スマイル
「バッカヤローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
「青春だねぇ」
「いつから居たんだよ先生」
「う~ん・・・忘れちった!」
「忘れちった!って、オッサンが言っても可愛くねぇんだよ」
「オッサンって、俺まだ30代よ?傷付くなー傷付くなぁー」
「オッサンじゃねぇか!・・・って、あんた何でここに居るんだ?あんたこの前死んだよな?」
「うん、そう。俺死んでるよ!」
「って・・・えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
と、こんなバカバカしいセリフで始まったオレ(17歳)と先生(享年32歳)のおかしな話はやはりバカバカしいセリフで続くのだった。
「そりゃあ驚くよねぇ、驚いちゃうよねぇ、俺も驚いてる位だし?」
白衣を着た先生は、タバコを口にくわえ手を叩きながらゲラゲラゲラゲラ笑った。
生きている時と変わらぬ姿で、変わらぬ口調で相変わらずのムカつくニヤけた顔で立っていた。
「位だし?じゃねぇよ!さっきも言ったけど、可愛くねぇんだよ!」
オレは先生の横顔を睨みつけながら怒鳴りつけてやった。
先生は何食わぬ顔で口笛を吹き、くわえていたタバコを指先でもてあそんでいた。
「なぁにシカトしてんだよ!」
「シカトなんてしてないよ、スルーしただけだよ!」
「だよ!って可愛くないし、スルーもシカトも同じじゃねぇか!」
それでも先生は飄々とした顔で短いタバコを吸い、フーッと煙を吐いてそれを携帯灰皿へ入れて、新しいタバコを出して吸い始めた。
「同じようでさ、違うと思うんだよね俺は。俺とお前が違うようにさ」
「・・・・・・って、あんたとオレが違うのは当たり前!全くの別人!他人なんだからよ!」
「他人・・・ね。ところで、弟は元気?」
先生はこちらを向いて首を傾げながら訊いてきた。
「オッサンが首を傾げても可愛くないっつーの!」
「そう?」
「そ・う・な・の!当たり前だろ!」
「ふぅーん・・・で、弟くんは元気なのかな?」
「元気・・・なんじゃね?あいつの事だし」
「そう」
先生の顔からニヤけが消えた途端、オレは気まずくなって色々とまくし立てて訊いた。
「てか、死人のクセに何で足があるわけ?」
「何でたろうねぇ?」
「死人のクセに何で点滴してるわけ?」
「う~ん・・・死ぬ直前までしてたから?」
「死人のクセに何でここに居るわけ?」
「それ、最初にも訊いてたよね(笑)」
「(笑)じゃねぇし」
「(爆)」
「(爆)じゃねぇし」
「( ΦωΦ )」
「わけ分かんねぇよ。その小さな丸メガネ意味あんの?」
「オシャレ?」
「オシャレじゃねぇし」
「そうかなぁ?」
「そうだよ!」
「ふぅーん」
「その白衣に意味あんの?理科の教師だったからは無しで!」
「あ、そうきたか。う~ん・・・憧れの先生が同じ様に着てたから・・・かな?」
「それ、女?」
「そうだね、女の先生」
「でさ、でさ・・・」
「ん?」
「・・・あんた何で死んだわけ?」
「それは知っての通りバイクと電車の事故で・・・」
「そうじゃなくて、理由とかそういうのじゃなくて・・・何て言えば良いんだ?えっと・・・」
「・・・どうして、お前じゃなくて俺が死んだのか?って事?」
「そうだよ!何でオレが生きてるんだよ・・・何で・・・あんたが・・・あんたが死んだんだよ!」
「さぁ?どうしてだろうね?」
いつものニヤけ顔でなく困った様な顔になった先生は、河原の砂利を蹴りながら考えていた。
「先生・・・だからかな?」
「えっ?」
「先生だから生徒を守って死んだ!カッコイイだろぅ!」
「そんなの・・・全然カッコよくねぇよ」
「そう・・・かな?困ったなぁ」
更に困った顔になった先生は、点滴をしていない方の手で頭をかき、再び足下の砂利を蹴り始めた。
そう、何故オレでなく先生が死んだんだ?これはベッドの上で・・・病院の・・・ベッドの上で何度も何度も考えていた事。
あの日あの時、オレは死ぬ筈だった・・・死ぬつもりだった。
なのに・・・生きてる。
それは多分、他人からしたら些細なケンカだったと思う。
当の本人でさえ忘れてしまった位だから、本当に些細な事だったのだろう。
だけど、そんな事でも死を選んでしまう程、オレはあの時追い詰められていた。
どうしてどういう風にケンカになったかは忘れたが、お袋とケンカをしてカッとなったオレは、メットも被らずバイクを走らせた。
何処へ行くわけでもなく走り続け、遮断機の降り始めた線路が遠く目の前に見えた瞬間、無意識の内にバイクのスピードを上げていた。
止まるつもりも無かったし、どうにでもなれ!と思っていた。
電車が見えた。ぶつかる!と思った瞬間白い物が目の前に現れた。
そして赤が見えて、すぐに世界は闇に包まれた。どれ位闇の中に居たのだろう?名前を何度も呼ばれて目を開けると、そこには真っ白い天井とお袋や弟達の顔があった。
それから数日は怪我の痛みやら何やらで、自分の身に何が起きたのか理解出来なかったが、それが少し治まると死のうとしていた事を思い出し、何故死ねなかったのかと思い痛みを忘れて死なせてくれと暴れた。暴れて暴れて暴れまくった。
そして、先生の死を知らされたのは、暴れる事にも死ぬ事を考える事にも疲れた頃だった。
聞かされて思い出したのは、電車にぶつかる直前に現れた白だった。
あれが先生?俺のせいで先生は死んだ?
