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【怪異】白縫

待ってくれ、まだ出会わないでくれ。


オレが選ばれたんだ、オレが選ばれた。だから、不知火、お前もオレを選んでくれ!


船が前に見える。


そこに人が一人立っていた。それは間違いなく白灰だった。


「――白灰!」


呼びかければ、白灰はこちらを見る。


どうやらまだ憑りつかれていないらしい。


安心するのも束の間、早く白灰を連れ戻さないとと考えていれば。


「墨白! オレを選んで!」


白灰が叫んで、止まっていた船は進みだす。


何を言っているんだ、お前が奪ったんじゃないか。


追いつくはずだった船が進んでしまったせいで、追いつけない。


前の船は進んで、不知火の中へ消えていく。


灰さんが隣で叫ぶ声が聞こえる、オレはそれをただ茫然と見ているだけだった。


不知火の中に消えた船。


不知火は横に広がっていたのものが一か所に集中する。


そして、一つの形となる。


「……白灰……」


白灰の形をしたものが目の前に広がる。船より大きく、海より小さい。


大きなそれは兎の耳を持っており、白い布を頭から下げている。これは、異国ではベールと呼ばれているものだったか。花嫁がかぶるそれに近い。


これは、怪異に憑りつかれたわけじゃない。


「灰さん……、これって」


「……融合したんだ、不知火と」


融合……


それは白灰が望んだこととは違っているんじゃないか。


根本的解決になっていない、この地から不知火を連れて行きたかったから白灰はここにいたんじゃないのか。


白灰のようなものがこちらを見下ろしている。


呆然とそれを見つめる。


圧迫感がある。船を運転していた人は怯えている。


白灰だったものと目が合う。


……あぁ、そうか。


「不知火だったもの、お前に名前をつけるからオレと来い」


手を差し伸べれば、白灰だったものはオレの中に入り込んだ。


感覚はなかったけれど、これでオレはいつか怪異になるのかという何とも言えない気持ちはあった。


隣で灰さんがこちらを見ているのがわかる。


白灰は、灰さんが白灰を選ぶことを避けたかったからオレにああ言ったんだ。


ああ、お前もずるいよ。


オレが灰さんのこと大好きだから、あんなこと言ったんだろ?


白灰だったものに憑りつかれたオレは、その街から消えた。


灰さんはオレに憑りついた白灰だったものに固執することはわかっていたから、街を出るほかなかった。


オレが怪異になるのを待って、手に入れようとしていたのかもしれない。


今となってはわからないけれど、そんなことオレが認めるわけもない。


街を転々とする。


オレは、白灰だったものに「白縫」と名付けた。白縫は何も言わなかったけれど、受け入れたようだった。


街を巡っている間、怪異はやはり起きてしまう。白縫は人を食べる。その姿を見るたびに、なんでお前は憑りつかれずに溶け合ったのかと聞きたかった。


兎の耳は、春のことを溶けあうときに思い出したの?


オレも、春が恋しい。春は灰さんのにおいだった。いつも焚いているお香が桜だったから、春と言えば灰さんだった。


灰さんどうしてるだろう、白縫のこと探してるんだろうか。


でも、どのぐらい時間が経ったんだろう。数えてないからわからないな。


ああ、オレも怪異になってしまうのか、いやだなぁ。


「こんにちは、春を待つ子」


気が付いたら、桜が狂い咲く場所にいた。目の前の人は桜の幹に座っていて、顔は見えないし体も見えない。桜の花びらが多くてよく見えない。声だけ聴いてもどちらか分からない。


それにしても、どこだここは。


もう春になってしまうぐらい、歩いていたのか?


「ここは春に囚われる子たちが集まる場所。キミと同じように怪異に憑りつかれた子がいる」


そうかい、それはよかった。


もう白縫が誰かを食べるところを見なくてすむということだろう。


怪異に憑りつかれた子供を食べるようなことはしないだろうから。


「ボクは春の花筐の長義。キミは?」


「オレは墨白だよ、よろしく長さん」


「あだ名なんて初めてだ。歓迎するよ墨白」

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