融合
座って話そうと木の下で並んで座る。ハンカチでも敷いたほうがいいのだろうけれど、生憎と持ち合わせていなかったためしなかった。
「ここがどこか分かるかい?」
「わかりません。気づいたらここにいました」
「オレもそう。ここに気が付いたらいた」
桜が視界一面に咲き誇る景色の美しい場所。ここがどういった場所で、ここからどうやって出ればいいのか。皆目見当がつかない。
「長さんに聞いたんだ。ここはどうやって出られるのかって」
長さんて……長義か。
「そうしたら?」
「そうしたら、審判を受けに行くんだってさ」
「審判?」
ここから出るには誰かから何かの判決を下される? ならば皆、罪人なのか?
「その審判は一人で受けられないから、オレたちは今審判を受けるために人が集まるのを待っている状態なんだ」
「審判は受けなくてもいいんですか?」
「うん。その人の自由だって。だから、審判を受けたい人たちが集まるのを待っている」
長義の言い方からして、何かを強制するような性格ではない。してもいいし、しなくてもいい。ここにずっといてもいいし、何かをしてもいい。
「その審判の内容は?」
「それは教えてくれなかった。それぞれ違うらしいとは教えてもらったけど」
人によって審判の内容が違う?
人数が必要だから裁判のようなものをされるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「審判を受けたい?」
「……わかりません」
まだ悩むには時間がいる。
私は何をしたいのか。どうしたいのか。どうなりたいのか。
「そっか。なら、いろんな人と話すといいかもね」
色々な人と話をして、色々な意見を聞いて、その中で何かが見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。でも、人の話を聞いたから無駄になることはない。
「オレの怪異の話でもしようか?」
人当たりのいい笑顔で気軽に話をしてくるから、気を許しそうになる。
墨白に憑いている怪異は、天女の羽衣を纏っている。羽衣から見え隠れする耳は、兎?
……あれ、でも。
怪異の顔をよく見てみれば、不思議なことに気が付いた。綾紗がそれに気が付いたことを察したのか、墨白は口を開いた。
「オレに憑いている怪異は、不知火。不知火の話聞いたことある?」
「沖合に見える無数の火が横並びに見える、ことしか」
「狐火と同じ怪火の類なんだけど、違うところは純粋じゃないところだろうね」
「純粋じゃない…?」
怪異に純粋も、そうじゃないもあるのだろうか。
「オレに憑いている怪異は、不知火だったもの。今は、白色の白に縫うの縫で白縫」
だから羽衣を纏っているのか?
関係あるのかはわからないが、白縫を見れば羽衣の隙間から初めて目が合う。
そして、墨白の言葉の意味を知った。
「白縫は、不知火とオレの片割、双子の兄である白灰の融合体だよ」
白縫と目が合った時、墨白と似ていると思った。
家族か血のつながりがあるのだろうと思っていたがまさか双子とは、言われてみれば顔が似ている。一卵性、二卵性どちらだろうか。髪の色や目の色、墨白とは違った色をしており顔は同じ顔が2つというほど似ているわけでもない。
「怪異と人間が融合したのですか」
「そうだね、オレもよくわからないけど白灰は怪異になった」
「それは生きている間に?」
「……多分」
墨白も百理解できているわけではないのだろう。
思い返せば、狐火は姉の姿が出来た。
そこから推測するに、融合することもできるのだろう。姉は死んでいたから融合できなかったかもしれない。もし生きていたら融合していたのかもしれない。もしそうならば、死んでいてよかったと思う。姉の姿をした中身は姉ではない怪異なんて、百回殺しても足りない。