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綾音

命輝たちは、先程までいた場所を離れて綾音の能力で安全な所に移動しそこに身を潜めていた。

(流石にこの状況は不味いな…能力の秘密を守りながら二人を守るのは無理だ。そうなれば…)

「なぁ、すこしいいk」

「南東の方向に化け物に襲われている人がいる!」

命輝の声を遮るように綾音が叫んだ。

恐らく未来視で見つけたのだろう。

綾音の未来視は未来であれば1秒先というほぼ現在を見ることも可能で遠くの場所で起きる未来を見ることも可能。

情報収集能力の中でもトップクラスの能力だ。

「えっ!?それって不味くない?ここにいる猛獣は全て私たちがどうこうできるような相手じゃないよ!」

「慌てるな。有紗の言った通り俺たちにどうこうできる相手ではない。恐らく俺たちが行ったところで死体が増えるのがオチだ。」

助けるためにはそれ相応の能力が必要だ。

だが彼らたちにはそんな能力はない。

イレギュラーを除いて。

命輝が諦めるように有紗を制したとき綾音が命輝を見つめ深刻そうな顔つきをした。

「命輝君。率直に申し出るけど、命輝君なら助けられるよね?」

心臓を直接握られるような感覚を覚えた。

情報収集において彼女の右に出る存在はほとんどいないだろう。

バレていてもおかしくない。

「どんなことが出来るのか詳細はわからないけど、ここにいる化け物達を倒すくらい難しくないよね?」

どうやら隠し通すことはできなさそうだ。

「あぁそうだな。やっぱ綾音相手に隠し通すのは無理だったか。いつから気づいてた?」

素朴な疑問を問いかける。

「私は最大で10分先の未来しか見えない。命輝君が能力を使うことがほとんどないから気づけたのはこの演習が始まってすぐ。周りに人がいないことを確認して能力を使ったよね?」

彼女が化け物の存在をあらかじめわかっていたのは演習が始まる前または始まった直後に能力を使って命輝の事を見ていたからだ。

「なるほどな。猛獣がどんな存在か知るために能力を使って片っ端から見ていたってところか。俺は演習が始まってすぐに化け物と対峙した。それを見られていたわけか…」

情報戦において最も敵に回したくない相手だ。だからこそ味方に置いておけば非常に心強い。

しかし、この会話に唯一ついていけてない奴がいる。まぁ想像つくけど有紗だ。

「え?どういうこと?え?え?つまり命輝君ならどうにかできるってこと?」

「ずいぶんアバウトだな。まあそう言うことだ。」

まぁもう隠す必要も無いだろう。

「俺の能力の説明は後だ。まずは化け物のもとに向かう。有紗は化け物からできる限り生徒たちは引き離してくれ。」

「了解!」

「いくぞ。」




「うわぁぁぁ!なんだよこの化け物は!?」

その化け物は体長が20mはある巨大な象だった。

「聞いてねぇーぞこんなの!」

「お前自分の能力に自信あるんだよな!?あいつを何とかしてくれよ!」

「ふざけんなあんな化け物は想定外だ!というか清水しみずのやろうどこ行きやがった!」

「知らねぇーよ!俺たちを囮にして逃げたんだろ!あいつの能力って確か気配遮断だし!」

赤髪の青年と緑髪の青年が言い争っている。しかし、今は言い争いをしている場合ではない。化け物はもうそこまで来ている。

(終わった。俺の人生くそつまんなかったな…)

赤髪の青年が諦めかけていたその時だった。 化け物の足音が止まった。

「え?」

振り返ってみる。そこにいたのは有紗だった。

「こいつは私が引き付けるからにげて!」

「あ、ありがとう!恩に着る。」

男の維持とかはない。自分の命が1番大事なのは皆同じこと。

「ほらこっちよ!」

化け物を誘導する。

化け物の移動速度は時速260km/h程度。その上体長が20mはある。突進を喰らえば人たまりもないが、今までの化け物に比べると体が大きい分スピードは遅い。対して有紗は能力を使えば最大で音速の4倍程の速度で走れる。余裕だ。

(後は命輝君がいるところにこの化け物を連れていくだけ!)

そう思った時だった。進行方向に誰かがいる。化け物ではない。人間だ!

(ま、まずい!このままだと巻き込んでしまう!)

