彼女の実力
週に一度2話ずつ更新していけたらと頑張ります。
「次の人どうぞ」
別館に移動し試験が行われる部屋とは別の部屋で待機していたセフィーに声がかかる。
彼女は腰掛けていた椅子からすっと腰をあげる。
部屋を出て廊下を歩き、試験が行われている部屋の前に来ると、軽く扉をノックする。
中からの返事を確認し彼女は静かに扉をあけそのまま軽く一礼する。
部屋の奥には魔法の判定者と思われる大人が座っている。
金色に輝く瞳とまぶしいほどの金色の髪にとても整った顔立ちの男性。
赤い髪に赤い瞳。豊満な体つきにそれを隠そうともしない服装の女性。
褐色の肌の色が印象的な鼻の下に白いひげをたくわえた土色の瞳の男の老人。
3人とも一度見れば忘れられないようなとても印象的な3人だった。
「受験番号と自分の名前を」
セフィーの横に立つ若い女性の検定委員がセフィーに尋ねる。
セフィーは一度軽く深呼吸してから一気に話す。
「24番。セフィルーナ・クレセントです」
奥に座る3人は無言で頷く。
「君があの不老のセフィルーナ君かね」
3人の内、真ん中の老人が突然セフィーに話しかける。
「えっえぇ、まぁそうなると思います」
はじめ言葉の意味についていけなかったセフィーだが、老人が何を言いたいのかは解った。
……不老のセフィルーナ……
それは彼女が媒介なしで魔法を使うことからついた呼び名だった。
降霊魔法は別として魔法の発動には普通、術者の魔力を具現化するために何かしらの媒介が必要である。
ほとんどの場合それは杖やステッキと言った棒状のものになる。
杖上の物はその形状が老人が歩くときに使うものと同じであることが多い。
学生や年の若い者などは見た目を気にするため、杖よりもステッキや指示棒、と言ったものを使うことがほとんどだった。
それでも年をとるにつれ、そう言った物より扱いがたやすく高度な魔法でも術者に負担がかかりにくい杖へと変わっていくのが普通だった。
が、しかし媒介を必要としないセフィーにとってそれは別次元の話だった。
……いくら年齢を重ねても杖を必要としない……
そのことからいつしか彼女は歳を重ねても肉体が衰えない、不老との噂が立ち始め、それが影の二つ名となり広まった。
もちろんセフィーが不老というのは事実無根である。
「前から噂を聞いて一度会ってみたいとは思っていたんじゃが、まさかこんな年頃の娘さんだったとはのぉ」
土色の瞳をした老人の言葉になんと言えばよいのか解らず、セフィーはただ立ちつくすのみだった。
そんなセフィーに変わって検定委員の女性が老人に言う。
「学園長、そんなことより早く試験をやって下さい後が使えてます」
少々とげのある言い方に老人はううむとひげをさすりながらうなずく。
(学園長、、、この人が、、、は、、、初めて見た)
セフィーは目の前の老人の意外な正体に心の中で驚きの声を上げる。
老人の隣に座っている男性が無言で突っ立っているセフィーに確認するような声で話しかける。
「セフィルーナ君、今回の君の希望、 詠唱魔法で属性は光となっているが間違いないね。そして受けるランクが最高ランクである5、あってるかい?」
セフィーはゆっくり頷きそれに付け加えるる。
「はい。後、補助魔法の方は前回受けたので今回はっ」
「今回は攻撃魔法だけってことね」
言い切る前に豊満な体つきの女性が言う。
いきなり語りかけられてセフィーは驚いたが静かに首を立てに振る。
「学園長、どうします。」
学園長の隣に座る男性が尋ねる。
学園長は「うむ」と頷き立ち上がる。
「この娘にはわしが課題を出そう」
そう言うと彼は脇に立てかけておいた杖をとると、それを宙にかざし目をつぶり魔法言語を唱える。
「我が力の具現ここに示す。立ちはだかれ強靱なる岸壁の土よ」
魔法言語を唱え終わると同時に彼の持つ杖に無数と埋め込まれた石が光る。
それと同時にセフィーの隣に、彼女の身の丈の倍はある高さで、厚さもその半分はある壁が現れる。
壁と呼ぶよりもただの岩に近いそれを見上げながらセフィーはいよいよだと気を引き締める。
その彼女の背中に老人の声が届く。
「今回の試験内容はその壁をばらばらに破壊すること。制限時間をこえたら、こちらが知らせる。それまでにどんな方法でもいいかそれを破壊すること。ただし使って良い魔法は詠唱魔法に限る。もちろん光り以外の属性の使用も禁止じゃ。それ以外なら魔法を使わずとも殴るなり蹴るなり好きにしてかまわん。
