表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Over the Dimension  作者: 古河 聖
伝説のプロローグ
5/9

幕間 ガールズトーク in 朝風呂

 翌朝。ベッドの上で目が覚める。なんだか全身のあちこちが微妙に痛い。魔物から攻撃を喰らったわけでもないし、筋肉痛でもない。

 なんだこれ……? と首を傾げながらふと隣を見ると、すやすやと安らかな寝息を立てるクレアがいた。

「……⁉」

 驚いて飛び退きつつ、昨晩の記憶を引っ張り出す。……ああ、そうだ。殴らせろと迫ってくるクレアと取っ組み合いをしているうちに、そのまま寝てしまったんだ。別に無意識の間になにかをやらかしてしまったわけではない……はず。

「……ん…」

 俺が動いたのが伝わったのか、クレアがもぞもぞと始動する。

「……あれ? あたし、いつの間に寝て………っ⁉」

 寝ぼけ眼だったクレアが、俺の姿を認識した瞬間一気に覚醒する。

「ちょっ、アンタ! なんであたしたちの部屋にいんのよっ!」

「落ち着け、そもそもここは俺の部屋だ。あの後みんなこの部屋で寝ちゃったんだよ」

 未だにオルネが寝ている枕をひっつかんでこっちに投げようとしてくるクレアを制止しつつ、状況を説明する。ちなみに枕をひっつかまれたことで、その上に寝ていたオルネはその辺に投げ出されている。

「あだっ。うぅ……なんですか、もう……」

 おかげで目が覚めたみたいだし、ちょうどいいか。

「あー……やっぱりあのまま寝ちゃったのね……。……ちなみにアンタ、あたしが寝てる間に変なことしてないわよね?」

「んなわけないだろ」

「……そんなに即答されてもむかつくわね」

 どうしたらいいんだよ。

「……? そういえばプリムは?」

 部屋を見回しながらクレアが尋ねてくる。……あれ? そういえばいないな……昨日は確か、ベッドに寄りかかったまま寝てた気がしたんだが……。

「……あ、もう皆さん起きました?」

 もう少しちゃんと部屋を探してみようと立ち上がった時、部屋のドアが開いて探していた人物が現れた。

「あ、おはようプリム。どこ行ってたの?」

「おはようクレアちゃん。私はちょっと早く起きちゃったから、少しお散歩に行ってたの。それで、これから朝風呂に向かうところ」

「あ、ずるいっ。あたしも入る! ほら、そこのちっこいのも行くわよ!」

「ふぇ……? 私はもうひと眠りしたいんですけど……って、あ、やめてください、そんなお手軽な感じで持ち運ばないでくださいぃ!」

 しれっと枕の上に戻って二度寝しようとしていたオルネが、朝風呂にテンションの上がったクレアの右手に握られて連行されていく。

「……俺はもう少しのんびりするか」

 正直俺も朝風呂に入りたいが、昨日のように3人の会話を聞いてしまうとまた面倒なことになる気がするので、朝食の時間になるまでもう少し部屋でだらだらとすることにした。


☆    ☆    ☆


「ふわ~! やっぱ朝風呂は気持ちいいわね!」

「だね~」

「……私はもう少し寝てたかったんですけど」

 気持ちよさそうに湯船で手足を伸ばすお2人を寝ぼけまなこで睨みつつ、私、オルネリア・ディーヴァも小さい桶にはったお湯の中でくつろぎます。朝一から人間モードはしんどいので、今回は妖精モードのままの入浴です。

「アンタ、どんだけ寝る気よ。9時間も寝たら十分でしょ?」

 ……確かに、昨日わいわい騒いで寝たのが10時ごろ、今が7時ちょっと前なので、9時間近く寝ていることにはなりますけど……。

「私は9時間睡眠じゃ足りないんですよ」

「そんなちっこいのに?」

「身体の大きさは関係ないでしょう⁉」

 クレア様は何かあるとすぐに私の小ささを馬鹿にしてきます。妖精族差別よくないです。

「あはは……クレアちゃんとオルネさん、出会って間もないのに仲いいよね」

「どこがよ(どこがですか)⁉」

 一体どこを見ていたらそうなるのでしょう。確かに、気が合うなあ、と思う部分もなくはないですが、私をちっちゃいと馬鹿にするところだけは許せませんし。

「……あ。仲がいいと言えば、なんだけど」

 クレア様が何かを思い出したように手を叩きます。

「アンタとハルカって、どうやって知り合ったの? 結構仲良さげだし、幼馴染とかだったりするわけっ?」

 どこかドキドキワクワクしたような表情でクレア様が尋ねてきます。……どんな話を期待しているのかは丸わかりですが、そんな事実はないのできちんと言っておきましょう。

「……別に、クレア様が期待するような関係ではないですよ。ハルカ様と出会ったのは、本当にクレア様たちと出会う2、3日の話ですよ。ふらふらと散歩をしていたら、18歳なのにダンジョンに潜ったことがないというハルカ様に出会いまして。なんだか放っておけない雰囲気だったので、戦闘面では役に立てない私ですけど、それ以外の部分でハルカ様に協力しているんです」

