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鼓動

 遺跡の一角、抽象的な絵が描かれた壁にひときわ大きな扉。

その扉の内側では数人の男女が夕食を取っていた。

その中の中心人物らしき人物が物騒な格好をした三人の人間に指示を出していた。

「よろしいですか? 今後一切勝手なことは許しませんわ。私たちの目的は悪までこの部屋での封印陣の補強。薄汚いこそ泥ではありません事よ」

とげのある言い方に三人はそれぞれ小さく舌打ちする。

「「「解りました。レベッカ様」」」

三人の顔を上から見下すように睨みつけるとレベッカは言う

「あなた達はただ言われたとおりに動いてればよろしいのですよ。この貴族である私の言うとおりに」

レベッカは気づいていなかった。彼女の後ろ姿を悲しげな瞳で見つめている少女がいることに。




「じゃぁあ始めようかセフィー」

さんざん擽った後セフィーを解放したルシーナは、膝に手をつき呼吸を整えるセフィーに言う。

「はぁ、ふぅ、う、うん。解った」

セフィーは膝から手を離し乱れた服装を軽く整えると石の扉の前に立つ。

その横に立つルシーナに告げる。

「それじゃ、ルシーナお願い」

彼女の言葉に無言で頷くと、ルシーナは右手に指示棒を持ち魔法言語を唱える。

「我求む 無を穿て風の対爪」

ルシーナが指示棒を前に突き出すと扉の左右に風が渦巻き始める。

目に見えぬ二つの風の渦は速度を増していき、それに伴い風の音が激しくなる。

瞬間、渦の動きが変化する。

二つの風の渦は左右から同時に扉へとぶつかる。風の渦は互いにぶつかることなくすれ違う。風の渦の間ではすれ違いによって生じた風の刃が扉を削る。

「悠久の時の流れし光の裁きよ 我が命に従いその裁きをここに下せ 」

風が止まる前にセフィーは左手を突き出し魔法言語を唱える。唱え終わると同時に彼女の周辺にいくつもの光の固まりが出現する。

それを確認するとルシーナは後方へ軽く飛び退き自らが書いた陣の前で手を地に付ける。

風が止まり扉に小さく光が付くと同時に開いていた手のひらを握りしめるセフィー。

無数の矢へと姿を変えた光が壁へと飛んでゆく。

「型無き千の望みを形作りし水球 我が声に答え 望みし型となれ」

それを見送ることもせずセフィーは別の魔法言語を詠唱する。

右、手のひらを上に向けて体の前に出す。手のひらにゆっくりと水が集まり出す。徐々に量を増やすと共にそれは丸い形を取っていく。

ある程度の大きさになったところでセフィーは水球の中に指を突き刺し、手を円を描くように動かす。手の動きにあわせて水球は形を変え、楕円へとなっていく。

楕円から円盤状になり、刺した指の穴は遠心力で広がりすでに手のひら全体が入る程だった。穴あきの水の円盤を回しながらセフィーは叫ぶ。

「裂け水の円刃」

一端後方に腕ごと提げたそれを勢いよく扉に投げつける。

半円を描きながらそれは扉へと向かう。水でできたそれは壁にぶつかっても崩れることない。自ら回転を続け、円盤状を保ちながら鋭い水の刃で斬りつけ続ける。

「我 陣もちいて呼び起こす 炎の陣 我が力ここに記せ 猛は蛇のごとき炎となりて我示せし その姿にて焼き尽くせ」

水の刃が扉を斬りつけてる間にルシーナは長めの詠唱を唱え終わる。

地面にかかれていた白色の陣は詠唱に反応し、淡く青色に光った後、火のような真っ赤な光を放ち出す。

陣を媒体として注ぎ込まれたルシーナの魔力は次第にその姿を現し始めた。

セフィーはその様子を横目で見ながら自身も別の陣のところまで移動する。

炎の魔法陣とかした陣の中では濛々と炎が猛っていた。一つの大きな炎だったそれは次第に形を変え、一本の一つながりの炎となる。

まるでその姿は蛇のようで、とぐろを思わせる姿で炎の勢いを増していく。

セフィーが陣式魔法の陣に触れる。それを合図にしたかの様に炎は扉へと向かう。

まるで生き物のようにその体をくねらせながら扉へと当たる。

炎は幾度と無く壁にぶつかっては形を崩し、飛び散る火の粉は一つにまとまり元の形を形成する。

「我 陣もちいて呼び起こす 土の陣 我が力ここに記せ 大地の鼓動は姿無き土竜なりて我示せし 枷を伴い斬撃せよ」

扉に炎が巻き付き締め上げている間にセフィーは陣を発動すべく詠唱する。

淡く青色に光った陣は土色に輝き出す。

扉を締め上げていた炎が消えた。

瞬間、扉の周囲に上から押しつぶされたようにひびが入る。扉の周囲に落ちていた小石は圧力で砕け散る。

土色に輝く陣では何カ所も小山のように隆起していた。

セフィーの胸の高さほどある小山の群れはゆっくりと動き出す。小山の後には地面が盛り上がって崩れ落ち、さながらうねのようだった。

小山の群れは扉に近づくにつれ速度を増し、扉のすぐ近くで三つに分かれてぶつかる。

ぶつかるたびに乾いた音が響き、その音に引き寄せられるように小山の群れが四方八方から迫る。

ルシーナは更に後ろへ下がりひときわ大きな陣に手をつき、セフィーは右手に小さな魔道具を用意する。

扉に五つめの光が灯ったのを確認してセフィーは右手に持った魔道具を壁に投げつける。

そして後方へと下がり陣に手をつく。

吸い寄せられるように石へとくっついた魔道具は激しく回転を始める。風を呼び小さな竜巻のように壁から垂直に風の渦が立つ。周りの物を引き寄せるような風がおきセフィーとルシーナの制服をたなびかせた。

しばらくすると渦の周囲に水の固まりが集まり初め、風に乗り旋回し出す。旋回する水の固まりは次第に凍り付き鋭利な杭のようになる。そして一定以上の大きさになると次から次に扉へと突き刺さる。

