課題実習
仲間集めが必死に行われている食堂のなか窓際にあるテーブルで二人の少女がお茶を飲みながら話していた。
「ねえルシーナ、私考えたんだけど、、、」
明るい茶色の髪で対照的な青空のような空色をした瞳の少女が目の前に少女に話す。
「どうしたのセフィー」
ルシーナと呼ばれた少女が飲みかけのお茶の入ったコップをテーブルにおく。
輝く金髪と褐色の肌そして特徴的な切れ長碧眼の少女である。
セフィーは先ほどから自分たちの頭を悩ませていた問題に解決策となるような案を導き出した。
「課題自習ってどんな課題でも実習実施期間中は出席免除の日数とれるでしょ」
彼女は活き活きとその案を親友であるルシーナに告げる。
「そうだけどそれがどうしたって言うの」
ルシーナは突然活き活きと語り出したセフィーに怯んだ。
少々とまどいながらも先をせかす。
「とりあえず遺跡探索にでもいこ。その後こっちで自分のやりたいことをやろう」
ルシーナはセフィーの提案したことを考える。
セフィーはとりあえず遺跡探索の名目で申請を出そうというのだろう。そして実習のための出席免除数を必要以上に多くとりその部分で本来の目的である魔法技術の自主研究をやろうというのだろう。
「まぁ全くできないよりはそのほう断然いいけど。どこかいい都市指定区域の遺跡なんてあるの」
ルシーナはセフィーの案に納得しながらもどうしてもそのことを聞かずにはいられなかった。
「ちょっと待ってね」
セフィーはルシーナから視線をはずし目を瞑り頭の中に地図を思い浮かべる。頭の中で順々に都市指定区域の遺跡まで往復の日数を思い出す。
そこで行える課題の最短達成日数を加える。
そしてその日数を出席免除としてとれる最大の日数からひく。
すぐ近くの遺跡にいけば十分自主研究の時間がとれる。しかしそれで課題実習の評価が低くなってしまえば次回からあまり自由に動けない。
かといって評価の高い課題をこなしたり、少し遠い遺跡に向かったりしたら、自主研究の時間はほとんどとれなくなる。
「ないかも、、、、、」
結局セフィーは自らが思い出せるだけの場所を思い出したがどれも納得のいく結果はえられなかった。
しょんぼりとするセフィーを見てルシーナは自分でもどこかいい場所がないか考える、がやはりこれと行った場所は出てこなかった。
別の案を考えようとしたルシーナはふとあることを思い出した。
「そういえば今年から指定区域の遺跡が一つ増えてなかった?」
ルシーナにそういわれセフィーは記憶の片隅から課題掲示板を見たときのことを思い出す。申請所の横の壁に貼ってあった都市指定区域の書いてある地図。そしてその下にはたくさんの課題表。
その地図に見慣れない遺跡があったことをセフィーは思い出した。
が、遺跡探索などするつもりなどなかったためそこまでの日数以外は詳しく見ていなかった。
「たしかその遺跡の課題で奥の石版の文字を写すだけって言うのがあったんだけど」
ルシーナは自信なさげに言う。
「その課題ならそんなに日数はかからないと思うんだけど」
「遺跡の位はどうなってた。ごめんその遺跡よく見てなかったんだ。」
セフィーはルシーナに質問する。
「確かサードクラスのはずだけど」
遺跡や神殿はその難易度から6段階に分けられる一番上が探索不能クラスのゼロ、次がファースト、セカンドとつながり一番下がフィフスとなっていた。
「それならルシーナがいれば3日かからないよ」
セフィーが安心したような声でいう。
ルシーナは軽く肩をすくめて言う。
「それはこっちのセリフよセフィー。でっどう間に合いそう?」
ルシーナに問われセフィーはその遺跡までの日数と行き方を思い出す。
「馬車に乗って隣の村まで一日そこで乗り換えて更に二日そこの村から歩いて約半日だから片道4日あればつくと思うんだけど」
独り言の用につぶやくセフィーの言葉にルシーナが確認する。
「多めに見て五日ってところ?」
