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丘上の遺跡

 

 翌朝、日が昇ると同時に二人は身支度を整え始めた。

就寝用の薄い布地から学園支給の屋外実習用の制服へと着替える。

普段来ている制服よりも動きやすさと防護生を高めた飾り気のない紺色の制服。

それぞれ腰には思い思いの準備を施した、そろいのサイドバッグを取り付ける。

セフィーは野宿の為の掛け布や携帯食料の入った鞄を肩から提げる。

ルシーナも同じように鞄を肩に掛け、左袖に彼女特性の魔法発動用の指示棒を挿す。


おおかたの準備が整うとセフィーは部屋に備え付けの姿見を見ながら髪を整える。

肩より下まである明るく茶色の髪。普段は簡単に整えていたが今日はそう言うわけにも行かない。

動き回るのに支障のないよう後ろにまとめて流し、こめかみあたりの髪を両方、編み込み後ろへ回す。

まとめて後ろに流した髪と、左右から持ってきた編み込んだ髪を髪飾りで止める。もちろん母の形見である髪飾りで。

頭を左右に振りきちんとできたか確認する。

「セフィー準備できた? 」

その声でセフィーが振り向くとルシーナはすでに髪をまとめ終えていた。

セフィーより長い髪をルシーナは後ろでまとめていた。

幾重にも折り重ねるようにして纏め肩ぐらいの長さになったところで黒い髪留めで頭に固定していたその姿はいつもにまして凛々しかった。

ルシーナに笑顔でセフィーは頷く。

彼女は、部屋の一角に置いてる上掛け用の引っかけ棒に掛けて置いたローブを両手にとり、片方をルシーナへと渡す。

サイドバッグの上からローブを羽織る二人、いつもの空色ではなく、制服と同じ、屋外実習用の色落ちした茶色のローブ。

元々大きめだった留め具を外しやすいようにと更に大きくした二人だけのローブ。


「行こう、セフィー」

「うんっ」


準備を終え宿の一階へと向かう二人。日も昇らぬ内からどたばたと騒音をたてながら出て行った貴族のことなど忘れて。


 学園都市の新たな課題表に加えられた遺跡は、村から南東の方角にある。

一端村から出て草原広がる街道を東に進む、村を後ろ手に右手になだらかな丘を眺めながら街道を進み北西から来る川と北東から流れてくる川が合流したところで進路を南西に変える、丘を登るように続く街道を進み、曲がりくねる街道の終着点でその遺跡は忽然と姿を現す。

