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カラクレム  作者: Arpad
13/18

2部 第7章 エイディアの呼び声 前篇

「斯々然々・・・というのが、プリシーバを襲った災難の概要なのだよ~」

 エノゥ、カラクレム、ファウ、そしてマーレイの四人は、エノゥの自室にて食卓を囲んでいた。本日のメニューは朝獲れ魚のソテーと塩漬け豚入り貝出汁スープ、そして付け合わせの椰子パンと忘れてはならない林檎酒である。

「カラクさん・・・私には、エノゥさんがとんでもないことを仕出かしている、としか思えないのですが・・・まったく困った人ですよね?」

「ええ、ファウさんの言う通りだと思います・・・まあ、エノゥらしいと言えば、らしいと言えなくもないですが」

「あはは、手厳しいなぁ、二人とも・・・それでも、結局は片棒を担いでくれるんだから、私って愛されてる?」

「私は、カラクさんに連れてこられただけなので、除外をお願いします」

「そんなぁ~ファウちゃん~御慈悲を~」

「・・・まあ、エノゥさんのお蔭で、悪くない体験をさせて頂いたので・・・感謝の念なら多少はあります」

「うんうん、それでもお姉さんは感激だよ~。ああ、ちなみにお兄さんはどう? 私の心配、してくれた?」

「え? それは・・・もちろん・・・そこはかとなく?」

「はぁ、相も変わらずお兄さんは嘘も口説き文句も下手だねぇ~」

「あはは・・・面目無いです」

「まあ、今回は手紙の内容で釣ったわけだから、赦しましょう・・・さて、こちらの美少女がお兄さんと同じ耳を持つマーレイちゃんだよ?」

 一同の視線が、会話も気に留めず一心不乱に食事を摂っていたマーレイに注がれた。そして、流石にその視線には気付いたマーレイは、食事を止め、エノゥの背後に隠れてしまった。

「ねぇ? ねぇ? 可愛いでしょう?」

 妙にハツラツと同意を求められたが、ファウは食事に集中し、カラクレムは聞き流すことにした。

「それで・・・そちらのマーレイさんは、人間を捜しているとの事ですが、それで私が呼ばれたという認識で間違い無いでしょうか?」

「うん、そうだね・・・ほら、マーレイちゃん、このお兄さんが捜している人間で良いのかな?」

 エノゥが問い掛けると、マーレイは彼女の陰から少し顔を出して、カラクレムの様子を窺った。

「・・・本当だ、お兄さんは人間なのね?」

「ええ、まあ、そういうことになるかと・・・私はカラクレムと申します。よろしくお願いしますね、マーレイさん?」

「カラク、レム・・・」

「言い難かったら、カラク、でも構いませんよ?」

「うん・・・カラクお兄さんは、私を好きになってくれるの?」

「ぶふっ!?」

 唐突なマーレイの発言に、ファウは驚きのあまり飲んでいたスープが気管へ入ってしまい、盛大に噎せ返してしまった。ファウの反応に意識を向けられたのは、マーレイの発言の意図を大体把握しているエノゥだけである。エノゥはホクホク顔でその反応を楽しんでいた。

