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仕事

「墨白、灰袮が呼んでる」


「ああ、わかった」


「もう行っちゃうの? もう少しいてよ」


「ごめんね、もう時間だから。キミがまた来てくれるのを待ってるよ」


腕に絡まされた指をほどいて頬に口づけをし、立ち上がる。


その辺りに脱ぎ散らかした服をとり、部屋の外に出る前に振り返って微笑んで顔を赤らめるのを横目に襖を閉めた。


「灰さん、なんだって?」


「仕事をしろって」


「これも仕事なのに、酷いなぁ」


「にしては嬉しそうだけど」


仕事の息抜きに、仕事をする。


矛盾しているように思えるけれど、手を動かす仕事が本職だとするならば体を動かす仕事は副職。仕事にしなくてもよかったけれど、ちょうど本職がそれ関係だったためお金ももらえる息抜きなんてこれ以上の息抜きはないだろう。


歩きながら袖に腕を通す。


浴衣を一枚、下着もつけずに肌に直接羽織るように斬る。帯で留めてはいるけれど、軽く。


「白灰も呼ばれてるの?」


「連れて来いって」


「そっか」


灰さん、白灰のことお気に入りだもんなぁ


それが羨ましくて、憎くて、でもそれを白灰には伝えない。伝えたって、「ごめん」と謝るだけでオレの気持ちは理解できないから。


一緒に生まれて一緒に育ってきたのに、白灰が何を考えているのかが年を重ねるごとに分からなくなる。何も考えていないかもしれないし、何か考えているのかもしれない。


「白灰」


「どうかした?」


「好きな人でも出来た?」


「なんだそれ、そういうのはお前担当だろうに」


くすくす笑う白灰に成人してもそういうこと言うやつお前ぐらいだろと思う。けれど、そういうところがこの織籠には合っている。だから灰さんも気に入っていて、誰のものにもならないから安心できるんだろう。


オレにはそれができない。


誰かを求めてしまうし、求められたら応じてしまう。


嫌でやっているわけじゃなく、好きでやっている。いいなと思ったら求めてしまうし、いいなと思われていたらその気持ちが心地よくて応じてしまう。けれど、もっともっとと求めることはなく、求められてもそれはいらない。


オレもまたこの織籠に向いている。


「これを汗で拭いて、湿ったままだと紙が濡れてしまう」


「ありがとう」


手ぬぐいを渡され、汗で湿った肌を髪を拭く。だいたい拭けたところで目的地に着いた。


「灰祢、墨白を連れてきた」


襖の奥から「入れ」と声がする。こんな陰気な場所にこもっていて嫌にならないんだろうか。外に出る姿をあまり見たことがない。出る用事があれば誰かに任せるからだ。


襖を開けると書類に囲まれた灰さんがいた。


「お呼び?」


「休憩が長すぎる、さっさと仕事に戻れ」


「盛り上がっちゃって。それでもいい仕事はしたと思うよ?」


興味がないのか書類から視線を外さない。そういうところがいい。

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