第4話 剣士の少女
翌日、目を覚ました俺は、出かける準備をしながらこれからのことについて考える。
ある程度、情報収集ができた。それでもまだわからないことが多い。今後の目標はもっと情報を集め、元の世界に帰る方法が見つける。現状は冒険初心者だから、良くも悪くも目立たないよう、慎重に行動しよう。
さて、今日はメルツさんがお勧めしてくれたクエストに挑戦するか。身支度を済ませ、アイテム袋からワビ石を取り出し起動。
「えーっと、このタグか。ポチッと」
ステータス画面を確認。プレイヤーレベル、これを上げると最大APが増える。APはクエストを行う際に必要になるポイント。BPは強敵と戦うときに消費される。
「あれ、ステータスが数値化されてないな」
ゲームと違い、能力値が数値化されていない。ぱっと見、強さがわからないのはつらいところだ。レベルとスキルレベルは表示されている。
編成画面をに切り替える。零獣『ブレイズタイラント』をメインで装着中。昨日召喚で手に入れ、強化した零獣たちはメイン零獣に『従属』というかたちで装着している。最大10体まで。そうするこで『従属』した零獣の、能力の一部分が総合零獣力に加算される。
総合零獣力の一部がパーティーにいる仲間たちに付与され能力値が上がる。それを『加護』という。
武器にも『ウエポンリンクシステム』というものがあるが、今回はRの杖を装備するだけにしておく。
昨日の召喚で強化したSSR武器をいくつか所持している。しかし初心者が強力な武器を持っていてはおかしい。装備はやめておいた。スキルも変更なし。後は防具と戦闘用アイテムか。これらは後で買いに行こう。
宿屋一階の食堂へ向かい、朝食を食べ終えた俺は、ギルドへと向かった。
ギルドに入り、クエスト依頼掲示板の前へ足を進める。初心者用の依頼書はあるかな? お、あったあった。
『初心者向け! クリス湖の薬草摘み。レオン専用!』俺専用って書いてあるけど。まあこれを持っていけばいいのかな? 依頼書を掲示板から剥がし、受付のところへと持っていく。
「おはようございますアミリアさん。レオン専用って書いてあったけれどこいつでいいのかな?」
俺は笑顔で依頼書を渡す。
「おはようございます! そうです、簡単なクエストを選んでおきましたよ! ……それでは説明しますね。この薬草を5つ湖付近から摘んできてください。」
アミリアは、カウンターに置いてあった草を手に取りこちらへ渡す。
「この薬草は湖付近でしか採集できません。今回の依頼は魔獣が出現する可能性があります。装備を整えてからクリス湖へ向かってください」
魔獣とは『マリス』と呼ばれる邪悪なエネルギーの集合体。倒すと「マリスコア」という魔獣の核を残して消滅する。まれに他のアイテムも落とすらしい。核はギルドで買い取ってくれるとのことだ。
「わかりました、あ、それからこれを」
ギルドカードのクラスには現在剣士と表記されている。装備武器は杖だから魔法使いのクラスに変更してくれ、と小声で頼みカードを手渡す。受付カウンターに薬草を置く。カードを受け取りギルドから出た。
クリス湖へ向かう前に防具を買い揃えよう。ゲームでは店頭販売、イベント等から手に入ったな。ギルドから頂いた1000ゴールド以内で買い物を済ませよう。お金は無限だが、初心者が高額な防具も身に着けていたら目立つからな。
いくつかお店を巡って、動きやすさを重視した服、魔法攻撃力が上がる指輪、いくつかの戦闘用アイテムを購入しクリス湖へと向かった。
「ここかな?」
クリス湖へ続く道の入り口にたどり着く。道はある程度整備されており、そこそこ幅もある。木々のほうを見渡すと、苔むした木々がうっそうと茂っていた。この中に入り込んだら遭難確実だろうな。
「よし! 行くか!」
気合を入れて歩を進めようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「お兄さん一人でいくの? ここの魔獣は弱いけど数が多いわ」
昨日、町の大通りで奇妙な動きをしていた女の子だ。年の頃は17~8くらいかな。金髪セミロング。見た目は剣士だ。
「まあ、初心者さんの初冒険だから心配で後をつけて来たんだけどね」
昨日ギルドで手続きをしていたときに、この子もギルドの中に居たね。そっかそっか、この世界に来てからやさしい人ばかりに当たって嬉しいね。ちょっと変わった子だと思っていたんだ、ゴメンね。
「ハハハ、ありがとう。優しいんだね君は」
俺は満面の笑みで答えた。すると少女はバツが悪そうな表情を浮かべるが、すぐ笑顔に戻った。あれ? 俺変な顔になっていたかな?
「そういうわけじゃないけど……そうだ、私とパーティーを組んでみない? お兄さんがメインで戦って、危なくなったら応援に入るよ。こう見えて強いのよ?」
ふーむ。一人でいろいろテストしたかったんだがな。とはいえ人の好意をむげにするのは心苦しい。ここはその提案を受けておくか。
「わかった。俺はレオンだ、よろしく頼むよ」
笑顔で答え右手を差し出した。彼女も笑顔で手を握り返す。
「私はサシュウ、よろしくねレオンさん」
「俺がリーダーでいいかな? 講習で教わったことを実践したい」
「うん、それでいいわ」
サシュウが拳を突き上げ魔方陣が描かれている左手の手の甲をこちらに向ける。俺も同じように手の甲をサシュウに向け、近づける。
お互いの魔方陣が光始める。サシュウがパーティーに入りたいと念じ、俺がそれを承諾することでパーティー結成の儀式が無事終わる。
「ん? 力が沸き上がってくる」
サシュウも加護を得たようだ。ギルド長のベルツさんは零獣が見えなかったから加護も知らないだろう。となるとこの子も知らない可能性が高いな。
ここは勢いでごまかすか。
「それじゃ出発!」
「お、おー!」
俺たちは湖へと続く道を歩き始めた。しばらく進むと、森のほうから草をかき分ける音がこちちらに近づいてくる。
「ガサッ」
おいでなすったか。音がする方向に体を向け、杖を持ち構える。魔獣が走ってこちらに向かってくる。狼型の魔獣だ。俺に向かって飛び掛かってきた。
「ギャワ」
上段に構えた杖を下に振り下ろし迎撃。
『ボンッ』
魔獣の頭部が爆発四散し体が地面に転がる。ほどなくして魔獣の体は消滅する。
「すごい……、今のはスキル?」
「いや違うよ。当たり所が良かったんじゃないかな」
適当にごまかす。そっか、魔法職だけどレベル50だからかなりの力があり、加護の効果も乗ってるか……。次からは加減しよう。そうなるとスキルの威力も高くなっているだろう。パーティを組んでいる間は使用を控えるか。
マリスコアを拾い上げ、俺たちはクリス湖へと向かった。