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プロローグ ワグナリア、運命の出会い

 それは、僕と妹の前に現れた巨壁。

 筋骨隆々の図体が腕組みをして待ち構えていた。

 こちらを見下ろす目は人の物ではなく、ギョロリとした一つ目をしている。

 それが僕を… いや、クスラを睨みつけていた。


 今にも振り下ろされそうな暴力を前に、僕は妹をかばって前に出る事しかできなかった。

 恐怖で足がすくみ、そこから一歩も動く事が出来ない。

 ただの案山子に成り下がっていた。  



 そこに… 場違いな声が響く。



「見て見て! ワグナリア!

 お兄ちゃんが私の前に出てくれた!! ク―――――――――!!」


 発生源は… 妹。

 振り向くと、そこには恍惚とした表情で僕を見詰める妹の姿があった。

 その何とも言えない表情に、僕を包んでいた恐怖が別の色を帯びる…


 お兄ちゃん… 正直、引いてしましました。 ごめん、妹よ。


「勿論ですとも! この不肖ワグナリア! 見届けさせて頂きました!! その愛ある行動を!!」


 『愛』と言う言葉を一際強調して、野太い声が轟いた。

 発生源は怪物。

 怪物が人の言葉を話す事にも驚いたのだが、それを超える衝撃が僕を待ち受けていた。

 腕組みを解き、太い両腕を掲げる怪物。

 すると信じられない程に隆起した力こぶを見る事が出来た。


「誓いますぞ―――――! 我が最愛の筋肉ひとにかけて! その愛を! 我が一族、末代までの語り草としましょう!!」


 僕はその光景に目を輝かせる。

 言葉の内容はともかくとして、彼が見せる力こぶが凄いと言う事だけは理解できた。


 ワグナリアと呼ばれた怪物は、僕の反応に気を良くしたのか、別の体位を取り自慢の筋肉を見せつけてくる。

 僕はそのポーズが変わる度に、目を奪われ、ワグナリアの肉体美を目に焼き付けていた。

 そこには、もう恐怖など存在しない。

 今や僕が向ける眼差しには、年相応な少年が持つ憧憬の光を宿していた。



「ちょ、ちょっとワグナリア! 話が違う!!

 お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから! 返して―――!!」 


 妹が放つ嫉妬の声で、僕は正気を取り戻す。

 そこには、申し訳なさそうに頭を下げる、巨漢の姿があった。


 あいつ、妹の知り合いだったのか…


「ワグナリア! アンタをお兄ちゃんの迎えに連れてきたのは、強面の顔が必要だったからよ!!

 勘違いしちゃダメ! ワグナリアは引き立て役!! そこを理解しているの?

 計画通り動きなさい! 私とお兄ちゃんの時間を奪う事の意味… 分かってるよね?」


 計画って何かな… 妹よ。

 それに凄く悪い顔してるいるぞ…


 後から知った事なのだが、妹は一つの事に夢中になると他に手が回らなくなるらしい。

 要するに、今は叱る事で手一杯と言う事だ。


 茶番が… 筒抜けである。


 でも、そのおかげで良い物が見れた。

 何れは、僕もあの様に成りたい。

 先程の肉体美を思い浮かべながら、心底そう思う。


 僕に明確な目標が生まれた瞬間だった。




 しかし、その前にやるべき事がある。

 本来、初めにするべきだった事。


 妹を見る。

 いまだに巨漢を叱りつける少女。 彼女には、聞く事があった。


 僕が… 何者であるのかを。


 彼女は、それを知っている筈だから。

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