「うん。それだけみても十分自主研究の時間はとれるよ」
うなずくセフィーは満面の笑みだった。
その後ちゃくちゃくと話を進め申請書は放課後に改めて一緒に出すことにし二人は食堂を後にした。
「じゃぁ後でねセフィー。」
「うんまたあとで。」
廊下で軽く言葉を交わし二人はそれぞれ教室へと入る。
ルシーナは自らの席に着くと申請書に必要事項を記入し始める。
セフィーは自らの席に着くと申請書に必要事項を書き始める。
・・・申請依頼者・・・ルシーナダ・シャムラ・・・
・・・申請依頼者・・・セフィルーナ・クレセント・・・
学園都市セルラノフィートに差し込む光がだいぶ傾いた頃フィラート魔法学園に一日の最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
鐘の音が響き終わると同時にたくさんの教室から生徒や教師が出てくる。
帰路につく者、友人と待ち合わせをする者、教室に残る者など皆思い思いに動き出していた。
学園の生徒のための大きな入り口から一番近い食堂の一角にセフィーとルシーナは向かい合って座っていた。
テーブルの上には二枚の申請所が置かれていた
「どこも間違えてないわよねセフィー」
ルシーナが念を押すようにセフィーに確認する。
「うん大丈夫だよルシーナ」
セフィーもしっかりとうなずく。
二人は申請書の記入箇所に間違いがないか最後の確認をしているところだった。
確認し終わったルシーナは申請書をしわのつかないように丁寧に布製の鞄にしまう。
ルシーナは目の前で確認しているセフィーに声をかけようとしたがやめる。
申請書には課題研究で行く場所以外に必要日数、必要経費、参加者などを書く必要がある。
セフィーはその一つ一つに書き間違いがないか確かめていた。
セフィーが確認し終わり布製の鞄にしまった頃ルシーナが二人分のお茶を持ってきた。
「これ飲んでちょっと休憩してからいきましょう」
そういってルシーナはセフィーの前にお茶の入ったティーカップをおく。
「ありがとうルシーナ」
お礼を言ってセフィーはカップに手を伸ばす。
しばし休憩をとっている時、ルシーナはセフィーに肝心なことを聞き忘れていたことを思い出す。
「そういえばセフィー、今回は何か作るの?」
突然のことでいまいち理解していないセフィーにルシーナは言い直す。
二回目でルシーナが聞きたいことを理解したセフィーはにこやかに話し出す。
「今回はこれを自分で作れるようになりたいなぁって思ってる」
そういいながらセフィーは自らの頭の後ろ側に手を回し髪につけている髪飾りを手に取る。
金属でできた細長い棒のようなそれは片方が途中から二股になっており、もう片方は青い小さな宝石の用に澄んだ水色の石が飾りとしてついていた。
ルシーナはそれを見て、それがなんなのかすぐに理解した。
「それあなたのお母さんの形見の髪飾りよね」
セフィーは小さくうなずく。
「これお母さんが私のために作ってくれた物なんだけど、ただの髪飾りじゃないんだ」
大切そうにそしてどこか自慢げにルシーナに説明する。
「どういう効果があるの」
ルシーナは尋ねる。
「秘密って言うよりまだよくわからないんだ。今回わかったらルシーナに同じの作ってあげるね」
セフィーはそういいきると、小さく笑い髪飾りを元のようにつけなおした。
「そういえばルシーナは今回どうするの」
そして今度はセフィーがルシーナへと尋ねるのだった。
ルシーナの今回の予定を聞いていたセフィーは、食堂に普段見慣れない格好をした人物がいることに気がついた。
男のようだったがどう見てもここの学園の者ではなかった。髪は短く短髪で体つきは自分のクラスの男子と比べようがないぐらいがっちりしており背も高い。
そして何より違うのが腰のベルトから下げているのが杖やステッキではなく剣であると言うことだった。
何事かとセフィーは食堂を見渡したところ同じような男が何人も食堂にきていた。
