真実
命輝が最後にあの小さな化け物と戦った後、演習はすぐさま中止された。
どうやら演習場に学校側が関与してない化け物が入ってきたとのことだ。
今は全員教室に戻ってきている。生きている者だけ。
(たまたまであんな自然の法則を外れた化け物がいるのか?その上演習中止のタイミングが都合が良すぎる気がする。)
だが周りの生徒達はその説明に納得している。
(おかしい…明らかにおかしな事が起きているのに何故コイツらはあんな説明を信じているんだ?)
人が死ぬ。そんな事が今日1日で12人も。明らかに異常なのに学校側のめちゃくちゃな説明を聞いても不思議と思うものはいない。疑問は増えていくばかりだ。
「災難だったよね。まさかあんなことになるなんてね。」
「仕方ないよだって事故なんでしょ?でも人が死ぬって言うのは初めてみたわけじゃないけどやっぱりキツいね。」
そう話しているのは、金髪でセンターパートが特徴で身長170cmの爽やか風イケメン男子と赤毛のポニーテールが特徴で身長は160cmの気が強そうな見た目の女の子だ。
「ねえねえ。」
命輝に話しかけてきたのは有紗だ。
「なんだ?」
「なんかみんなあの説明で納得してるけど変じゃない?」
「確かにおかしいよね…なんかまるで洗脳されてるみたい。」
そう話すのは綾音だ。
「洗脳って言ってもそんなことされるようなタイミングあったっけ?」
「いや、洗脳は十分にあり得る話だ。」
「えっ!?でもこの人数が1人も気づかず洗脳されるなんてあり得るの?」
30人の能力者にいっさい気づかれることなく洗脳することは、猛獣の群れに入り込み、自分も同じ猛獣のフリをして気づかれないようなものだ。
無論そんなことできはしない。
「確かにな。感知系の能力者にすらも気づかれずやりとげるのは難しく見える。だが、学校側は俺達の能力を何らかの方法で無効化することができる。なら洗脳出来たっておかしくない。」
ここは自然の法則や法律が通用しない。ならば常識にとらわれた思考ではだめだ。
有り得ないが有り得るのならば可能性は0%ではない。
「俺達が知らない何らかの手段で洗脳をしたんだろう。恐らく誰かの能力でな。」
「やっぱり能力関係なのかな?」
「確実と言って良いかはわからんが、俺達三人だけ洗脳にはかかってない。」
「確かに!なんで私達は大丈夫だったの?」
「俺の能力によるものだよ。俺は能力の無効化もできる。その状態で二人に触れたから二人の洗脳が解けたんだと思う。」
もし、仮に能力によるものだとしたら命輝の能力により効果が消えているだろう。
(だが、確実ではない。洗脳をわざと俺達三人にだけかけなかった可能性もある。)
「そう言えば、結局命輝君の能力はいったい何だったの?」
そう有紗が聞いた時だった。教室の扉が開いた。担任の静だ。
「さて、説明もあっただろうが、今日だけで12人死者が出た。だが悲しんでいる場合ではない。来月には能力者同士による戦闘…闘神大会がある。これは貴様らにとって非常に大切なイベントだ。」
どうやら休む暇は無いらしい。クラスメイトの死すらどうだって良いと言ってるかのように来月の大会の話をしだした。
(確か…この学校にいる全生徒がトーナメント方式で戦う大会だったっけか?1週間もかけて開催されるこの学校の1番イベント。)
命輝は学校のパンフレットを一通り読んでいるためイベント事は頭の中に入っている。
「貴様らは1年だから良くない成績を残しても特段ペナルティーはない。」
この言葉でみんなに安堵が訪れる。
「だが…もしあまりにも酷い結果を残した場合は覚悟しておいた方がいいだろう。役立たずと思われてしまえばその瞬間未来は無いものと思え。」
教室内に緊張が走る。
「なっ!?今回の演習でみんな心も体も疲弊しきっています!このような事態になっているのに大きなペナルティーがある大会に無理やり出場させるのはいかがなものなのですか?」
先程の金髪の男子が声を上げる。それに鼓舞されたのかクラスメイト全員(命輝と綾音以外)がそうだそうだと乗っかる様に声をあげた。
「勘違いするな。」
静の一言に気圧され一瞬で静まり返る。
「貴様らに自由な選択権があると思うなよ。反抗するならその瞬間に処分する。それが嫌なら大人しく従え。」
