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カラクレム  作者: Arpad
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2部 第2章 マーレイ

 院の大老エピとの謁見中、プリシーバ自警団からの面会要求を受けたエノゥは、運命的な出逢いを果たしていた。

「貴殿が、アンリヌイ卿か?」

 院の門前には、武装した女達が5人、殺気立った雰囲気を纏いながら待ち構えていた。中でも、中央で仁王立ちをしている女性は、他と段違いの風格を有している。エノゥは風格など気にもせず、程好く焼けた小麦色の肌と海風に負けない艶のある黒髪、そして眉間にしわが寄っていながらも均整を崩さない顔立ちに心惹かれていた。

「キューン!」

 エノゥは自らを年下好きと推察しているが、根が甘えん坊なので年上にも割りと弱い。まったくもって、一途とは程遠い人間性である。

「・・・今、何か言ったか?」

「コホン・・・いえ、何も。確かに、私がアンリヌイだけど・・・お姉さんは?」

「私はプリシーバ自警団団長、ライエナだ」

「ふむふむ・・・年齢は?」

「ん? 今年で27になるが・・・」

「ほほぅ、それはそれは・・・趣味は?」

「趣味? 趣味か・・・強いて言えば、鍛練だろうか?」

「なるほどなるほど・・・それで、恋人は?」

「っ・・・あまりふざけられては困るぞ、アンリヌイ卿。それとも、今のような蛇足極まるやり取りが、音に聞くハルハントの騎士の流儀か?」

「ふん・・・ふざけているのは、君の方だよライエナ団長? こんな事まで聞くのは、ハルハントでも私くらいなものさ!!」

「・・・それだと、貴殿は己がふざけた人間なのだと認めていることになるのでは無いか?」

「そこは否定し切れないので、流すことにしよう。それで、君達は私に何の用があって、ここへ来たのかな?」

「やっとか・・・とある漁師達から、余所者の女に恐喝された、という通報が入ってな。証言に合致する人物を追ってきたところ、我々はここへ行き着いたのだ」

「へぇ、その恐喝余所者女が私だと? 証拠があるなら、ぜひ教えて欲しいな・・・じっくりと」

「時間は掛かるまい。貴殿を漁師らと引き合わせれば、判ることだ」

「漁師が嘘をついているのかもしれないよ? その場合、長時間に及ぶ取り調べをだね・・・」

「・・・貴殿は勘違いをしているようだが、我々は貴殿を恐喝の咎で捕らえに来たわけではない。その場に居た少女について話を聞きたかったのだ」

「・・・それは、どういう事だい?」

「漁師からの通報は、正確に言えば、以下の通りだ。漁船に紛れていた怪しげな少女を捕らえたが、余所者の女に邪魔をされて連れて来れなかった、あれはもしかしたらエイディアだったのかもしれない・・・とな。少女は貴殿の連れか何かなのか?」

「確かに、連れて歩きたくなる様な可憐さだったけど・・・残念ながら違うよ?」

「理解が追い付かないが・・・関係者では無いのだな? それで、少女はどこへ?」

「さあ? 気付いたら居なくなっていたんだよ」

「・・・我々は、その少女を見つけなければならない。アンリヌイ卿、休暇中とのことだが、我々に協力してはもらえないだろうか? 我々は、その少女の顔を知らないのだ」

「ん? 漁師達はどうしたの?」

「エイディアを恐れ、家から出てこなくなってしまった」

「ふ~ん・・・良いよ! ただし、こちらの条件を呑んでもらえるなら、ね?」

「恐喝の咎を見逃すだけでは、足らないと?」

「もちろん、私は公共倫理に従ったまでだからね。そもそも罪には問えないはず。それとも、少女を取り囲む男達を見て、君は止めに入らないのかい?」

「・・・ふっ、貴殿も存外食えない人物の様だな。分かった、条件とやらを聞かせてもらおうか?」

「ふふん、さっきの質問を他の娘達にも答えてもらいたいのだよ!」

「・・・・・・はい?」

 自警団の面々は、互いの顔を見合い、不可思議そうに首を傾げた。利点の見えない要求をされると、人は困惑するものである。

 