「えっと・・・仲良くなりたいとは思いますよ?」

 カラクレムも驚きはしたが、取り乱す事も無く、無難な返答をするに留めた。

「うん、仲良くなる・・・だから、付いて来てくれる?」

「それは・・・貴女のお母さんの所へ、ですか?」

「うん、お母様は好きになってくれる人間を連れて来てって」

「そうですか・・・」

 カラクレムは、そっとエノゥの顔を見た。先程までアホみたいにニヤけていたが、今は神妙な表情でカラクレムを見返し、小さく頷いた。潜入しろ、という合図なのだろう。

「・・・分かりました、付いて行きましょう。マーレイさん、用事を済ませて、お母さんに褒めてもらえると良いですね?」

「うん! お兄さんも、優しいから好き、よ?」

 今度は、ファウとエノゥが同時に噎せ返った。

「ちょっ、マーレイちゃん! わ、私は?」

「ん? お姉さんは、助けてくれたから、もっと好き、よ?」

 マーレイが腰元に抱き付いてきたのを受けて、エノゥは見本のようなしたり顔でカラクレムに笑みを送った。

「ドヤッ♪」

「あはは・・・エノゥさんも、相変わらず見境が無いようですね?」

「あはは、お兄さんとはもう一度、拳で語り合わないといけないようだね?」

「あまり気は進まないのですが・・・馬の件で借りもありますからね・・・吝かでは無いとだけ言っておきましょうか?」

 カラクレムとエノゥが一触即発の睨み合いに発展する一方で、ホッと胸を撫で下ろしていたファウの元へマーレイが歩み寄っていた。

「あの・・・」

「な、何でしょうか?」

「・・・マーレイ、です」

「えっと・・・ファウ、です」

「あの・・・同い年くらいの娘と会うの、初めてで・・・」

「そう・・・なんですか? 私も集落には同い年の娘が居ないので、一緒ですね」

「だから・・・えっと、お友達、なろう?」

「・・・聞きたいことがあります」

「・・・何?」

「カラクさんより、エノゥさんが好きなんですよね?」

「えっと・・・うん」

「私がお友達になったら・・・カラクさんより上になりますか?」

「お友達、欲しかった・・・だから、そうする」

「はい! 成りましょう、お友達!!」

「やった・・・嬉しい!」

「よろしくお願いしますね・・・マーレイ?」

「うん・・・ファウ?」

 ファウとマーレイ、二人は手を取り合い、笑い合った。

「ああ、可憐な少女達の共演・・・微笑ましくも、悩ましい・・・お兄さんや、ここが楽園ってやつなのかな?」

「どうでしょうか・・・理想郷ならいざ知らず、楽園はそれぞれの心に在ると思いますよ?」

「なるほど・・・なら、あの光景は今から私の楽園となった。私は、二人とも愛そうぞ!」

「あはは、まあ頑張ってください・・・何にしても、良いことだと思いますよ、私は」

 カラクレムとエノゥが、好好爺宜しく、少女達の交流を見守っていると、部屋の扉が激しく叩かれた。

「おや? 私が出てくるね」

 エノゥは席を立つと、部屋の奥が見えないように、扉を押し開けた。

「どうしたの?」

「アンリヌイ卿、エイディア兵の侵攻が再開されました! 現在、プリシーバ自警団と援軍として来られた卿の部隊が迎撃に当たっております!!」

「やっぱり、諦めたりしないか・・・ありがとう、すぐに用意をするね。君達も、可能なら手伝ってあげてね?」

「はっ!」

 給仕を見送ってから扉を閉じ、エノゥは重々しいため息をついた。

「皆、エイディア兵がまた来たみたいだよ・・・あまり猶予は無いみたい」

「止める手立ては、マーレイさんと共に彼女のお母さんに会うことでしか判らない・・・マーレイさん、どこへ行けば、良いのですか?」

「えっと・・・お母様が居るのは、海の底、なの。でも、人間は来れないから、迎えを出すって」

「迎え、ですか・・・その場所まで、案内してくれませんか?」

「・・・うん、行こう!」

 マーレイは嬉しそうに、大きく頷いた。



 マーレイから詳しい話を聞いたところ、彼女のお母さんが迎えを出すのは、沖合いの方であるというのが判明した。つまり、カラクレム達には船が必要なのである。

 船と言えば漁港だが、漁港に在った船は全て、ダンタリオが破壊してしまったことだろう。他に手段は無いのか、最新の状況を把握しているはずのライエナに確認する必要があった。

 エノゥは中央通りの防壁へと急ぎ、陣頭指揮を執っているライエナを見つけ出した。

「団長さん!」

「ん? おお、アンリヌイ卿か。体力は回復出来たか?」

「うん、なんとかね・・・それで、ちょっと相談があるんだけど?」

「相談?」

 エノゥは、簡潔かつ重要な情報は伏せて、考えを伝えた。

 偶然、保護に成功したマーレイによると、エイディアの本拠地まで案内してくれると言っている。侵攻を止めるには、親玉と話をつけなければならない。だが、その場所までは船が必要になる。