何故?どうして?何故?どうして?
訊きたかった。何故?訊きたかった。どうして?
何故あんたは死んだ?どうしてオレは生きてる?
目の前に現れた先生はオレに怒りをぶつけるでも恨みを言うでもなく、逆に守って死ねた事に誇りを持って嬉しそうに見えた。
「マジでカッコ悪い」
「そこまで言う?傷付くなぁ」
「や、先生じゃなくオレがだよ」
「どうしてさ?」
「死ねなかった挙句、あんたを死なせちまったからだよ」
「あれれぇ?守ったつもりだったけど守れてなかったか・・・困ったなぁ」
「何がだよ、オレはあんたに守られて死ななかっただろ?」
「それはさ、お前の心だよ、心」
先生はそう言うと、拳を作りトントンとオレの胸を軽く叩いた。
本当は音もならなかったし、当たってもなかったけどそんな気がした。
「うっせ、そこまでされる覚えはねぇよ」
「えぇーっ、させてよ、これでも先生なんだからさぁ」
「てか、何で死人がタバコ吸ってんだよ。息なんてしてないくせに」
「してるよ、息」
「は?」
「お前はしてるの?心の呼吸」
「またそれかよ」
「何度でも言うよ」
「しつこいなぁ」
「うん。俺、しつこい奴だから」
「あっそ」
「お前ちゃんと心の呼吸してる?」
「知らねぇ」
「心が疲れてる時ってさぁ、皆心の呼吸が上手く出来てないんだよね。疲れたなぁって思ったらさ、深呼吸したら良いんだよ。心でも体でも。そして休む。そうしたらさ、疲れだって取れるんだよ。心も体も」
「いつも言ってるなそれ」
「うん。でも、この言葉は俺が考えたんじゃないんだよね。実は」
「じゃあ、誰が考えたんだよ。憧れてたっていう女の先生?」
「違う。命の恩人」
「命の恩人?」
「うん。これ見て」
そう言うと、先生は点滴をしていない方の腕を見せてきた。色白で細い腕。
「相変わらず細い腕してんのな。女みてぇ」
「そうじゃなくて、手首見て手首」
「手首?」
「そう」
やっぱり細くて今にも折れそうな・・・ん?