そのうち何人かは魔法学園の生徒に声をかけていた。
セフィーは彼らが何者なのか何となく見当がついた。
おそらくこの学園の右隣の方向に位置する、剣術や古武術などの武術を専門的に学べる学園の者だろうと。
「セフィーどうしたの?先からきょろきょろしてるけど」
挙動不審なセフィーに心配そうにルシーナが声をかける。
「ごめんねルシーナちょっと見慣れない人たちがいたから」
セフィーは簡単に訳を説明した。ルシーナもセフィーに言われ周りを見て納得する。
課題自習は都市にある学園がほぼ同時に行うため実習を行うときの仲間集めは学科、学園、学年に関わらず自由だった。
フィラート魔法学園は右隣に武術を学ぶ学園が左隣に工学を学べる学園が建っている。
武術を学ぶ学園の生徒はどうしても自分の力を試したくてたまらないのか課題実習では遺跡の探索や調査、討伐や駆除を希望する者が多い。
魔法学園でも魔法での戦闘を重点的に学ぶ魔法武術科の生徒はほぼ全員が探索や調査の他魔物の討伐などを希望している。
しかしどちらの場合もその学科を学びたいだけで所属しており半分ほどがさほど実力もないのが実情である。
本当に力がある者、武術ならば魔法の補助を必要としない程の技や腕をもっていたり、魔術ならサポートなしで武術並みに俊敏せいをもっているなどである。
事実、セフィーやルシーナにいたっては二人とも魔法武術科に所属していないが彼女たちに魔法の実力で勝る者は同学年では誰一人としていない。
そういったことから実力のある者は一部例外はあるもののほぼ同じ学園の中で仲間を見つけ課題実習に参加する。
この時期になって仲間を捜している調査や探索希望の生徒は高い確率で生半可な力しか持っていなかったりする。
「セファルーナ・クレッセントさんですよね」
あまりに周りに意識を集中させすぎていたせいでセフィーは自らを呼ぶ声に気づくのが遅れた。
いそいで呼ばれた方に視線を向けると緊張した面持ちで二人組みの少女たちが立っていた。
「セファルーナ・クレッセントさんですよね」
確かめるかのように向かって右の少女が言う。
首元のローブを止めるリボンの色から一つ下の学年だとセフィーは気づく
セフィーは一瞬そのとうりだと頷こうとしたけが、どこかおかしな気がした。
「セファルーナさんですよね」
今度は向かって左の少女がそう尋ねる。
あきらかに名前を間違えて言っている。
セフィーはどうしたものかとルシーナを見る彼女は軽く首をすくめて見せた。
セフィーが視線を戻す前に先ほどの少女が今度はルシーナの方を見て声を出す。
「そちらの方はルルシーナラ・シャムダさんです、、よね」
戻しかけた視線をルシーナに戻したセフィーは彼女と目が合うとそろってため息をついた。
またかと。これで何度目だろう。魔術師として同学年では並ぶ者のいない二人はは今まで幾度となくこの時期に声をかけられてきた。一緒の仲間に入らないかと。
声をかけてくる者のほとんどが自分たちの名前を間違わないでいえない。
目の前にいる少女たち例外ではなかった。
何も言わないセフィーとルシーナの態度を肯定ととったのか少女の一人が話し始める。
「実は私たち2年でセファルーナさんルルシーナラさんたちのひっとっ」
「「すいません人違いです」」
少女が言い切る前に二人は声をそろえてきっぱり言う。
突然のことに二人は驚きを隠せない。
右側の子がふるえる声で言う。
「だってあなたたちってセファルーナさんとルルシーナっ」
「セファルーナでも」
「ルルシーナラでも」
「「ありませんから。それじゃぁ失礼します」」
途中から声をだぶらせながら。セフィーとルシーナは言い切る。
そして顔が赤い二人の前を横切り食堂の入り口あたりきたところで今度は別の一人が進路を遮る。
「全く失礼な子たちだったわね。セフィルーナにルシーナ」
リボンの色はセフィーたちと同じ色であった。
「私は魔法武術学科3年ゆっ」
