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第10話 聖女の拳

 マルクとの会話より三週間前――


 人々が寝静まった深夜、家々の屋根を飛んで移動する人影があった。


(へへ、ぼろい商売だぜ。内通者がいるから簡単に侵入できる。これで俺は大金持ちだ)


 城に侵入した男は見つからぬよう慎重に移動し、一室の窓へとたどり着く。


(ここが王子の部屋か。アンタにゃ何の恨みはないが金のため死んでもらうぜ)


 男が窓からちらりと中をのぞくと、そこにはおぞましい光景が広がっていた。

 一人の少女が、王子の胸に顔を沈め、そのまま顔だけで倒立していた。王子はうなされている。


「お兄、様……」


 聞き取れないほどの小さな声で何やらつぶやいた。そして少女の体がゆっくり回りだす。毛布が巻き込まれ、ねじれたような模様が浮かび上がる。

 

 男は驚き窓から顔を離す。


(な、なんだあの化け物は! 王子は悪魔付きという噂があったが本当だったのか……)


「あんなにぴょんぴょん飛び跳ねていたら侵入がばれちゃいますよ? 最近の暗殺者は質が落ちましたね」


 男が振り向く間もなく、頭に無音の銃撃を喰らう。ロープで縛りあげて、窓から男を放り込む。


「マルク様、起きてください。賊ですよ」


「ん~……、任務ご苦労。ヘッケム」


 部屋の奥にある扉が開き、眠気まなこをこすりながら少女がなかへと入ってくる。


「何かございましたか? お兄様」


「ああ、ピュティ。暗殺者が来たようだ」


「「ああ」じゃ御座いません! お兄様!」


 勢い良く捲し立てるピュティ。


「まあまあ。私た、……私がいれば大丈夫ですよ」


 教会の司祭が着るような黒い服を身に着けている男、ヘッケムはピュティを宥める。


(はぁ、ピュティ様には困ったものですねぇ。良い男性が見つかればいいんですが)


 コホンと軽く咳ばらいをし、改めてマルクに話しかけるヘッケム。


「王、でしょうね、首謀者は」


「そろそろ王を倒し、あなたが新たなる王となるときではありませんか? 元帥はあなたを気に入っておりますがそろそろしびれを切らせる頃でしょう」


「そう、だな。すまないが後一か月待ってくれと伝えてくれ。できればもう少し協力者が欲しい。そちらはどうなっている?」


「協力者捜索の件ですが高レベル冒険者はあらかた調べました。後はレベル1の『訳あり』の方を調べるくらいですが、現在難航しているようですね」


「わかった。僕も捜索に加わろう」


「お願いします。では失礼します」


 そう言うとケッヘムは男を連れ窓から出ていく。


「……お兄様」


「大丈夫だよ、ピュティ。必ず成功させるさ」




 フリーションの町を出発した俺たちは、鍛冶屋が多数軒を連ねる街、アステリスクに到着した。まずは鍛冶屋を探すか。ギルドや街の人から情報を集めていると、達人と呼ばれる鍛冶師がいることがわかった。迷路のような裏路地を通り、教えてもらった鍛冶屋にたどり着く。


「うちはお得意さんしかやらねえよ! 帰った帰った!」


 こちらを睨み、語気を荒げる。うーん、確認だけでもしておくか。ここで加工できないと他じゃ無理かもしれないし。SSR防具はまだやめておこうかな。えーっと、なんだっけ、SR等級の防具等に必要な金属は……、ああアレだ。


「聞きたいんですが、こちらでインビジウムを加工できますか?」


「がーっはっはっは、インビジウムだって!? 超超高級金属じゃねえか! 持ってきたらやってやるよ!」


 腹を抱え大笑いする。鎧に必要な素材、分量を聞き、口止めもしておいた。

 工房から出て裏路地を歩いていると、三人の男たちがナイフをクルクルと回しながらこちらへ向かってくる。


「へへへ、ネーちゃん達、痛い目に遭いたくなヘヴォッ」


 話の途中で殴るメディス。他二人も即座に吹っ飛ばされた。


「な、テメェ! 覚えてやがボォッゥ」


「帰っていいとは言ってませんよ? 悪党は許しません」


 追い打ちをかけるメディス。あらら、スキルまで使ったか。まあナイフをちらつかせて女性を脅すような輩には同情できないな。ただこの手の奴らはしつこい。しばらくは二人の安全を考えなくては。口から泡を吹かせ、失禁したチンピラ達をそのまま置き去りにし宿へと帰った。


