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不老不死の俺と魔法使いの可哀想な彼女が出会ったら幸せになれました

作者: 来留美

 俺は誰よりも長生きができる。

 だから色んな人の死を目にしてきた。

 最初は俺の友達や愛した人達は老いていき死んでいくのが悲しくて苦しかった。

 そんなことを長年続けているといつしか、誰かの死を見たくなくなり一人でいることを選ぶようになった。

 誰とも親しくならず、誰とも話さず、何年も何百年も一人で生きていた。

 そんな生き方が楽しい訳もなく、俺はいつしか死を望むようになっていた。

 それでも俺は死なない。

 どんなに体を傷付けても、どんなに絶食しても俺は死なない。

 俺をこの苦しみから救ってくれ。

 そう思っても言う相手はいない。

 だって俺は一人なのだ。

 こんなに長く生きているのに俺には何も残っていない。



 ある日、俺は山奥にある家を出て街へ足を運んだ。

 俺はたまに街へ出掛ける。

 街には俺の知らない色んな新しい物が売ってある。

 俺の楽しみはその新しい物を買うことだ。

 その為に猟をしてお金にする。

 今日の新しい物は何だろう?

 この前はピアノを買った。

 綺麗な音を出すピアノは俺の一人でいる時の暇潰しになっていた。

 ピアノの音は俺の心を少しだけ軽くしてくれた。


「おっ、お兄さん。今日はすごい物が手に入ったんだよ」


 いつも新しい物を買っているお店の店主が俺に声をかけてきた。


「すごい物?」

「そうですよ。お店の地下に置いています。見に来ますか?」

「見てみよう」

「それではどうぞ」


 俺は店主に案内され、地下に入る。

 暗くて長い廊下を歩くと扉が現れた。

 その扉を開けるとそこには綺麗な真っ白のドレスを着た女の子がいた。

 彼女はまだ十代の後半くらいに見える。

 彼女の手と足を見て俺は店主を睨む。

 彼女は手と足を拘束されているのだ。


「彼女が何をしたんだ?」

「彼女は危険なのです」

「何が? まだ大人にもなっていない子供じゃないのか?」

「彼女の母親が危険な人物なんです」

「母親?」

「彼女の母親は黒魔法を使う大魔法使いなんです」

「彼女も魔法使いなのか?」

「彼女が魔法を使えるのか分からないですがそんな大魔法使いの子供は危険です」

「彼女は何もしていないってことなのか?」

「今のところは何もしていませんよ」

「それなら彼女を自由にしてあげろ」

「それはダメですよ。彼女は私の売り物なので逃げられては困ります」

「お前は人間を売り物にするのか?」

「私は売れる物は何でも売りますよ」


 こいつの頭はおかしいのか?

 人間を売り物にするなんて、自分と同じ人間をモノ扱いするのか?

