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術者である前に

 昼食を食べ終え満足した二人は食後のお茶を飲みながらしばし休憩していた。

嵌め殺しの窓から見える空は未だどんよりとしており、昼間だというのにあたりは薄暗かった。

「明日にはやむと思うルシーナ?」

「さぁそればかりは解らないわ」

不安げな表情で尋ねるセフィーにこればかりはと首をかしげるルシーナ

そんな二人に気づいたのか給仕に一段落付けた鳶色の瞳の女性が二人の元へやってきた。「どうしたんだい? 暗い顔して綺麗な顔が台無しだよ」

明るく話しかける女性にセフィーが尋ねる。

「明日晴れると思います?」

一端、セフィーの顔を見つめた後、窓の外へとその視線を向ける女性。

「なるほど天気のことで悩んでたのかい。ちょっと待ってなさい」

女性は外を見つめたまま目をゆっくりと閉じる。

閉じたときと同じようにゆっくりと目を開ける。

セフィーとルシーナは女性が何をしているか解らなかった。おそらく何かやっているのだろうが傍目からはただ空を眺めているようにしか見えなかった。

 その海のように青い瞳でいったい何を見ているのだろう。二人がそう思い始めた頃、女性は二人の方へと向き直り腰に手を当て得意げに話し出す。

「大丈夫よ。この雨は夕方までには上がる、明日は良い天気になるよ」

なぜ女性が得意げにそう言いきれるのか二人には解らなかった。

「おばちゃん何でそう言い切れるの?」

「自然のことなんだから断定はできないんじゃないかしら」

そう聞く二人に女性は笑いながら答える。

「あははっこのセレーヌ様に解らぬもの、否、見えぬ物など無いのだよっはっはっは」

その答えに二人はますます混乱する。

「解ったかい光と水のシャーマンの娘セフィルーナに火と風のシャーマンの娘ルシーナダ」

そしてそのセレーヌの言葉に驚愕する。

「何でそんなことまで解るの?」

「あり得ない教えてないのに、解るわけ無い」

「さっきも言ったはずだよ。解るんじゃない見えるんだって」

そう優しく告げるセレーヌの表情を見て二人はあることに気が付く。

「おばっセレーヌさん、さっきまで確か」

「確かさっきまで瞳は鳶色だったはずなのに、どういうこと」

セレーヌは悪戯がばれたような表情になる。

「瞳の色が青くなってる」

「どういうことなの」

「ぐっはっはっはやっと気がついたな小娘さん達」

そして堪えきれずに笑い出す。その瞳は海のような青色だった。


ひとしきり笑った後セレーヌは二人に今までの不可思議な言動について最初から説明していく。

そのセレーヌの瞳は元の鳶色に戻っていた。

「いいかい。よく見てるんだよ」

そう言うとセレーヌは二人の顔を向けたままゆっくりと目を閉じる。

彼女はすぐに右目だけ開く。その瞳はすでに鳶色ではなく外の曇り空のような青みがかった灰色だった。

そして左目はゆっくりと時間を掛けて開く。今度は海のような青い瞳の色になっていた。セレーヌの瞳は左右で全く違う色になってた。

「「まさかっ」」

セフィーとルシーナは同時に同じ結論に至った。

「そう、そのまさかだよお二人さん。私は瞳に魔力を集中させたのさ」

にこやかに言いながらセレーヌは右目だけを閉じる。

「瞳に色が変わるほどの魔力を集中させることで普通なら見えない物まで見えるようになる。」

彼女は両手を右手に添えながら話を続ける。

「それは大気の流れだったり、魔力だったり、相手の力量や弱点 、体調も解れば、体の成熟度、発達途上か停滞時期か下降してるかさえも解る」

セレーヌは両手を降ろし右目をあける。

セフィーとルシーナは彼女の右の瞳の色に息をのむ。

爛々と輝く右の瞳は金色だった。

「さらに、ここまで集中させればもっと見える。相手の思考はもちろん脈拍、血圧、嘘何かすぐに見抜ける。もし見ている対象が女性なら妊娠の有無、胎児の状態、男性なら、、、、、、これは言わない方が良いわね。まぁありとあらゆるものが見える」

そこまで話したところでセレーヌの右の瞳は金色から海のような青へと変わる。

「魔力の集中させる量で瞳の色は変わる。灰色から青に、青から銀色に、銀色から金色という感じにね」

「セレーヌさんはどうして右目だけ金色にできるの」

セフィーが遠慮気味に聞く。

セレーヌは昔を懐かしむように説明する。

「私は若い頃は金色の秘宝を持ちし銀の瞳の女と呼ばれてた。実際、瞳の色も常に銀色に保てたし手の補助なしで右の瞳を金色にすることだってできた。術者として当時の見方では9だった。たくさんの依頼をこなしてたくさん旅をした」

