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ショタ神の説明するのも面倒臭い  作者: ネオ・ブリザード
第一章 第六節 勇者『蓋又男』 (三人称)
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第二十六話


「お、おい……」




 その時、両太腿の痛みで客席にもだえ寝転がっていた『彼』が、ようやく起き上がり赭神あかがみに訴えかけてきた。



「お前……いったい、なに者……だ? 俺になんの用がある……?」

「ああ、忘れていました」



 赭神はそう言うと、顔を正面の方へと向き、『彼』と視線を合わせながらこう尋ねる。



「あなたが『ふたまた』さんですね」

「……それがどうかしたか」



 見ず知らずの相手に、安易に本名を明かす『彼』……蓋又男。その警戒の無さに赭神は少しだけ失笑すると、本来の要件を思い出しかのように、上着の内ポケットに手を入れる。



「申し遅れました、私、赭神と言います」

「あかがみ……?」



 そして、そこに忍ばせておいた四つ折りの紙を取り出すと、テーブルの上で丁寧に片手で広げ、蓋又男の前にすっと差し出す。



「……おめでとうございます。あなたは晴れて、異世界の勇者に選ばれました」




 紙の色は、深紅に染まっていた。






「はぁ……? お前、なに言ってんだ? 急に異世界だの勇者だの」



 怪訝な顔をしながら、現実的な受け答えをする蓋又男に赭神は、常識といった口ぶりで質問返しをする。



「おや? 異世界をご存知ありませんか? これだけ神話や伝承をモチーフとした書物が点在する世界で、一度は耳にしたことはあると思いますが」

「異世界ぐらいは聞いたことはあるよ。よく知らねぇけど、あれだろ? メガネをかけたいけ好かねえぼうずが、ほうきに乗って空を飛ぶ……『ピンチヒッター』とかいう映画がそういうやつだろ?」




 蓋又男の曖昧な記憶に、赭神は体裁を保つかのように口元を隠し、左手にある窓の方に身をよじらせる。




「は……確かにそれは、伝承の生物が出て来ますが、異世界とは少し異なりますね」

「そうなのか?」

「ええ……く……他には、なにかご存知ありませんか」

「そうだな……あとは、なんか小型のボートに乗って現れたひとりの海賊が、国家の犬と協力して姫を助ける……『ギョウレーツ・イン・オリビアン』っていうものも見たな」

「なるほど、あなたが異世界に……ふ、とんと疎い事はわかりました」

「……お前、なんか笑ってないか?」



 赭神は、小刻みに震えていた自分の身体を、窓ガラスを通して落ち着いたのを確認すると、テーブル端に置いてある調味料……七味唐辛子の入った瓶と、胡椒こしょうの入った瓶を左右の手でひとつずつ取り出し、蓋又男の方を振り向く。



「良いですか? ここで私がいう『異世界』というのは、そうですね……」



 赭神は、肩幅程度に離したふたつの調味料を、テーブルの上に放置していたメニュー表の上に、蓋又男の目の前に置くと、左手で七味唐辛子の瓶の方を指差し、異世界の説明を始めた。



「まず、この七味唐辛子が、あなたたちが住む現実世界としましょう」

「……お前は、この七味唐辛子には住んでねぇのかよ」



 蓋又男の素朴な疑問を、赭神はそよ風のように聞き流し、同じ手で今度は胡椒の瓶の方を指差す。



「そして、この胡椒の瓶が今、こちらの世界に住んでるみなさまが大好物な、『剣と魔法の世界』とします」

「いや、俺はそこまで好物じゃあねぇけど」

「さて、話はここからです」

「話聞けよ!!」



 蓋又男の否定を、またも何事も無かったかのように聞き流す赭神。ふたつの調味料を左右の手でそれぞれ掴むと、さらに話を続ける。



「この、『現実世界』と『剣と魔法の世界』ですが、宇宙空間的につながっている場合は『異世界』とは呼びません」

「……どういうことだよ?」



 不思議がる蓋又男の前に、七味唐辛子の瓶と胡椒の瓶を行き来する赭神の指が映る。



「つまりですね、このふたつの間に次元的な隔たりが無く、時空的に移動ができれば、それは『異世界』とは呼ばない、ということです。伝承の生物がいくら出て来てもね」

「良くわかんねぇな……」



 赭神の説明する『異世界』を、よく理解できず首をひねる蓋又男。



「じゃあ、異世界ってなんなんだよ」

「それはですね……」



 赭神は、その質問を待っていたかのように、七味唐辛子と胡椒のコースター代わりになっていたメニュー表に手をかける。



「うお! びっくりした!!」



 瞬間、のけぞるように驚く蓋又男。テーブルクロスのように華麗に抜き取られたメニュー表は、赭神によって紳士的に閉じられ、左手に収められたかと思うと、七味唐辛子と胡椒の間を分断するように、縦に力強く叩きつけられた。



「お……おお……?」



 再度驚き、目を泳がせる蓋又男。



「『現実世界』と『剣と魔法の世界』が、このメニュー表のように、次元の壁……隔たりがあると、ふたつの世界は時空的に行き来ができません」

「つまり……?」

「『異世界』というのは、別世界と別世界が全く干渉しないもの……ということです」

「なるほど……?」



 蓋又男は、分かったような、分からないような返事をしながらも、矛盾をつくような疑問を、赭神にぶつける。



「ん? じゃあ、あれはどうなるんだ? いつだったか、彼女と一緒に見た映画の中で、魔法陣とかを使って主人公が別世界に移動してたやつがあったけど、あれは、今の説明だと『異世界』ってことにはならないんじゃないか?」

「彼女……ね……」



 赭神は、余った右手中指でサングラスの中央を、くっと上げながら、ぼそりとつぶやいた。



 最後までお読み頂き、ありがとうございます。


 更新が非常に遅く、申し訳ありません。



 ※作者注 今話の『異世界』の説明は、あくまでもこの作品の中での話でありますが、それでも「ここ、おかしいよ」と、いうところがありましたら、やさし〜くアドバイスお願い致します。出来得る限り対応するように頑張ります。(できないことの方が多いですが)



 次回の更新も、いつになるか分かりません。

 申し訳ありません……。

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