再会
そんなことを考えながら山道を歩いている。
どこまでいこうという気持ちなどない。
ただ、退屈をまぎらわせるために歩いている。
武士はもともと生活そのものが質素で、美食もしなければ趣味に凝ることもない。欠かさず行うことといったら武芸だが、そんなものに励んだら謀反の兆しと疑われる。損するだけだ。
ひたすら、退屈だけは大敵だった。
何か赤いものが見えた。
あそこまで歩いてみよう。
目的ができるとともに自然に足が速まった。
近づくと紅葉した楓であることがわかった。
根本に立って燃えているような赤を見上げる。
視線をもどすと、女が立っていた。
無論、幹の向こうに隠れていた女が、自分が視線を外している間に出てきたに違いない。
しかし範頼には女が宙から出現したようにしか見えなかった。
それに女が身につけている物も、とてもこの鄙の地に調和しているとは思えない。
それに彼女の人間離れした美貌…。
おのれ…、あやかしの者か。
太刀を引き寄せて腰を左側に回転させ、鍔を親指で弾いた。
突然、かつて自分が女に対してこんな姿勢を取ったことを思い出した。
まさか…。
「ちぎりきらぬ仲を修善寺御簾のうらきりし男に責めをおはさむ」
…「ちぎりきらぬ仲」というのはそれほど親密になっていない仲ということだろう。この土地の「修善寺」と「修繕し」を掛けているらしい。「仲を修繕する」というか。「御簾」と「うら」は縁語なのだろうか。「うらきりし」は「御簾の裏を切る」と「裏切りをした」を掛けていることはわかる。「責めをおはさん」は「責めを負わせよう」ということだが、親密になっていない仲の男に責めを負わせようというのはどういうことだろうか。しばらく京にいたとはいえ遠州蒲で育った範頼にはこれ以上の解釈はできなかった。間抜けなことを言ってしまった。
「何をやっているのだ」
「おまえに責めを負わせようと思って」
「だから何をしているのだ」
「おまえの家はどこか」
「日枝神社の境内に住まわせてもらっている」
女は山を下り始めた。
「おっ、おい…」
自分が太刀の柄を握ったままであることにようやく気がついた。