 次の日、公園には多数のチンピラ達が上半身裸で転がっていた。


『私は悪いことをしました』


 と腹に書かれ、縛られている。昨夜俺は宿の外からチンピラが報復に来ても対処できるように、隠れながら見張っていたところ、メディスが窓から顔を出し、誰もいないことを確認すると飛んで地面に着地、走り始める。どこへ行くのかと思ったら、チンピラ達のアジトだった。


 情報収集をしているときに、彼らの悪名は聞いていたからこうなっても仕方は……ちょっと同情する。


 今度は錬金術師だな。こちらも情報で聞いた『錬金術研究工房』へと向かう。


「ここでマナマテリアルの変換を行えますか?」


「ええ、一応。しかし、規則上、所長だけ変換器を扱えます」


「所長さんに合わせてもらえませんか?」


「少々お待ちください」


 待っている間工房を眺めていると、怪しい色の液体やら、奇妙な植物など見ていて不思議な気持ちになる世界がそこにあった。


 そうこうしているうちに、許可が下り所長室へ通される。鎧作成に必要な、金属、宝石、布を書いたメモを渡す。


「できますか?」


「……可能だが、かなりの数のマナマテリアルが必要となる。お金も莫大な金額がかかるぞ」


 提示されたマナマテリアル数、余裕だな。お金は無限だし。アイテム袋からごそっと取り出す。所長は驚愕していた。


「ま、まさかこんな……。作成自体は簡単だ。この変換器に入れるだけで出来上がるからね」


「お願いします」


 大量のマナマテリアルを変換器に投入する。赤のボタンを押すと変換が始まり、しばらくして精製されたアイテムがベルトコンベアに運ばれ終点に到着する。


「非常に貴重な金属だ。美しい輝きだろ?」


 珍しさに興味を引いたのだろう。インビジウムを見た所長は興奮している。他アイテムを作成後、口止めをして鍛冶屋へと直行した。


「……本当に持ってくるとは。すまん兄ちゃん、ああは言ったが俺じゃそいつを扱えない」


 うなだれ、申し訳なさそうに謝る店主。


「代わりと言っちゃなんだが最高の鍛冶師と呼ばれる男の弟子が、西の村にいるんだ。そこを訪ねてみてくれねえか」


 力なく話す店主を宥める。詳しい場所を聞いてから俺たちは鍛冶屋を後にした。西の村までは距離があり、一日ではたどり着けないようで途中野宿が必要となる。これまでは宿場町、小さな村、宿泊場等があったが、人通りが少ないのだろう、泊まれる場所がないそうだ。


 ということで、キャンプ用品を購入することにした。店に入ると大量のキャンプグッズが並んでいる。俺たちはテントのコーナーで物色する。若いの女の子が2人いるからな、一人用テント3つがが良いんじゃないかな? と告げる。


「ん~、そうだな~」


 サシュウがメディスを俺から少し離れたところへ連れていき、何やら相談している。


「この三人用テントで!」


 スピーと鼻息荒くテントを持ち出してきた。


「テントを三つも建てるのは手間がかかるうえ、非常時にテント一つ一つへ起こしに行っていては時間がかかり危険だからね」


「確かにそうだな。魔獣、敵は待ってくれない」


 そもそも信頼できるパーティ作りをしてきたつもりだ。男女間のトラブルは起きないだろう。しっかり考えてくれているんだなと、俺は感心した。


「よし、三人用テントで!」


 他キャンプ用品も買い揃え、俺たちは宿へ帰った。

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