手首のそこには沢山の沢山の傷跡があった。横にはしる傷跡。斜めだったり歪だったり色々な傷跡。
「これって・・・」
「うん。リストカットしてたんだ、俺。学生の頃。そうだなぁ・・・お前位の頃だったな確か」
そう言うと、先生はオレから少し離れ、平らな石を見付けては川に投げ始めた。水切りとかいったっけか。
「何ガキみたいな事してんだよ」
「良いだろ。お!遠くまで行った!」
「何で・・・」
「ん?」
「何であんたそんな事・・・」
「水切り?」
「違う、その手首の・・・」
「これ?多分、お前と同じ理由。よし!また遠くまで行った!」
「同じ理由?」
「うん。俺の場合は兄だったけど。優秀な優秀な兄が2人。俺、3人兄弟の末っ子なんだ」
「分かる気がする」
「そうかなぁ?くそっ上手くいかなかった。・・・12歳離れた長兄は人を助ける人になりたいって医者になった」
「歳離れ過ぎ」
「俺、後妻の子だから」
「後妻っていつの時代だよ」
「で、次兄は似たような理由で弁護士になった」
「何歳上の?」
「9歳。・・・疲れた。死んでも疲れんのな。フーッ」
「それで?」
「ん?」
「どうしてそんな事したんだよ」
「どうして・・・か・・・。くそっ点滴してるから座れないや」
「そんなの外しちゃえよ。どうせ死んでんだし」
「そうか!よいしょっと・・・フーッ疲れた」
「で、理由」
「理由は・・・俺を見て欲しかったから。兄達と比べるんじゃなく、俺自身を見て欲しかったから」
「・・・」
「俺はお前と違ってさ、外に発散出来なかったからさ、比べられる度にやってた。隠れてこっそり。やった後見付かって、カッター取り上げられて、理由訊かれても言わなくて・・・気付くわけないのにさ、俺の気持なんて」
「・・・」
「で、この1番酷いやつの時、本気で死のうと思ってた。死んでやる!って思い切りカッターに力を入れたよ。躊躇いも無くバッサリと」
「・・・」
「死の淵をさまよってる時ってさ、三途川が見えるって言うけど、俺には見えなかったなぁ。ただただ暗闇が広がってるだけ。熟睡してる時ってさ、夢なんて見ないで真っ暗でさ、あっという間に起きるって感じでしょ?あれと同じ。手首切って、その後世界が真っ暗になって少ししたら誰かの呼ぶ声がしてさ、目を開けたら目の前に白い天井が見えた」
「・・・」
「母さん泣いてたな、目を腫らして。父さんも珍しく泣いてたな。最初で最後だったな、父さんの泣いてるところ見たの」
「・・・で、命の恩人って結局誰だったわけ?」
「お前、相変わらずせっかちな。話もまだ終ってないのに」
「悪ぃ」
「良いよ。それで、俺は精神科って所に入院したわけだけど、そこの先生が命の恩人」
「女?」
「残念。男の先生」
「BL?女子がよく言ってる」
「違います。こんな見た目だからよく間違えられるけど、俺はノーマル。女の人が好きな普通の男」
「つまんねぇの」
「つまらなくて悪かったね」
「で?」
「入院した俺は、出された食事も取らず薬も飲まず、ずっと点滴うけてた」
「だからそんなに痩せてんだ!」
「違うよ。これは単なる体質。元々太れない人間だったの俺。って、ちゃんと聞いてて」
「へーぃ」
「看護師さんに何を言われても窓の外ばかり見て聞いてないふりして、回診に来た先生にも同じ事して、誰に何を言われても無視してた。ただただ死ぬ事だけを考えてた」
「え?誰も怒らなかったのか?人の話を聞け!って」
「多分言ってたと思うよ。俺が聞いてなかっただけで。時々カーテン閉められたから、その時怒られてたのかも。でも、俺はずっと窓の方を見てた」
「首疲れたりしなかったのか?」
「全然。でも、後々になって痛かったのはそのせいだね。で、その内、死のうって気も無くなって考えるのも疲れたある日、前を見たらね、ニコニコ笑ってこっちに手を振ってる先生が居たんだ」
「何だそれ、キモッ」
「そんな事言わないであげてよ、良い人なんだから」
「若い人だった?」
「そうだね。多分40代位だったのかな?頭頂部は薄らってたけど(笑)」
「(笑)って、それあんたのせいじゃねぇの?」
「そうかな?ま、それは置いといて」
「置いちゃうんだ」
「うん。で、そんな先生に俺が気付いた事が分かった先生は俺の横に来て言ったんだ」
「心の呼吸してるか?って?」
「違う。ん?何ズッコケてんの?ま、良いや」
「良いのかよ!」
