第五話
「あれ? ふみちゃん。何か、庭に車が入って来たみたいだけど?」
やっベーー!! 旦那だわ!! 出張であと4日は帰って来ないはずなのに!! 何で!?
「つよちゃん、隠れて!!」
「え……? 何で?」
「旦那が帰って来たからよ!! 良いから早く隠れて!!」
「え!? ふみちゃん、結婚してたの!? 聞いてないんだけど!?」
「良いから早く隠れろ!! ボケ!!」
私は、駄々をこねるつよちゃんを、無理矢理クローゼットの中に隠すと、怪しまれないように旦那を玄関まで出迎えに行く。
「ただいまー」
「お、お帰りなサーい♪」
ただいまー じゃねえよ! くそが!! 何でこんなに早く帰ってくるんだよ!! 訴えるぞ!!
「こ、今回は早く帰ってこられたのね」
「うん。何だか良く解らないけど、物凄く早く仕事が片付いてね。何時もよりも早く帰ってこられたよ」
良いんだよ! 帰って来なくてよ!! 何なら一生よ!
「ね……ねぇ、あなたぁ! ごはんにするー!? お風呂にするー!?」
「そうだな、ご飯にしようかな」
ご飯にしようかな、じゃあねえよ! さっさと寝ちまえ!! このハゲが!! ハゲてねえけど!!
「あ、あら? あなた、どこに行くの?」
「何処って、スーツをクローゼットにしまうんだけど」
しまったあああーーー!!! こいつ、何時も自分の服は自分でしまうんだったあああーーー!!! つよちゃんがクローゼットに隠れてるのがばれちまううぅぅーー!!
「ちょっ……ちょおっと待ったあ!!」
私は両手を広げ、泡を食いながらもクローゼットの前に立ち塞がる。
「どうしたの……? 急に?」
「き……今日は私がスーツを仕舞ってあげる……」
私はクローゼットを背にしながら、震えた声で右手を旦那の前に差し出す。
「良いよ、何時も自分でやってるし」
「良いよじゃねえよ! 私がやるって言ってんだろ!!」
やべぇ!! この男が空気読まねえもんだから、思わず叫んじまった!! 怪しまれるううぅぅーー!!
「どうしたの? 今日、何か変だよ?」
「変じゃないしー! 全然変じゃないしー!! 何時も通りだしーー!!」
「…………」
やべぇ! 全然何時も通りじゃねえ!! 超怪しまれてるう!!
「……ねぇ……」
「な、なに?」
「クローゼットに、何かあるの?」
「無いわよおぉ!? なあんもないわよ!?」
あるわ! ぼけえぇ!! 何でそんな鋭い指摘するんじゃあ!! いや、誰でもわかるけどぉ!!
「じゃあ、そこ退けてよ」
「あー、今、背中が接着剤でくっついてて無理」
なに苦しい言い訳してるんだ私わあぁぁ!! まずい不味いマズイ!! このままだとつよちゃんが見つかっちゃううぅぅ!!
「もう良いから、そこ避けてよ」
「あん♪」
半ば強引に私をクローゼットから引き剥がす旦那。そしてそのまま旦那はクローゼットを開けようとする。私はそれを止めようと必死に手を伸ばす!!
「ちょおっと、待ったあああぁぁーー!!」
だけど、無情にもクローゼットは旦那の手によって開けられてしまった。