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カミの山

作者: 星野 光一

絵本テキスト【3】「カミの山」


絵本構成を念頭に場面割付しています。

皆さんの想像と、私の想像が近いものなら、

とても嬉しいです。

皆さんは、

毎日生活していて、身の回りにはたくさんの物があふれています。色々な物を、買ったり、作ったり、もらったり。そして、あなたが使っていらなくなった物や、ゴミがどこへ行くのか、あなたは知っています。

ゴミは、家の近くに出しておくと、たいてい決まった日に清掃車が回って来て集められ、焼却場や埋め立て地で処分されます。


あなたは、

あなたが食べた物がどこへ行くのか知っています。あなたが食べた物は、あなたの体の中で細かくされ、必要な栄養が吸収されたあと、いらない物は、おしっこやうんちとなって、体の外へ捨てられますね。


あなたは、

お花や葉っぱが、季節が終わったらどうなるのか知っています。お花や葉っぱは、枯れて地面に落ちて、土に分解されて、また植物の栄養になりますね。

まあ、お花は枯れる前に種子を作って、それを地面に撒いて子孫を増やす作業をしてからになりますが。


あなたは、

動物が死んだら、どうなるのか知っています。

動物が死んだら、その体は他の動物に食べられたり、虫に食べられたり、微生物に食べられて、他の生き物が生きるための栄養になって、最後は無くなりますね。


あなたは、

道にできた水たまりが、どうなってしまうのか知っています。

水たまりは、太陽の熱で温められて、少しづつ水蒸気になって空へ上がり、最後には無くなってしまいます。


あなたも、他のたくさんの人も、

見たり、聞いたり、勉強したりして、いろんな事を、

たくさん知っています。

それでもまだ知らない事があると、それを知ろうとして、みんないっしょうけんめいに勉強したり、研究したり、冒険したりします。


* * *


ある日、ある町を、

ある男の人が歩いていました。

男の人は、普通の人です。

歳は少しとっているようです。

背は高いとは言えず、

お腹もちょっと出てきています。

上からながめると、

髪の毛がちょっと少ないようです。


男の人は、

ゴミがどこへ行くのか、

食べたものがどうなるのか、

枯れ葉がどうなるのか、

動物の死骸がどうなるのか、

水たまりがどこへ行くのか、

みんな知っています。

男の人は、そうしたことを、みんなに教える先生の、

そのまた先生でした。

まわりの人たちは、教授とよんでいます。


教授が道を歩いていると、とても強い風が町を吹き抜けました。

教授は、服やカバンが風に飛ばされないように、いっしょうけんめいに押さえましたが、少ない髪の毛が風に乱されて、抜けた髪の毛が何本か教授の肩に乗ったり、空へ舞い上がりました。


教授が顔を上げると、何本かの髪の毛が、風にもてあそばれながら空に舞い上がっていくのが見えました。

「床屋さんで切った髪の毛は、床屋さんがほうきで集めて、袋に入れて、捨てるよな。

あれ?まてよ?

風に飛ばされた私の髪の毛は、どこに行くんだろう?」


あなたは知っていますか?

人の髪の毛は、一日のうちにけっこうたくさん抜けるといいます。

町じゅう、国じゅう、世界じゅうの人たちの抜けた髪の毛は、どこへ行くのでしょうか?

教授は知りませんでした。

教授は見つけてしまいました。

教授が、まだ知らない事を。


空の上では、たくさんの髪の毛が、風に乗って飛んでいました。

黒い髪の毛、白い髪、茶色いの、金色の。

みんな、世界中の人の頭から抜けた髪の毛でした。

たくさんの髪の毛は、風に乗って、決まった方向へ飛んでいくのでした。


* * *


ある日、ある国のある村で、おばぁさんが亡くなりました。

孫の男の子は、おばぁさんが亡くなる様子をずっと見ていました。

男の子は考えました。

今まであったおばぁさんのたましいは、どこへ行ったんだろう。

「神の山に行ったんだよ」

村の長老は言いました。


男の子は遠くの山を眺めました。

それはとても不思議な色をした山で、みんなが神の山と呼んでいる、まだ人間が一度も行ったことがない山でした。

「あの山へ行って、もう一度おばぁさんに会いたい」

男の子は、長老が止めるのも聞かずに、神の山に行くことにしました。


男の子は、草原をつっ切り、川を渡り、森を抜け、丘を登り、何日も歩き続けました。

村から山は見えていたのに、何日も何日も歩いたのですがなかなか山に近づけません。

「やっぱり神の山は、すごく遠くて、すごく大きいんだなあ」

男の子は、ますます神の山でおばぁさんに会いたくなりました。


男の子は、それは何日も歩き続けて、ようやく山のふもとへたどり着きました。

山は恐ろしいほど高く、不思議な色をしていました。

男の子が山に登ろうとして上を見ると、山のとちゅうに人影が見えました。

「おばぁさん!

おばぁさーん!」

男の子は、おばぁさんを見つけたと思って、大きな声で呼びました。


* * *


男の子が人影までいっしょうけんめい登ると、その人はおばぁさんではなく、男の人でした。

誰も知らない、誰も来たことがない、神の山なのに、おかしいな?

と、男の子は思いました。


「あなたは、神様ですか?」

男の子は、男の人にたずねました。

「私は神様ではなくて、教授だよ」

ちょっとお腹の出た教授は答えました。

男の子は、神様に会ってお願いすれば、おばぁさんに会わせてもらえると思っていたので、がっかりしました。

「私は、抜けた髪の毛がどこに行くのか知りたくて、髪の毛をずーっと追いかけてここまで来たんだよ。

見たまえ、ここが髪の毛が最後にたどりつく、髪の山だよ!」

男の子が足元を見ると、山は土や草ではなく、黒や白や茶色や金色の髪の毛が積もってできていました。


「髪の山?

ここは、たましいが最後にたどりつく、神の山じゃないのですか?」

男の子は、びっくりしてたずねました。

「神の山?

たましい?

君は、たましいがどこに行くのか知りたくて、神の山を探していたのかね?」

こう言うと、教授は頭をかかえてしまいました。

「たましいか!

どこへ行くのだろう?

髪の毛がどこに行くのかが、最後の疑問だと思ったのに、まだわからないことがあったのか」


人間には、命のことや、宇宙のことや、わからないことがまだまだたくさんあるらしい」

教授は、立ち上がって言いました。

「君、いっしょにわからないことを探そうじゃないか。

わからないことをわかろうとするのが私の仕事なんだ。ぜひ手伝ってくれないか」

二人は、手をつないで、ゆっくりと「カミの山」を下りはじめました。

二人には、明日から毎日、なやんだり考えたりしながら、答えを出すための、勉強と冒険が始まるのです。

たぶん、二人が知っていることより、知らないことの方が、はるかに多いことでしょうから。


おわり







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