そして動きだす
ともに笑い、、、、
安らかなひび
永遠と続く連鎖
望む形
交わした気持ち
信じ続ける悲しみ
避けられぬ破壊
そして、、、、迎える終焉
これでよかったのだろうか、、、、、
部屋のしまりきった窓から差し込む光がベットの上でまどろむ少女へと降り注ぐ。
整った顔立ちで17、8位の年だろうか。
どこか幼さを残すその顔は眠りのさなかである。
光にまぶしさに少女はころころと寝返りを打って光から逃れようとする。
そのたびに若干色の薄い茶色の髪が乱れる。
絹のような柔らかい布でできた彼女の薄いネグリジェが身動きに合わせてずれてゆき白い肌が露になる。
時折もれる彼女の声がそう広くない彼女の部屋へと吸い込まれる。
次第に量を増す降り注ぐ光。
徐々に彼女は眠りから起こされてゆく。
「もう少しだけ寝かせて」
誰に言うでもなく彼女は寝ぼけた声でつぶやく。
寝ぼけたまま賭け布を頭のほうへと引っ張り上げそのまま顔にかぶせようとする。
「こらっ起きろ寝ぼすけセフィー」
突然響く女の声。
「起きろ。起きないとまた遅刻するぞ」
掛け布からゆっくりと頭から出てくるセフィーと言われた少女。
そろそろと開いた双眸から伺える空のような青い瞳は未だ虚ろだった。
「いいかげん起きろ。早く起きろ。すぐ起きろ」
セフィーは上半身だけのっそりと起き上がる。
「ルシーナ?ってそんなはずないか。」
そして部屋を見渡し自分を起こす親友の声の発信源を探す。
発信源はそばのテーブルの上においておいた小ぶりな時計だった。
それは技術学の学べる学校に通う生徒が考案したあらかじめ決めておいた時間になると音で知らせる物だった。
雑貨や小物、生活用品などを売っている店が並ぶ通りで買ったものを、魔法技術の知識があるルシーナが自ら手を加え寝坊の多いセフィーにプレゼントしたものだった。
文字盤の12個の数字それぞれの位置に色とりどりの魔法石が埋め込まれている。
そのおかげで本来決められた時間に音を出すことしかできない代物に吹き込んだ声を出させるという離れ業をやらせている。
今ではセフィーを決められた時間に起こす道具となっていた。
セフィーは手を伸ばす。
「早く起きないとその小さな胸をもむぞぉ。セフィーの小さなおっぱっ」
言葉の途中でセフィーは時計の上部についている停止のボタンを押す。
そしてぼそぼそとつぶやき始める。
「私、別に胸小さくないし。普通だもん。ううん普通より少し大きい位だし」
セフィーはベッドに腰掛大きくあくびをする。
「だいたいルシーナが昔から大きすぎるんだよ。万年巨乳むすめ、め」
目元をこすりながらもセフィーはぶつぶつと呟く。
両手を高く上げ大きく伸びをする。そしてそのままセフィーはベッドに仰向けに倒れる。
なぜか目線は自らの胸元へと向いていた。
年頃の娘らしくしっかりと膨らんだ胸。布が少しずれ片方の上半分ほどがじかに肌まで見えている。
同い年の娘たちよりどう見ても一回りは大きい
いくつか年下の少女たちとはちがい膨らみ始めたばかりの胸のようなとんがった感じではなく柔らかく丸みを帯びている。
「うんっ小さくはない」
しばらく自分の胸元を見ていたセフィーは満足げにうなずきそして微笑み呟く。
寝返りをうち横向きになり目を閉じる。
「もう少しだけ。あと少しだけ」
誰に言うでもなく一人で言い訳をしふたたび眠りの世界に行くセフィーだった。
外では朝の到来を告げる鳥のさえずりと都市に響く鐘の音がなり続けるだけだった。
学園都市セルラノフィート
様々な学問が学べ、学ぶ意志がある者にとってはまさに楽園と称される場所。都市全体は円形に近い形をとっており中心の時計塔から12の方角にそれぞれ技術学、医学、武術学、工学、魔法学といった学問の学舎が建てられている。
さらにこれらの建物は学舎としての機能だけではなく都市にとって重要な場所をかねている場合もあった。