 俺は怒りが頂点に達していた。

 俺は彼女の拘束器具を力任せに破壊した。


「おっ、お兄さん。彼女は俺のモノですよ」

「今からは違う。これでいいだろう?」


 俺は店主に有り金を全部、投げて渡す。

 店主はお金を拾っている。

 その間に俺は彼女の手を取って地下から出る。

 そして街を出ようと早歩きをする。

 しかし、その途中に彼女の足が止まる。


「どうしたんだ?」

「私はあの人を許せません」

「だからどうするんだ?」

「私はあの人に苦しんでもらいたいです」


 彼女はそう言って俺の手を振りほどいて来た道を戻る。


「待って。君はもう俺が守るから」


 彼女には俺の声は聞こえていないようだ。

 彼女は俺の体を魔法で飛ばした。

 俺は近くのお店に叩きつけられた。

 痛いのは一瞬で俺の体についた傷は治っていく。

 その間に彼女は地下へと入っていく。

 俺のボロボロになった体は少しずつ治っていく。

 早く治れ。

 初めて自分の体が早く治ることを願ってしまった。

 俺の体の傷が治って地下へ行くと彼女が魔法を唱えて店主を宙に浮かせていた。

 店主は魔法で首を絞められているのか苦しそうにしている。


「やめろ。君はこんなことをしてはいけない」

「邪魔」


 俺はまた、彼女の魔法で飛ばされる。

 柱に体を強く打ち付け、どこかの骨が折れる音がした。

 そして痛みは一瞬で少しずつ治っていく。

 俺はまだ治らない体で彼女に近づく。

 治っていないからなのか、歩く度に体のあちこちが痛い。


「お願いだからやめてくれ。君はこんなやつみたいには、ならないでくれ」


 俺がそう叫ぶと彼女の力が弱まったのか店主の宙に浮いていた体が地面へと落ちる。

 そして店主は気を失っている。


「私がこの人と同じ?」

「君はこの店主に傷付けられたんだろう?」

「うん」

「君もこの店主を傷付けているのに気付いていないのか?」

「だって、私は何もしてないのに」

「君の気持ちは分かるよ。でも君がこの店主と同じように傷付けたら君は幸せになれるのか?」

「それは……」

「君の力は人を傷付ける為にあるのか? 違うだろう?」

「でも……」

「気持ちが抑えられないのなら俺に向けろ。俺には痛みも一瞬だ」

「えっ」

「見てて」


 俺は近くに落ちていたガラスの欠片を腕に当てた。

 赤い血が流れる。

 痛いのは一瞬で少しずつ治っていく。


「治ってる」

「俺は死なないんだ。だから君の気持ちが抑えられないのなら俺に向けろ。俺は死なないから」


 すると彼女はさっきまであった傷の場所を撫でた。


「死なないかもしれないけど痛いでしょう?」

「痛いのも一瞬だよ」

「それでも痛いよ。心も」

「えっ」

「傷は治っても痛いって感じた思いはなくならない」

「初めてそんなこと言われたよ」

「あなたはどれだけ心に傷を負ってるの?」

「俺にはもう、心はないよ」

「そんなことないよ。私を助けてくれたでしょう? あなたには心がちゃんとあるよ」

「そんなふうに言ってくれてありがとう」

「私も。ありがとう。助けてくれて」

「さあ、ここから離れようか?」

「うん。あなたと一緒に連れていって」

「俺と?」

「うん。あなたとずっと一緒にいたいの」

「でも君はいつか俺より先に死んでしまう。もう、あんな思いはしたくないんだ」

「私は死なないよ」

「えっ」

「あなたの中でいつまでも生きるから」

「君みたいな子にもっと早く出会えていれば良かったよ」

「今からでも遅くないよ。あなたには永遠の命があるんでしょう?」

「そうだね」


 俺は彼女と一緒に山奥の俺の家へ帰った。

 彼女と過ごす毎日は楽しかった。

 彼女は俺に今まであったことを話してくれた。


「私のお母さんは私の目の前で殺されたの」

「えっ」

「私のお母さんは黒魔法を使ってどこかの国の王子様を傷付けたって噂になり、そして捕まり私の目の前で殺されたの」


 彼女は涙を流した。


「悲しいなら話さなくていいよ」

「あなたには私の全てを知って欲しいの」

「そう。それならゆっくりでいいよ」

「うん。私がお母さんから聞いた話は、その王子様が私のお父さんなんだって。王子様はお母さんと結婚なんてしたくなくて、お母さんが王子様に危害を加えたと言ったの。そしてお母さんは大魔法使いだったから魔法で王子様を傷付けたって噂になり捕まったの」

「ひどい話だね」

「うん。だから私はお父さんを大嫌いなの」

「お母さんは君の目の前で亡くなって君はそれからどうしたの? 子供一人で生きていけないよね?」

「私はその王子様と一緒に過ごすことになったの」

「えっ」

「私はその時は小さくてお母さんが何故、殺されたのか知らなかった。でもある日、聞いたの。王子様が話しているところを」


◇◇


「あの子がここで暮らせるように彼女を死刑にしたのに民はあの子を認めてくれないのか?」


 お父さんが偉い人と話している。


「王子様。どうなさいますか?」

「でも、あの子は俺の子なんだよ? ずっと一緒にいたいのに……」

「王子様。あなたはあの子の父親の前にこの国の頂点に立つお方なのですよ? あなたはあの子よりこの国を選ばなければいけないのです」

「そうなのか?」

「今からでも遅くないのです。どうかあの子をどこか施設へ預け、この国の為に生きては頂けないでしょうか?」

「この国の為に……。分かったよ。あの子はいなかったことにしよう」


 お父さん?

