彼女を殺したのは彼、彼を壊したのは彼女。
ヤンデレ表現、R15指定の性的表現(行為表現はありません)が含まれます。ご注意ください。
あと男が果てしなく気持ち悪いヘタレクズです。イケメン設定ですがイケメンだからって何でも許されると思うなこのやろう。
もう、疲れた。
彼の部屋のゴミ箱に捨てられたコンドームを見て、思った。
「……ちゃんと捨ててよ。」
くしゃくしゃと無造作に捨てられたティッシュはどこかで嗅いだことのあるような匂いを放っていて吐きそうになる。
彼の家に来たのは2週間ぶり。目の前のそれらは新しい。
何度目だろう、と思う。彼がこうやって浮気したのは、何度目だろう。
初めは付き合って3週間。一人暮らしの彼の家に、携帯用メイク落としと口紅のついたカップがあった。
その時は一気に頭が冷えて、信じたくなくて、怒りというよりは悲しみと焦りが強かった。恐る恐る尋ねると、簡単に彼は白状する。
涙が溢れて止まらなくて、自分のものとは思えない、甲高い声で彼を罵った。なんで、なんで。昨日だって一昨日だって、私達仲良く手を繋いで歩いたじゃない。なんで。
〝別れる〟という言葉は衝動的に出てきた。その瞬間、彼が私の唇を塞いだのである。
そっと、自分の指で唇に触れた。目を閉じて彼のキスを思い出す。優しくて、何故かいやらしさがない、大好きな彼のキス。
あの時もキスは驚くほど優しかった。強引に口付けられ、頭を固定されて、逃げられなかったキス。それなのに優しくて、相変わらず大好きな彼で。涙はよけいに溢れてきた。
唇を離されて、真っ直ぐ見つめられて、一言〝ごめん〟。
ずるいよ。
いつだって彼はそうだった。その後された浮気も同じように丸く収まってしまった。回数なんて数えていない。数えると自分がただ惨めで愚かで、死にたくなるからだ。
ずるいのだ。彼はずるい。何度も浮気してそのくせ私と別れないでセックスもして。それなのに、私が好きな彼のままなのだ。
だから別れられない。きっと今回だってそう。私は彼を嫌いになんてなれない。
閉じていた目を開ける。でもゴミ箱の中身は消えない。私はその中のティッシュを一つ拾い上げて、丁寧に開く。
乾いてしまった彼のであろう精液はカピカピしている。ティッシュのしわをなぞるように、指先で触れる。
変態のような行為だ。こんなところ見られたらなんて言われるんだろう。軽蔑されて、幻滅されて。白い目で見られて、罵倒されて。
そこまで考えて、想像して。駄目だ、と思う。私はもう、駄目だ。
どんなに酷いことをされたって、もう心は動かない。痛みも悲しみも感じることが出来ない。
お茶を煎れてくれている彼の元に向かう。キッチンに立つ彼は、やっぱりかっこいい。
「ねぇ」
なんでもないように彼の背中に話しかける。彼は私の方を向く。
「別れよ。」
広げたティッシュを見せて、ダイニングテーブルに置いた。
彼は驚いたのか目を見開いていて、しっかり者の彼には珍しい表情に思わず笑ってしまう。
会話をするのがめんどくさくて、そのまま玄関に向かおうとしたが腕を引かれてしまう。
後ろにいた彼の胸に飛び込んでしまって、ふわり、彼の好きなコーヒーの香りがする。豆を挽いたのだろうか、そんなことを考える。
そのまま口付けれる。少し乾燥した彼の唇は、柔らかい。
キスに驚かない自分に内心苦笑いをした。きっと彼は離してくれないので、されるがままになる。
深く深く口付けられ、離れた唇は透明な糸で繋がった。けれど重力に逆らえないそれは垂れて、切れる。
「……別れよ。」
彼の口が開く前に私がそう言うと、彼はまた驚いた顔をしていた。私はまた、笑ってしまう。でも少しだけ、泣きそう。
「ごめんね、もう駄目なの。もう、キスすら何も感じない。」
好きだよ。大好き。
貴方が駄目なんじゃない。私が。
私がもう、駄目なの。
「私ね、何も感じなくなっちゃった。疲れた、疲れちゃったよ。これ以上一緒にいたら、きっと、」
胸が苦しくなってくる。顔が熱くなってくる。
それに安心している自分がいた。
久しぶりの、〝疲れた〟以外の感情。それは貴方への〝好き〟のように、掴みどころのない、遠いものではない。確かに今私の中にある感情。
「私きっと、死んでしまうわ。」
感情の名前は、〝辛い〟。
彼の腕の中を離れて、今度こそ玄関に向かう。
彼は追いかけてこない。わかっていたけど、辛い。
あぁ、辛いの!