「我 声聞こえしならばここに示す」

ルシーナ陣を発動すべく詠唱を始める。

「我 流れゆくは陣にて形になり」

セフィーもルシーナに答えるように詠唱する。

「荒ぶる息吹は炎となり大地を揺らす」

「安らかなるめる鼓動は息吹によりて胎動する」

「「地にて息吹て生まれし轟炎 脈打つ鼓動は力を示す」」

二人の声が重なり詠唱が終わると陣は激しく光った。

陣の中心から地割れが起き炎が吹き出す。

血しぶきのように舞い上がる炎は地に触れると新たな地割れを創りまた炎を吹き出す。

陣を中心に地割れは広がり網の目状に炎が吹き出す。

一際大きな地割れが起きるとそこから炎が火柱となって立ち上がる。

そしてその火柱の中より轟炎に包まれた土のかたまりが出てくる。

炎を脈打たせながらそのかたまりは回り出す。

回り出すと同時に地面は大きくえぐられ瓦礫となった遺跡の一部は固まりへと吸い寄せられる。

それはゆっくりと周りを飲み込み燃やしながら壁へとぶつかる。

轟音をたて壁を燃やす炎、えぐり続ける土塊の進行は止まらない。

が、最後の宝石が光った瞬間壁は轟炎をまとう土塊ごと消え去る。

と共に、ルシーナは後ろに手を付け座り込む。

「ふぅ、予想の斜め上って、はぁ、ところっね、セフィー」

仰向けに倒れ込み息を整えるセフィーにルシーナが言う。

その声色は少し苦しそうだった。

「はぁはぁ、そうだね、まさか消えるなんて、思わなかった、はっはぁ」

ルシーナよりも消耗が激しいのかセフィーはそれだけ言うと目を瞑る。荒い呼吸を整えようと大きく息を吸ったり吐いたりする。

「さすがにこれだけ魔法を使えば疲れるわね」

ルシーナはそう言いながら立ち上がり自らの荷物を漁り出す。

手をつき起きあがるとセフィーは不審な行動をするルシーナをただじっと見つめる。

「セフィー消耗したんだからこれを飲んで休みましょう」

「それ何? 」

ルシーナは荷物から緑色の液体が入った小瓶を二つ取りだし一つをセフィーに差し出す。

セフィーはそれを警戒しながら見る。

薄暗い中でその緑色の液体は不気味だった。

「体力回復促進栄養補給薬、液体使用」

「薬、、、苦そうだけど、苦いそれ」

セフィーの問いにルシーナは笑顔で答える。

「全然、全く、これっぽちも苦くないわよ」

しかしその笑顔は言葉が嘘であることを象徴するだけだった。

「お休みルシーナ」

引きつった笑顔でそう言うとセフィーはぱたりと横になりスースーと寝息をたて寝たふりを決め込む。

「いい加減に子供のような弱点は克服しなさい」

ルシーナはため息をつきながら小瓶のふたを取り、中の液体を寝たふりしているセフィーの口へと注ぐ。

とたんにその場でもごもごとのたうち回るセフィー

「苦いよぉ、苦いよぉお」

涙を流しながら愚痴をこぼすセフィーにルシーナは自らも液体を飲み干し一言

「良薬口に苦し」

セフィーは口に残る薬の苦さを消そうと携帯食料にかぶりついていた。




日の光など届かず、星や月の輝く空も伺うことのできぬ遺跡の一角で、彼女は準備を始めていた。遺跡の中心部であろう部屋の中で、何かの儀式の為であろう祭壇の前で。

荷物から取り出した古びた書物に時折目をやりながら。