 プリシーバ自警団は、女性のみで構成されている。それは、ユクワーの生き方と密接に関係していた。

 狩漁民族のユクワーは伝統的に、主に男性が海へ出て、女性はその帰りを待っていた。他の民族と違ったのは、男性は本当に漁しかせず、その他の業務は全て女性が担ってきた点である。

 よって、プリシーバを表向きに運営しているのは女性であり、プリシーバの法の番人である自警団も女性のみで構成されているというわけだ。

 あれから、エノゥはライエナ団長らと共にプリシーバ内で、(くだん)の少女を捜し廻っていた。つまり、彼女の協力条件が承認された事を意味している。

「それで、気になってたんだけど、さっきから話に出てくるエイディアってのは何なの?」

「ユクワー、特にプリシーバ近辺に伝わるお伽噺のようなもので、その中に登場する怪物の名前だ。奴らは海底に棲み、人間を海へ引きずり込むそうだ」

「ふ~ん、怪物ねぇ・・・何であの女の子は、そのエイディアだと思われているわけ?」

「エイディアの物語は、とある女が沖で漂っているのを助けたところから始まる。女はエイディアの王族であり、彼女を拐われたと勘違いしたエイディアが、かつてのプリシーバを襲撃してきたそうだ」

「へぇ・・・確かあの娘は、漁船にいつの間にか乗っていたんだっけ? それだと、もしかしてって考えちゃうのも無理ないかもだねぇ・・・」

「ああ、よっぽどの事が無い限り、沖に女が居ることなどあり得ないことも、想像を掻き立てさせる。だがしかし、お伽噺というのは、大概が先人からの警告だ。エイディアの物語は、善意は時として悪に見える事があり、それは大きな悲しみを生むことになる事を教えてくれている。まさに、貴殿の様では無いか?」

「勘違いを招く奴が悪いんだよ・・・それよりも、君達はあの娘がエイディアだと思っているのかい?」

「先にも言った通り、お伽噺とは先人からの警告だ。今のところ、エイディアというのは、多くの危険が潜む海自体を表現したものだと考えられている。つまり、エイディアというのは架空の存在なのだ、今のところはな。我々が少女を捜しているのは、単純に身元を確認する為だ。そして、イタズラだったのか問い詰める」

「それは・・・ぜひとも私にさせて欲しいな!」

「それは・・・・・・何故だ?」

「それはもちろん、知らない人に怖い顔で迫られるより、私が優しく丁寧に聞き出したら方が良いかな~って思っただけだよ。それだけなんだよ?」

「ふむ・・・一理あるな。流石の私でも子どもにまで強面で迫る気は無いが、顔見知りの方が話が早いかもしれん」

「・・・よっしゃ」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何も。それよりさ、こんな広い街中で一人の女の子を見つけ出すのは難しいんじゃない?」

「確かにそうだが、捜さねばならないのだ・・・それとも、何か妙案でもあるのか?」

「分かれて捜すべきだと思うんだ。一ヵ所に6人居たんじゃ、効率が悪いよ」

「その通りだが・・・我々には少女の顔が判らないといっただろう?」

「ほら、今は昼時を過ぎて、外にはほとんど人が居ないでしょ? そんな時に一人で出歩いてる女の子が居たら、全員連れて来ちゃえば良いんだよ! 私が後で確認するからさ?」