時計塔から北に位置する神学および宗教学の学舎は都市の中では一番大きな教会として、西に位置する技術学や工学の実習棟は大規模な生産工場として機能するなど本来の目的以外で使われることもすくなくはなかった。
神学や宗教学が学べる学舎の建つ位置から時計塔を挟んで正反対の位置に魔法学がまなべるフィラート魔法学園の学舎がある。
この都市は初めからたくさんの学問が学べたわけではなく初めは一つ二つほどの規模だった。
しかし年月を経るにつれ学問を修める者が自然とこの都市には集まりはじめ気がつけば数え切れないほどの学問の種類になっていった。
その中でも特出して学ぶ者が多かった12の学問がそれぞれ学舎を作り発展していった。
学舎もそれぞれ作られた時期が違い、古い順に時計塔から見て北、西、南、東の順に円形状の都市を囲むように建てられていった。人口が増えるにつれ町も整備され12の学舎の間を縫うように無数の通り時計塔から放射線状にのびている。
そして都市の南に位置するフィラート魔法学園では、朝と昼のあいだの一時の休息の時間を告げる鐘が鳴っていた。
恋人とともに手作りの昼食をとる者、自宅へと食べに帰る者、学食へと急ぐ者などたくさんの人が動いていた。
休息を告げる鐘の音が響き渡ってから少し時間がたったころ学舎の中に存在する4つのうち一番広い学食の片隅で一つのテーブルに二人の少女が座っていた。
テーブルの上には昼食としては多少量の多い料理が並んでいる。
それなのに二人とも一向に食べようとしない。
よくみると二人のうち一人がもう一人になにやら話し込んでいるようだった。
「でっ?今日はどうして遅れたの」
光るような金色の髪、褐色の肌をし切れ長で碧眼の少女が目の前でうなだれる少女に少々きつい口調で問いかける。
問われた少女は空色の瞳で褐色の肌の少女を上目遣いでみる。
その表情からは勘弁してほしいという気持ちが見て取れた。
「そんな顔しても駄目。きちんと説明しなさいセフィー」
そんなことなどお構いなしで褐色の肌の少女は目の前の少女に言う。
ずっとうなだれていた少女は頭を上げ申し訳なさそうに話し出す。
「その、寝坊しちゃって、走ってきたんだけど間に合わなかった。ごめんねルシーナ」
ルシーナと謝られた少女はいすに深く腰掛け腕を組み右目をとじ左目を半開きの状態でセフィーに言う。
「私があげた時計使わなかったの?」
切れ長で元々少しきつい目つきが半開きの状態になっていることでさらにその迫力を増している。
セフィーはまともにルシーナの顔を見ることができずその視線は宙をさまよう。
「その、使ったよ。ちゃんとあの時計」
「じゃあ、どうして寝坊したの」
びくびくと話すセフィーにルシーナは問う。
しかしその問の答えはなかなかセフィーの口から出てこない。
しばしの間沈黙が支配する。
テーブルをたたくルシーナの指が奏でる音がまるで時を刻む音のように聞こえる。
「一度は起きたんだけど。二度寝したら寝過ごしちゃった」
沈黙を破りセフィーが答える。
「はぁあ、全く」
その答えを聞いたとたんルシーナは大きくため息をはいた。
片手を頭に据え軽く左右に振る。
あらかじめ予測していた答えのためかもしくは予想外にあきれる内容だったからか彼女のため息はとても深いものだった。
「これで何度目その理由?」
頭痛をこらえるように手を額に乗せたままルシーナは問う
「えーっと何度目って聞かれてもそのぉ。とりあえず5回目?」
セフィーの答えにルシーナはまたため息をつく。
「とっくに10や20は超えてるわよ」
ルシーナにそういわれセフィーはしょんぼりとうつむく
「ごめんルシーナ今度からはちゃんと起きるよ」
覇気のない声でセフィーが話す。
それをきいてルシーナは三度ため息をつく。
「もういいよ。セフィーの寝起きの悪さは昔からだし」
あきらめの言葉など気にもとめずなぜかセフィーの表情は明るくなる。
「それじゃぁ。早くご飯食っ」
「ただしっ罰としてセフィーはお昼ご飯抜き」