ルシーナは素通りしセフィーは布製の鞄から申請書をだし彼女に見せながら食堂を後にする。
実力のない者ほど課題実習で難易度の高いことを行おうとする。
普段の成績がいまいちでもこの課題実習で高評価をされることで全体の成績をよくしようとする者も多くいる。
フィラート魔法学園の申請所に一番近い食堂でセフィーとルシーナはまたもや向かい合って話していた。
彼女たちは一度申請所まで足を運んだのだが順番待ちの生徒の多さに一端近くの食堂で時間をつぶすことにしたのだった。
申請書は受付員が受け取った後に申請許可書を発行するのだがそこである問題が起きる。
課題の難易度が希望する生徒の実力より遙かに高かった場合、命の危険があるため申請は却下される。
もちろん希望者の実力より遙かに上の課題を申請し許可される方法もあるのだがそれには自身の学ぶ学問の所属する学科の責任者のサインが必要となる。
この責任者のサインがなかなかもらえないため中にはサインを偽造する者もいる。
ましてやこの時期までくると無謀な課題を選択する生徒ばかりだ。そのため受付員はサインのある書類を受け取るたびに一つ一つ責任者に確認をとる必要がある。
結果的に申請をすませる時間は長くなってしまうことになる。
「それにしてもどの場所でもやってることは同じね」
ルシーナがテーブルにほおづえを突きあきれたように言う。
初対面の者に二度も一緒に課題実習への参加を持ちかけられた食堂に戻る気がせずに学園内の他の食堂に来た二人だったが結局この食堂でも盛んに仲間集めが行われていた。
「別に誘ってこなければいいんだけどね」
セフィーもため息混じりに言う。
前の食堂を出るまでに二回、申請所で三回、今の食堂に来るまでに二回声をかけられ二人とも正直うんざりしていた。
「そういえばセフィー」
「何?」
「あんたってさ、、、」
その後も二人は他愛もない話をしながら時間をつぶしていた。
彼女たちの周りでは相変わらず熱心に魔法学園の生徒に声をかける他の学問の生徒や同年の女子生徒に必死に頭を下げる男子生徒の姿があった。
そんなか一人様子の変わった男が食堂に入ってきた。
華奢な体格で腰には一振り派手な装飾の剣。
武術学園の生徒なのかローブは身につけず上下とも色の薄い紺の服を着ている。
目は細く鼻筋が通り、整った顔立ちをしていた。
彼はさらさらの肩まである金の髪を片手で押さえながら、食堂の中を歩き回っていた。
町を歩けばいくらでも女性が声をかけてきそうな彼の周りにはすぐに魔法学園の女子生徒が近寄っていく。
そしてそれを遠巻きでおもしろくなさそうな目で男子生徒が見つめていた。
セフィーは先ほどから密かに食堂全体がざわつき始めたことを不思議に思い視線を周りに向ける。
相変わらずの光景の中にセフィーは金髪の男を見つける。
何人かの女子生徒に囲まれたその男はセフィーの目から見ても格好いいと表現できるが彼女の好みとは全くずれていた。
視線の先の男は声をかけてくる女子生徒一人一人を念入りになめるように見ては次々に誘いの話を断っていった。
セフィーには彼がなにをしているのかが何となくわかった。
おそらく彼は優秀な術者を探しているのだろう。
セフィーはそう心の中で考え同時に嫌な気分になる。
「セフィーどうしたのさっきから怖い顔して」
突然黙り込み表情を険しくする目の前の友人にルシーナは心配そうに声をかける。
「うぅんちょっとね」
セフィーは曖昧に返事をする。
そして目で男の方をさす。
「何?誰かいるの?ってどうしたのいきなり」
ルシーナが男の方を見る前にセフィーはとっさにルシーナの体の陰に隠れ同時に彼女が男の方を見ないように服をつかむ。
一方ルシーナはセフィーの突然の行動に困惑していた。
セフィーは自分たちの方向に歩いてきている男に気づいたのだった。
週に一度、二話ずつの予定でしたが、だいぶ余裕ができたので三話ずつ更新していこうと思います。