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少年と銀髪メイドの少女

 俺の名前は武藤むとうあらた、十七歳の高校二年生。高校入学を機にアパートで独り暮らしを始め、その生活を満喫している。

 子供の頃から父親の趣味である剣術や武術を叩き込まれた以外はごく普通の男子高校生だ。

 高校二年生になって一学期も終わり今は夏休み中の八月上旬の夜十時過ぎ。今はコンビニのアルバイトを終えてアパートに帰る途中だ。


 夏本番真っ只中の今は夜だというのに蒸し暑くて居心地が悪い。汗でシャツが身体にべったり貼り付いて気持ちが悪くて仕方がない。

 一刻も早く部屋に戻ってシャワーを浴び、エアコンで涼しくなった部屋の中でテレビ番組を観ながら夕飯を食べたい。

 そうしてだらだらしている間に深夜のアニメ番組が始まる頃合いだ。

 夏休みに入ってからというもの、これが俺のライフサイクルになっている。今夜は俺が好きな異世界転生もののアニメがやるからリアルタイムで観なければ。

 一応録画はしているので見逃すことは無いのだが、リアルタイムで最速で観たいのだ。自分を生粋のオタクと自負している俺にとって、これは最優先事項だ。


「……公園を抜けていくか」


 バイト先とアパートの間には大きな公園がある。

 昼間は親子連れで賑わっているのに対し夜は照明が少ないのもあってか人の姿は無く、非常に不気味な雰囲気を漂わせている。

 実際に夜の公園内で幽霊を目撃したという話をよく聞く。

 迂回しても深夜アニメのリアルタイム視聴には影響がないが、汗だくの気持ち悪さを早く何とかしたいという気持ちの方が勝り、俺は今日も夜の公園を突っ切ることにした。


「俺、霊感ないしぃ……昨日も通ったけど何も出なかったしぃ……大丈夫だよね……」


 チキンな己を鼓舞しながら夜の公園を進んで行く。公園の広さに対して照明の数が圧倒的に少なく、その照明ですら所々点滅していて独特の雰囲気を醸し出す。

 俺はこの場に足を踏み入れたことを早々に後悔していた。

 その時、突然全ての照明が消え周囲は完全な闇に包まれてしまう。目には何も見えず、遠くから妖しい鳥の鳴き声が聞こえてくるのみだ。


「嘘だろ? ちょ、ま……こんなことってある?」


 すると前方で何かが光っているのが見えた。公園の心許ない照明とは違う強い光源。

 地獄に仏とうこういう事か。俺はわらにもすがる思いでその青白い光のもとへ走って行く。

 きっとリア充な人たちが花火でもやっているんだろう。その程度にしか俺は考えてはいなかった。


 ――その場所にたどり着いた時、俺は自分の目を疑った。視界に入り込んで来たのは体長三メートルを優に超える巨漢の怪物だったのだ。

 そいつの顔は人間のそれではなくまるで豚のようであり、恰好は下半身にボロ布を身に付けているだけだ。

 強い光に照らし出された身体の色は緑色であり、それもまたこの生物が人間ではないと思う理由の一つだ。


「な……何だこれ……化け物……」


 あまりにも現実離れした光景と恐怖で足がすくんで動けない。

 頭の中では早くここから逃げろと言う命令が飛び交っているのだが、身体がその命令をちゃんと受信しない。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 目の前にいる怪物が咆哮を上げ、俺の全身に鳥肌が立ち身体から力が抜けて尻餅をついてしまう。

 ヤバい……身体が全然動かない。その間に怪物は俺に近づいて来て手に持っているこん棒を振り上げる。


 終わった。俺の人生最期は訳の分からん怪物と夜の公園でエンカウントして終了か。こんな結末、バイト先を出た時には予想もしなかった。

 こんな事になるなら先日食べたラーメンにチャーシューをトッピングすれば良かった。

 いや違う、そんなしょうもないことじゃなく人生初の彼女を作って……いちゃいちゃして……そんでもってあわよくば童貞を卒業しておけばよかったのだ。

 もっとも高校で女子の知り合いすらいない俺には夢のまた夢なのだが。

 ああ……こんなアホな事を考えながら死ぬのか俺は……。


『ギャオオオオオオオン!!』


 怪物が俺に向かってこん棒を振り下ろそうとした時、何かが怪物の身体に刺さって苦しみの雄叫びを上げた。

 それは黒い短剣だった。それがこん棒を持っていた腕に何本か刺さっており、怪物は武器を落としてしまう。


「いったい何が起きたんだ。俺は助かった……のか?」


「お怪我はありませんか?」


 突然森の暗がりから声が聞こえて驚くと、そこから一人の女性が姿を現した。

 

 その姿を見て俺は息を呑んだ。腰まで届くプラチナロングの艶やかな髪、切れ長な目に薄紫色の瞳、一見人形と見間違うほどの白い肌と整った顔。

 さらに身に付けているのは伝統的なデザインのメイド服なのだが、胸や腕の部分の布地が少なく肌が露わになっている。

 細身の身体に不釣り合いな大きな胸の谷間が丸見えであり、顔だけでなくスタイルもまるでモデルのような完璧さだった。


「大丈夫ですか? もしかしてどこか怪我をされているのでは」


 美人メイドさんが近づき俺が怪我をしていないか確かめている。

 間近で改めて見ると本当に美人なのが分かる。まつ毛ながっ! 肌のキメこまかっ! これが本当に俺と同じ人間なのか。


「どうやら問題はないようですね」


「は、はい、大丈夫です。助けていただきありがたきしょぞんにござりまする」


 普段女子とまともに会話したことがないため、緊張のあまりに言葉遣いがおかしくなる。

 俺、今何語を話したんだ。分からない。女の子と何を話せばいいのか全く分からない。そんでもってあの怪物はなんなのか。……ん? 怪物……?


「はぁっ! そうだ、あの怪物はいったい何なんだ!?」


『グルルルルルルルルルルルルッ!』


「うわぁっ! めっちゃ睨んでる!!」


 豚顔の怪物が俺たちの方を物凄い形相で睨んでいる。というよりも警戒しているような感じだ。

 それも多分俺ではなく彼女に対してのようだ。


「すぐに終わらせますのでそこから動かないでください」


 彼女は俺に怪我がないことが分かると怪物の方へと歩いて行く。それと同時に両手から黒い短剣を数本出現させて指で挟むと怪物に投擲とうてきする。

 至近距離で当たった黒い短剣は怪物の身体深くに突き刺さり黒色の血液が噴出した。

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