「暴論の様だが、一理あるな・・・分かった、散開して捜索しよう」

「・・・よっしゃ、女の子がいっぱいだ」

「ん? 何か言ったか?」

「何も言ってないよ。そうだ、散開するにしても担当区域は決めておこうよ?」

「そうだな・・・北と東には部下を行かせよう。我々が先ほどまで居た西区はひとまず省くとして、私と貴殿で南区を捜索するのはどうだ?」

「そこは異論無いよ? さあ、日が暮れる前には見つけちゃおう!」

 一同は、あの東西通りと南北通りとが交錯する、踊り場で散開していった。合流地点は、東区にある自警団本部と決めてある。



 エノゥとライエナは、漁港まで辿り着くと、左右に分かれて捜索が始まった。右つまり西側には、倉庫や船の修繕所等の漁師にとって重要な施設が多いことから、ライエナが担当している。

 エノゥの向かった左つまり東側には、白くキメの細やかな砂浜が広がり、道を挟んだ陸側には無数の飲食店が建ち並んでいた。午前中にも此処へ足を運んでいたのだが、その時とは異なり、人影がまったくと言って良いほど見当たらない。この街で最も華やかな場所なのだろうに、まるで廃墟にでも迷い込んだかの様である。

 エノゥは東側を見て回る前に、少女と出会った桟橋の様子を再度確認しておくことにした。

 桟橋にはもちろん、人の姿は無い。今回は、横付けしてある船へ跳び乗り、中も確かめたが少女の姿はどこにも無かった。早々に見切りを付け、砂浜へと赴く。

 砂浜にも人の姿は無いが、一つ面白いことに気が付いた。砂浜には多くの足跡が残されているのだが、その数はよっぽどの事が無い限り偶数となる。つまり、砂浜へ向かう足跡と街へ戻る足跡だ。しかしその中に、砂浜へ向かうものは無いが、海から街へ向かう足跡を見つけたのである。

 エノゥは早速、その足跡を調べることにした。まず、しっかりと五指の跡が残っているので足跡の主は裸足のようだ。全体の大きさからして、子どもか女性のもの。砂のめり込み具合から、体重は軽い事が見受けられる。それと、歩き方が不安定だ。歩くことが不馴れなのか、まるで酩酊者のようにフラつきながら、街を目指している。

 情報を統合するまでも無く、この足跡が件の少女のものである可能性が高い事が見えてきた。彼女はあの時、海に飛び込んで逃げたのだ。

 だがそうなると、不可解な点も見えてくる。この足跡は、かなり新しいのだ。それだと少女は、ついさっきまで海を漂っていたことになってしまう。そんなことをする理由は何なのか、まるで人の目が少なくなるのを待っていたかの様である。

「まあ・・・聞けば、判るよね?」

 エノゥは足跡を追うことにした。それは飲食店街の方へと続いており、地面が石畳に変わってからは、濡れた足跡を頼りに追跡していく。だが、それも次第に薄れていき、ついには途絶えてしまった。最悪な事に、十字路の真ん中で。

 飲食店街は、無計画に増え続けたであろう店舗のせいで、軽く迷宮と化していた。要り組む道に、似たような建物、さらには視界が制限されて方角すらまともに掴めないのだから、地元民でも迷う事が多々ある。

 エノゥの場合、足跡しか見てこなかったので、足跡が消えてしまうと、来た道すら戻れなくなってしまう。嫌な予感と共に、背後を振り返ると案の定、足跡は途上まで既に乾き始めていた。こうして、エノゥは迷子となったのである。

「いやいや、迷子とか・・・ハルハントの騎士を侮らないで欲しいな」

 エノゥは一蹴りで近くの建物の屋上へと飛び上がり、周囲を見回した。これなら、現在地も判るし、建物を跳び移れば脱出も容易である。

「よし、万事順調!」

 帰る手段を確認したエノゥは、再び十字路へと降り立ち、少女の足取りを追う術を探した。とはいえ、目撃できる人も居らず、何も痕跡が無いのなら、追う術などあるはずが無い。途方に暮れるエノゥの頬を、生温い海風が撫でていく。