まぁそんなことではその壁に傷一つつけれんじゃろうがの」
老人は説明し終えると椅子に腰掛ける。
壁の前に立ち試験開始の合図を待つセフィーに女性の検定委員が尋ねる。
「あなた何か魔力を具現化する物は持っている。ないなら私が貸してあげられるけど」
心配そうに尋ねる女性にセフィーは明るく笑いながら答える。
「大丈夫です。私はいつも何も使わないから。それにちゃんとお守りもつけてるし」
セフィーは自らの髪飾りを見せる。
本当にこの少女は何の媒介なしでこの壁を破壊するというのか、検定委員の女性はにわかに信じられなかった。
彼女がお守りと言って検定員に見せる髪飾りは、何らかの魔法の効果のある物なのだろう。
が、どう見てもこの岩を破壊するのに役に立ちそうにない。
試験の開始をためらう検定委員の変わりに老人が声を上げる。
「それでは、、、」
その声にセフィーはきゅっと下唇をかむ。
口の中にかすかに塗られたベージュの口紅の味が伝わる。
「試験、、、」
彼女の目にはすでに隣で心配そうに自分を見つめる検定委員の姿は映らなかった。
「はじめっ」
試験開始の合図と同時にセフィーは右腕を前に突き出す。広げた手のひらに力を集中させると同時に魔法言語を唱える。
「我が命に答えし汚れ無き無数の光の剛剣。我が前にはむかいしものを打ち砕けっ」
唱え終わると同時にセフィーの頭上に巨大な光の剣が五つ現れる。
セフィーは右腕を外向きに振る。
光の剣は彼女の動きに反応して壁の周りを円を描くように取り囲み旋回し始める。
先ほどとは逆に右腕を自分の体へと引きつけるセフィー。
再び彼女の動きに反応して動く光の剣。
旋回を止め一斉に壁へと突き刺さる。
すさまじい轟音とともにバラバラと小さな破片を飛ばす壁。
「さすがじゃな。開始早々に何の迷いもなしにランク4の光属性詠唱魔法を使うとは。それも媒介なしで」
老人は感心したように言う。
セフィーは右手を下におろす。それと同時に壁に突き刺さっていた五つの光の剣がゆっくりと消える。
壁は五つの穴をあけぽろぽろと小さなかけらを落としてゆく。
しかしかけらがいくら落ちようと、壁本体は全くバラバラに砕けるところか崩れ落ちさえもしない。
その光景に老人はどこか満足そうに笑う。
「フォッフォッフォッその壁はその程度ではくずれんよ」
セフィーは一瞬ちらりと検定委員の方へと頭を向ける。
そして老人と目が合うとにこりと笑顔を向ける。
「思ってたより苦戦しそうです」
笑顔で言う彼女の言葉とは裏腹にきりりと壁を睨む目はすでに普段の彼女の物ではなかった。
獲物をねらう鷲の目。セフィーの一番近くで彼女のことを見ていた女性の検定委員はそう思った。
「一筋縄でいかないなら」
そういいながらセフィーは右手をもう一度壁に向ける。そして先ほどと同じように手のひらに力を込めると同時に魔法言語を発する。
「我が敵を討て光の魔弾」
一瞬のうちにセフィーが唱え終わると、彼女の手がのばす手のすぐ前に、こぶしだいほどの球状の光ができる。
その光の玉は動き出したかと思うとすさまじいスピードで壁へとぶつかる。
光の玉が壁にぶつかり音を立てる前にセフィーは全く同じ魔法言語を唱える。
最初の光の玉が壁にぶつかり壁の一部を破壊し始めたころには、三度目の同じ魔法言語を唱え終える。
それによって作られた光の玉が動き出すと同時に二つ目の玉が壁にぶつかり音を立て始める。そしたらまた、とセフィーは同じ魔法を連続でしかもほとんど間隔をあけず発動させる。
セフィーはしばらくの間、同じ行程を繰り返す。壁は何度もぶつかり削られていくがやはり全体が崩れ出すことはない。
「そんなことしても魔力の無駄よ」
豊満な体つきの女性がセフィーに声をかける。
その声にセフィーは軽く笑って一礼すると途中までだった魔法言語を唱えおえ、おろしていた左手を右腕の変わりに壁に向かってつきだし入れ替えるように右腕をおろす。
左手の手のひらに力を集中させすぐさま新しい魔法言語を唱え始める。
「悠久の時の流れし光の裁きよ。我が命に従いその裁きをここに下せ」
他の魔法言語と同様に唱え終わると同時にセフィーの周辺にいくつもの光の固まりが出現する。
最後にはなった光の玉が壁にぶつかるのを合図にセフィーは左腕の手のひらを強く握りしめる。
