一番弟子
俺はようやく目を覚ますと、女性が覗き込んでいた。
「誰だお前、ビックリしたぞ」
慌てて起き上がり、身なりを正しながら女性を見てしまった。
「あんた、発掘屋でしょ」
「まあ、発掘もしている」
「わたしに、下級の黒鉄を売って欲しいの」
「何だ急に、何か理由でもあるのか」
彼女の名は浅岡友香で19歳。
職業は錬金術師で、1年間錬金クラン【鉄槌】で働いていた。
クランの2人に、巧妙に仕掛けられた罠でレイプされかけた。
未遂に終わったが、その1人が幹部でもありやったやっていないの話になり決着しなかった。
結局彼女は、そのクランをやめる事になった。しかし再就職ができなかった。
問題を起こした彼女を、他のクランは受入れようとしなかった。
それでも彼女は、錬金術師の夢をあきらめなかった。
しかし、そこには壁があった。錬金に必要なダンジョン金属は、クラン所属でないと手に入らなかった。
ギルドは、クランにしか金属取引きをしていない。
そこで彼女は考えた、発掘屋から直接買取ろうと。
ギルドで検索して、土海ダンジョンで最近、黒鉄が大量に買取られた事実を。
1階からここまで探し回り、発掘屋らしい人物、俺に声を掛けたのだ。
銀鉄は高くて無理だが、黒鉄の下級なら安く買取れると。
この行動をさせる、彼女の深い決意が話の節々にあらわれている。
それは、彼女のプライドか復讐心か嫌、全部をごちゃ混ぜにした決意なのかもしれない。
そんな理由で、彼女はここに来ていたのだ。
「理由は分かった、沢山持ってるから見てやる作ってみろ」
武器が作れる量の、下級黒鉄を渡す。
「はい、ありがとう御座います」
受取ると早速作り出した。
空中に浮かぶ黒鉄に魔力が注がれるが、魔力量が一定でなくバラツキがあった。
出来上がった剣も、それなりの剣でしかなかった。
「魔力量が一定になっていない、それじゃ駄目だ」
「分かるのですか、錬金術師しか分からないはずですが」
「分かるぞ、これが俺が作った剣だ」
下級で作った剣を、取り出し渡すと。
彼女は驚愕しながら、その剣を見詰めていた。
「もしかして、2つも職業を持っていたんですか」
「ああ、持っているな」
おもむろに土下座をして、必死な形相で俺を見てくる。
「わたしを弟子にして下さい。お願いします」
そんな彼女を見て、俺のクビになった事を思い出していた。
彼女の必死な態度を見ていて、なぜか目に涙が浮かんできた。
俺も、あまちゃんだと思いながら真剣になり。
「雑用を押し付けるがいいのか、修行もきびしいぞそれでもいいか」
「わたしはやりたい事があります、その為なら雑用もどんな修行も厭いません。お願いします。師匠」
「下級黒鉄を使って、パチンコ玉を一定魔力で作ってみろ」
でかい黒鉄を、目の前に「ドン」と置く。
彼女は決心したようで、作り始めた。
俺は横目で見ながら、発掘を再開する。1人でコツコツやるのも気楽で良かったが。
弟子が出来た事で、少し心のすき間が埋まったような感じがしてきた。
5日後には、ようやく一定に魔力を注げるようになった。
「これから、6階層に潜るぞ。気を引き締めて付いて来い」
「魔物が居ますよ、大丈夫ですか」
「今回は、ユウの為に潜るんだ。俺はけっこう強いから心配するな」
上級黒剣を取り出すと、淡く光りだした。
「師匠、それはもしかして上級黒鉄ですか」
「そうだ、それがどうした」
「上級黒鉄ですよ、指輪にすれば高く売れますよ」
「それがどうした、これより高く売れる方法も知っている」
上級黒鉄で作られた指輪は、1個500万円で市場に売られていた。
暗い所では、淡く光る事で人気があり。自然治療効果が上がる事で知られていた。
探索者はもちろん、結婚指輪として市場に出回っていた。
なので、上級黒鉄の武器は作られる事もなかった。
黒刀を持たなくても、岩ガメを見つけることは出来るようになっていた。
ユウは大盾を構えて防御に専念している。
黒鉄のパチンコ玉を、岩ガメの引っ込めている頭部に投げつける。
岩ガメは怒り。俺に向かってくるが、俺も岩ガメに向かって動き左前足・後足の2本を斬り落とした。
動きの鈍った岩ガメの右側に回り込み、更に残りの右後足・前足を斬り落とした。
「ユウ、こっちに来て頭部をこれで斬れ」
新たに出した剣を渡す。
ユウも修行の一環だと思い、必死に斬りつけた2回目で討伐。
俺は、それを収納。
「ハア・ハア・ハア」ユウは、感情が高ぶったまま息をしている。
「そこで待っていろ」
近場にいた岩ガメを、同じように足を切断していく。
尻尾をつかんで、ユウの所に持ってゆくと。あきらめたように剣を振り被り攻撃を繰り返す。
そんな事を5回程すると、急に立ち止まり。
「あ!師匠、体が痛いです」
「心配するな、体が1ランク強くなっただけだ。お前も聞いて知っているだろ」
「もしかすると、レベルアップですか。初めての経験で、こんなに痛いとは知りませんでした」
「1年ぐらいだと、錬金術だけでは上がらないからな。錬金術だけだと、そもそもそんなに痛くない」
「それなら、事前に言ってください。心の準備がしたかったです」
「あれこれ言わず、地上に戻るぞ」
地上のギルドに入っていき、受付の前で。
「錬金術師の師弟申請がしたい、この子が弟子なんだができるかな」
「探索者カードの、提出をお願いします」
2人のカードを提出、しばらくして新しいカードが出来上がった。
「師匠、見て下さい。一番弟子になってます」
クランで働かない、個人でやっている錬金術師には、変わり者が多く熟練者も多く居た。
ギルドは、そんな個人錬金術師の生産性を上げる為、師弟関係を考え出し生産アップをなしとげた。
弟子は師匠の技術を受け継ぎ、師匠は作る煩わしい作業をしなくてもよくなった。
互いに良い関係で成り立っていた。
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