「うん。で、先生は言ったんだ。考えるの疲れたかい?って。俺が頷いたら、深呼吸してみてって言った。俺は言われた通りにした何度も何度も。それでも駄目だった。楽になったかい?って訊かれても、頷けなかった。そしたら、言ったんだ。心の深呼吸してみてって」
「わけ分かんねぇ」
「そうだね。その時の俺もそう思った。今は分かる気がするけど。で、言われたんだよ、あのセリフを。やっぱり意味が分からなかったけど。そしたらさ、何故か先生の顔がボヤけてったんだ」
「説教されて眠くなったのか?」
「違うよ。俺泣いてたんだよ、ボロボロ涙流してさ」
「女みてぇ。ガキみてぇ」
「女じゃなくてもガキじゃなくても泣いて良いんだよ人間はね」
「・・・」
「そうして、泣いて泣いて泣きまくった後、気付いたらさ。心がスーッと楽になったんだ。本当にスーッと」
「・・・」
「そしたら、急にお腹が空いて、腹減った!って言ったんだ」
「何だよそれ」
「だって本当の事だもん」
「だもんって可愛くねぇって」
「ダメ?」
「ダメ」
「(笑)」
「(笑)」
「それからはさ、食事もちゃんと取るようになって、薬も飲んで寝て、看護師さんや先生の言う事聞いて。でも、心のモヤモヤははれなかった」
「あれ?さっき、心がスーッとなったって言ってなかったか?」
「それは一時的なもの。根本的なのは治ってなくて、俺口下手だからさ・・・」
「どこがだよ」
「訂正。若い頃の俺は口下手でさ・・・」
「もう若くないって分かってんじゃん」
「うるさいな。心はまだ若いんだよ」
「あっそ」
「そう。で、口下手な俺は、言いたい事伝えたい事が上手く出なくて困ってた。そうしたら、先生がこれをくれたんだ」
先生はそう言うと、ノートと短くなった鉛筆を取り出して見せた。
ノートの表紙には交換ノートと書いてある。
御丁寧に先生の名前の書いてあるそれは、使い込まれて少しボロボロになっていた。
「交換ノートって、今どき女子だってやらねぇよ。しかも、No.1って何だよ」
「そこは気にしないの。No.1ってのは、ノートが他にもあって、これがその1冊目だからNo.1」
「そんなの書く必要ねぇじゃん」
「そうだね。俺もそう思ったんだけど、先生が、また辛くなった時に読む為に書いておこうって」
「で、読む時あったわけ?」
「あった、あった。大人になっても何度も」
「オレらの担任になってもか?」
「うん。死ぬ時までずっと。特にこれは、あの時も白衣のポケットに入れてあった位肌身離さず持ってたよ」
「それにしては、それキレイじゃね?」
「そりゃあ、本物は血まみれでボロボロだろうけど、違うからね。それを言ったら、俺だって血まみれでボロボロの筈じゃん?」
「げっ」
「想像した?想像しちゃった?」
「うっせ」
先生の通夜に行けなかったオレは、行ったダチに聞いただけで知らなかったけど、先生の遺体はボロボロで特に顔がボロボロで、生徒は誰もその死に顔を見せて貰えなかったそうだ。
でも、見せて貰った教師に聞くと、確かにお前達は見なくて良かったと言って、でもその口はいつも見せてた笑顔の時そのままで、良い死に顔だったんじゃないかなとも言っていたそうだ。
遺影そのままだったって。
退院したオレが線香をあげに行って見た遺影は本当に良い笑顔で。
童顔を気にしてたクセに、写真を撮る時はいつも子供みたいに満面の笑みで、一緒に居たオレらもつられて笑ってた事思い出して泣いたんだよなオレ。
「ガキみてぇ」
「ん?」
「あんた本当にガキみたな顔してんなっておもっただけだよ。オッサンのクセに」
「何だよそれ、気にしてるの知ってて言うか?普通」
「その膨れっ面、マジでガキ丸出し」
「怒るよ!」
「その顔で怒られても怖くねぇし。ひーっ、腹痛てぇ」
「やっと笑った」
「えっ?ずっと笑ってたじゃんオレ、(笑)とか」
「それは心から笑ってたわけじゃないでしょ?でも、今のは心から笑ってた。違う?」
「うっせ」
「照れた?、照れちゃった?」
「うるせぇよ」
「ちゃんと守れなくてごめんな」
「だから、そこまでされる覚えは・・・」
「それ」
先生は、オレの乗っている電動車椅子を指さした。
利き手と両足の膝上から下を無くしたオレがこれから一生乗らなければならないもの。
「これは自業自得ってやつで・・・」
「そうなってしまうまで、何も気付けなかった事にさ。本当にごめんな」
「謝るなよ。怒れなくなるじゃん」
「でも・・・」
「それ以上言ったらボコるぞ!」
「どうやって?」
「利き腕じゃないけど、腕があるからそれで・・・」