その彼女を後方から心配そうに見つめる一人の少女。魔法学園のローブを着ており彼女の親友であるはずの人物。

「レベッカ様、いったい何をなさっているのですか」

ローブを着た少女に寄り添うように立っていた青年が警戒した眼差しで問う。

「何って封印陣の補強でしょ」

ローブを着た少女は隣に立つ青年に言う。が、青年の表情は彼女が見たことがないほど険しい物だった。

不安をかき立てられ少女はすがるようにレベッカに聞く。

「封印陣の補強だよね。封印のやり直しするんだよね」

しかし彼女のその思いを裏切るかのようにレベッカは不敵な笑みを浮かべて答える。

「封印の補強?そんなことできないわよ。封印のやり直し?せっかく解けかけてるのに?」

「レベッカっ」

彼女の突然の豹変に少女はあわてずにはいられなかった。

「この遺跡には強大な力が眠ってるの。この世の理を覆すことも可能なほどの」

陰をまとった笑みを浮かべ言うレベッカ。

「まさか、それを自らの物にしようと言うのですか。そんなことができるわけ無いでしょう」

ローブを着た少女を庇うように前に出た青年がレベッカに言い放つ。

それを嘲るようにレベッカは笑みを浮かべたままの表情で話す。

「できるわ。私は見つけたの太古に禁じられし技法を」

彼女は開かれたままの書末を片手に持ったまま恍惚とした表情を天に向ける。

「まさか、学園の閲覧禁止書物を」

青年の声をかき消すように三つの人影が勢いよく飛び出る。

各々の武器を手に取り一気に間合いを詰める。

一人は剣を振り上げ、一人は短剣を持った両手を反らし、もう一人は握りしめた拳を打ち出す。

戦闘などやったことのないローブを着た少女には彼らの動きをとらえる事さえ適わない。

なのに、

「邪魔っ」

飛びかかってくる三人の武術学園の生徒を殺意に満ちた目で射抜き、レベッカは右手を振る

「っぐ」

「へぐっ」

「、、、げはっ」

たったそれだけの動きで三人の体をはじき飛ばす。

思いもよらぬ衝撃に三人はまともに受け身もとれずに遺跡の壁へとたたきつけられる。

力無く地に崩れる人の音

聞き慣れた物でもあまりいい心地はしない。

ローブを着た少女はその音が聞こえぬ様に両手で耳を塞ぎ小刻みに震えていた。

地に崩れ落ちる最後の一人を冷たい眼差しで見届けると両手を広げレベッカは狂気を宿した顔で声高らかに宣言する。

「さぁ、始めよう。血に飢えし力の解放を。舞い踊ろう狂気に満ちた惨劇を。奏でよう絶望と悲しみに満ちた鎮魂歌を」

レベッカは祭壇へと向き直ると手に持った書物に書かれた通りに準備を再開する。

「貴方は一体、誰なのです」

青年は暗く陰を待とう少女にそう告げた。・・・我は望みし時の戒め 朽ち果てし封は戒め 押さえし思いは奏でし狂気 我が封の解き手とならんは 抱きし思いにより 汝望めよ解放の刻 我 導くは定めの刻・・・


遺跡に響く少女の声、澄んだ水のようになめらかで、淀んだ水の様に受け付けない声

祭壇からわき出した影は塊となり一つの形となす。



お久しぶりです。

長期更新停止してて、すみません。

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