その瞬間いくつかの光の固まりだった物は数え切れないほどの無数の矢となりそのすべてが壁へと飛ぶ。
矢が壁に刺さるのを確認することもせずセフィーはまた右と左の腕を入れ替え、つきだした右の手のひらに力を込め魔法言語を唱える。
「立ち向かいし物をうちくだく光の牙、今その力、我はなたん」
唱え終えると、ティリヤの目の前には彼女の身の丈半分はある円錐状の光の固まりが、その先端を壁に向けて出現する。
その光の固まりも今までと同じ様に壁に向かって高速で突き進む。
壁にぶつかった光の円錐はごりごりと壁をえぐるそれに伴い壁全体にいくつかのひびが入り始める。
が、そこまでだった。
光が消えた後にはぼこぼこと数え切れない数の丸いくぼみと数え切れないほどある小さな穴、いくつかの大きい穴とその中でもひときわ大きな穴にそこからのびる何本かのひび。
今にも崩れてきそうなのにいっこうに崩れようとしない壁だけが残った。
壁が残っていることにあきれと驚きの入り交じったため息をつくセフィー。
「めちゃくちゃ頑丈だよこれ」
独り言のようにつぶやく。
「先ほどの連続した魔法の攻撃は見事でした。あれだけ自在に光の詠唱魔法が使える人物は私は何人も見たことがありません。、、、ですがまだ壁は残っていますよ」
金髪の男性がセフィーの術者としての才能をほめると同時に課題がまだ達成されていないことをあらためて言う。
言われなくても解ってるっと、セフィーはそっと心の中でつぶやく。壁が崩れていないことぐらい実際に試験を受けているセフィーが一番解っていた。
こうなったらバラッバラッにしてやると心の中で宣言する。
と宣言したはいいがどうしたものかとセフィーは悩む。
ランク1からランク4までの詠唱魔法は一通りすべて試した。試した結果が目の前の状況だった。
う〜んとセフィーはうなる。
同じことをもう一度やればこの壁は確実に崩れるだろう。
体力的に魔力的にも問題はない。
しかしそれをやったところで無駄に時間がかかり、意味もなく疲れそうだった。
水の詠唱魔法を使えばいとも簡単に終わりそうだが、もしそれをやったらその場で失格となってしまう。
できることなら一撃もしくは少ない手数で、それを光の詠唱魔法だけで、何よりも誰もが文句の点けようが無いぐらい粉々にしたい。
「やっぱり全力でやるしかないか」
セフィーは誰にも聞こえないようにぼそりとつぶやく。
セフィーの髪飾りについた飾りの石が儚く光る。
両手を広げるとセフィーはゆっくりと深呼吸する。
両手に意識を手中させ目をつぶり魔法言語を唱える。
「わが敵を討て光の魔弾。われは悠久の時を、、、、、、、」
セフィーが魔法言語を唱え始めると同時に彼女の右手の前には先ほどはなった光の魔弾と同じ大きさの光の玉が現れた。
その様子を見ていた豊満な体つきの女性がぼそりとつぶやく
「ランク1の光の魔弾連射をするわけ?芸がないわね。あの子だめだっ」
「いいから黙ってみておれ」
つぶやききる前に老人が女性に注意する。
彼女はむすっとしてセフィーを見つめる。
「過ごし光の使い手。対になりし魔弾の光よ討てわが敵よっ」
セフィーの魔法言語に反応し右手の光の玉はそのままで今度は左手の前に同じ大きさの光の玉が出現する。
その光景に検定員の女性は目を見開く。
なおもセフィーの詠唱は続く。
「我のぞむ。対は一つとなり光は増し敵を砕く魔弾となりし」
セフィーは両手を前に突き出す。
動きに応じて左右の魔弾は両手の真ん中あたりで一つとなりより大きな魔弾となる。
目を見開きセフィーは叫ぶ
「我、今放たんっ」
一瞬のうちに魔弾は壁へとぶつかり表面を削り全体にひびを入れてゆく。
セフィーはそれを見ようともせず今度は右手を真上に真っ直ぐ上げる。
左手を右手に重ね指を絡める。
そして早い口調で魔法言語を唱える。
「汝、我の前に立ち向かいし仇となり。光に気高き裁き我が代行す。光の鎚よすべてを裁け」
唱え終わりセフィーは両手を振り下ろす。
と同時に光の魔弾によって岩の壁は音をたていくつものの岩へと姿を変える。
ついに壁が崩れたのだ。
しかしその岩が地面に落ちる前に一筋の光が崩れ落ちる壁の真上から差し込んだ。
検定員の女性は崩れ落ちてゆく岩に差し込む光に目を奪われ、豊満な体つきな女性は光のまぶしさに目を細め、金髪の男性は慌てて立ち上がる。
「お前たち伏せろっ」
そして老人は叫んだ。
