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ショタ神の説明するのも面倒臭い  作者: ネオ・ブリザード
第一章 第六節 勇者『蓋又男』 (三人称)
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第二十四話

 

 会計レジの前まで来た赭神あかがみは、身体を左に振り向かせ、出入口と客席に通じる唯一の通路を抜けると、二、三歩ばかり歩いた所で足を止める。



「……さて、彼はどこにいるんでしょうかね……?」



 そう言いながら客席を重箱の角をつつくかの様にぐるりと見渡そうと、その首を窓際に捻った時……いた。赭神が『彼』と指す人物が。




「……うん、うん。なに言ってんの。子供の方が大事に決まってんじゃん」



 客席に入って直ぐの……窓際の四人がけの席に、ひとり座っていた『彼』は、窓の外を見ながら、携帯電話で誰かと楽しそうに会話をしていた。




「んー……? そうだねぇ……三日後には帰れると思うよ。うん……うん……愛してるよ……うん……じゃあねー……」




 通話を終えた『彼』は、携帯電話を持っていた方の手を力を抜く様に目の前のテーブルに置くと、開かれた携帯電話の画面を見つめながら溜め息をつく。その後、画面をぱたりと閉じ、作業ズボンの左ポケットに面倒臭そうに携帯電話をしまい……再び窓の外を見つめる。


 数秒後……『彼』の顔からは笑みがこぼれていた。

 まるで、これから始まることが、待ちきれないように。



「さて、なにを食おうかな」



『彼』はそう言うと、笑顔のままテーブルの壁側に据え置かれているアクリル製の入れ物からメニュー表を取り出し、中を開く。


 最初のページを見ては悩み、新しいページに切り替えては唸る『彼』……最後まで閲覧すると、今度は後ろ側からページをめくり、選択の自由を繰り返す。


 ついには、メニュー表をテーブルの上に投げ、上体を預けるようにテーブルの上に両肘をつき、ぶつぶつと呟く不動の山と化す。



 そんな山を動かしたのは、ほんの僅かな気配だった。『彼』は若干の不快感を覚えながら、気配のした方を振り向く。



「……なに?」



 そこには、注文表とペンを手にした、ふくよかな女性従業員が、『彼』を見つめながら立っていた。



「あの……ご注文はお決まりでしょうか?」



 ふくよかな女性従業員がそう語りかけると、『彼』は、なぜかメニュー表を閉じ、強めな口調でこう返す。



「大丈夫。食うもん決まったら、こっちから呼ぶから」


「かしこまりました」



 礼儀正しく一礼する、ふくよかな女性従業員。言うことを言った『彼』は、再度メニュー表を開き吟味を始めるが……何故か、ふくよかな女性従業員は厨房に戻ろうとしない。


 不審に思った『彼』は、再びふくよかな女性従業員の方を振り向き、うざそうに声をかける。



「なに……? まだなんかあんの……?」


「あ! 申し訳ありません。えっと、その……」


「だから……なに……?」



 迷惑そうな目線を送って来る『彼』に、ふくよかな女性従業員は笑顔で対応する。そして、身体を『彼』の対面側の席へ向けると、左腕を伸ばし、当たり前の様にこう言った。



「……そちらの方は、ご注文は……」


「そちらの方?」




 その言葉につられるように『彼』は、真正面の客席に顔を向ける……すると、どうだろう? そこには、大仰に足を組み、両腕を広げながら背もたれに沈み込むように腰掛ける、全身黒ずくめの男性……赭神が、いた。




「だっ、誰だ!? てめぇ!? 何時からそこに……」




 驚愕の出来事に、『彼』は大声を出しながら重い腰を上げる。だが……



「ぐ……ぎゃあああ!!」



 勢い余って、腿をテーブルの下に強くぶつけてしまった。その激痛は、『彼』を客席に沈め、のたうち回らせてしまうほどだった。それでも『彼』は、痛みをこらえ、こう言葉を発する。




「だ……誰だ……てめぇ……何時からそこにいた……」




 その問に答えたのは、『彼』の身を案じながらもどうして良いのかわからず、おたおたしているふくよかな女性従業員だった。




「あ、あの方は、入店されてから間もなく、お客様の席にお座りになられましたよ?」


「な……なんだとぉ……」


「あ……あの……大丈夫ですか……?」


「大丈夫な理由あるか!!」




 ふくよかな女性従業員の心配する声も、『彼』は、感情の赴くままに跳ね返してしまう。そんなふたりの間に、赭神は、川と河が合流するが如く溶け込んでくる。




「ああ、あまり気にすることはありませんよ。彼も、メニューを選ぶのに集中するあまり、私に気づくことが出来なかったのでしょう」


「……は、はあ……」


「そうだ、注文がまだでしたね……」


 赭神は、そう言いながら身体を起こすと、テーブルの上に放置されていたメニュー表を逆さ状態で見つめながら、食欲をそそる様に撮影された印刷物の上を、右手の人差し指で『つつつ……』と滑らせ……ある写真の前で動きを止める。


 その写真は、まるで溶岩のように……血の池地獄のように真っ赤に染まっていた。



「では、この激辛ラーメンをお願いします」


「か……かしこまりました……」



 女性従業員は少しだけ目線を下げ、注文票に『激辛ラーメン』と記入すると、直ぐに赭神の方へ顔を戻し、しっかりとマニュアルに沿った内容を質問する。



「え……と、辛さはどうしますか?」

「そうですねぇ……」



 赭神は、何故かとても嬉しそうに反応し、真っ赤に撮影された印刷物の下に書かれた十個の数字を、指で左端から順に『一……ニ……三……』と、ゆっくりとなぞり始める。


 右に行くほど……数字が増えるほど赭神の心は躍動する。そして『十』に到達する頃には、赭神の口元は人前では見せることがないほどにやついてしまう。


 赭神はその口元を興奮気味になめると、『十』を差していた指をさらに右にずらし、こう口を開いた。



「では、辛さは『限界突破』でお願いします」


「えぇ!? 死んじゃいますよ!?」


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