何が起こったのかわからない。
俺はそっと、自分の指で唇に触れる。そこにはまだ他人の温度が残っている。けれど彼女は、もういない。
死んでしまうと言った彼女の表情は本物だった。久しぶりにみた作り笑い以外の表情に戸惑う。
バタンと音がする。俺は正気に戻って急いで玄関に向かう。
裸足のまま外に飛び出す。けれどもう彼女の姿はなかった。
状況に頭がついて行かなくて、俺は一度家になたか戻る。
家の玄関には、当たり前だが彼女の靴がない。それなのに彼女の為に煎れたコーヒーの匂いが家中に広がっていて、酷い頭痛がする。
彼女がいた部屋に入ると、端にあったはずのゴミ箱が部屋のど真ん中にある。
その中には昨日抱いた、もう名前も忘れた女に使ったティッシュが詰められている。少し漁ったのか底の方に捨てたコンドームが少し顔を出している。
一気に
吐き気が襲った
俺に嫉妬する彼女が好きだった。好奇心で妬かせようと、一度きりだと下衆い考えをした付き合って3週目のあの日。
泣いて怒る彼女に、正直とても焦った。冷えた頭は後悔と自己嫌悪しかなくて、〝別れる〟という彼女の言葉を聞いた瞬間、衝動的に口付けていた。
無理矢理口付けながら、何をしているのだろうと自己嫌悪が増す。言い訳を考える。俺は、別れたくなんてない。
「……ごめん」
頭の中で飛び交ったいくつもの言葉はどこにいったのだろう。
そんなありきたりな一言で、許されるはずなんてない。
許されるはずなんてない。許されてはいけない。
それなのに。
「……っ、ずる、い……。」
「……え」
「ずるい、よぉ……っ」
顔を上げた彼女は、泣いていた。
その表情に、ぞわりと何かが背中をかける。
泣きながら、強く抱きつかれる。ずるい、とか細い声が聞こえる。
目の前の彼女の姿を見て、ふつふつと興奮が湧き出てくる。
まずい。その顔は、その声は。
そんな、縋るように抱きつかれては。
「……ごめん」
クセになりそうだ。
何度も浮気を繰り返して、その度に俺から離れられない彼女を見てその回数分興奮した。
頭の弱い女は少し優しくしてやれば簡単についてくる。その上直ぐ濡れてがばがばのそこを軽くついてやればイく。
そこに愛なんて勿論あるはずが無いうえ、俺は彼女でなければ勃たない。だからいつも彼女のことを考えてセックスしていた。
この行為をすれば、彼女はまた泣く。縋る。
そう妄想するだけで、すごく興奮した。
好きだ。
大好きだ。
もっと縋って。
もっともっともっと。
何回〝もっと〟を繰り返したのだろう。
これは何回目の〝もっと〟だったのだろう。
考えると頭が痛くなって、水を飲もうとキッチンに向かった。
するとダイニングテーブルに白い紙が置いてある。
彼女が置いて行ったティッシュ。あのゴミ箱から拾われた1枚。
『別れよ』
今度こそ、吐いた。
その場で思い切り吐く。吐いて吐いて、もう腹に何もなくなったというのに吐き気は止まらなくて、ついには胃液まで出てきて。
やっと吐き気が収まったと思ったら、今度は呼吸が少しずつ苦しくなってくる。
はぁ、っ、はぁ、っ。不規則な呼吸。眩暈までしてくる。立っていられないと部屋に向かう。
けれど部屋に入ったあたりで限界になり思い切り倒れた。
幸い床にはカーペットが敷いてあり、怪我はなかったが痛みはあった。
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい。
「……か、な……っ」
彼女の名前を呼ぶ。その時、偶然目に止まったのは。
カーペットに絡まる一本の糸。光沢のあるそれに必死に手を伸ばす。
掴んで持ち上げる。呼吸が少し楽になる。
彼女の、花奈の髪の毛。
少しずつ苦しみがなくなっていく。俺はそれを大事に、切れないように撫でた。
口に含んでみる。味などあるはずないのに確かにそれは甘い。飲み込みたくなるのを我慢し。口の中で舐める。
「かな……かな……かなぁ……。」
あぁ、駄目だ。
俺は花奈がいなければ生きられない。
謝ろう。謝ってもう一度やり直そう。
そうだ、結婚指輪を買おう。謝って渡して、結婚するんだ。婚姻届を区役所で貰って、後は印を押せばいいだけにしておこう。
そして仲直りにセックスをしよう。結婚するだから、避妊具なんていらない。隔てなんて邪魔なだけだ。
家、家も探して。このマンションは少し狭いから、広い所を借りよう。一番広い部屋を二人の部屋にして。花奈が外に出なくてもいいように必要なものは全部揃えよう。
早めに準備をしなければいけない。けれど今はもう少しだけ、花奈の髪の毛を味わっておこう。
女の子が不憫で可哀想で仕方ない(´;ω;`)
後味悪くて男が気持ち悪くてすいません。