最悪とも言えるこの状況。処分…それは一体どの様な事か?1番最初に思いつく事…それは死。
それを全員考えてしまったのかそれ以上何も言うやつはいない。
「私からは以上だ。」
そう言って静は教室から去った。命輝もその後を追った。
「何の様だ?」
「話がある。少し場所を変える。」
「さて、ここで良いか。」
理科室。だが一般的な理科室とは異なり、薬品やガスバーナーなどが無い。
「何の話かね?」
静の言葉で命輝の目つきが変わる。獰猛な獣の目つきに。
「しらばっくれンな。どうせわかってんだろ?」
口調も変わる。これが彼の本来の姿なのかも知れない。
「怖いなぁ。そう睨まないでくれ。」
だが静は顔色一つ変えない。
「今回の演習の化け物はてめェーらが用意したもんだろ。」
「何の証拠があるのかね?」
「俺が消す対象を能力にセットした時、触れたら化けモンは消えた。つまり化けモンは能力によって作られた人工生物だ。」
「それだけでは我々がやったとは言えない。」
「いや、まだだ。そもそもの話、グループ演習だったはずなのに何故個人個人で送り込んだ?」
「…」
何も喋ろうとはしない。だが目だけは命輝をしっかりと捉えている。
「その上、何かしらの方法でクラスメイトに能力で洗脳の様なことをした。あの説明で俺により洗脳の効果を打ち消された俺と有紗と綾音だけが1ミリたりとも納得がいかなかった。俺の能力が働いてェんだ。言い訳は聞かんぞォ?」
「知らんな。そもそも貴様らの価値観の問題じゃないのか?」
静は自分は関係ないと言い放った。それが堪に触ってしまう。
「図にのってェんじャねェーぞォ!俺の能力を研究するためだけにあれだけのことをしたっツーのか!アァ!?」
声を荒げる。その目つきはもはや言葉では言い表せない程獰猛で今すぐにでも殺してしまいそうな勢いだった。
「貴様だけ特別な存在なのは認めよう。だが、それとこれが関係してると言う証拠はない。よって…私を責める事はできやしない。」
だが動じない。何を言っても無駄と言わんばかりに。
「俺の能力がそんなにみたいなら体験させてやるよ!」
そう言って静に飛びかかる。静はすかさずリモコン型の謎の装置を取りだしボタンを押す。
その瞬間命輝の体の動きが止まる。
「これは!?」
「貴様らは体の自由も心の自由もありはしない。全ては道具に過ぎないのだからな。」
初日に和泉の能力を無効化した方法もあのボタンだったのだろう。
「能力だけではなく、体の自由までもか…」
「さてどうする?このまま続けるか?」
圧倒的に優位に立ち続ける教師側。だが勘違いしている事が一つある。
それは…
「俺にとうとうみせてしまったなァ…それがてめェーの失敗だ。」
「!?」
命輝が動き出す。
(クソ…!能力で無効化したか。)
すかさずボタンをもう一度押す。
だが、命輝の動きは止まらない。
「てめェーらに能力の詳細を伝える程俺も馬鹿じゃねェんだよ。精密機械による能力スキャン。それにより能力を徹底的に調べる事ができる。誤魔化しもできない。一点例外を除いてな!」
「まさか…」
静の首を抑える。
「俺の能力を使えばあんなポンコツに能力を読み取られない様にするのも難しい話ではない。」
「貴様の能力は異能の力と物質と物理現象を消す以外の事もできると言うのか!?」
「次この様なことをしたら殺す。」
そう言い手を離す。
「優しいんだな。そこは有無を言わさず殺すところだろ?」
「俺はあんた達程腐ってないただそれだけのことだ。」
口調が通常に戻っている。どうやら今回は本当に許してくれるらしい。
「しかし驚いたな。我々が出し抜かれる日が来ようとは…」
そう言った静の目には少し雫が溜まっている。
「ッ!?」
あの静が涙を流すなんて信じられない。
(いや、待てよ…そもそも能力者自体がこの学校に全員強制入学…ってことは!)
「まさかあんた…」
静は命輝の口をそっと抑える。
「それ以上は言うな。私が死んでしまうだろ。」
全ての能力者がこの地獄のような学校に入学させられるのならば、ここの教師は全て能力者であるから全員この学校の卒業生となる。
つまり境遇は命輝達となんら変わらない。
(コイツらが俺の能力を徹底的に調べるようとするのはそう言う事か…)
「俺は教室に戻る。」
「あぁ…」
そう言って命輝は教室に戻っていった。