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ショートショートの小宇宙

宇宙エビ

作者: 駿平堂

 とある小惑星の探査から帰って来た無人宇宙船の機体から、宇宙生物が発見された。採取した地表の粒子の中に、体長五ミリほどのエビのような形態の生物が数匹紛れていたのである。地球のエビとの違いは、体色が真っ白いことと、足の数が十本もあることくらいで、その他の特徴はよく似ていた。

 

 世紀の大発見となったこの宇宙エビはすぐに研究所に輸送され、調査が進められた。当初はすでに死んでいたものと思われていたが、呼吸をしていることが明らかになり、全ての個体がまだ生きていることがわかった。世界の興奮は最高潮に達した。

 

 観察を続けてすぐに、宇宙エビが地球上の生物と大きく異なる特徴を有することがわかった。それは、その成長速度と繁殖力である。元々五ミリ程度の大きさだったのが、三日もすると一センチに成長する。そしてそこまで成長すると、分裂を開始し、五ミリの大きさ二匹になる。

 

 そして何より驚くべき点はその過程において、与えられたエサや水を一切摂取していない点だ。どうやら宇宙エビは、その詳しい仕組みはわからないが、成長のために必要な水分や栄養を空気中から摂取しているようであった。

 

 当初は何もしなくても分裂が繰り返されることで、様々な機関に検体が提供でき、研究が捗ることが喜ばれた。しかししばらくすると科学者たちはその異様なスピードに焦り始めた。なにせ三日で元の倍の数になってしまうのである。放っておいたら収拾がつかなくなることは目に見えていた。

 

 そこで研究者たちは、宇宙エビを家畜の飼料として使うという案を考えた。人類にとって初めての宇宙生物も、考え方を変えれば自動的に増えるエサである。


 念のため事前に研究室の中でラットに宇宙エビを投与して一週間ほど観察したところ、体色が白くなるという変化はあったものの、それ以外では変化が見られなかった。そのため世界中の酪農家に宇宙エビが行き渡ることとなった。


 そして実際に家畜に宇宙エビが与えられると、食いつきも良さと、肉付きの良さが明らかになり、酪農家からの評判も上々だった。唯一の懸念の体色の変化も、酪農家にとっては別に問題ではなかった。

 

 そんなある日、家畜のあまりの食いつきの良さに、物好きな酪農家が一口だけ宇宙エビを食べてみた。それが始まりだった。宇宙エビは、今まで食べたどんなものよりも美味しかったのである。


 この情報はすぐに世界中に広がり、あっという間に人間が宇宙エビを食べることが当たり前になった。焼いても、揚げても、茹でても、煮込んでも、どのように調理しても宇宙エビは期待を裏切らない味をしていた。


 また世界の貧しい地域にも十分に宇宙エビが行き渡るようになると、餓死する人の数が大幅に減るようになった。水やエサをあげなくても勝手に増殖する宇宙エビはまさに、人類の食糧問題に彗星のごとく登場した救世主であった。


 問題の体が白くなる変化はというと、むしろ美白を手に入れられるようなものとして捉えられ、宇宙エビを利用した美白サプリなどが登場するほどだった。


 さて、そのようなわけで宇宙エビが人類に食されるようになってから一年が経とうとしていたある日、世界中の至るところでこのような会話が聞かれるようになった。


「あなた、最近姿勢が悪くなってない? 朝から腰が曲がりっぱなしよ」


「そういうお前の方だって、美白はいいけど髪の毛の色も薄くなってやしないかい?」


 そしてその会話に相槌を打つように、報道番組からこのようなニュースが伝えられた。


「正午のニュースです。今、世界中の牧場で、家畜がエビ化するという怪現象が起こっています。この前代未聞の事態に、専門家らは原因究明を急いでいます」


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