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第5話 竜皇の力

「森の出口が見えてきた」

 

 森を抜けると草原が広がっていた。そこからさらに進み、クリス湖にたどり着く。大きな湖だ、周りを岩山が囲んでいた。


「ここがクリス湖だね。さっそく薬草を探すとしよう」


 ギルドで確認した薬草の姿形を思い出し、湖の周りを見渡す。


「だれか近づいてくるわね。先客かしら? いや、あれは――」


 サシュウが戦闘態勢に入る。視線の先には頭から角が生やし、黒い翼を持つ大柄の男がいた。こちらに向かって歩いてくる。

『イーブル族』だ。幾千年争ってきた人類の仇敵。ここ数十年はおとなしくしていると聞いていたが。


「お~、ようやく餌が到着したか~。うちのブラッドドレイクちゃんがお腹をすかせて待ってたよ。んじゃさっそくやっちゃうよ」


 パチンと指を鳴らすと、大きな魔方陣が地面に描かれ、黒く輝く光とともに巨大な魔獣が姿を現す。あれは竜か。長大な尾。口から炎が漏れ、翼は退化しているのか小さい。


 ブラッドドレイクの口が大きく開かれ、広範囲に炎を吐き出した。俺たちは避けきれず炎に飲み込まれる。熱さは感じたがなんとか大丈夫だ。

 

 彼女をチラリと見る。立っているのがやっとの状態のようだ。動けそうにない。走って彼女に近づく。息もつかせず、巨体を回転させ長大な尾をこちらに向かって振り払う。


「ブォン」

 

 マズイ、彼女は避けられそうにない。素早く彼女の横に回り込み、防御の体制をとった。


『ガギィィン』


 鈍い金属音とともに尾が弾き飛ばされる。踏ん張っていた俺の足は地面にめり込んでいる。ブラッドドレイクは体勢を崩し倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。


「あれ? ノーダメージかな、コレ」


 レベルが高いからか? まあ考えるのは後だ。ポーションを3つほどアイテム袋から取り出す。サシュウに渡し、回復を促した。


「ここは俺が何とかする。後ろに下がってくれ」


「え、ええ、わかった……」


 動けるまで回復したサシュウは、何か言いたげだったが、安全な位置へ向かって移動を始めた。


「一体、どうなってんだ? こりゃ……」


 ポカーンと口を開き俺を見るイービル族。同じくブラッドドレイクも口を開き俺を見つめる。


 あ、この流れは――

 クエストを始める前、強制的に一人仲間になり湖でイービル族があらわれ、魔獣を召喚する。ゲーム『エターナルチャージ』のチュートリアルにそっくりだ。湖の名前と魔獣の名前も同じだ。仲間の名前はサシュウじゃなかったが。


 チュートリアルでは、魔獣の攻撃で全滅後、主人公に謎の声が語りかける。『魔獣の倒し方知らないでしょ? 私は知ってますよ』「教えてくれ、どうすればいい」とその後会話を続け、主人公が光輝きながら強力な零獣を召喚し敵を倒す。


 とりあえず現状をどうにかしなければ……

 苦戦を演出してギリギリ勝ったように見せかければまだ誤魔化すことが出来るだろうか? チュートリアルをなぞって謎パワーアップで勝てた! ってことにしよう、そうしよう。そこを口止めするだけでいいからな。

 芝居を打つか。


「グ、グゥ~、なんて強力な攻撃なんだ……」


 炎で焦げついた地面に片膝をつき、両手で杖をつかんで険しい表情をする。我ながら演技力のなさに悲しみを覚える。セリフは当然棒読みだ。


「ハ、ハハハッ! そ、そうだよな! もう立っていられないくらいだよな!」


 へたくそな演技でもこの微妙な空気を崩すには十分だったようだ。ブラッドドレイクも首を縦に振っている。俺は念じ、極炎竜皇(ブレイズタイラント)に呼びかける。


(一発大きいやつを頼む)


『心得た』


 俺の呼びかけに応じ、前方に巨大な魔方陣が出現する。天にも届きそうな炎と共に極炎竜皇(ブレイズタイラント)が姿を現した。


「なんだぁーー! ソイツはぁぁぁーー!!


 その巨体にイービル族が絶叫にも似た声を発する。ブラッドドレイクは先ほどより大きく口を開き、目を見開いていた。


『主の命に従い、我が最大の力で答える』


 ブレイズタイラントの胸にある宝石に大量の赤い閃光が流れ込んでいく。体が赤く輝き始め、四つ足で地上に降り奴らを見据える。


覇炎残塵(シンダークリムゾン)


 咆哮と共に炎をまとった巨大な赤い光線を放出する。


「人間にこんな力、ガバァァーーー!!」


「ゴガォォーー!!」


 辺りに轟音が鳴り響く。イービル族の男とブラッドドレイクは断末魔をあげ、消滅した。地面はえぐれ、岩山が二つほど吹き飛んでいた。


(やりすぎちゃったかな?)


『フォッホッホ。久しぶりにぶっ放してすっきりしたワイ。じゃあの、主』


「あ、ああ。ご苦労様」


 体が透き通り、極炎竜皇(ブレイズタイラント)は帰っていった。

 サシュウの元へ向かう。放心したようにこちらを見つめている。危機は去ったが、先ほどの戦闘場所は大惨事。まあ、そうなるよな……。どう説明したらよいものか。


「体は大丈夫かい? ポーションならもう少しあるよ」


「ううん、手持ちのポーションを使ったからもう平気よ。ありがと」


「……悪いんだけど俺が奴らを倒したことは秘密にしておいてもらいたいんだ。ギルドへの報告は走って逃げたことにしよう思っている。」


 また嘘をついてしまうことになるが、他のイービル族がここへ来るかもしれない。ギルドへの報告は不可欠だ。


「レオンさんがそう言うのなら黙っておく。心配しなくても大丈夫よ」




「十日後、私はこの世界からいなくなるから」

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