馬車なら半日かからず、徒歩でも一日とかからない。

宿の一階では二人の他にもたくさんの人が遺跡へと出発していた。

朝早いにもかかわらず、すでに朝食を取り終えた者たちは我先にと宿を後にしていた。

その光景が滑稽で二人はおかしくなる。

軽い朝食を取り宿を後にしようとする二人に鳶色の瞳をしたセレーヌが話しかける。

「おや、二人もいくの? 」

彼女はたくさんのパンが入ったかごを片手に持っていた。

「えぇ、できるだけ、のんびり行こうと思ったんで」

「セレーヌさんが教えてくれた道を行こうってルシーナと話し合ったんです」

「そうかぁい、行くんだね二人とも。気を付けて行ってきなさい」

セレーヌは優しい笑顔でそう言う。

そして何か思い出したようにかごから二つパンを取り出すと二人へと手渡す。

「これは? 」

「私からの餞別よ。お昼にでも食べなさい。この村 特性、木の実と蜂蜜を練り込んだパンさっ 」

「もらっていいの!? 」

片目を瞑り、愛嬌よく「もちろん」と告げるセレーヌに、セフィーは子供の様に喜ぶ。

受け取ったパンを布にくるみ鞄へとしまうと二人はセレーヌに軽く挨拶する。

「じゃぁ、行ってきます」

「帰ってきたら、いろいろと話すね」

「ええ、行ってらっしゃい。おいしい料理でも作って帰りを待ってるわ」

そして二人は宿の外へと出る。二人を見送り終わるとセレーヌは食堂へと向かう。

嵌め殺しの窓から見える空は、昨日とうってかわって穏やかな空だった。

薄い雲の残る空を見ながら彼女は二人の無事をそっと祈る。



 二人は柔らかい日差しと、吹き抜ける気持ちのいい風を全身に受けながら目的の場所へ向かっていた。

時折、歌を口ずさみながら二人は歩く。

街道を歩いているため、何度も馬車が横を通り過ぎるが、二人は気にすることもなく歩を進める。

遺跡までの道のりを歩く姿は彼女たち以外に一つもなかった。


「あ、ねぇルシーナ。あれが北西から流れてくる川だよ、きっと! 」

「そのようね、ってことはこの辺から丘に向かって歩けばいいのね」

二人は左手方向から流れてくる川を遠目に確認すると、進路を南に変える。

街道を北東に沿うように流れる幅広で穏やかな川。

名も知らぬ川の向こう側、緑の草原から穏やかに丘へと変わる地形、二人は向かう。


セレーヌが二人に教えた遺跡までの道のりは本来は村のごく一部の者しか使わない。

存在自体、知らぬ者が多く、知っていたところで獣道とほとんど変わらないそれを使おうという者などまずいない。

しかし、その分自然豊かで、たくさんの小動物や好奇心旺盛な魔物の幼生が、時折顔をのぞかせる。

何より遺跡までかかる時間がかなり短縮できるのだ。

本来の道のりなら馬車と同時に出発したところで徒歩で先に付くなどありえない。

しかし、この行き方だと馬車と同じかもしくは幾分早く付くことができる。


二人は、川面から顔をのぞかせる転々とした獣道の石橋を、時折水の冷たさを楽しみながら渡る。

渡り終える前に、流れの緩やかな川へと入り、昼食用にと何匹かの魚を捕る。


木々や植物が次第に多くなる丘の上への獣道を二人は難なく進む。

次第にきつくなるそれも風の補助魔法を使うことで何の障害にもならなかった。


「このパンおいしいっ! 」

「ほんと、木の実と蜂蜜の組み合わせが絶妙ね」

「こっちの魚もおいしい 」

「自然が豊って幸せね。そう思うでしょセフィー 」

「うん、うん、」


獣道の途中、小さな小川の開けた場所で昼食をとるセフィーとルシーナ。

セレーヌにもらったパンを食べ感動し、途中でとった魚を口にしては自然の豊かさに感謝する。

多少とりすぎ気味だった魚は、においつられてやって来た四足の動物親子や、二足の魔物の幼生などに分け与えた。


昼食後しばしの休みを取り二人はまた歩き出す。

ここまでの疲れなど全く見せず、普通なら苦労する獣道を相変わらず難なく進む。

風の降霊魔法の詩を口ずさみながら。

これも二人がシャーマンの娘であるからだった。

シャーマンは降霊魔法を得意とする。世界の理を形作る精霊の力を借りて行う降霊魔法は何より自然を愛する心がなければ使えない。無理に精霊の力を使うこともできるが、効果は半減し術者への負担は計り知れない。