「・・・そうか、風があった」

 エノゥが思い出したのは、騎士長ラグトゥの日常。思い付いたのは、彼が重宝する魔法の応用。この通りで発生している音を、風に運ばせてくるのだ。

 聴きたいのは、来た道以外の3つの通りの音。まずは向かって左の通りに、強化した聴覚を集中させ、魔法で向かい風を発生させる。風に運ばれてきたのは寝息ばかり、こちらは外れのようだ。次いで、正面の通り。こちらも寝息ばかりで、外れだ。

 最後に、右の通りを調べると、寝息以外の音が混ざり込んでいた。ペタペタと石畳を裸足で歩くような音、これは少女の足音で間違いないだろう。

 エノゥは、足音に集中したまま、右の通りを進んでいった。足音は近い、というかエノゥの方へと戻ってきているようだ。

 すると程無くして、エノゥは少女と鉢合わせた。実を言うと、エノゥは少女の容姿を事細かに覚えていたわけではなかった。会えば判るだろうくらいの浅はかな考えだったが、対面するとあの時の少女だとすぐに判った。また逃げられたら大変なので、エノゥは少女の特徴を記憶しておくことにした。

 年の頃はファウくらいで、夜の海のような青みがかった長い黒髪を、マフラーのように首に緩く巻き付けている。瞳の色は、月光のように淡い金色で、肌は日差しなど存在しないと言わんばかりに真っ白である。そして極めつけは、少女が纏っている、男物とおぼしきブカブカのユクワー衣装だ。

「ぐっ・・・やっぱり可愛いや・・・おっと目眩が」

 エノゥが意味不明な理由で石畳に膝を突くと、少女は驚いた様子で、エノゥの傍まで駆け寄ってきた。

「あはは・・・心配してくれたのかな? まだ名乗ってなかったけど、私はエノゥ。君の名前は?」 

「・・・マーレイ。マーレイ、イスプイ、ホライエ、アリエンティス、ペヘタイ」

「えっと・・・・・・マーレイちゃんで良いかな?」

 件の少女、マーレイはコクリと頷いた。

「マーレイちゃんは、エイディアなの?」

 エノゥは、何の臆面も無く、核心から突いていった。だが、マーレイは首を傾げるだけであった。

「えっと・・・マーレイちゃんは、海から来たの?」

 聞き方を変えてみると、マーレイはコクリと頷いた。どうやら、彼女がエイディアと呼ばれる存在である可能性は高いようだ。

「マーレイちゃんは、ここへ何をしに来たの?」

「・・・私、は、捜しに来た」

「捜しに? 誰か捜しに来たの?」

「・・・それは、私の・・・」

 マーレイは、急に頬を赤らめ、首に巻いていた髪に顔を埋めてしまった。

「照れちゃってどうしたの~可愛い~んだか・・・ら?」

 エノゥの視線は、マーレイの顔では無く、髪が浮き立ち、露になった耳に注がれた。彼女の耳は、エノゥ達と違い、丸かった。しかもエノゥには見覚えのある形、カラクレムのものと同じ形である。

「マーレイ、君は・・・」

 エノゥが、マーレイの手を取ろうとしたその時、彼女は己の背後に奇妙な気配を感じ取った。振り返ると、そこにはグリーバほどではないにしろ、確実に常人よりは大きな巨人が佇んでいた。しかも、顔は魚のようで、表皮は鱗に覆われている。

「何だ、こいつ・・・マーレイちゃん、危ないから隠れ・・・あれ?」

 マーレイを掴もうとした手が、空を切った。確認するべく振り向くと、マーレイは既に脱兎の如く、走り去っていた。

「あっ・・・行っちゃったか」

 落胆も束の間、魚顔の巨人がエノゥ目掛けて何かを降り下ろしてきた。避けてから確認すると、それは丸太に巨大な二枚貝を昆布で巻き付けた、石斧に近い発想の武器であった。空を切った二枚貝は、重量感のある音を発て、石畳を粉砕する。その威力もさることながら、あの昆布はどれだけ強固だというのだろうか。

