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可能、不可能

月の光も届かぬ遺跡の奥深く。抽象的な絵が刻まれる異様な通路の奥にその部屋はある。四方を壁に囲まれ、たった一つの入り口も魔法仕掛けの扉によって閉じられていた場所。

魔法学園の出す二つ目の課題を突破した二人は仲良く石版の前に腰掛けていた。

腰と肩につけていた荷物は傍らにまとめられている。

明かりの届かぬ遺跡の中あたりをうっすらと照らしているのは、握り拳ほどの小さなガラスでできた光球である。

その明かりの下で二人は石版に刻まれている文字を自らの真っ白な用紙へと書き写していく。

一字一句間違えぬよう、丁寧に書き写してゆく。普段使う文字ではなく、魔法言語でもない、あまりなじみのない古代魔法言語は書き写すのが精一杯であまり読めるものではなかった。

「適当に選んだ課題だったけど、以外と勉強になったわね」

ある程度書き写し終わったところでルシーナが隣に座るセフィーへと声をかける。

セフィーも一区切りつけてルシーナに応える。

「そうだね、とりあえずもう少し古代魔法言語に詳しくなりたいね」

この遺跡を選んだのはたまたまだったが、ここまでに経験は二人にとって実り多いものとなった。しかし、いい経験だけならよかったが同時に嫌な思いもいろいろとあった。

「まぁ、いろいろあったけど課題の石版の文字も写し終えたし、後は帰るだけね」

文字を写し終え、荷物に用紙をしまいながルシーナはセフィーへと笑顔を向ける。

彼女はいったん立ち上がると、荷物から二人分の掛け布を取り出し一つを石版とにらめっこしているセフィーにそっと掛けた。

「ありがとうルシーナ。私も、もうすぐ終わるから」

「そんなに急がなくてもいいよ」

セフィーはルシーナ礼を言うと石版の最後の一文を書き写す。

そんな彼女にルシーナはやさしく微笑んだ。うんっと小さくうなずきセフィーはさらさらと書き終わらせる。


「どうしたのセフィー」

だが、最後の単語を書き写した時セフィーはふとその単語の意味が気になった。

この遺跡に入ってからずっと嫌な感覚に苛まれていたセフィー。早くでなければ良くないことが起こりそうな気がして仕方がなかった。

彼女の不安はその二つの単語を書き写したとき更に大きくなった。もし、一番失いたくない親友を失う様なことおきたら、、、、、、

その思いが彼女を金縛りにあったかのように動かなくさせる。突如身動き一つしなくなったセフィー。心配したルシーナが名前を呼ぶも微動だにしない。

「セフィるっ」

「破壊、、、と、、、、、、終焉」

もう一度名前を呼ぼうとしたルシーナの声を遮り彼女はぽつりとそう言う。ルシーナは突然のことに彼女が何のことをいっているのか解らなかった。

「最後の単語、がね。そう書いてあるのが気になって、、、、、、」

どこか不安そうな表情でいうセフィー。

ルシーナは石版の文字列の最後に目をやる。ほとんど読めない文字ばかりなのだが最後の二つの単語はルシーナにも読みとることができる。そこには彼女が言う意味の文字が刻まれている。

「破壊と終焉かぁ。そのままの意味か、あるいは、別の何かをたとえてる、、、」

不安げに石版を見つめるセフィーにルシーナは独り言のように語りかける。

「きっと闇の神のことだと思う」

同じように応えるセフィー。石版のある部屋には通路と同じように抽象的な絵が描かれている。

「で、しょうね。周りの絵から考えると」

通路の絵よりも幾分形がはっきりしており、さらにどこかで見覚えのあるような絵だった。

セフィーはゆっくりと立ち上がる。肩に掛けていた布がゆっくりと落ちる。

「きっとこの石版に書かれているのは創世神話のようなものね」

ルシーナが全体の絵を見ながら言う。多生脚色はしてあったものの、似たような絵を子供向けの本で見た思い出が二人にはあった。

絵は部屋に入って直ぐ右側から反時計回りに順を追って描かれている。セフィーは無言で左側の絵の方向に近づくとゆっくりと部屋の四隅を時計回りに歩きながら絵を見ていく。


 最初の絵には創世神話の最後を模したと思えるようもの。光の神とおぼしき絵が右手に剣のようなものを持ち、それに対峙する闇の神が大きく描かれた手のようなものをつきだしている。が、その体は地に伏している。ほかの四つの神を表しているのか地に伏した体には四つの剣が突き刺された状態で描かれている。そして光の神の左手に支えられしも力無く両手を垂らし、天を仰ぐ神

