よし、頑張るぞ
「あれ?」
気がつけば、なんか、展望台の屋上みたいな場所にいた。
なんでこんなとこに? 単純にそれだけを疑問に思いながらも、直前までの自分をなんとか思い出そうとする。
確か、会社帰りだったと思う。職場までの距離がそこそこあって、車通勤だった俺は、仕事で疲れながらも安全第一をモットーに黄色信号で停止していたと思う。
けれども、なんか衝撃があって……。かと思えばすごい音がしたと思って……。
「え? あれ? 事故った?」
そうだ、確か後ろから追突されたんだ。でもって、横からでかいトラックが迫ってきて、そして………
「………ダメだ、そこから先が思い出せん」
思い出せないものはしょうがない、と、俺は改めて周囲を見やる。
やはり、一番近いのは展望台だろうか。
周囲には壁がなく、しかしながら地上ではない。円形に広がった床こそあるが、眼前180度に広がるパノラマには、視界に沿うように雲がある。
「……おい、なんかおかしくないか、此処。っていうかこええよ!!」
そう、もっと詳しく例えるのならば、今いる場所は、ガラスも柵もないビルの屋上。
幸いにして、床となっている部分の面積はサッカー場くらいの広さで、自分自身はその中央にいるらしく、今すぐ落下するという危険性はない。
とはいえ、安全に全く考慮がされていない高所というものは不安を掻き立てる。
「……エレベーター、いや、この際階段でもいい、下に降りれないのか!?」
こんな場所に居たくない。
そう思って、俺は始めて背後を見やる。
まさかというか、やはりというか、背面も同じように柵もなにもない絶景が広がっていたのだが……。
「あ? なにこれ、浮いてる? ……ていうか、ヒト?」
ひとつだけ異なるものがそこにあった。
ガラスの試験管の下の丸みをなくして大きくしたような円柱の何か。
そしてその中に浮かんでいる某か。
その某かは、ヒト……それも幼い少女のようだった。
「……まあ待て、落ち着け。そもそも、俺はどうしてこんなところにいる?」
360度安全なしのパノラマをも超えかねない、予想外のその謎の登場に、俺は再び思考の海を漂うことになった。
「そもそも俺は誰だ……稲垣将…いや、カイン・サンダース? え、あれ? なんで?」
そこで初めて、俺の記憶の整合性がおかしいことに気づいた。
俺は、日本でごく普通に生活していた稲垣将であると思えると同時に、キャネル王国で凄惨な人生を送ったカイン・サンダースであるという記憶が混在していた。
まあ、自意識としては稲垣将としての我が強いようではあったのだが。
「……どういうことだ、これは……」
そう呟く俺だったが、少なくとも現状で「稲垣将」としての知識や常識が役に立たないことが感じ取れた俺は、「カイン・サンダース」としての記憶を探るべきだと瞬時に悟った。
「……ここは、キャネル王国北部にあるキャノス山脈のさらに上……空中要塞の、その屋上……」
ああ、そうだ。此処は俺の……「カイン・サンダース」が現状居るべき空中要塞……王国側からしてみれば、通称「魔王城」と呼ばれる建造物のその最上階だ。
そして、俺は……カインは……魔王だった。
キリがいいのでここで切ります。
1200文字を基準にします。
もう一話頑張ります。