「貴様のせいで、またあの娘を見失ったじゃないか」

 エノゥは、人間以外の種を基本的に見下している。理由は、醜く、頭が悪いから。

「楽には、逝けないよ?」

 彼女は腰から剣を引き抜くと、それを半身に構え、魚顔の巨人へと肉薄した。そして、剣を股下に差し込み、そのまま下腹部辺りまで切り裂くと、エノゥは間髪入れずに宙返りをし、その勢いで魚顔の巨人は頭の先まで真っ二つに両断されてしまった。

「うっ・・・生臭い」

 撒き散らす臭いはまさに青魚、しかも何倍か強烈さが増している。

 エノゥは念入りに血振りをしてから、襲ってきた怪物を検分した。それはまさに、人真似をした魚、それ以外の何者でも無い。

「どこから来たんだろ・・・いや、海しか無いか」

 この怪物は、プリシーバではよく出てくるのだろうか。それとも、エイディアと何か関係があるのか。

「あっ、そんなことよりマーレイちゃんを追わないと!?」

 エノゥがマーレイの走り去った方向に意識を向け、風に音を運ばせようとした瞬間、甲高い音が鋭敏になった彼女の耳をつんざいた。

「ひぃ~や~何これ!?」

 音は砂浜の方から聴こえた。エノゥは知らないが、これはプリシーバ自警団の警笛であった。

「・・・ふむ、嫌な臭いがするね」

 海風に乗って、この怪物に似た生臭さが漂ってきていた。

「何か、あったのかな?」

 エノゥは、マーレイの事を気にしながらも、断腸の想いで砂浜へと駆け出した。



「アンリヌイ卿!」

 砂浜へ到ったエノゥを出迎えたのは、ライエナだった。

「笛を吹いたのは君かい、ライエナ団長?」

「ああ、貴殿は妙な怪物と出くわさなかったか?」

「出くわしたさ、あの魚みたいな奴! あいつのせいでマーレイちゃんを見失っちゃったんだよ!」

「そうか・・・ん? マーレイちゃんとは?」

「え? 私たちが捜していた女の子だよ、さっき見つけたんだ」

「見つけたのか!? それで、その子はどこに居る?」

「だから、あの怪物のせいで見失ったんだってば! それはそうと、あの怪物はプリシーバではよく出て来るの?」

「まさか!? あんなものは今まで見たことが無い。だからここ、警笛を鳴らし、団員を召集したのだ」

「そうか・・・なら、エイディアの物語に、あんな奴は出てきてたりしないの?」

「・・・確証は無いが、おそらくはエイディアの尖兵だろう。物語では、過去にプリシーバを襲撃したという奴等は異臭を放っていたと書かれていた」

「う~ん・・・ここまで一致してくると、お伽噺と笑ってはいられないかもね。マーレイちゃん、海から来たって言ってたから、もしかして・・・」

「まさか・・・その少女が王族だとでも?」

「判らないよ・・・でも、そうだとしたら? 次に起こるのは、何だと思う?」

「エイディア兵の、襲撃・・・」

「うん、そうだね・・・来たみたいだよ?」

 エノゥが顎で砂浜を示すと、波打ち際から大きな影がのっそりと姿を現した。それは、ついさっきエノゥを襲った怪物と瓜二つの容姿と武装をしており、既に上陸した数は、20を超えている。

