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ショタ神の説明するのも面倒臭い  作者: ネオ・ブリザード
第一章 第六節 勇者『蓋又男』 (三人称)
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第二十七話

 

「あ? なにか言ったか?」

「いえ……あなたは、本当に実験体に相応……うん……『異世界』に疎いわりに、そういうことには鋭いんですね、と言ったんです」

「???」



 ふたまたの反応に、うっかり失言しかける赭神。



「さて……先ほど、あなたが気になった『主人公が魔法陣などを使用しての別世界の移動』についてですが……」



 その失言を、口元に右手をあて、わざとらしく咳払いすることで誤魔化す。



「それは、こちらの言葉で簡単に言うと『異世界召喚』というものですね。我々が、少々手を焼いている類のやつです」

「われわれ?」

「いえ、なんでもありません」



 赭神は、何事も無かったように、七味唐辛子と胡椒の間に壁に見立て、分断するように置かれていたメニュー表を、胡椒のがわから、右手人差し指でとんとん、とつつく。



「つまりですね、本来、次元の壁によりつながるはずのないふたつの世界を、『召喚』という儀式を行い、魔法陣などの掘削道具を使うことにより、次元の壁に一方的に穴を開けるのです」

「わかったような、分からんような……」

「なので、次元の壁を超えて召喚された者は元の世界に戻れなかったり、戻れても時差ボケが起こったりと色々問題が発生するのですが……」



 赭神は、メニュー表をアクリル製の入れ物に戻しながら言葉を続ける。



「……この案件は、いわゆる『人間界』内で行われていることなので、神の者たちは手をこまねいて見ているしかない現状なんですよね」

「どういうことだよ??」

「……いえ、上の者は創造されたものを大切にしたがる……と、思っただけです……」



 どこか、思いふけるように窓の外を見つめる赭神。そのガラスには、いつの間にかぱらぱらと雨がうちつける。



「……まあ、お前が言う『異世界』は、中途半端には分かったよ。だけどよ? だからと言って、俺が異世界の勇者に選ばれる理由にはならねぇだろ」

「いえ、あなたには私が勇者として選ぶ理由がちゃんとあります」

「ああ? どういうことだよ??」

「それは、あなたがこの世界の……正確にはこの国の法律を犯しても平然としていられる、とても『我』の強い人物ということです」



 次の瞬間、蓋又男は右腕を威圧するようにテーブルの上に置き、身を乗り出すように顔を赭神に近づける。



「お前……それはどういう言う意味だ? 俺がなんの法を犯したってんだ?」



 だが、赭神は特に動じることも無くこう返す。



「先ほど、あなたが電話されていた相手……あれ、奥さんですよね?」

「そ、それがどうした……」

「愛人……いらっしゃるんじゃありませんか?」



 それは、正しく図星だった。その証拠に、表情には出さずとも、蓋又男の心臓の鼓動は激しく波うっていた。



「てめぇ……俺が不倫してるとでも? 証拠でもあるんだろうな?」

「証拠……証拠ね……」



 赭神は、真実を突きつけられながらも、逃げ道を探そうとする蓋又男を滑稽に思いながら言葉を続ける。



「証拠なら、異世界の説明をしている時に、あなたが提示してくれたじゃありませんか。『『彼女』と一緒に見た映画を見た』……と。あなた、奥さんのことを未だに『彼女』と読んでるんですか?」

「そ、それは……」



 ぐうの音もでなくなる蓋又男。だが、それでも蓋又男は言い逃れをする。



「つ、妻をどう呼ぼうが俺の勝手だろ!? だいたい、それだけじゃあ、証拠にならんだろ!?」

「お相手の名前も分かりますよ。確か……『りんふみ』。年齢は24歳。ですよね?」

「ど、どうしてそれを……」



 直後、蓋又男は「しまった」と思ったが、時既に遅かった。赭神は、そんな蓋又男を、まるで仕留めた獲物のように頬杖をつきながら見つめる。



「容易いですね……」

「うぅ……」



 赭神の目に耐えられなくなったのか、蓋又男はそそくさと席を立ち、赭神に背を向ける。



「おや? どこに行くのです? まだ話しは終わっていませんよ?」

「う、うるせぇ! 俺はそんな女知らねぇし、これ以上話すこともねぇ!!」



 そして、がなりたてながら通路の方を振り向く……と、いつの間に来たのだろうか。そこには、スレンダーな女性従業員が、トレイに激辛ラーメンを2杯乗せて蓋又男の行く手を塞ぐかのように、立っていた。



「……なんだ、お前」



 気が立っているためか、脅すような声でスレンダーな女性従業員に話かけてしまう蓋又男。だが、スレンダーな女性従業員は、それとは関係なくトレイに乗せていたラーメンのうつわをかたかたと鳴らしながら震えた声で尋ねる。



「あぁ……あの……激辛ラーメンのぉ客様……」

「あぁ……」


 蓋又男は、ため息をつくように小さく声を出すと、スレンダーな女性従業員の様子を特に気にかけることも無く、親指を赭神の方に突き立てる。



「それは俺じゃねえよ。そこにいるそいつの分だ」



 蓋又男の指差した先には、確かに赭神が手を上げて座っていた。

 だが、スレンダーな女性従業員は、ひどく怯えた様子で、今一度、蓋又男の方を振り向き、確認する。



「そ……そこにいる……?」

「いるじゃねぇか。ほら」



 再度、蓋又男の指差す先に顔を向けるスレンダーな女性従業員。だが、どんなに目を細めても、椅子を凝視しても、スレンダーな女性従業員の目には赭神の姿を捉えることは出来なかった。

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