 あなたは私を捨てるの?

 私は必要ないの?

 許せない。


◇◇◇


「そして私は怒りで暴走したの。魔法を初めて使って私は暴れたの。そして私は他の魔法使いによって捕まり牢屋に入れられたの」

「牢屋に? 君はまだ幼い子供だったんだろう?」

「うん。まだ十歳だったよ」

「そんな子供になんてひどいことをする大人なんだ」

「しかしある日、お父さんが私を牢屋から出してくれたの」

「えっ」

「私にはまだ明るい未来が待ってるって。君はただの幼い少女なんだって言って、牢屋の鍵を開けたの」

「君を助けてくれたの?」

「ただ私を牢屋から出しただけ。私は子供で一人で生きていける訳もないのに。だから私はお父さんが大嫌いなの」

「それでも君を閉じ込めておくことが嫌だったんじゃない?」

「お父さんは自分のしたことへの後悔から私を逃がしただけよ。私がいるだけでお母さんのことも忘れられないから全てを忘れようと私を逃がしたのよ」

「そうなのかな?」

「そうよ。だから私はお父さんが大嫌いよ」


 さっきまで泣いていた彼女はいつの間にか怒りで震えていた。


「そんなに怒らないで。そんなに悲しまないで」

「えっ」

「君は俺の生き方を変えてくれた。だからあの時、君を逃がしてくれた君のお父さんに俺は感謝してるよ」

「感謝?」

「君に会えたのは君のお父さんのお陰だからね」

「私はお父さんに感謝なんて出来ないよ」

「君はもう少し大人になると分かるよ」

「私を子供扱いしたわね?」

「だって俺は君のいくつ上だと思ってんの?」

「ん~。五百歳?」

「もっと上だよ」

「そんなに生きてるの?」

「もう、数えきれないほど生きてるけどほとんど一人の時が多かったよ」

「せっかく人よりも長生きができるのにもったいない。色んな人と話して触れ合って色んな経験ができるのに」

「君達みたいに命の期限があると残された方の気持ちなんて分からないんだよ。どれだけ苦しくて、どれだけ悲しくて、どれだけ寂しいのか」

「それなら先に命の期限を迎える方の気持ちをあなたは知ってるの?」

「えっ」

「どんなに一緒にいたくてもいられない。悲しくて、悔しくて、自分を責める気持ちなんて分からないわよね」

「君は先に命の期限を迎えていないのに何でそんなことが分かるんだよ?」

「私はお母さんに言われたの。ごめんねこんなに小さなあなたを置いて先に逝くことを許してね。あなたの苦しみ、悲しみ、怒り、全てを私と一緒にあの世に持っていくからあなたはただ幸せに暮らしてねって言ってたの」

「君のお母さんは君のことをとても愛していたんだね」

「そうだよ。だから私は今日から幸せになるよ」

「今日から?」

「うん。あなたとずっと命の期限がくるまで一緒にいるよ」

「君は本当にそれでいいの?」

「うん、いいの。私はあなたの苦しみ、悲しみ、怒り、自分を責める気持ちを全てあの世に持っていくことができるからね。そしてあなたはまた幸せを見つけてくれればそれでいいの」

「君は俺より年上なんじゃないのかな?」

「それは絶対に違うわよ。だって私はあなたの気持ちは分からないもの」


 彼女は悲しそうに小さく笑った。

 俺の気持ちが分からない?

 それは残された人の気持ち?

 それとも俺の君への気持ち?