 エノゥは、漁港以外で船のある場所を知らないかとライエナに尋ねた。

「船? 船なら・・・確か、修繕所に修繕済みのものがあったはずだ。修繕所自体は破壊されていないようだから、もしかしたら残っているかもしれないぞ?」

「でも、修繕所って漁港の奥だよね? つまり・・・あれを突破しなくちゃいけないと?」

 エノゥは苦笑しながら、防壁の向こう側に目を向けた。飛び火の粉、燃える怪物、断末魔。この世の地獄がそこには在った。

「私だけなら出来なくもないけど・・・同行者が居るからねぇ」

「そうだな・・・危険な事には変わり無いが、襲われはしない方法ならば・・・あるにはあるな」

「あるの?」

「西区から崖を降りれば、漁港を通らず、修繕所の裏手に出ることが出来るはずだ」

「おお、それは盲点だったよ。それなら、何とかなるかも・・・よし、元から断ってくるから、もう少し耐えててよ!」

「援軍が来てくれたから、まだ落ちはしないさ。決着は任せたぞ、アンリヌイ卿・・・また会おう」

 ライエナと別れ、エノゥは近くの路地で待機していたカラクレム達と合流した。

「というわけで、西区から崖を降りて、造船所横の修繕所へ侵入、船を調達して、沖へ出ます! 何か質問はあるかな?」

 エノゥが説明を終えると、カラクレムが挙手をした。

「質問と言うか・・・ファウさん、本当に同行するつもりなんですか?」

「もちろんです! ここまで来たのですから、最後まで付いて行きます・・・その、お友達も心配ですし」

「いや、でも・・・この先はかなり危険だと思いますよ?」

「危険なのは、街に居ても変わりませんよ? そこまで言うのなら、カラクさんが責任持って守ってください!」

「それは、そうですが・・・」

「はいはい、羨ましい問答はそこまで! 時間が無いから、このまま行くよ!!」

 エノゥは強引に話を終わらせ、マーレイを抱き上げると、西区へと駆け出した。カラクレムとファウも、カラクレムが折れた事で和解し、その後に続いた。

 やって来たのは、西区の広場。今朝、大老エピが大魔法を放った場所である。篝火は残っていたが、火は灯っていない。

「さあ、身体強化で飛び降りるよ! お兄さんは、ファウちゃんに掛けてもらって、尚且つ負担が無いように抱えて飛ぶように厳命ね!!」

「そうですね・・・って、エノゥさん気付いてたんですか!?」

「お兄さんや、あまり私を嘗めないでもらいたいね? 末席とはいえ、ハルハントの騎士。それくらいの観察眼は無いとね!」

 エノゥは底意地の悪い笑みを浮かべるなり、手摺を踏み台に、マーレイと共に崖下へと消えていった。

「誰にも言ってないから、安心してね~」

 そんな言葉を残していった。

「はぁ・・・エノゥさん、掴み所が無いというか、侮れない人ですよね?」

 ファウが半ば呆れたような口調で、そう呟いた。

「ですね・・・敵にはなりたくない方です。さて、ファウさん、失礼しますね」

 カラクレムは、ファウを背負い、手摺に足を乗せた。

「・・・私は、マーレイの様に前に抱えてはもらえないのですか?」

「え? ああ・・・背負った方がバランスを取り易いですし、咄嗟に手も使えるので」

「なるほど・・・カラクさんらしいので、妥協します」

「そ、そうですか? では、魔法をお願いします!」

「・・・行きます!」

 身体中が温もりに包まれるのを感じ、カラクレムは崖から飛び降りた。単純に平屋の3階分、通常なら怪我では済まない高さだが、強化された肉体と、ファウが密かに走らせておいた回復魔法によって、無事に着地することが出来た。