「くそっ・・・冤罪で我々に報復しようというのか。その様な行ない、断じて許さぬ!」

「そうだね、これは理不尽過ぎるかな・・・よし、私が撹乱するから、団長さんは部下と迎撃体勢を整えておいて」

「それは・・・分かった、貴殿の力を見せてもらおう」

「うん、任せて! ハルハントの騎士の実力、たっぷりと見せてあげるよ!」

 エノゥは砂浜に躍り出るなり、魔法の発動に取り掛かった。

「えっと、大自我だったかな? それを意識して・・・と」

 エノゥの中でイメージが固まる。これまでは物質の姿を変えてきたが、今日からは違う。そう、ここは砂浜などでは無かった。

「そうそう、此処は元々・・・お前達の墓場だったんだよ!」

 瞬く間に、砂浜が槍状に競り上がり、上陸したエイディア兵を次々と串刺しにしていった。

 海は赤く染まり、魚の串焼き風の奇怪なオブジェが乱立する場所、そんなエノゥのイメージが現実となったのである。

「ふぅ・・・確かに凄い威力だけど、時間が掛かるなぁ・・・複数の敵を相手にするには便利かも」

 仲間が無惨に串焼きにされようと、エイディア兵は歩みを止めない。第二波にも、大自我魔法を差し向ける。

「ここは時折、如何なる者も細切れにする風が吹く場所・・・だよ!」

 すると突然、砂浜に竜巻が発生し、串刺しのエイディア兵も健在のエイディア兵も区別無く、平等に切り刻んでいった。どうやら、イメージを言葉にすると、より発動させ易いようだ。

「うわぁ・・・これは消耗が激しいな。あと一回が限度かも」

 砂浜が、如何に仲間の細切れで汚れようとも、エイディア兵は攻め寄せてくる。

「ふぅ・・・最後に凄いのお見舞いしちゃおうかな」

 エノゥが再度、大自我魔法を発動させようとしたその時、彼女の腕をライエナが掴み、発動を阻害した。

「もう十分だ、後は我々に任せてもらおう」

 次の瞬間、エノゥの視界に、両手に手斧を携えた女達が躍り出てきた。プリシーバ自警団の団員達である。

 彼女達は、驚くべき速さでエイディア兵に肉薄するなり、恐るべき膂力と手斧でもって豪快にぶつ切りへと加工し始めた。

「ライエナ団長・・・君たち、魔法は?」

「魔法? 生憎、我々は身体強化一極でな、肉弾戦しかしない。貴殿は素晴らしき武勇を披露してくれだ。次は、我々の武勇をご覧に入れよう」

 ライエナも、両手に手斧を持って走り出し、上陸してくるエイディア兵に向けて手斧を投げつけ始めた。手斧を食らったエイディア兵は熟した果実のように破裂し、バッチい花を咲かせていく。

 その光景を見て、エノゥは、その昔耳にした噂を思い出していた。ユクワーの女傑の噂、ユクワーの女性は身体強化にのみ魔力を割き、手斧を得物に戦うのが好きな女戦士(アマゾネス)だと。その勇ましさに、エノゥの乙女心も粉微塵に粉砕されてしまった。さようなら、淡いトキメキ。

「はぁ・・・」

 下心はため息と共に捨て去り、エノゥは剣を構え、迎撃に参加した。

「良い戦いぶりだね! でも私の方が強いんだから!!」

 エノゥは、慣れ親しんだ剣と魔法を併用する戦法で、ライエナ以上にエイディア兵を討ち取ってみせた。

「それでこそだ、ハルハントの騎士よ!」

 もはや、エイディア兵により襲撃は、エノゥとプリシーバ自警団による競争と化し、彼らをあっという間に平らげてしまった。そして、赤く染まった砂浜で、彼女達は互いの武勇を大いに讃え合っている。

「見事だ、アンリヌイ卿! 実は軟弱なのではないかと疑っていた事を詫びよう!」

「あはは、細切れにされたいのかな?」

「ふっ、それは遠慮願いたい・・・さて、こいつらは撃退出来たが、あの少女を帰さぬ限り、このような襲撃は続くだろう。捜索を急ぎたいが、防衛も疎かには出来ない。どうしたものだろうか・・・」

「ふむふむ・・・なら、手紙を書かないと」

「手紙? 増援でも呼ぶのか?」

「まあね、私の部隊と知り合いに一筆ね」

「そうか・・・だが、その前に我々には、やらねばならぬことがあるな?」

「うん、そうだね・・・その通りだよ」

『お風呂に入りたーい!!』

 血に染まった砂浜で、女傑達は咆哮する。やはり奴等の血は、とてつもなく臭かったのだ。

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