第六話
「……何も無いじゃない」
「あー! そうなのぉ! ほんの出来心だったのぉ!! ごめんなさい!! あなたあぁ!」
私は土下座して平謝りし……なぬ?
「今、なんと?」
「だから何も無いってば。ほら」
私は旦那に促されクローゼットの中を覗くと、確かにそこには何もなかった。
「ほほほらあ! だから言ったでしょお!? 何も無いって!!」
「うん……」
よっしゃああぁぁ!! どんな技を使ったか知らねえが、強! 良くやった!! このピンチを良く乗り越えやがったあぁ!! 誉めてやる!!
「それよりもさ……さっき、出来心とか何とか言って無かった?」
「えー? そんな事、言ったっけ?」
「言ったよ。さっき、確かに」
「空耳だよぉ♪ それよりもさぁ♪ ご飯準備するから早くたべよぉ」
「……うん」
私はこの後、旦那に極上の(愛情のこもっていない)手料理を提供し、不倫を隠し通した。
やったぜ! 万々歳だ!!
つよちゃあん♪ 今度会ったら最上級の私をプレゼントするから、待っててねぇぇ♪♪
……あれから一ヶ月経ったけど、つよちゃんとは一度も連絡は取れていない。一体、何処へ行ってしまったんだろうか?
もしかしたら、つよちゃん……クローゼットの中で異世界に召喚されて、美魔女に骨抜きにされて、それで魔王を倒しに行くとか言い出して、森に入って、毒キノコ食べて、目の前が黄色くなって死んでたりして!!
………………
……そんなわけ無いか。
きっと、今は事情があって会えないだけだよね? つよちゃん!
私、待ってるからね!!
「ねー♪ さっきから何を考えてるのー? ふみちゃん♪」
私は、つよちゃんの事を思いながら、新しい不倫相手『蓋又男』(24歳)に返事をする。
「んー? 又男ちゃんの事ー♪」
「えー? 本当かなあ? 実は旦那さんの事を考えていたり……」
「そんな事無いよお♪ 私、又男ちゃん一筋だよぉ?」
腕を組み、会話をしながら歩く私達。とてもラブラブした気持ちで赤信号の交差点で立ち止まる。
イヤッホゥ♪