「ふぅ・・・無事に降りられましたね。ファウさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈・・・・・・少し疲れたので、このままでお願いします」

「はい、お疲れ様です!」

 急にぐったりとし始めたファウを背負い直し、カラクレムは先行したエノゥの姿を捜した。既に日が沈み、辺りは真っ暗だったが、とある建物から手を振っているのを見つけることが出来た。どうやら、そこが修繕所のようだ。

 カラクレムも、周囲に気を配りながら、修繕所の中へとやって来た。エノゥは扉を閉め、建物内の灯りを点していった。

 そして露になったのは、建物の真ん中、半地下になった場所に収まる大きな漁船であった。しかし、修繕の途中なのか、マストが取り外されていた。

「エノゥさん、これが目的の船なんですか?」

 カラクレムが問い掛けると、エノゥは首を横に振った。

「違うよ、まだ修理中みたいだし、何よりこんな大型船を動かす人員も技術も無いでしょう? だから私達は、これで行きます!」

 エノゥが指差したのは、大型船に積載されていたと思われる手漕ぎボートであった。

「さあ、港まで運ぶよ!」

 エノゥはマーレイを抱いたまま、カラクレムはファウを背負ったまま、ボートの両端を片手で持ち、開け放っておいた搬出入口から港へと出ていった。

 ボートを海に浮かべ、マーレイとファウからボートに乗せていく。エノゥとカラクレムは周辺を警戒してから、乗り込むつもりだったが、幸か不幸か、動きに気付いた数体のエイディア兵が接近してきていた。

「このまま出たら、ボートを転覆させられちゃうか・・・さっさと片付けるよ、お兄さん!」

「分かりました!」

 エノゥは剣を引き抜いた。魔法の音で、更なるエイディア兵を呼び寄せない為である。

 カラクレムは、ディリアに恩賜された長剣を発現させていた。エイディア兵はとても臭うと聴いたので、いつもの槍は置いて来ていた。この長剣は、一旦消滅させれば新品同然と成るので、今回には打ってつけである。

「行きますよ!」

 まずはカラクレムが、長剣の柄を伸ばし、槍のように投擲して、戦闘が始まった。

 長剣はエイディア兵を1体刺し貫き、背後にあった小屋の壁に突き刺さった。カラクレムはそこで長剣を消し、発現させ直すと、エノゥと共に足並みの崩れたエイディア兵へと斬り掛かった。

 返り血を浴びないようにして、先ずは腕を寸断し、無防備になった頭を切り落としていく。この二人相手では、数体のエイディア兵など瞬く間に片付いてしまった。

「これは・・・臭いですね」

「あはは・・・私は嫌でも慣れちゃったな。さてと、臭いで集まってくるかもしれないから、先を急ごう!」

「はい!」

 エノゥとカラクレムはボートに乗るや、それぞれ両手に櫂を持ち、沖合いへと漕ぎ出していった。

 タイミングを合わせるのには苦労したが、ボートはみるみると速度を上げていく。あっという間に、漁港の辺りまで来たのだが、そこで異変が起きてしまった。

 湾内だと言うのに、海が急激に荒れ始め、ボートが荒波に揉まれ始めたのである。

「ファウちゃん、マーレイちゃんとしっかり捕まってて! お兄さんは転覆させないように、もっと気張って!」

「そんな事言われても! ん? エノゥさん、下に何か居ますよ!!」

 カラクレムが、ボートの直下に何かの気配を察知した少し後、ボートの後方、漁港沖にそれは顕れた。

 巨大な触手と、その中心にある凶悪にして巨大な口。身体の大半が焼け焦げていることから、先日のダンタリオの下半身であると推察される。奴はもはや破れかぶれ、仲間を擂り潰しながら、漁港へ上陸しようと試みていた。自警団や従士隊は即座に、火球と油壺をしこたま投げ付けている。