 とはいえ、事実をそのまま話すわけにもいかないので、こういう質問が来た時のためにあらかじめ用意していた回答を口にします。

「へぇー……なんか意外ね。アンタたちのやりとり見てると、もう何年も一緒にいるのかと思ったけど」

 ……そういえばハルカ様、人間不信のはずなのに、私のことはわりと信用してくれている様子ですよね。まあ、突然異世界にやってきた驚きで信じざるをえなかったとか、私の見た目がハルカ様の思う「人間」の姿とは大きく異なるというのもあるんでしょうけど……私の希望的観測を言わせてもらうなら、多分ハルカ様は、本当は誰かのことを信用したかった、頼りたかったのだと思います。でも、今まではハルカ様を取り巻く環境がそれを許さなかった。だからこそ、そのしがらみから解放されたこの世界で、私のことを信じてくれたんじゃないか、頼ってくれたんじゃないか、と思いたいですね。まあ、そうだとしても本人は無自覚でしょうけど。

「……? どうしたの、オルネ。急に黙って」

「あ、いえ。少し考え事を」

 まあ、理由はどうあれ、現状ハルカ様が私のことを信用してくれているのは確かだと思うので、とりあえずはそれでいいです。でも、ハルカ様の過去を知っている私だからこそ、その信用を裏切るわけにはいきません。それをしてしまえば、せっかく前を向き始めたハルカ様を、再び絶望の底に叩き落とすことになってしまいますから。それだけは、絶対にしてはいけません。もちろんこのお2人にも、そういう行為だけはしてほしくありません。

「……お2人とも、今後もハルカ様をお願いしますね」

「……な、なによ突然。そんなの、言われなくたってそのつもりよ。あんな戦力、誰に頼まれたって渡す気はないわ」

 ……そういう意味では、ないんですけど……。まあでも、このお2人なら私が心配するような事態にはならなそうですし、安心ですかね。

「……確かに、ハルカさんが入ってからの攻略速度はちょっと異常だよね」

「そう、そうなのよ! なんなのよアレ、こんな深層で1日に何層も進むなんてありえないわよ!」

「まあ、ハルカ様の戦闘力もさることながら、私の道案内もついてますからね」

 攻略速度に関しては私もだいぶ貢献している自覚があるので、ちょっと自慢げに言いつつ胸をはります。

「……確かに、オルネさんのサポートも結構大きいよね。マッピングとかボス部屋探索の手間が一気になくなったし」

「それはそうね。やっぱり、アンタもパーティに入ったら? ハルカの言いぶんもわからないではないけど、経験値を貰うだけの貢献はしてると思うわよ?」

「んー……でもやっぱり、それはハルカ様次第ですかね。私はあくまでハルカ様の案内役なので」

 それと、これはお2人には話せませんが、あまり積極的に次元間転送者の戦闘を手助けするなというお達しが上から出ていたりするので。だから、ハルカ様が助けを求めない限りは、私はパーティや戦闘に加わることはしません。それに、経験値がもったいないというハルカ様のお話も割とまっとうですしね。

「む。まあ、アンタがそう言うならいいけど……気が変わったらいつでも言いなさいよ?」

「私たちはいつでも歓迎だからね」

「……ありがとうございます、クレア様、プリム様」

 ……やっぱりこのお2人はいい方たちです。きっと、あのハルカ様の凍てついた心も、このお2人なら融かしてくれるに違いありません。

「……ところであの、クレアちゃん、オルネさん。もうすぐ7時になるけど……」

「「ご飯!」」

 のんびりお湯につかっている場合ではありませんでした! お風呂でゆっくりするのも捨てがたいですが、2日続けて朝食を食べそこなうのは勘弁です!

「プリム、オルネ! さっさと上がるわよ!」

「言われなくても!」

 私とクレア様が同時に立ち上がり、脱衣所へダッシュで向かいます。私は飛んでますけど。

「え、えっ? ふ、2人とも、行動がはやいよ~!」

 1人出遅れたプリム様が慌てて私たちの後を追って走ってきます。

「きゃうっ!」

 危ないなー、と思っていたら案の定転びました。

「うー……痛いです……」

「お風呂場で走るからよ」

 額を両手で抑えるプリム様に、先程まで平然とお風呂場を走っていたクレア様が近寄っていって助け起こします。

「ありがとう、クレアちゃん」

「いいって。それよりほら、さっさと出るわよ。あたし、朝ご飯はちゃんと食べたい派なんだから」

「そうだね。クレアちゃん、朝ご飯食べないとナマケモノみたいだもんね」

「そこまでひどくはないわよ!」

「いいから早く上がりましょうよ~」

 自力ではお風呂場の扉を開けられない非力な私はお2人を急かします。こういう時は、やはり人間用のお宿は少々不便ですね。

「わかってるわよ! ほらプリム、行くわよ!」

「う、うん!」

 こうしてバタバタとしながら3人でお風呂場から出ます。慌ただしく着替えをして脱衣場を出て、ハルカ様の部屋に辿り着いたのは7時ギリギリでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