第8話 聖女メディス
大教会がある街フリーションヘたどり着いた。街へ入る許可を得るため、順番待ちの最後尾に並ぶ。
「よし、通っていいぞ」
大きな門をくぐり街の中へとはいる。大通りには人がごったがえし、巡礼者と思わしき人たちが多数いた。歩を進めていくと、甘く香ばしい匂いがが俺たちの鼻をくすぐる。
「あ! クレープ屋さんがあるわ! 行こう!」
店まで手を引っ張られ、クレープを二つ購入する。かじりつくと口の中で生クリームが消えるようにとろける。味も甘すぎず、中にちりばめられたフルーツチップが良いアクセントとなっていた。
「これはうまいな」
「ほんとね!」
サシュウは鼻先にクリームをつけながら満足げな笑みを浮かべていた。食べ終えた後、宿で部屋を借り、ギルド前まで来ると外からでも喧噪が聞こえる。
言い合ってる者、つかみ合ってる者。煽る者。まさに無法地帯だ。用を済ませたら一旦外へ出ようかな。扉が勢いよく開かれる。必死な形相の冒険者がそこにいた。
「暴恐聖女だ! 暴恐聖女が来るぞ!」
その言葉に周囲は一瞬固まり、思い出したかのようにそれぞれ椅子に行儀よく座る。ある者は冷や汗を流し、ある者は目を瞑り天を見上げている。
冒険者所在地登録の手続きをしていると、一人の少女がギルドに入ってくる。歳は15~6くらいかな。ショートの銀髪。ぴったりとした衣装を身にまとい、慈愛ある表情を浮かべている。
「ギルドが騒がしいと周りの住民の方々から報告を受けて来ました」
そう言うと周囲の冒険者たちを見回す。
「特に問題はありませんね?」
大男達が壊れた人形のように首を縦に振る。こちらへ顔を向け微笑みかけた。
「今日ここへ来た冒険者の方ですか? 初めまして、メディスです」
こちらも挨拶を返したところで、チラリと冒険者たちを見て、ため息をつく。
「根はいい人たちなんですが……。少々いたずら心が過ぎるといいますか、短気と言いますか。まあ嫌いにならないであげてください、それでは失礼します」
ギルドから出ていくところを確認した冒険者たちは一斉に安堵の表情を浮かべる。
受付の子が小声で話しかけてきた。暴れていた冒険者たちを鉄拳制裁で全滅させたそうだ。まあそれだけじゃないんですけどね、とも付け加えた。回復クラスだろうから相当レベルが高いのかな?
それにしてすごい衣装だった。お尻が丸出しだったな。正直、目のやり場に困った。他いくつか情報を得て、ギルドを後にした。
それから数日間は、APも使いながら、いろいろなクエストを攻略していった。
「今日は冒険者家業をお休みして教会へ行ってみよう」
そろそろ仲間探しを始めよう。俺はサシュウを連れて外へ出る。すると街中が騒がしくなっていることに気づく。話をしている街人に聞いたところ、アイアンゴーレムが北側からこの町へ向かってきているとのことだった。
アイアンゴーレムか。とにかく固い。討伐を手伝おう。二人で北側の門へと急いだ。衛兵に応援の旨を伝えたが、笑いながら答える。
「大丈夫だよ。今聖女様が討伐に向かったからね。ああ君たちは最近ここへ来た冒険者か。そうだな、一度聖女様の戦いぶりを見ておくのもいいかもしれないな」
通行許可の手続きを終え俺たちはメディスの元へと向う。前方にアイアンゴーレムの姿が見えてきた。五体のうち、一体は粉々に崩れている。もう戦闘が始まっているようだ。
近くまで駆け寄ると屈強な男たちが後方に、メディスは一人でアイアンゴーレムと対峙していることがわかる。
「一人で大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、見てな。うちで一番強い子だから」
余裕の表情で、腕を組む男。メディスは白い光に包まれている。
神聖魔法かな? ん、あれ? 飛び込んで殴りつけた!? 頭が吹き飛んだ!!
『神聖格闘士』
「彼女のクラスだ。格闘、回復スキルをもつ。しっかり見ておくといい、勉強になるぞ。おい! お前達もしっかり見ておけよ!」
後輩達に実戦を見せているのだろう。細かい解説を交えながら熱く語っている。アイアンゴーレムが怯えだした。尋常じゃない怯えかただ。
「もしかしてあれはスキルですか? 冒険者達も異様に怯えていましたが」
「そうだ、よくわかったな。冒険者達にお灸をすえるとき、使用したらしい。その後は使ってないのに怯えられると嘆いていた。ちょっとやりすぎたと反省もしていたな」
男は苦笑いを浮かべる。
「冒険者を首になりそうなところを、メディスに助けられたんだとよ。理由はそれかもな。頭を上げられないと」
その割には暴恐聖女って言っていたけど。最後の一体を片付けたところで、男は後輩達に声をかける。
「見学終わり! 走って教会に戻るぞ!」
熱血指導なのだろう。走って帰っていく。鉄くずの山からメディスがこちらへやってきた。
「ああ、あなた達はこの間の冒険者さん」
「丁度よかった。聞いておきたい事があります。言いたくないのならばそれで構いません。……サシュウさん。あなたは我々聖女のトップ、私のお姉様リフルに会ったことがありますね」
「零獣症がなおったんですか?」
リフルが偶然街でサシュウを見かけ、冒険者としてこの町にいることを知ったと説明するメディス。
「いえ、いいんです。無理に返答をしなくとも。お姉様は当時何もできなかったと嘆いていました。治ったのであればとても喜ばしいと言っていました」
サシュウが少々困った様子でこちらに視線を送る。
「はい。彼女の病気は治りました」
「やはり……。もしよろしければお姉様に会っていただけませんか?」
お世話になった方なら挨拶くらいはしておかないとな。念のため口止めもしなくては。
「わかりました」
街へ戻り、大教会の中へ入っていく。大聖堂の奥の部屋へ入る。
「お姉様、やはりサシュウさんでした。零獣症は治ったようです」
「まあ、そうだったんですね。本当によかった」
サシュウに抱き着くリフル。心から喜んでくれているようだ。
「ところでそちらの方は?」
「レオンです。初めまして」
「初めまして、リフルです。もしかしてあなたが?」
「はい。ただ色々とありまして。詳しくは説明できません。後、サシュウの件に関しては秘密にしていただきたい」
「わかりました。そうだ今日は一緒にご夕食はいかがですか?」
「いえいえそこまで甘えるわけには」
「昔、サシュウさんのお父様には大変お世話になりました。それなのに私は零獣症をどうすることもできず、そうこうしているうちにサシュウさん親子が行方不明と聞き心苦しかったのです」
ふむ、そういうことなら受けたほうがいいか。
「わかりました」
夕食の誘いを受け、、俺たちは一旦宿屋へ戻った。