのに苦労する魔物なのですが、あの三人はそれをものともせずに倒しています。実に鮮やかな戦いぶりですね』


『突然のヒーロー登場に観覧席もざわついております。他にもアーガムトレントに真っ向勝負をする選手はいるのでしょうか!? ……おや?』


 実況が何かを見つけたらしい声を上げる。何があったのだろうと様子を見ていると、一人の選手がアーガムトレントに向かって歩いて行くのが見えた。

 近くまで行ってみるとその人物は金髪の少年みたいだ。紫色のマント型のローブを羽織っていて槍を持っている。

 槍の穂先は両刃の剣の形をしていて、その姿は美術品の様に美しかった。穂先と柄の接合部には紫色のエナジストが嵌め込まれ淡い光を放っている。


『あの槍は、まさか……!?』


「どうしたトリーシャ。あの槍を知ってるのか?」


 トリーシャから動揺が伝わって来る。どうしたのだろうと思っていると強い魔力を感じその方向に目を向ける。

 その魔力の持ち主はアーガムトレントに接近する少年だった。彼は自分に放たれた無数の枝を槍で斬り払うと魔法陣を展開した。


「面倒なヤツだ。貴様の様な雑魚に構っている暇はない。――グラビティ!」


 直後、少年に攻撃をしていたアーガムトレントの動きが止まったかと思うと、その足元の地面がへこんでいった。

 不思議な現象はそれだけでは終わらず動きが止まっていたアーガムトレントは、その場で倒れて地面に埋もれ間もなく絶命した。


「何だ今のは? 魔術を使ったのか。ロック、分かるか?」


「いや、俺にもさっぱりだぜ。地面がへこんだって事は大地系統の魔術か? でも、俺の知る限りじゃあんな魔術はないはずだ」


 俺にもロックにも目の前で行われた攻撃の正体は分からなかった。ちんぷんかんぷんな俺たちに答えを教えてくれたのはトリーシャだった。


『あの魔物を倒したのは重力系統の魔術よ。一定範囲内の重力を何倍にもして圧死させたのよ』


「重力系の魔術なんてあったのか。初めて見た……」


『それはそうよ。重力の魔力を扱えるなんてかなり珍しい魔闘士だわ。そして私が知る限り重力を操れるアルムスは一人だけ』


 急にトリーシャの声が重くなる。相手を警戒しているような悲しいような、そんな感情が俺に流れ込んで来る。


『聖槍ブリューナク――魔人戦争後は『アストライア王国』で管理されているアルムスのうちの一人のはず』


「おい、ちょっと待った。それってつまり――」


『ええ、そうよ。あの槍、ルイス・ゼル・ブリューナクはルシアの妹。そして、その契約者という事はあの金髪の少年は――』


「――勇者」

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