第7話 召喚剣士
一夜明け、俺はサシュウのステータス画面を眺めていた。
『召喚剣士』
聞いたことのないクラスだな。ソーシャルゲーム『エターナルチャージ』には無かった。クラスに関してもこの世界は全く同じではないってことだろうな。
それに彼女のレベル上限が70になっている。通常は50まで。ゲームではキャラそれぞれに用意された上限突破の条件をクリアすることで、10ずつ上がっていく。すでに条件をクリアしたのか。
「コンコン」
扉をノックする音が聞こえた。
「レオンさ~ん、起きてる? 入っていいかな」
「起きてるよ、どうぞ」
部屋に入り、満面の笑みを浮かべこちらに向かってきた。ワビ石を見せある程度説明する。お金∞等は伏せておいた。
彼女の左手の手の甲を見ると戦闘補助魔方陣が失われていた。転生したのだから当然か。
一緒に朝食を済ませ、パーティを一度解散する。彼女はギルドへ向かう。心者講習まで終え冒険者となり、帰ってきた。クラスも、人の数ほどクラスがあると説明され、特に問題はなかったようだ。
そうだ、昨日のようなイレギュラーが発生するかもしれない。彼女に塩パスタを食べてもらおう。
「転生して弱くなったし、しばらくは一緒にパーティ組んでくれるんだよね?」
「もちろんだとも」
「やった!!」
無邪気にはしゃぐサシュウ。本来はとても明るい子なんだな。昨日はどことなく暗い雰囲気があった。元気なことは良いことだ、よかったよかった。
「まあ、最低でもレベル50までは付き合ってもらわないとね~。私にあんなことやこんなことまでしたわけだし! 簡単に私から卒業できないよ!!」
ちょっと元気良すぎない? ふふ、大人をからかうとどうなるか教えてやろう。
「これ食べて。変なものじゃないから大丈夫だよ」
「麺料理? ちょっと違うような気がするけど」
言われるがまま塩パスタを食べる。
「ナニコレ! 力が沸き上がってくる!」
「そのアイテムはレベル50まで上がるんだ。卒業おめでとう!」
「ええ~~……」
そのテンションの落差に俺は思わず笑い出した。つられてサシュウも笑う。
今日は二人の能力テストを行おう。ギルドに入り掲示板を眺める。セントリー草原魔獣討伐、これだな。俺たちはクエストを受け、セントリー草原へと向かう。
「見渡す限りの草原、ここなら暴れられそうだな」
多数の魔獣がうごめいている、テストにはもってこいだ。
「まずは、スキルを使わず全力で動き回って全力で攻撃しよう」
サシュウは頷き近くの魔獣へ突進していった。俺も他の魔物を狙う。
「は、はやっ、私の体じゃないみたい」
つぶやきながら魔獣に向かって剣を一閃。魔獣の体が二つに引き裂かれる。さらに後方にいた魔獣も見えない真空の刃で真っ二つ。
サシュウは次の魔物へと走り出した。
近くにいた魔獣をあらかた片づけたところで、マリスコアを回収する。
「次はスキルを使ってみよう。サシュウ、やってみて」
魔獣に対して剣を構える。サシュウの動きが止まった。
「ダメ……出来ない」
その後何度か試すものの、スキルが発動することはなかった。とりあえず、こちらのスキルテストをするか。
スキルは体内にあるマナを消費する。スキルを発動させることで、割り当てられたマナを消費。マナが自然回復するまでそのスキルは使えない。この間を「クールタイム」という。
それを踏まえ俺は全力でスキルを使い続けた。
ここが広大な草原でよかった。地面にはいくつものクレーターが作られ、巨大な氷の柱や、粉々に砕け散った金属片が散らばっている。
一度安全な場所へ戻り彼女のステータス画面を確認する。
すると、膨大な量のスキルが表示される。いくらレベルが50まで上がって覚えたとしても、この数は異常だ。
よく見ると、装着中のスキルが薄黒く表示されている。使えないってことなのかな? ふぅむ、一個ずつ調べるしかないか……
しばらく付け替えていると、白く表示されたスキルがあった。お、これならいけるかな。
サシュウに使ってもらうことにした。
『おーい、主君』
(どうした、機核玉)
SSR零獣機核玉。確か彼は大爆発を起こす攻撃をするんだったな。
『僕の力の一部が彼女に流れているぞ』
(なんだって!?)
「いける! 極爆破斬」
青く輝きだした剣で魔獣を薙ぎ払う。当たった瞬間、大爆発が起きた。サシュウの周りにはクレーターが出来上がっている。なるほど。零獣から力を借りてスキルを発動できるわけか。
「スゴ……」
「高威力の技だな」
ギルドへ戻りクエスト終了を報告し無事クリアとなる。夕飯を食べ、サシュウにスキルの発動方法を説明し、眠りについた。そして数日後。
「今日も色々試そう」
「うん」
クエストを受け、戦闘前にワビ石を見ていた。いろいろ触っているうちにAPを消費して異空間を開くことが出来た。その中では時間が過ぎない。APは時間で回復する。どうやらクエストを行う現地でなくてはワビ石から選択できないようだった。
三週間後――
夕食を終え、二人で夜の町を散策する。元の世界に戻るため情報を集めたい。そろそろ拠点を移すべきだろうと考えていた。この町の人達はやさしくて良い人が多かった。正直離れたくない気持ちもある。
「そろそろこの町を出ようと思うんだ。サシュウはどうする?」
「私もついていくよ。特にやりたいこともないしね」
「嫌って言ってもついていくけどね!」
「そうかそうか」
少々苦笑いをを浮かべながら公園の椅子に座る。上を見上げると満点の星空。しばらく他愛もない会話を興じ、席を立つ。
「そろそろ帰って寝ようか」
「まって!」
何やら真剣な目でこちらを見つめるサシュウ。大切な話かもしれない、にこやかな笑顔で彼女の言葉を待つ。
「い、いや。やっぱりいい」
ふむ、これから旅をするしどこか行きたい場所があったのかもしれないな。俺としては目立たないように行動しようと考えている。彼女にも伝えてある。
こちらに気を使って取り下げたのではないだろうか。良い子だ。
「そうか。……いつもありがとな」
「ほへ?」
素っ頓狂な声を上げ、顔を赤らめるサシュウ。ふふふ、気遣いカウンターがさく裂してしまったかな?気遣いには気遣いで返す。出来る大人の作法みたいなものだ。宿へ戻り明日からのことに思いをはせ床に就いた。
翌日、準備を済ませ二人でギルドへ向かう。
「そうですか、寂しくなりますがこれも冒険者の通過儀礼ですからね……」
「次の目的地は決まってますか? 海鮮がおいしい街か、大教会があるところがお勧めですよ。」
ほぉ。教会か。教会なら回復スキルを扱える人がいるかもしれない。仲間が欲しいと思っていたところだし、そこで決まりだな。教会までの道のりについて詳しく聞いた。
「それではまた! お元気で!」
「アミリアさんもお元気で」
ギルドの冒険者達も挨拶をしてくれた。二人でそれに答える。
こうして始まりの町スターダから出た俺たちは大教会へと向かった。