次の瞬間ものすごい衝撃が部屋中を襲った。
細かった光は一瞬で部屋をもみたす大きい光の柱となり地面を穿つ。
崩れ落ちようとしていた岩は落ちきる前に光の柱によって粉々に砕け散ってしまった。
その小さなかけらが衝撃の余波で四方の壁にぶつかり無数の音を立てる。
音がしなくなた後も衝撃は続いていたがやがてだんだんと弱くなっていった。
衝撃がおさまったのを確認してセフィーはゆっくりと立ち上がる。
「ふぉっふぉっふぉっ見事じゃのう」
老人が若干色の変わった髭をさわりながらゆっくりと立ち上がる。
「まさかここまでやるとは驚きましたよ」
金髪の男性が髪や服についた小さなかけらや泥を払いながら立ち上がる。
「全くやってくれるじゃないの」
同じように豊満な体つきの女性も立ち上がる。
セフィーは彼らに向かっていたずらがばれたような子供のように謝る。
「ごめんなさいちょっとやりすぎました」
そして右手で自らの頭を軽く小突き、ぺろっと小さく舌を出す。
そんなしぐさを見て3人は軽く笑った。
3人に軽く頭を下げ、セフィーはいまだに地面に座り込み呆然としている検定員の女性のところへと歩み寄った。
「あの、、、課題達成しましたけど」
セフィーの声で女性は我にかえった。
慌てて立ち上がりほかの生徒のときと同様に対処する。
「おめでとう。とりあえず課題は成功です。この後この結果を検査委員会で判断して結果を出します」
「後で本人当てに合否の判定書が届くわ。あなたの場合いい結果を期待してていいと思うわ」
女性の説明にうなずきセフィーは審査員のほうへと向き直り一礼する。
検定の結果はその場ではすぐに出されずいったん審査にかけられることはセフィーも今までの経験からわかっていた。
「失礼します」
そういって彼女は部屋を後にすべく扉へと向かう。
「まぁあ待ちたまえ」
そのセフィーの背中に呼び止めの声がかかる。
彼女は立ち止まり、声のほうへと振り向く。
呼び止めたのは金髪の男性だった。
「結果を待たずともすでに答えは出ているよ。セフィルーナ君」
言葉の意味が分からずセフィーは首をかしげる。
「この状況を見なさい。誰が見ても課題達成は確実だしかもかなりの早さだった」
そう言われセフィーは部屋中を見渡す。
あれほど巨大だった岩の壁は跡形もなくなり床には小石程度のかけらが部屋中敷き詰められたように散乱していた。
あらためてやりすぎたとセフィーは反省する。
「どう考えても合格間違いなしだ。いやここで合格と決定する。どうせ誰も文句なんてつけられないからな」
一人反省していたせふぃーは突然のことに一瞬真っ白になった。
「へっぇ?」
つい変な声を出してしまい顔を赤らめる。
がすぐに冷静になって聞きなおす。
「それってこの検定が合格てことですか?」
「そうだ」
男性が低い声で答える。
セフィーは驚きの声をあげる。
「ほんとにいいんですか。合格ってことで」
驚きと喜びの色がが入り混じった声に老人がやさしく微笑みながら言う。
「もちろんじゃ。わしが保障しよう」
セフィーは一気に笑顔となる。
「ありがとうございます」
その後も一人喜ぶセフィー。
検定員の女性がこほんっとひとつ咳払いする。
その音でセフィーはがばっと女性のほうを振り向く。
気のせいか女性が少し怒っているようにセフィーには見えた。
セフィーは女性に小さくすいませんと頭を下げる。
「それではセフィルーナ・クレセント検定合格おめでとう。後ほどあなた宛に合格書が届くはずです。それまでは誰にも合格したことは言わないように」
「はい」
淡々と説明と注意をする検定員の女性にうなずくセフィー。
どことなく話している女性の口調が納得のいかない風に聞こえるのは、セフィーだけに限ったことではなかった。
検定員の女性は性格的にこのような例外的なことを認めるのが嫌いなのだ。
彼女はセフィーが部屋を出て行くまで硬い表情を崩さなかった。
そんな彼女の様子を見ていた豊満な体つきの女性はただ苦笑いするしかなかった。
学園都市セルラノフィートに鐘の音が響き渡る。
円形の都市の中央に立つ時計塔から放射線状に伸びる町並み。
時計の文字盤に刻まれた12の数字と同じ位置に立つそれぞれの学び舎
静かに沈む日の光が都市を静かに照らし出していた。
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