セフィーが言い切る前に彼女の言葉はルシーナによって遮られる。
セフィーは瞬間的に悲しげな表情へと代わり目元に涙までためてルシーナに訴える。
「勘弁してよぉ。朝も食べてないんだよ」
そんな彼女にルシーナは言う。
「二度寝して寝坊するセフィーが悪い」
「そんなぁ」
今にも泣き出しそうになるセフィーにルシーナは小さく気づかれないようにそっとため息をつく。
「仕方ないわね。今日は勘弁してあげる。だからそんな顔してないで食べようセフィー」
とたんに明るくなるセフィーを見てまだまだ自分は甘いと一人うなずくルシーナだった。
それにしてもころころとよく表情の変わるものだとルシーナが苦笑いしていることなど気づきもせずセフィーはせっせと食べ物を自分の口へと運んでいた。
一時の休息の時間もだいぶすぎた頃、ルシーナはセフィーに話しかける。
「そういえばこの間の検定試験の結果どうだった。まぁ聞くまでもないけど」
セフィーは食後のデザートを口へと運ぶ手を止め話に応じる。
「詠唱、降霊ともに合格。ルシーナは?」
笑顔で言い逆に聞き返す。
「もちろんどちらも合格。それも文句なしのその場合格」片手をくいっと曲げポーズをとりながら片目をつぶりルシーナは答える。
「さすがはルシーナすごいね。その場合格なんて」
セフィーが賛美する。
「それはお互い様でしょ」
「やっぱり知ってた」
「当たり前よ」
彼女たちが検定試験を受けてからすでに一週間がたっていた。
検定試験を受けた生徒にはその後、合格の有無がそれぞれ個別に文書で通達される。
その文書は魔法学院の中央職員室で作られるのだが。その数の多さで受験者全員の手元に通知が届くのは少なくとも一週間ほどかかる。
よって受験した生徒たちが結果を知るのは一週間以上後になる。
しかしセフィーとルシーナはすでに検定直後に合格を約束されていたためすでに文書が届く前に結果はわかっていた。
「ねぇそれよりさぁ」
検定試験の結果については早々に終わらせルシーナは新たな話題を持ち出す。
セフィーはデザートを食べ終え満足げに食後のお茶を飲んでいた。
「今度の課題実習どうする」
ルシーナの持ち出した話題にセフィーはいやそうな顔をする。
都市指定区域課題別合同研究課外実習。通称、課題実習。舌をかみそうな長ったらしい正式名称を誰も言わないこれは魔法学園に限らずこの学園都市にとって年に数度ある都市が活気づく行事の一つだった。
12ある代表的な学問の学園が同時期に合同で行う。学園の組み分け年齢など様々な垣根を取り払い個人でも数人のグループでもはたまた何十人の団体でも自由に課題を選び校内、校外関係なく活動できる。
一人で技術研究をするもよし、団体で新しい魔法を開発するもよし、都市内にいる職人や医師のところに短期間の弟子入りするもよし、はたまた都市指定の遺跡や森といった場所に調査にでてもよしというように本人次第で何をしてもよかった。
セフィーやルシーナのかようフィラート魔法学園の生徒も例外ではない。
魔法基礎三学科を卒業した後にたいていの生徒がそのまま魔法高等三学科に進む。
それぞれ個人個人が特に力を入れて勉強したい科目を選びどの学科に進むか決める。
高等学科は魔術師としての戦闘を学ぶ魔法武術学科、魔法の杖や装飾品の作り方を学ぶ魔法技術学科、複数の魔法を組み合わせたり科学や工学に特殊な効果を付けたりといった応用を学ぶ魔法応用学科。
この三つに分かれる。
セフィーは魔法技術学科、ルシーナは魔法応用学科にそれぞれ所属しているがどの科に進もうが高等学科の生徒には課題実習の参加が義務づけられていた。
「まだ決めてない。ルシーナは?」
セフィーは言う。ルシーナはどこか安心したような表情で返す。
「私もまだ。課題実習申請締め切りまで一週間しかないのに」
課題実習にはいくつかの具体的な種類がある。
都市指定区域での遺跡や古墳での探索、調査。
都市の治安部隊経由で回ってくる魔物退治の依頼。
教会指定の神殿ならびに祠で封印陣の補強、補修。
