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ショタ神の説明するのも面倒臭い  作者: ネオ・ブリザード
第一章 第四節『福余暇子』篇
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第十六話


 その音が消えると、げんちゃんが呻き声を上げながら目を覚ます。

 まるで、何処かから戻って来たかのように……


 私は驚きのあまり、手にしていたスマホを床に落としてしまう。




「あ……あれ? どうしたの、余暇子よかこちゃん? やつれた顔して……」



 ゆっくりと上体を起こす言ちゃん……


 嬉しさのあまり、私は目から沢山の泪をこぼし始める……まるで、コップに溜まった水を溢れさせるかのように……




「……げん……ちゃん……」




 私は、止まらない……止められない泪を両腕で必死に拭い、言ちゃんの名前を呼び続ける。



「言……ちゃん……」



 何度も何度も……



「……げん……ちゃあ……ん」




「ね……ねえ、余暇子ちゃん……一体どうしたの? そんなに悲しそうに泣いて……何か、辛い事でもあったの?」




 この時言ちゃんが、私の事を心配して色々と話かけて来てくれたけど、声は聴こえてたけど……私の頭には全然入ってこなかった。



 私は目の前を拭いながら、泪で歪んだ言ちゃんを繰り返し確認する……




 言ちゃんが息をしてる……




 言ちゃんが起きてる……




 言ちゃんが喋ってる……




 言ちゃんが……生きてるよおぉ……




「言ちゃあぁーん!!」

「え!? あ!? 何!? 何!?」



 恥も外聞も捨て、感情の赴くままに抱き付く私。言ちゃんは何が起こったか解らないという感じだったけど、それでも、私の事を両腕で包んでくれる。




「うわぁーん! 言ちゃあぁーん!! ちゃんと、暖かいよおぉ!!」

「え? あ、うん。暖かいよ? 余暇子ちゃんは暖かいよ?」




 言ちゃんは、泣きじゃくる私の頭を、子供をあやすように優しく撫で、背中の辺りを安心させるようにぽんぽんと叩く。




「ほら……何があったか良く解らないけど、もう大丈夫だから……泣き止みなよ……」




 私は、言ちゃんの温もりを全身で感じながら「……うん……うん……」と返事をする……


 ……ああ、暖かいよう……



 言ちゃんは、私が少しずつ落ち着いて来たのを確めると、頭を撫でながら、穏やかな口調でこんな事を聞いて来た……




「ねえ、余暇子ちゃん……さっきはどうして泣いていたの? それも悲しそうに」


「だって……だって……言ちゃん、私がビンタしたら、今度は糸が切れたように床に倒れちゃうんだもん……」



 私の言葉に余程驚いたのか、びくっと身体を震わせる言ちゃん。その振動は、抱かれている私にも伝わって来る……



「え? また? 俺、また気絶したの? 二度も? 全然記憶に無い……」


「そりゃ、そおだよぉ……言ちゃん、さっきは息してなかったんだよ? 私、今度こそ死んだと思ったんだからね……?」




 私の話を何処かばつの悪そうに聞く言ちゃん……

 本当は、頭に血が上って、手を上げた私が悪いのに……


 ……もう、そういう所が好き……




「げほっ! ごほっ!!」


「だ、大丈夫? 余暇子ちゃん!?」



 私は、何処かほっとしたせいか、言ちゃんに抱きついたまま咳き込んでしまう。言ちゃんは、そんな私を心配し、優しく背中を擦ってくれる。




「ねえ、余暇子ちゃん。少し、水分取った方が良いんじゃない? 俺、冷蔵庫から何か飲み物持って来るよ」


「やだ……もう少しこうしていたい……」


「我が儘言わないの。声も結構掠れてるし、取るものはちゃんと取らないと」


「えー……やだぁ……」


「もう……しょうがないなぁ……」




 根負けしてくれた言ちゃんは、片時も離れたくない私をお姫様抱っこして、そのまま台所に連れていってくれた。



 言ちゃんは、冷蔵庫の前まで移動すると、私の事をゆっくりと、足下から床に下ろしてくれる。


 そして、お姫様抱っこしてくれたその右手で大っぴらに、中を覗かせるように冷蔵庫を開け、余った左手で、扉の内側に置いてあった、二本のペットボトルを力強く握り、冷蔵庫から取り出す。



「お茶で良い?」



 左手に鷲掴まれた二本のペットボトルの内、手前に差し出されたお茶を、私は小声で返事をしながらおずおずと受け取る。



「う……うん……」



 私と言ちゃんは、息を合わせた様にペットボトルの蓋を開け、少しずつお茶を飲み始める……




 ……と、その時だった……




「……あ……あれ……?」



 私の飲んでいるお茶……良く見ると、四方を不器用に折り畳んだ……見るからに手作りの紙包みが、ペットボトルの下半分の所に、透明なテープで固定されてる……






「……なんだろ……これ……?」



 私は、紙包みを指差しながら言ちゃんに尋ねてみる。

 だけど、言ちゃんは照れくさそうに頬を赤くしてもじもじして、ようやく……



「開けてみて……」



 ……と、だけ答えてくれた。



 私は軽く頷くと、セロテープをペリペリと剥がし、ペットボトルから手作りの紙包みを外すと、紙包みの中身を取り出してみる。






 中から出て来たのは……鍵だった……


 私は理由も解らず聞いてみる……





「……え……言ちゃん……これって……?」




 言ちゃんは顔を真っ赤にし、とても照れくさそうに答える。




「……いや……その……俺達、付き合い初めてから大分経つでしょ?」


「……うん……」


「お互い……一人暮らしだし……」


「……うん……」


「何て言うか……バイトも大変だよね……?」


「……だから……?」




 しどろもどろで、何が言いたいのかはっきりしない言ちゃん。

 だけど、今一度咳払いをすると、きちんと私の目を見つめ、しゃんと背筋を伸ばし、腹を括ったようにこう言った。




「……だからさ……俺と……一緒に……暮らさない……?」


「……ほぇ……?」


「……あ、あの、ほら! 何て言うかさ、大学通うときも俺のアパートの方が近いかなーって!」


「………ほええぇぇ………」


「いやっ、そのっ! 余暇子ちゃんの気持ち? も考えないで、こんな事言うは、あれだよね!?」


「…………………………」


「……余暇子ちゃん……? 聞いてる?」




 ……えっと、つまり……今、私が手にしている鍵……






 ……これって……






 …………これって…………!!


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