「これがおそらく最後の瞬間」

セフィーは地に伏してなお激しい怒りを光の神へと向けるその神の顔にそっとふれる。

獣のように歯をむき出し、荒々しいその表情が少しでも和らげばと。

ゆっくりと歩きセフィーは石版の後ろに書かれた絵を見上げる。

「たぶんそれが闇の神がほかの神に戦いを仕掛けた場面ね」

いつの間にかセフィーの直ぐ後ろで同じように絵を見上げながらルシーナがそう告げる。

大きく、まがまがしく描かれた闇の神。つきだした五つの腕のようなものは一つは地の神を地にたたきつけながら地面をえぐり、水の神を引き裂きながら水を赤く染め、火の神を押しつぶしてなお火を放ち、風の神を鷲づかみにしては羽を引きちぎっている。そして残る腕には黒々とした剣なのかよくわからぬものが握られ、その切っ先は生の神を穿っている。

「どうしてこんな事になっちゃったんだろう。こんな風に、、、」

絵を見上げるセフィーのもの悲しげな表情は、皮肉にも年相応にして綺麗だった。

儚く悲しみのまなざしの彼女につい見とれそうになりながらも応える。

「さぁ、今となっては解らないわ。ただ、、、」

言うべきか言わざるべきか迷いながらもルシーナは続ける。

「教会の考えが本当なら、闇の神が裏切ったと言う事ね」

「裏切った、、、」

聞こえないほど小さな声でそう反復するセフィー。彼女は首だけ動かして隣の絵を見上げる。

先ほどまでと違い、その絵はとても穏やかな絵。

それぞれの神も人に似せて描かれ、まるでどこかの風景画のようであった。

地に座る男性に寄りかかって眠る女性、安らかなその寝顔を見守る男性の表情は軟らかい。

その近くには必死に逃げる男性と追いかける女性。衣服が乱れるほどに追いかけ追い回されているのにその表情は楽しげであった。そして、

「さて、絵画鑑賞は明日にしてもう休みましょっ」

「えっんっ?ん」

地面に落ちていた掛けぬのをセフィーの両肩にそっと掛け直しながらいうルシーナ。セフィーは彼女に感謝しつつも意外そうな顔で訪ねる。

「明日、、、石版の文字は書き写したんだし後は、帰るだけでしょ」

ルシーナは目を瞑り小さく左右に頭を振ると話し出す。時折、答えるセフィーをまるで母親のように説き伏せながら。

「別に急ぐこともないかなと思って」

「でも、ここに長居しない方がいいと思う」

「いいたいことは解るわ。私もそう思う。でもね、、、」

そう言うとルシーナは向かい合って話すセフィーの脇腹を軽く小突く。

「けほっ」

セフィーは小さく息を吐き出すと、がくりと膝を折り前のめりにバランスを崩す。

それを倒れないようにしっかりとルシーナが抱き留め、そのままの姿勢で諭す。

「薬で補ってはいるけどだいぶ消耗してるでしょ。魔力も体力も」

ルシーナにもセフィーの気持ちが解らないわけではない。異様としか言いようのないこの遺跡からは、なにか良くない感じを受ける。一刻も早くこの場を去った方が身の為、何より友の為なのは解っている。だがここまでの道のりで消耗が激しいことをルシーナは放っておくことはできない。ましてや普段から一人で厄介ごとを抱え込む事のある親友となれば尚更だった。


・・・・・・不老のセフィルーナに灰燼のルシーナダ・・・・・・

どんなに同じ年代に並ぶものがいないほどの魔術者だったとしても、二人はまだ学生である。年もそうだが、体も完全には出来上がっていない。

もとより魔術者はあまり体を使うこと得意とはしない。腕力や体力に自信のあるものはそれらを生かした職業や学問を学び、魔術を学ぶ者はほとんどいないのだから。

いくら二人がシャーマンの娘だったとしても、馬車で行くような場所まで徒歩でいったり、短時間で何度も魔法を使えば、それ相応に疲労する。

ましてや日帰り、徒歩での遺跡探索など何の生涯がなかったとしてもかなりの強行軍だったのだ。


諭すように言うルシーナは続ける。

「いくらセフィーでも無理だと思うけど? 強がっても出来ないことは出来ない、でしょっ」

そう、彼女の言うとおり、この世には出来ることと、出来ないことがある。何人たりともこの理を変える事など出来はしない。出来る者があるとすれば、マボロディアを創世せし神だけだろう。否、神でさえこの世界に存在する限り、出来ないこともある。

「でもぅ、、、」

そのことはセフィーとて身をもって知っている。知ってはいるのだ。

「なにより私も今日は疲れたしね。もう一歩も動けない」

なおも引き下がらない、あきらめの悪いセフィーに彼女は多少大げさに疲れたそぶりを見せる。彼女がここまで引き下がらないのは自分の為だとルシーナは気づいていた。

しかしルシーナとて提案したのはセフィーの為である。

首をこきこきとならし、言うルシーナにセフィーはようやく諦める。

「うぅんん、解った今日はもう寝る」

ほっと小さく息をつくとルシーナは片目を瞑り笑顔で言う。

「解ればよろしい」

くるりとセフィーに背中を向けると、彼女は眠る準備をする。荷物から薄いがしっかりとした布を取り出し地面に敷こうと広げる。それは以前造っておいた野宿時に敷く二人の思い出の詰まった敷き布。

