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レムール祭予選開始

 その時、競技場全体に聞こえる大音量でファンファーレが鳴り響いた。金管楽器による小気味よい演奏は競馬のレース前に流れるものに似ている……気がする。

 

『レディーーーースエーーーンジェントルメン! この地に集いし屈強な魔闘士たちよ。本戦に行きたいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 ファンファーレが終わった途端に今度はハイテンションな男性のバカでかい声が聞こえて来た。

 観覧席側に実況席が設けてあり、そこから拡声器型の魔道具で話しているみたいだ。

 そのテンションに影響されてか皆「おおーーー!!」と大声を出して答えている。


『今年のレムール祭の実況は、私マハル・ミッケーが務めさせていただきます。そして解説は、かつてレムール祭を制したこのおとこッ! 生きた伝説、ケン・イーサキ氏です!!』


『ケン・イーサキです。よろしくお願いします』


 ハイテンションの実況と比べて解説の方は落ち着いている感じだ。解説の自己紹介が終わると実況がルール説明に入った。


『今回のレムール祭の出場者は二百組となっています。本戦は『アーガム諸島』内にあるダンジョン『ダウィッチ島』で行われますが、その前にこの競技場において予選を行います。それによって人数を二十組に厳選させていただきます!』


 出場者たちからブーイングが巻き起こる。現在この場にいる人数の一割だけしか本戦に残れない。

 最初からかなりハードルが高そうだが、一体どうやって人数を絞るのだろうか?


『本戦が行われる『ダウィッチ島』は海に囲まれたダンジョンであり、独自に進化した魔物が生息しています。しかもこの島はあまりにも危険な為、普段は立ち入り禁止になっており島の中はダンジョン特有のトラップや数多くの魔物が蠢き、冒険者ギルドからは金等級の難易度に指定されております!』


『あれ? 去年は確か銀等級だったはずですけど、また難易度上がったんですね。いやー、最近は更に危険な大会になりましたねぇ』


 実況が告げた内容だけでも本戦が相当危険だと判明したのに解説が火に油を注ぐようなコメントをしてくる。

 このコンビが出場者たちの不安を掻き立てていった。


「おい、難易度が金等級のダンジョンなんて聞いてねーぞ! 冗談じゃねえ、俺はおりるぜ」


「あれだよ、ほら、俺は銅等級の冒険者だから金等級のダンジョンは普通入れない訳でつまり何を言いたいかというと……あばよっ!」


 恐怖心に駆られた魔闘士とそのパートナーのアルムスが数組逃走した。その逃げ足の速さたるや驚きのスピードだ。


「ある意味今逃げた連中は賢いと言えるの。自分の実力をちゃんと把握し逃げの恥よりも命を優先する選択をしたのじゃから」


「そう言えばクレアとシルフィはどうしてこんな危険な大会に出ようとしたんだ? 『ゴシック』のメイドさんが戦う必要なんて無いと思うんだけど」


 俺が素朴な疑問をぶつけると、シルフィとクレアが各々答えてくれた。


「それは身体が闘争レースを求めているからさ」


「それはのう、身体が闘争マネーを求めているからじゃよ」


 それに続く様にロックがしれっと自分なりの闘争をぽつりとつぶやく。


「なるほどな、身体が闘争マッスルを求めているからか」


 三人とも自分なりの闘争を抱き悦に浸っているとトリーシャとレオが引き気味に彼等を見ていた。


「皆同じような事を言ってるけど誰一人同じ事は考えていないようね」


「……闘争とは?」


 六人でマイペースにくつろいでいると競技場の端の方から悲鳴が聞こえて来た。

 何事かと思って声がする方を見てみると競技場の扉が開き、その奥から大きな木が何本も歩いて来るのが確認出来る。

 

「あれは木の姿をした魔物トレントか? でもちょっと普通と違うような……」


 今まで戦った事のあるトレントと比較して身体が黒く触手のように伸びる枝の数が明らかに多い。それに放たれる魔力が段違いに高かった。

 

『気が付いた方もいると思いますが、今競技場内に放ったのは普通のトレントではありません。これは『アーガム諸島』のみに生息するアーガムトレントという魔物です。海辺で根を張る木々に擬態し、海水や海の生物を吸収し成長する特性を持っております。通常のトレントよりも強力かつ凶暴です。この魔物が予選相手となります。このアーガムトレントを相手に選手が二十組になるまで予選は続きます。棄権される方は競技場内に設けたエスケープエリアからお帰りください。――それでは予選開始!!』


 アーガムトレントが次々に競技場内に解き放たれ選手に向かって来る。辺りを見回すと選手を包囲するように十体の魔物が布陣を敷いていた。

 エスケープエリアと言われる場所には魔術結界を張っている運営側の魔闘士が数名おりアーガムトレントを寄せ付けないようにしているのだが、その逃げ道の前にはすでに二体のアーガムトレントがいるので棄権したくても出来ない状況だった。

 これ、運営側は選手を逃がす気ないだろ。


「――さて、話の続きじゃがアラタよ」


 アーガムトレントの鞭の如き枝攻撃によって魔闘士たちが薙ぎ払われ始める中、クレアが俺に笑みを見せながら話しかけて来た。


「なんだい?」


「さっき言いかけたのじゃが、お主は今四人の強力なアルムスと同時契約をしておる。千年前の戦争を知っているわしとしては、お主の力を是非見せてもらいたいのじゃが」


 クレアは微笑んでいるがその目だけは笑っていない。明らかに俺を値踏みしている目だ。

 これまでにも何度かこういう感じで実力を試された経験があるので今更うろたえたりはしない。


「分かった、この予選で披露するよ。あの程度の相手じゃそこまで全力を出す必要は無さそうだけどね。そっちこそ、アルムスの元リーダーの力見せてもらうよ」


「ほう、中々言うではないか。よかろう、シルフィとわしの力思う存分その眼に焼き付けるがよい」


 シルフィは柔軟体操をして身体をほぐすとクレアとアイコンタクトを交わす。するとクレアの胸元に紺色の紋章が出現し輝き出した。


「よーし、それじゃいくよクレア。マテリアライズ――聖弓ミストルティン!」


 クレアは稲光と共に黄金の弓へと姿を変えシルフィの手に収まった。

 その形状は現代のアーチェリーの様にメカニカルで中心部分には紺色のエナジストが収められている。


「あれがクレアの武器化した姿か」


「そうよ。聖弓ミストルティン……雷の矢を放つ弓系最強クラスのアルムス。遠距離戦になれば彼女の右に出る者はいないわ」


 シルフィが左手にミストルティンを持って弓の弦を引くと雷の魔力で構成された弓矢が出現する。

 その狙いはエスケープエリア付近に鎮座しているアーガムトレントだ。

 弓矢の先に魔法陣が展開されると、それは照準スコープの様に標的の姿を拡大して命中予想ポイントを赤く表示する。


『照準固定、命中予想確率九六パーセント。敵の動きは遅い、いけるぞシルフィ』


「了解! そう言えばルール説明では魔物を倒しちゃ駄目なんて一言も言ってなかったよね。――それなら別に全部倒してしまっても問題ないよ、ね!!」


 言い終えると同時にシルフィは弦から指を離し雷の弓矢を発射した。

 雷撃の弾丸となった矢はまるでSF作品に出て来るビーム兵器みたいで、真っすぐにアーガムトレントまで飛んでいきその顔面に直撃した。

 その瞬間発光すると同時にアーガムトレントは爆発し、まるで雷が木に落ちた後のようにバラバラになって焼け焦げていた。

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