「う、うわぁぁぁ!なんでこっち来るんだよぉぉぉ!」

ボサボサの黒髪の男は逃げ出す。しかし…

「そっちじゃない方に逃げて!」

(そっちには命輝君がいる。このままだとこの化け物にあの人が潰されてしまう。進行方向を変えることはできない。)

だが男には聞こえてないのか進行方向を変える様子はない。

有紗は体を化け物の方に向き替え音速の4倍の速度から繰り出される強烈な蹴りをお見舞いする。

「パォォォォォン!」

少しダメージはあるみたいだが手応えは感じない。

(なんて頑丈さなの!)

化け物がその長い鼻で攻撃をしてくる。それをなんとかかわすがただの風圧だけで有紗が吹き飛ぶ。

「痛っ…!」

化け物が突進してくる。直撃すればひとたまりもない。

(まずい…体中が痛んでうまく体が動かない。)

『任せて…』

どこからか微かに声が聞こえた。とても可憐な声、恐らく女性だろう。

化け物の動きが止まる。まるで何かに抑え込まれているかのように化け物は苦しんでいる。

(今のうちに!)

体制を立て直す。周りを見渡すがあの男は消えていた。

「いったいどこに…」

だが今はそんなことどうでもいい。

抑え込まれていた化け物が見えない拘束を破り有紗を捉える。

(後は命輝君のところに連れていくだけ。)

有紗は再び走り出す。命輝の元へ。そして…

「つれてきたよ!」

そこは少し平けた場所だった。そしてそこにいたのは命輝だった。

後は簡単だ。命輝が触れたとたん化け物は跡形もなく消え去った。



化け物の腹の中で抵抗を続ける者がいた。その男は見た目に変わった特徴はなく、どこにでもいそうな至って普通の高校生の様で、境遇だけは普通じゃない中村一だ。かれこれ1時間は化け物の腹の中にいる。

「オラァァァァ!!」

掛け声と一緒に壁に飛び付き胃の上部へ登り始める。

(胃は固いが食道は柔らかいだろ!そこからなら脱出できるかもしれない!)

勢い良く登り上部まで登った。だがそこで気づく。食道への道が無いことに。

(どういうことだ?)

一には理解出来ていないがもし胃から簡単に食道へ入ることが出来るのならば、逆立ちしただけで口から胃の中のものが全部出てきてしまう。食道から胃へは基本的に一方通行であるが故に一の作戦は通用しない。

(くそ!せめてもう少し体の構造に詳しければなんとかできるかもしれないのに!あそこを突破するにしても位置的に厳しい。)

食道への道を切り開くにはどうしても壁にしがみついたままではできない。絶望しそうになる一にある違和感が訪れる。

(なんだ?振動してる?)

振動と言うのなら最初からしていたが、不規則な振動だったり、小さな振動だった。

(まさかこれ心臓か?)

胃の上部。つまり心臓に近づいたことで、心臓の鼓動がより伝わってくるようになったのだ。

一は鼓動が一番伝わってくる場所を探す。

(これは!?)

今までで一番大きい振動。おそらくこの近くに心臓がある。後はこの肉の壁さえ何とかできたら脱出の可能性が見えてくる。

(しかし、とんでもねぇ振動だな。でかいだけはある。)

しかしその鼓動がドンドン大きくなっていく。その瞬間とてつもない振動が生じた。

「なんだ!?」

あまりの振動の強さに壁にしがみついていた手が壁から離れる。

「うぉっわぁぁぁぁぁ!」

下に落ちている最中に今度は横に落ちる。

(くそ!どうなってんだよぉぉぉ!)

化け物が何かしらの影響を受けて倒れたようだ。しかし、これほどまでに大きな化け物が倒れたとなると普通なら中にいる一は死んでしまうだろう。しかし、彼は不死身。何度殺されようと復活する。

「は!?」

勢いよく起き上がる。化け物が横になってるおかげで簡単に食道付近に来る事ができることに気がついた一はすぐさま食道の近くに近寄る。

(前とは違って体勢がキツくない。これなら!)

食道への道を食いちぎるように無理やり切り開く。

(あと少し!)

そして、食道への道が開いた。一は最後の力を振り絞って食道を逆走する。

(速くでないとこの化け物が起き上がったら出ることは不可能だ!)

口まで進んで一つのことに疑問が浮かぶ。そもそも何故このような化け物が倒れたのか。そして何故いつまで経ってもこの化け物は起き上がらないのか。

(いったいどうなってやがる。死んだのか?だとしたら何故?)

もしこの口の先にこの化け物以上の恐ろしい存在がいるとしたら?そうなってしまえばせっかく出れたと言うのに、出たと同時に新たな地獄に足を踏み入れることになる。

(さて、どうするか…)

地獄はまだ終わっては来れなさそうだ。

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