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隅の少女  作者: 常居次人
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序章

今日もいる・・・・・・

大学へ向かう途中、智也は最寄り駅で電車を待ちながら心の中で呟いた。

エレベーターの隣のベンチに座っている小柄な少女、目鼻立ちは整っていて、整えられた長い黒髪が印象的だ。制服姿なところを見ると、学生なのだろう。

彼女はいつもそのベンチに座っている、智也はその少女のことを頭の中で「銅像」と名づけていた。何をするわけでもなく、身動きせずにベンチに座っているからだ。

このホームにいる人間の何人が彼女のことに気づいているのだろうか、そんなことをぼんやりと考えている間に彼が乗る電車が駅に到着した、扉が開くと駅にいる殆どの人間がその電車に乗りこんだ。しかし彼女だけが、動くことはなかった。


八時四十五分。大学の講義には間違いなく遅刻だった。いや、元々智也は間に合わせるつもりで家を出なかった、今日の講義は出ても退屈だと分かっていたからだ、最初の講義をさぼってせいで智也にとってその講義の教授の言葉はスリープの呪文にしか聞こえなくなったいた。


サラリーマンや学生で込み合ってる電車の中で、彼はふと自分の目の前にいる少女二人に

目がとまった、いや、正確にいえば彼女達の制服にだ。

同じだ、智也は銅像の姿を思い浮かべた、彼女が着ている制服と同じ。

目の前の二人は

「あーもう絶対遅刻だよー」

「授業受けなくてすむんだしラッキーだと思おうよ、遅延届けあるし遅刻にならないしさ」

「テスト近いのわかってんの?もう」


などと会話をしている、確かに普通学校の授業は八時三十分頃始まるものだ

彼女は学校をさぼってあそこにいるのだろうか・・・しかしさぼるにしても

もう少しマシな場所があるのではないか、別に駅のベンチでじっとしてる必要もない。

 彼女のことに関する様々な疑問が浮かんでいく、

暫く色々な憶測が彼の頭を巡る、しかし彼が降りる駅に電車が到着すると開いた扉から入ってくる騒音と人の流れに彼の思考はかき消された。

そして彼は電車を降りてから大学にいる間、彼女のことを考えることもなかった。


帰りの電車も行きと同様に混んでいた。

彼の通っている大学のそばには高校と私立中学があり

いずれも帰りの時間が重なっている、時間を潰すような施設も付近にはないので結局殆どの学生がその時間に駅に集結することになる。


混んでいる電車の中で、彼はふと目の前でイスに座っている少女に目がいった。

うつむいてなにをするでなく座っている少女、駅の少女、銅像とその姿が重なる

そう思った時、電車がブレーキをして人の波が慣性の法則に忠実に襲ってきた

大きくつんのめった彼は、電車の窓に手をついてどうにか体勢を元に戻した。

彼の降りる駅に到着したことをつげる車掌の声が響く、人混みをかき分け、彼はホームに降りた。

まさかもういないだろうな、彼はそんなことを思いつつ歩き出した。


彼はホームを歩きながら、今朝彼女がいた。いや、今朝も彼女がいた向かい側のホームをみた

帰りは反対のホームになるので、今まで意識してみたことはなかった。

彼女がいるかどうかも別に気にしてなかった、しかし彼の予想に反し、反対のホームの隅にあるベンチに彼女はいた、寝ているのかもしれない、そうでないかもしれない

いずれにしろ、ここからでは遠くて判別できなかった、彼女は一体なんなのだろう、智也が今朝からずっとあの場所にいたとしたら、七時間はそこにいたことになる。

何か不気味なものを感じながら、彼は帰路についた。


翌朝、彼は学校に行くために家を出ると

歩いていつもの駅にむかった。彼にとってはいつもと何も変わらない朝のはずだった。

しかし、駅が見えてくると、智也はいつもの朝と違う光景が広がっていることに気づいた。

駅の前の人混みが凄い、いや。尋常じゃない人混みだ

いくら通勤、通学時間だとはいえ、この駅は普段こんなに混まない、彼は若干早足で駅に向かう。

近づいてみると、救急車が駅の目の前に止まっていた。そして駅員がしきりに何かを叫んでい

る。

「人身事故のため、○○線は運行を中断しております

振り替え乗車はー」


人身事故、人が飛び込んだということか、自殺か……? そう考えた時、彼は言い知れぬ不安を感じた、人身事故と聞いた時なぜか彼の脳裏に例の彼女の姿がうかんだのだ、それも鮮明に。今までここまで鮮明に彼女の姿を思い描いたことはなかった。何故このタイミングで彼女の姿が鮮明に浮かぶのだろうか? 智也は何故自分が不安になっているのか、その気持ちの源泉もわからぬまま、人混みをかき分け駅の中に入っていった。






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