「ならどうして今は、それができないの?」

ルシーナは率直に尋ねる。

「それはねぇ」

セレーヌは一呼吸おいて話す。

「どんなに術者として優れていても私は術者の前に女だった、、、いや人だったというべ きだね。世界を旅して孤独に耐えられなくなったとき今の旦那にあって、恋をして、一 緒に生きると誓い合って、一緒に暮らし、子供を身ごもり、産み、育て、、、、、、気づい たら私に若い時の力は無くなっていた」


二人はセレーヌの話に聞き入っていた。


魔術者である女性は子供を身ごもり、産み、育てていく中で徐々に術者としての力は衰えていく。

新たな生命を生み出す時に母として新たな生命にすべてを与えるためである。

この世に生を受けた時点で多かれ少なかれ人の命の中には魔力が宿っている。その魔力こそ母から分け与えら得た物である。

また授乳時に赤子は母親からその乳房を通して魔力をもらう。

それは愛情と一緒に小さな体に蓄えられその後、その子の生きる糧となる。

そして蓄えられた愛情ともらった魔力は、また新たな命へとそそがれ、永遠に受け継がれる。


「私は前のように力が使えなくなったとき、少しも寂しくはなかった。そりゃ、今まででき たことができなくなっていったんだから、焦りや恐怖心がなかったって言ったら嘘になる。でも、私は気づいたんだ力がなくなっても決して無くならない物があることに、、、、、、」

「それは、、、?」

セフィーが話の先をせかす。

セレーヌは優しい笑顔で答える。

「それはいつも側にいてくれる旦那だったりお腹を痛めて産んだ愛しい我が子だったりそして私をこの世に生み出してくれた母であり育て導いてくれた父だった」

最後にセレーヌはそう締めくくった。

「、、、、、、」

「、、、、、、」

何も言うことのできない二人を優しくみこむように抱きセレーヌはそっと話す。

「子供を産んで育てて、力を失った私だから言えることがあるの。きっとこれはあなた達のお母さんと同じ思い」

「力を失ったとしても後悔しない、それは私の思いと一緒にこの世で一番愛しいあなたの中に宿っているのだから。命を縮めたとしても私は嘆かない、愛しいあなたが生きていてくれるのだから。私は忘れない、あなたと出会えたことを。そしてずっと側で見守っている、ずっと願ってる、体が朽ち果てようとも命の灯火が消えようとも、あなたが幸せになる日を、幸せをつかむ日を、、、いつまでも、、、、、、いつまでも」


いつしかセフィーもルシーナも涙を堪えれなくなっていた。

二人の頬を伝う涙を見ながらセレーヌはそっと告げる。

「だから自分を責めずに生きて、泣きたいときは泣きなさい。我慢する必要なんか無い思いっきり泣けばいい。そうすれば気づくはず姿形は無くともいつもあなたを見守っている思いに」


