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世話

これが知らない人からの頼みだったら断っていただろうし、断れなくても逃げ出していただろう。でも他ならぬ灰さんの願いだから価値のあるものとなる。


生贄となる日を告げられる。


「明後日」


「そうだ、オレも答えを出せていなかったため間近になってしまった」


「いいよ、どうせ大分前に伝えられててもすることは同じでいつも通りだ」


悩んだ末に出た答えがオレだったなら、それでいい。


「お前が欲しがっていた懐中時計だ。持っていくと良い」


灰さんが持っていた懐中時計をくれた。


必要最低限のものしかくれなかった灰さんがオレのために、必要ではないものをくれた。オレが何度言ってもくれなかったものを、今。それが嬉しくて、生贄に選ばれてよかったとさえ思った。


「白灰には、明後日まで言わない。言ったとしても、それはお前が海にいる頃だ」


「ああ、わかってる」


白灰は生贄ということに疑問を思っている、だったらそれに選ばれたのがオレだとしたら絶対に止めるし偉い人の元に行ってしまうかもしれない。行っても変わらないだろうけど、もし何かあったとしたら灰さんが悲しむ。だから言わない。


翌日、自由にできる最後の一日。


何をしようかと空いた部屋で寝転がっていたら、誰かが部屋に入ってくる。


誰だろうとは思わなかった、入ってくる人は決まっているから。


「寝ていいのか、こんなところで」


「いいんだよ、仕事をしろって灰さんにも言われてないし」


「そうか」


オレに構わず部屋の掃除をし始める。


こんな天気のいい日だ、外に出てもいいなと考えた。


「墨白」


「なに?」


「春の世話、任せてもいいか。今日だけ」


「どうして。どこか出かけるの?」


「灰祢に御遣いを頼まれた、今日中に帰って来れるかわからない」


春と言うのは、白灰が飼っている兎のこと。


灰さん言う気ないだろ


今日中に帰って来れるか分からないということは、たいてい明日の夜までかかるってことだ。だったら帰ってくるのは明後日。明日死ぬオレとは会えない。


生贄になる日にこの街にいさせない計画できたのか。


やっぱり白灰は灰さんに思われているのだと思った。


「わかった、気にかけておくよ」


「頼む。明日には帰ってくる」


「本当にこの街が好きだなぁ」


「そうか?」


他の街でゆっくりすればいいのに。呆れるぐらい好きなんだ、コイツは。


明日の世話は灰さんに任せればいいだろう。


白灰が大事にしていることは知っているから、白灰を悲しませることをしない人だから動物が嫌いでもやるだろう。


白灰は礼を言って掃除を再開させる。


掃除が終わるまでの間、何も話さなかったけれど居心地は悪くなかった。


掃除が終わって、出かける白灰を見送ってオレも外に出た。


団子屋の花ちゃんに会いに行くかとぶらぶら歩いていたら、知り合いに声をかけられたりして帰ってくるのは夕刻過ぎとなった。


春の食事の時間かと思い、ニンジンを持って春のところに行った。


「春~……、?」


春がいるはずの檻を見たがいない。


扉が開いていて、逃げ出したのか? と思うが、檻が置いてある場所は白灰の部屋の中だから逃げてもすぐにどこにいるか分かる。


部屋が大きくないからだ。隠れる場所もあまりない。


本棚の後ろ、机の下。


隠れられる場所を見てもいない。


どこに行ったんだろうか。


不思議に思っていれば襖が開いき、振り返れば灰さんがいた。


「おい、白灰は」

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