よってシャーマンは例外なく自然を好む。

その娘である二人にもしっかりとその血は受け継がれいる。

それ故、自然との相性もこの上なくよかった。


獣道を抜け、緩やかな斜面の草原を上り詰めるとそれはあった。

「これが、その、遺跡、なの? 」

「多分そうだと思うけど、、、、、、大きな建物、だね」

二人はその遺跡を確認すると同時にその大きさに息をのむ。

あまり日が傾いていないおかげで遺跡の全貌を見ることができる。

遺跡は二人の予想より遙かに大きく建物の端から端まで見て回るだけで一日かかりそうだった。

「取りあえず見に行ってみましょ」

「そうだね、取りあえず入口を捜さないと」

遺跡に近づくにつれ二人はあることに気づく。

今でこそ朽ち果て遺跡となっているが、もともとこの建物は神殿だったらしく至る所に飾りの彫刻の後があった。

だが、そのどれもが長い時間の間に崩れ、風化し、元の形が解るものはどれ一つとして無かった。

二人が近づいた遺跡の壁は、建物の正面ではなく本来の建物の側面だったらしく、どこを探しても建物への入り口は無かった。

「こっちに入り口はないみたいだね、ルシーナ」

「えぇそうみたいね。セフィー正面の方へ行こう」

側面に見切りを付けて壁づたいに正面へと向かう二人。

時折壁に施された彫刻を見ながらゆっくりと進む。

不思議なことに彫刻はほぼ壊滅状態に近いのに建物自体はしっかりとしており、どこにも崩れた後も、修復された後さえもなかった。

そのことに気づいたのは彼女たちだけではないらしく、あちらこちらで建物を調べる考古学者たちも気づいていた。

残念なことに、その他の傭兵、セルラノフィートの生徒達は、建物の中にどうやって入るかで頭がいっぱいらしく、そのことに気づく素振りはなかった。

「セフィー、これ見て!」

セフィーは前を歩いていたルシーナが示す物を見る。

それは建物へと深く刻み込まれた文字だった。所々崩れているが彫刻と比べると断然この文字の方が残っていると言ってよかった。

「何だろう普通の言葉じゃないみたいだけど」

「魔法言語? って訳でもなさそうね。にてはいるけど、、、、、、」

二人は刻まれた文字を注意深く観察する。

最初こそ解らなかったが、観察を続けるにつれある結論へと導かれる。

「セフィー、もしかしてこれ、、、」

「うん、おそらく古代魔法言語だと思う」

「やっぱり。じゃぁそれが刻まれているってことは、この建物、、、、、、」

「ずいぶん昔に作られたことになるね」


この世界では時代の移り変わりと共に使われる言語も変化し、長い歴史の中で生まれては消えていった。

現在使われている言語より昔に使われていた言語は、魔法言語として今でも扱う者が多数いる。しかし、それよりも一つ前に使われていた言語、通称、古代魔法言語は全くといっていいほど使われてはいない。

ごくわずか、降霊魔法を使うときの詩の一部に単語が出てくるだけである。

今となっては誰一人として古代魔法言語を使っての魔法は使えない。

「この言語が使われてたのって確か1000年ぐらい前だよね」

「確かそうだったはずよ。てことはこの建物も同じ頃、建てられたことになるわね」


二人は遺跡に刻まれた文字を手でゆっくりとなぞる。

「セフィーこれ読める? 」

セフィーはゆっくりと全体を見回した。

使われることはないが古代魔法言語は現在でも学問として残っている。

「単語程度しか読めないし、文章としての意味はたぶんわかんない。けど、それでいいなら・・・・・・」

自信なさげにセフィーはルシーナに言う。

「それでいいわ。なんて書いてあるの?」

ルシーナの返事にセフィーは自信なさげな顔のまま刻まれた文字を読み上げる。

時折、詰まりながら、首をかしげながら、ぽつぽつと読み上げる。

「我、、、求めし?、、、力、、、悠久、、、汝、、、滅する? 眠る? 、、、 」

セフィーは壁に刻まれてある古代魔法言語を読み上げなが、壁に沿って歩く。

その後ろをルシーナはセフィーの読み上げる声を聞きながらついていった。

「授ける、、、捧げる、、、たまえ、、、、、、ごめん、このぐらいしか読めないよ。解らない文字が多すぎるから、、、 」

「いぇ、ありがとうセフィー。見たこともない文字だらけの上に、こんな崩れかけじゃ仕方ないわ」

壁づたいに歩いてきていた二人はいつの間にか建物の角まで来ていた。

「それにしても、見事なまでに」

「意味がわかんないよね。」

角を曲がり遺跡の正面、入り口の方へと向かう。

正面でも同じように多くの生徒や傭兵、考古学者の姿があった。

「セフィー、この遺跡って昔は神殿だったみたいね。今じゃ見る影もないけど、ね 」

「うん。何か宗教的な儀式か、もしかしたら何かを封印してたのかも。ただ、、、どちらにしても何か、嫌な感じがする 」

「そうね。あんまり長居はしたくないわね」

遺跡を見た感想や感じ取った印象などを交わしながら二人は目的の入り口まで歩いていった。

入り口の方では、同じ仲間同士と思われる人物同士集まっている。

そしてグループごとにお互い牽制するかのように距離があいていた。

その間を考古学者や傭兵がうろついていた。

その光景はいささか異様なものであった。


 











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