「、、、、、、んっく、、、ひっく」

セフィーは何度もしゃくり上げながらも声を出すことをせず泣き続けた。

ルシーナはしゃくり上げることさえ忘れるほど泣いた。

二人とも母親が亡くなった日から人目で泣くことをしなくなった。

一番の心のよりどころを無くし、人前で泣く余裕などなく。唯一の親友には心配掛けまいと必死に耐えてきたのだった。



「セレーヌさん、その瞳の色を変えることって誰にでもできるの? 」

ひとしきり泣き、落ち着いたセフィーはセレーヌにそう尋ねてみる。

セレーヌは腕を組み、しばらくの間、考えるように目を瞑る。

「やっぱり何か特殊な力がいるのかしら? 」

そう尋ねるルシーナに彼女は目を瞑ったまま首を横に振る。

「特にこれといってこの技を身につけるのに必要な力なんて必要ないわ。ただし、条件が一つ」

「条件? 」

目を開き青色の瞳で二人に話す彼女。

「この技を使うにはそれ相応の魔力を持っていて、かつそれを正確に操れる技術力が必要なのよ」

「魔力に、それを操る技術力、ね」

ルシーナがそっと合図地を打つ。

「まぁあなた達、二人なら魔力の量も問題ないし、それを操る力もきちんとあるようだから大丈夫でしょ」

「それじゃぁっ」

期待の眼差しで見つめるセフィーにセレーヌは笑顔で答える。

「教えてあげましょう。たぶんあなた達なら少し練習すればすぐに扱えるようになるはず」

その答えにセフィーは子供のように喜びルシーナもお礼を言う。


 遠くの方で、馬車を出せと叫ぶ耳障りな甲高い声と、運転手ともめる貴族の姿が目に付いたが、三人は気にしないで練習へと取り組む。


「いい? この技はどれだけ魔力を目に集中できるかが基本となる。いくら魔力があったって、それをうまく制御して目へと集める力が無ければ、この技は使えない」

セレーヌに教えられながら二人は瞳に魔力を集中させる練習をする。

普段、目に魔力を集中させることなど無かったため、二人ともなかなか思うようにいかなかい。

「焦ることはないよ。ゆっくりでいいんだ。最初は手を使って魔力を瞳に集めるところからでいいのよ。なれてくれば自然とできるようになる」

セレーヌの助言を参考にしながら練習を繰り返す。

しかし、そう簡単にいくはずもなく何度やっても二人の瞳の色は変わらない。

「両方いっぺんに集めるのはあなた達でも難しいと思うわ、取りあえず片方ずつやってみなさい」

そんな二人をどこか懐かしそうに見つめながらセレーヌは優しく言う。


セレーヌが再び給仕に戻った後も二人は目を瞑ったり、手を目に添えたりと試行錯誤していた。

その様子をセレーヌは給仕の傍ら海のような青い瞳で見まもる。

彼女には徐々に瞳へ魔力が集中している二人の様子が見て取れた。

この技を習得するのも時間の問題だと微笑んだ。

「ルシーナ、瞳の色変わってる。銀色になってるっ 」

と、その時少女の嬉しそうな驚いたような声が聞こえる。

少女の視線の先では確かに切れ長の目の少女の瞳は銀色へと輝いていた。

「ほんとに? 自分じゃみられないから確認のしようがないわ」

そう言いながらかすかに窓へ写る自分の顔を必死に確認する少女。

「空をみてごらんきっと違って見えるはずだよ」

そんな彼女にセレーヌは声を掛ける。



「・・・・・・」

「どうしたのルシーナ? 何か見える」

セレーヌにいわれるまま空を眺めたルシーナは絶句した。そんな彼女に期待した声を掛けるセフィー。

「ルシーっ」

「凄いっ 違って見えるどころじゃない。まるで全くの別世界を見ているみたい」

突然興奮気味に叫び出す友人に怯むセフィー。

「どこが違うの?」

「どこって言うか、なんと言えばいいの、説明しづらいわね」

「そう、、、何だ」

「セフィーも見れば解るはずよ」

「そう、だよね」

少し寂しそうにそう言うとセフィーは目を瞑る。

窓の外を見たまま両手を右目に持っていき魔力を集中させる。

今までよりも長い時間、目を瞑りそっと開く。

「・・・・・・」

最初こそゆっくりと目を開いたセフィーだが目に映る景色の違いに驚き一気に目を開く。

眺めて初めてルシーナの言いたかったことがセフィーにも解った。

もはや何が見えるどころの話ではなくすべてが違って見えていた。

先ほどまでどんよりとした雲に覆われた空にしか見えなかった空は、今ではまるで生き物のように動いて見え。

雲の下には無数の水と風の精霊がせわしなく飛び回る姿があり。

対照的に大地では土の精霊が張り付いていた。

今まで見えなかった気づくことができなかった世界の理をかいま見て二人は感動していた。


「夕食の頃合いになったらまたおいで、今日は雨だから特別に豪勢な食事にしてあげるから」

セレーヌは腰に手を当て食堂を後にしよう席を立ったセフィーとルシーナに言う。

村に一つしかない、この宿では雨で足止めされ気分が滅入らないように雨の日の夕食は豪勢な食事を出して待てなすという習慣があった。

「それじゃまた早めにくるね」

「ここの料理とてもおいしいから楽しみです」

二人はそう言いながら食堂を後にする。


二人の後ろ姿を見おくったセレーヌは頭を左右に振り首の骨をならす。

「さすがにこれだけ年をとったら魔法を使わなくても答えるわね」

独り言を言いながら食堂の調理場へと戻る。

途中、ふと窓の外を眺めぽつりとつぶやく。

「今頃あの子はどこで何をしてるんだろうねぇ」


いつしか雨は小降りになり日が傾くにつれてどんよりとした雲も薄くなっていた。









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