 そんなことは彼女には聞けない。

 だって彼女には命の期限があるから。

 俺は彼女と毎日、一緒に過ごすだけで満足なんだ。



◇◇◇◇


 彼女と毎日、楽しく過ごしていたある日。

 彼女はもう大人の女性になった。

 それは美しい女性になっていた。

 ある日、俺達は花達が綺麗に咲いている草原へと来た。

 二人で横に並んで座った。


「あなたって全然、歳をとらないのね」

「死なないからね」

「いいな。私なんてお肌に張りが失くなってきたわよ」

「君はまだ若いよ」

「あなたに比べたらまだまだ若いわよ」

「君は若くて美しいよ」

「そんなこと言っても私のお肌の張りは戻らないわよ」

「本当に君は綺麗だよ」


 俺は隣にいる彼女を見つめる。


「どうしたの?」

「君は気付いていないみたいだから。教えてあげたんだ。おじさんがね。違うか、お爺さんかな?」

「あなたは若いからお兄さんが合ってるわよ」

「君にとって俺はお兄さんなのか?」

「違うよ」

「それなら何?」

「大切な人よ」

「俺が君を助けてあげたから?」

「違うよ。私を幸せにしてくれる大切な人よ」

「そっか。俺も君を大切な人だって思っているよ」

「それだけ?」

「何が?」

「他に言う言葉はないの?」

「他に言う言葉? あるかな? 君は美しい女性だよ」

「それはさっき、聞いたわよ」

「他に何かあるかな?」

「もう。言ってくれないなら私が先に言うわよ」

「えっ」

「私はあなたを愛してるわよ」

「えっ」

「私はあなたを愛してるの。あなたとずっと一緒に幸せに暮らしたいの」

「俺も君を愛してるよ。でも一緒に幸せに暮らすのは君がここに来た時に聞いたよ?」

「もう、まだ気付かないの?」


 彼女は顔を赤くして俺の顔を見つめた。


「あなたと私といつか生まれてくるかもしれない私達の愛の結晶と一緒に幸せに暮らしたいの」

「えっ、それって?」

「まだ私に言わせるの?」

「そうだね。この言葉は俺が言いたいよ」

「うん」

「俺と一生、一緒にいて。だから結婚して下さい」

「私はあなたより先に逝っても一生、一緒にいるよ。だから宜しくお願いします」


 彼女は嬉しそうに笑った。

 そんな彼女に俺は誓いのキスをした。

 一生、一緒にいるよっていう思いを込めて。


◇◇◇◇◇


 俺は誰よりも長生きができる。

 色んな人の死を見てきて、一人になることもある。

 でも今は幸せだ。

 美しい奥さんがいて。

 可愛い双子の子供がいて。

 俺は幸せだ。


「あっ、この子達ったらオモチャでお互いに傷を付けてる」


 彼女が子供達を見てそう言った。

 このオモチャは危ないから他の物を渡そう。


「二人とも同じ場所に傷ができてる。双子ってすごいね」

「そうだな。ってあれ?」

「どうしたの?」

「この子達の傷が治っていってるんだ」

「嘘!」


 俺はこの子達の力を目の当たりにして気付いてしまった。

 もしかして俺と同じ?

 俺は近くにあったオモチャで自分の腕に傷を付けた。

 血が少し出てきたが傷が治らない。


「俺はもう、傷が治らないみたいだ」

「えっ、それってこの子達にあなたの力が移ったってことなの?」

「そうかもしれない」

「これで分かったわね」

「何が?」

「この不老不死の力は受け継がれていくんだって。だからこの不老不死の力があっても本当に好きな人と一緒に命の期限を迎えたいのならそれが叶えられるってことよ」

「俺は君と一緒に命の期限を迎えられるんだな」

「そうよ。天国でも私達は一緒なのよ」

「それならこの子達にもちゃんと命の期限があることを伝えてあげないといけないな」

「そうね。あなた達は死なないけれどいつかは必ず命の期限がくるんだってね」

「みんな同じなんだって二人で教えようよ」

「うん」


 俺は誰よりも長生きができる。

 しかし、それは間違いだった。

 俺には命の期限がある。

 それは生き物全て同じなんだ。

読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価などをいつもありがとうございます。

明日の作品の予告です。

明日の作品はサラリーマンの主人公と幼馴染みの女子高生のお話です。

主人公は久しぶりに実家に帰って可愛く大人になった女子高生の彼女に会います。

その後が気になった方は明日の朝、六時頃に読みに来て下さい。

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