この他にも職人の工房への弟子入りや病院への研修、個人やグループでの自主研究などがある。
課題の内容、実習場所、参加人数が決まったらそれを申請書という紙に書いて自らの所属する機関の申請所に持っていく。
課題実習の期間は基本的に学園は出席免除となるのだが、これは実習の期間中に落第や成績を気にせず実習に取り組んでほしいという都市の計らいだった。
しかし都市の定めた期日までに申請書を提出しなかった場合、学園の出席免除は認められず実習後の休日に出席をしたり、最悪の場合落第といったことになってしまう。
そのためどの学園の生徒も申請には必死になっている。
「すごい必死だね、みんな、、、」
セフィーがお茶を飲み干したティーカップをテーブルに置きながら話す。
彼女の視線の先には彼女たちと同じようにまだ申請書を提出していない学園の生徒たちがあちらこちらで課題実習の仲間集めをする生徒の姿ある。
個人やグループでの自主研究を希望している生徒は一刻も早く研究に取りかかるため申請が開始されてから数日で申請をすませてしまう。
また医療研修や弟子入り志願の生徒も相手先の都合などがあり早めに申請をすませてしまう。
結果、残ったのは探索仲間を見つけられず申請を出せない魔術師や冒険家、傭兵気取りの生徒。もしくはすっかり期日を忘れていたおっちょこちょいの生徒となる。
「間に合うといいけどね」
どこか他人事のようにセフィーが語る。
「本当大変そう」
ルシーナの口調もどこか他人事のようだった。
「、、、、、」
「、、、、、」
そしてお互い沈黙する。
「、、、、、」
「、、、、、」
黙って見つめ合う二人。
「、、、、、、、」
「、、、、、、、」
なぜか微動だにしない二人。
「お待たせしました」
動かない二人の元に二人分のケーキとお茶を持ったウェイトレスがたっていた。
二人の前にウェイトレスがケーキとお茶をおく。
ルシーナは無言のままセフィーを見つめる。
先ほどまで自分を見ていた空色の瞳はきらきらと輝きケーキだけを見つめている。
いつの間にかセフィーの右手には人差し指ほどの小さなフォークが握られていた。
「いただきまーす」
にこやかにケーキへと小さなフォークを持っていくセフィー。
「待ちなさい」
とっさにルシーナが止めに入る。
「うん、、、わかった」
素直に言うことを聞くセフィー。右手に握っていたフォークをゆっくりとテーブルにおく。
「どうしようか。今回の実習。私は今回も弟子入りがいいとは思ってたんだけど」
セフィーに実習について話し出すルシーナ。
「私もそれがいいなって思ってたんだけど、、、」
セフィーもそれに答える。
彼女たちは前回の実習時に弟子入りをした。
「カーボォさんもいつでも歓迎するって言ってたのにね」
「のにねぇ、、、」
セルラノフィートの一つの職人通りの片隅に割と大きい工房がある。
中では髭を生やした初老の気のいい職人がいつも一人で作業している
「あんな魔法応用できる人ほかにいないわ」
「応用だけじゃないよルシーナ。魔法技術も相当な腕だった」
彼の名はカーボォ。魔法技術と魔法応用を使いこなす凄腕の職人。
セフィーとルシーナは前回の実習時そのカーボォの工房に弟子入りしたのだった。魔法技術を学ぶセフィーと魔法応用を学ぶルシーナにとってそれらを自由自在に使いこなすカーボォはとても尊敬する人物だった。
「それなのに、、、、」
ルシーナが言いながらため息をつく。
「それなのに、、、、」
セフィーもため息をつく。
「「孫が生まれたからって工房しめてまで顔見に行くなんて」」
カーボォは一月ほど前から一人娘が嫁いだ西大陸の小さな港町に行っていた。
セフィーとルシーナが弟子入りの申請書を出せないのは彼の代わりの工房をみつけることができなかったからだった。
食堂ではあちらこちらで仲間集めをする生徒がおり、日の当たる窓際の席では二人の少女がため息をつきつつケーキを食べていた。