第9話 零獣暴走
夕暮れ時、俺達は再び大教会へ出向く。
客間に通され、そこにリフルとメディスが待っていた。
「ようこそ、お口に合うかわかりませんがどうぞ楽しんでいってください」
席に座り、運ばれてくる料理に手を付ける。むむ、このステーキは非常に柔らかく、絶妙な塩加減でうまい。ふぅ~上質なワインだ。うまい!
「ところで御二方はどの様な用件でこの街へ?」
「ええ、回復スキルが使える仲間を探そうと、ここへやってきたんです。俺自身は訳ありで、信用ができる仲間が欲しいんですが……」
「込み入った事情がおありなんですね」
「それでしたらこのメディスをお連れになってはいかがでしょう」
メディスを見つめるリフル。
「ふふふ、実は前から旅に出たい、冒険者になりたいと言っていましてね」
「よろしければ是非お供させてください」
サシュウに確認をとると頷きで返す。
「こちらこそよろしくお願いします。メディスさん」
「これから仲間になるのですから、あなた方にとって普段通りの話し方にしてください」
「わかった、これから頼むよメディス」
「よろしくね、メディス」
「お二人共よろしくお願いします」
こうも簡単に目標の回復クラスが仲間になるとは思わなかったな。サシュウの親父さんに感謝だ。
会食を終え、明日ギルドで落ち合うことに決めた。
翌日集合し、メディスが登録をおこなう。晴れて冒険者となり、俺たちのパーティーに加わった。メディスにはサシュウにも伝えてある情報を話す。クエストを受け、お互いの力を見せ合った後、街へと帰った。
宿屋でワビ石を見ると、俺のレベル上限が60になっていることに気づく。もしかして今回はパーティの数で上がったのかな。
数日後、ギルドの掲示板を見ると注意を促す張り紙があった。
『美脚大木が零獣暴走を引き起こしました。近隣の森へは近づかないようお願いします』
ふむ、ゲームでは通称レイドボスと言われているヤツだな。プレイヤー達と協力して挑む強敵。こちらが強くなると一人で倒せるようになるけど。出現場所と零獣の名前は同じか。
「大量のマナが零獣へ急激に入り込み、理性を失い付近を暴れまわる現象です。普段は人に見えない零獣ですがこの時だけ視認できます」
「メディス、俺たちで倒せるかな?」
「……戦ったことがありません。マナの自然消滅によって零獣は元に戻ります。ですから、いつもはそのまま放置していますね」
ここはひとつ戦ってみるとするか。倒せばスキル結晶、特殊なアイテム、マナマテリアルが手に入る。マナマテリアルは金属や布等に変換、それらを武具等に加工することができる。ヤバかったら逃げるとしよう。
二人を説得してこっそり現地へと向かった。
「いますね」
巨大な大木が根を使い付近をうろうろと歩いていた。止まるたびにその根は美しく整列する。こちらにはまだ気づいていないな。
「いいか、やばかったら即逃げるぞ」
二人が頷くのを確認して駆け出す。射程距離まで詰め寄ったところでスキルを放った。
『神魔雷滅』
突き出した杖から幾多の白、黒の稲妻が噴出、美脚大木を突き刺して感電させる。電撃が終わると、マナが吹き上がり始めその中から少量のマナマテリアルが地面に落下。しばらくたつと少し小さくなった美脚大木は、根を奇麗に整列させ自分の体を見る。
『おお! 元に戻ったか! まあ、また暴走するだろうがな!』
笑いながら、森の中へと去っていった。
「なんとかなりましたね」
「だな」
ワビ石を見ると、レイド戦を選択できるようになっていた。初級、中級、上級、超級と表示されている。今は初級しか選べないようだ。初級を選ぶと、BPが1消費され異空間があらわれる。中へ侵入し先ほどと同じ方法で撃破。
「レオンさんは不思議な力を持っているんですね」
「まあ」
初級をもう一度選ぶ。戦闘中、心の中で『リタイヤ』と念じる。全員元の異空間の入り口まで戻った。
「今度は中級を」
攻撃スキルをほぼすべて撃ちきったところで何とか倒した。上級はやめておこうかな。何度か戦闘後、スキル結晶を入手。これを使ってスキルを習得可能、再度結晶化させて他の人が装備することも可能な便利なスキル。
「へえ、すごく便利なアイテムね」
「ただちょっと弱いんだ」
ゲームでは、零獣ドロップの攻撃スキルは固有スキルと比べると弱いため、使われないこともよくあった。スキル結晶はゲームの零獣が落とすものと同じか。場所も同じだな。
一か月ほどクエストや中級レイドをクリアし続けた。
「やあ、こんにちは。ちょっといいかな?」
ある日、ギルドで休憩していると一人の青年に話しかけられた。非常に爽やかな笑顔だ。後ろには少女が立っている。数日前からギルドに出入りしていた人達だな。一体何の用件だろう?
「ああ、いいとも」
二人は椅子に腰かけ、青年は持っていた武器を机の上に置いた。こいつはSSR武器か。
「僕はマルクだ。色々な街をまわって、パーティーをメンバーを探している」
ギルドカードを取り出しこちらへ渡してきた。レベル45.クラス剣士。星は1か。こりゃあタダ者じゃないな。
「レオンだ」
こちらもギルドカードをマルクに見せる。レベル1のままだ。星は2になったけどね。レベルは申告制で、本当の数字を書かなくてもよい。俺のように知られたくない人間もいるようでレベル1のままの人は結構いる。
「ふむ」
マルクは小さく頷き、カードをこちらへ返す。
「良かったら、一時的でも良いからパーティーを組まないか?」
「うーん。そうだなぁ……」
正直この誘いを受けたかったが、俺は悩んでいた。とても悪人には見えないが人は見かけによらないからな。ここは一旦断って、様子を見るとしよう。
「申し訳ないが今回は断らせてもらいたい」
「わかった。しばらくこの町にいる予定だから、その気になったら声をかけてくれ。今日は一旦帰る」
二人は立ち上がり、ギルドの入り口に向かっていく。と、ローブをまとった男が何やら急いでいる様子でマルクに話しかけた。
「そうか」
困ったような顔をして再度こちらへ来るマルク。
「すまない。問題が起こってね。これから遠い地元へ帰ることになった」
「そうか、残念だ。縁があったらまた会おう」
「ああ、またな」
ふむ、高レベルの仲間が加入するチャンスだったが、仕方がない。俺はギルドから出ていく青年の姿を見送った。
門の入り口に馬車が止まっている。マルクと少女が乗り込むと馬車は走り出した。
「よろしかったのですか? お兄様」
「ああ、無理やり連れて行くわけにはいかない。それに慎重な御仁だ、仲間に引き込むには時間がかかるだろう」
腰に携えた剣を椅子の上に乗せる。
「とても残念だけどね。あの聖女さんの強さは聞いているだろう? そんな子が尊敬をしたような眼差しを何度か送っているのを見た」
「好きな殿方を見つめる乙女では?」
「ハハハッ、その可能性もあるかな。どちらにせよ時間切れさ。王都へ帰ろう」
馬車は街道をひた走る。