「しぶとッ!? これだから畜生は嫌いなんだよ、私は! お兄さん、急ぐよ! 一刻も早く、襲撃を止めさせないとプリシーバが壊滅しちゃう!!」

「分かってます! ほら、息を合わせて!!」

 二人は再度、息を合わせて櫂を動かした。そして、快調な航行を取り戻したボートは、天然の防波堤を越え、湾を脱した。次いで沖合いの波がボートを翻弄してきたが、カラクレムとエノゥは、気合いと腕力、そして全身のバネを駆使して、直進し続けた。向かうべき方角は、マーレイが教えてくれている。

「あっ・・・ここだ、お母様との、待ち合わせ場所!」

 待ち合わせ場所と言うには、何の目印も無い大海原の只中である。マーレイ以外が首を傾げていると、彼女は突然、海中に顔を沈めてしまった。エノゥが慌てて引き戻すと、マーレイはお母さんに呼び掛けていたと言い、少し待てば迎えが来るとも言った。

 そして、しばらくすると、海中から唐突に、謎の鉄球が水飛沫と共に浮上してきた。常識外れ過ぎる登場にマーレイ以外が茫然とする中、マーレイはカラクレムの手を掴んだ。

「カラクお兄さん、あれに乗って」

 マーレイに言われて、カラクレムは理解した。あれは、潜水艇なのだと。エノゥやファウに説明するか迷ったが、ユートピアという出自まで説明せねばならなくなりそうなので、止めておいた。

「エノゥさん、あの球体まで寄せてください」

 カラクレムは、まだ困惑しているエノゥと協力してボートを球体に横付けするや、その上に飛び乗ってしまった。そして、球体の上部にハッチを見つけると、それを開放し、球体内部へと侵入していく。

 球体内部は簡素だった。人一人が入れるスペースに椅子が一つだけ、だが息苦しさは感じない。外からは無骨なにび色にしか見えなかったが、カラクレムからは腰掛ける椅子を除いて全周囲が窺えるようになっていた。まるで、ガラス玉の中に入っているかのようである。まだ唖然としているエノゥとファウの表情もくっきりだ。

 これらは、カラクレムの故郷であるユートピアでも見られた技術だった。それはつまり、エイディアが旧人類の系譜に列なる存在であるということを示唆している。

「・・・仕方ないですね」

 これは、あまり他言すべき内容ではない。そう判断したカラクレムは、球体から顔を出し、叫んだ。

「一人しか入れないみたいなので、私だけで行ってきますね!」

 これには流石に、エノゥもファウも正気に戻った。

「ちょっと、お兄さん!? 置いていくつもり!?」

「そうですよ!? 私なら膝の上に座れますよ!」

「そうだよ! 置いてかれるくらいなら、無理矢理にでも乗り込むよ!!」

「いえ、無理なんで・・・失礼します!」

 カラクレムは、有無を言わさずにハッチを閉めた。二人が球体をガンガンと叩いても、意に介さない。ここから先は、秘匿されるべき事柄なのだ。

 ハッチを閉めてから程無くすると、球体は自動的に潜水を開始した。どうやら、エイディア側が遠隔操作しているようだ。

「・・・えっ!?」

 ふと、横を見ると、服を脱ぎ捨てたマーレイが、急速潜航する球体に並走していた。もう既に、常人では息が続かないはずで、しかも生身では厳しい水圧が掛かっているはず。だがマーレイは、それをまるで感じさせない優雅なドルフィンキックで、顔色一つ変えずに泳いでいる。水を得た魚というのは、まさにこの様な光景なのではないだろうか。

 エイディア、謎の多い存在。だが、その謎の答えは目前にまで迫っている。カラクレムは呼吸を調え、暗い海へと沈んでいく球体に命運を委ねた。

 一方、置いていかれたエノゥとファウは、ボート上で立ち尽くしていた。

「お兄さんの馬鹿野郎ーー!!」

 エノゥは大海原に向かって、思いの丈を吐き出した。

「あぁ・・・こういう事でカラクさんが暴走しないはず無いのに・・・不覚です」

 ファウは、大海原に己が未熟さを吐露していた。

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