「俺、死人。お前生きてる。触れないでしょ?さっき俺がお前に触れなかった様に」
「・・・」
「だからさ、謝らせて・・・」
「うるせぇな、それ以上言うな!この拳で、殴れないなら、心の拳で殴ってやる!ボッコボコのギッタンギッタンに」
「何それ?心の拳とか、ボッコボコのギッタンギッタンって・・・・・・お前、泣いてる?」
「泣いてねぇよ。泣くわけねぇじゃん。これは心の汗だ!」
「心の汗っていつの時代の人間?お前」
「今の人間だよ!いちいちうるせぇな」
「うるさくてごめんね」
「だから、謝んなって」
「何かずっと謝ってるね俺」
「前からじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「気付かなかった。癖って本当に分からないもんだね」
「そんなもんだろ、癖って」
「お前は、うるせぇが口癖だよね」
「うるせ・・・うるせぇよ」
「泣いたと思ったら、今度は怒ってる」
「うるせぇな」
「今度は照れた?」
「うっせ。あーぁ、本当にバカバカしいな何か本当に」
「そうだね」
「否定しねぇのかよ」
「うん。バカバカしくて笑えるね」
「確かにそうだな。笑える」
「笑顔って良いね。生きてるって良いね」
「何だよ急に」
「あれ?忘れた?俺いつもテスト用紙とかに書いてたのに」
「忘れるわけねぇじゃん、あんなの」
「あんなのって言うなよ」
「だってよ、その言葉の横にあれだぞ。ガキかっての」
「良いじゃん良いじゃん可愛くて」
「女子は言ってたな可愛いって」
「でしょ?でしょ?」
「オレらからしたらガキのイタズラ書きだけどな」
「スネてやる」
「ほらガキだ」
「うるせ」
「何だよ、人の口癖真似すんなよ」
「良いだろ」
「良くねぇ」
「良い」
「良くねぇ」
「良い」
「だから良くねぇって」
「本当に良かった」
「何がだよ」
「お前が笑える様になってさ」
「ずっと笑ってたよ、あんたが知らなかっただけで」
「そう?」
「そうだよ!」
「ふぅーん、なら良いんだけどね」
そう言うと、先生は立ち上がり白衣の汚れをパンパンとはらった。
「やっぱり、こんな所に座るとケツ痛いねぇ」
「何言ってんだよ死人のクセに」
「死人でも痛いものは痛いの」
「そんなもの?」
「そんなもの」
「あっそ」
「笑顔って良いね。生きてるって良いね」
「しつこいぞ」
「うん。俺しつこい奴だから」
「また言ってる」
「忘れないでね」
「あんたがしつこい奴って事?」
「違うよ。笑顔って良いね。生きてるって良いね。って言葉だよ」
「忘れるわけねぇじゃん」
「ん?」
「何でもねぇよ。仕方ないから覚えといてやる」
「横に書いてたあれもね」
「何でだよ」
「良いじゃん、良いじゃん」
「分かったよ」
「良く出来ました」
「ガキ扱いすんな!」
「それから、俺の事も。俺が居たって事も」
「忘れるわけねぇだろ!忘れねぇよ!」
「ありがとう」
そう言うと先生の体が光りだした。
「それ、何だ?」
「う~ん・・・お迎えが来たんじゃない?」
「何で?」
「俺、死人だから」
「そうじゃなくて、何で今なんだよ!」
「未練が無くなったから?」
「から?って何だよ!未練って何だよ!」
「ヒ・ミ・ツ!」
「だから可愛くねぇって」
「へぇー、そうなんだ・・・」
「何がだよ」
「見えちゃった、お前の将来の夢」
「は?何言って・・・」
「叶うよ、きっと。お前ならね。そしたら、白衣着てね」
「うるせぇよ」
「照れた?照れちゃった?」
「だから、うるせぇって・・・」
「もうお別れだね。あ!でも、また来ちゃうかも!」
「もう来るな!」
「冷たいんだぁ」
「うるせぇ」
「バイバイ」
先生はそう言って、満面の笑みで手を振り消えていった。
「あーぁ、腹減った。帰って飯食おう」
オレは、車椅子を動かし家へ向かった。
その後、先生は言ってた様に、何度もオレの前へ現れるのだが、それは別の話。
☺笑顔って良いね
生きてるって良いね
はじめましての方もそうでない方も、読んで下さりありがとうございます。
これまたノートに書いたのの4作目です。
お気に入りです。
尊敬する某脚本家の方の作品のイメージなんかを参考にして勢いで書きました。
読んだ妹に、先生がウザかわいいと言われました(笑)
やはり名前やなんかが不明で読者様の想像力に任せるしかないと(笑)外伝なんかが書けたら、先生の名前はあかされるかも(笑)
では、また次の作品でお会い?しましょう。
ここまで読んで下さりありがとうございましたm(_ _)m