二人が使うには少し大きめなそれを敷く為セフィーも一緒に持つ。広げた布には綺麗に刺繍が入れられ、そのどれもが精細な魔法言語であった。

あらかた敷き終わった後で、それほど風は吹いていないが、荷物を四隅に置き重しとした。

敷き布の上にそれぞれ屋外実習用のローブを敷き、短時間で簡易の寝床が完成する。

「ルシーナ殿、寝床の用意が出来たであります」

そのことをセフィーが変な口調で話す。

「な、ぁははっ、どうしたの変なしゃべり方して」

くすくすと笑いながら変な口調で話し出したセフィーにルシーナは聞く。

それに少し照れたように笑いながらセフィーは訳を話す。

「気分転換、というか何となく使ってみただけ」

訳を聞いてさらにルシーナはくすくすと笑いを激しくする。

そんなルシーナにセフィーは頬を小さく膨らませる。

「そんなに笑わなくてもいいような気がするんですけど」

不満げな声でそう言うセフィーを宥めるとルシーナは悪のりする。

「それではセフィー殿もう寝るであります。そろそろ眠いでござる」

ルシーナの悪のりに笑いながらセフィーも答える。

「いやはやルシーナ殿、確かに疲れてはいるでござるかがあまり眠くないでござる。このまま朝まで寝ずとも大丈夫であります」

ルシーナは笑顔のまま大きくため息をつくと荷物をあさり小さな瓶を取り出す。そして元の口調で、小瓶に入ったすごく苦そうなその液体を見せながら笑顔で脅す。

「別に今すぐ寝なくてもいいけど、朝まで寝ないって言うなら、、、」

セフィーはルシーナの見せる苦そうな薬に笑顔を引きつらせる。

「私、特製の滋養強壮体力魔力回復液体飲み薬ぜんぜん苦くない版未実験を飲んでもらうから」

「お休みルシーナ」

そんな物、誰が飲むかというようにセフィーは寝床に横になる。そして、すぐにすうすうと寝息を立てるふりを始めた。ルシーナはやれやれといった表情で自身も横になった。小瓶を荷物にしまいながら寝たふりを続けるセフィーにわざと聞こえるか聞こえないかの小さな声量で言う。 

「もし起きてまだ疲れてるようなら飲んでもらうけどね。さっきのやつ」

セフィーはごろごろと寝返りを打つとルシーナの方を向き、むにゃむにゃと寝言をまねする。

「んっんん実験体はいやぁあ、んむにゃ」

ルシーナは肩をすくめ、くすりと微笑むと優しくルシーナに告げる。

「だったらよく休む事ね。お休みセフィー」

「うん、お休み」

寝たふりをやめ目を開け素直に頷く。セフィーはそっと光を放つ光球にふれる。宙に漂って光を放っていたそれは徐々にその光を弱めていく。あたりを照らす程の光から、卓上を照らす明かりの光へとゆっくり、ゆっくりと。

徐々に暗くなる部屋の中セフィーはルシーナに話しかける。

「ねぇルシーナ」

「んん、どうしたの」

帰ってきた言葉はだいぶ眠気を誘う間延びした声だった。

「明日、村に帰ったらゆっくりしようね」

「そぉう、ね。ゆっくり、、、くつろぎましょう」

「また川で魚捕まえて食べよう。そういえばおばさんがくれたパンおいしかったな」

目を瞑ったままルシーナは小さくゆっくりと笑みを造る

「食べる、ことばっかりねぇ。セフィー、、、はぁ」

笑みのまま二言三言会話をするうちにルシーナはセフィーよりも先に小さく寝息を立て始める。セフィーはそのことに気づくと自ら掛けぬのを掛け直す。ふと、視線がルシーナの向こう側にある絵へといく。穏やかな風景画の様なそれ、安らかな寝顔で男性に寄り添う女性と、衣服を乱しながらも楽しそうに駆ける男女の描かれた絵。

絵にはほかにも描かれている者があった。

大樹が造る木陰の傍らに腰を下ろした女性。指先には羽を休める小鳥が留まり、優しく笑うその顔はそばに立つ男性へと向けられる。男性の方角からは光が降り注ぎ女性へと向けられたその眼差しは暖かい。そして彼女を見つめるもう一つの眼差し。大樹にもたれ片膝をたて手を乗せる男性。

力強く二人を睨むように見つめるその表情は薄明かりに照らされてどこか悲しげな表情だった。

「お休み、、、ルシーナ」

絵からルシーナへと視線を戻した彼女は小さくそう言うと、そっと目を閉じる。


遺跡の奥深く石版のある部屋。淡く光っていた光球は音もなく地面に落ち光を失う。

暗闇が支配するその場所に小さな二つの寝息が小さく響いていた。









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