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受け継つぐ思い

すみません。

なかなか暇ができず更新が遅くなりました。

 

 セフィーとルシーナが最初の目的の町に付いたのはセルラノフィートをでたその日の夕方だった。

彼女たちの予想していたより早く付くことができたためその日の宿は何の問題もなく見つけることができた。

止まれる宿を見つける間中セフィーは眠そうに目元をこすっていた。

簡単な夕食をすませ次の日に備えその日は早めの就寝となった。

食事を終え部屋に戻るとき受付でもめている貴族がいたが二人は見なかったことにした。

どこか見覚えのある顔だったことは疲れているからということにして。

 次の日まだ日が昇る前に二人は南西方向にある村へと向かう馬車に乗った。

その時、少し離れたところに悪趣味な飾りで飾り付けられた馬車が止まっていたが二人は朝靄のせいで気づかなかったことにした。

馬車は何の問題もなく順調に目的地へと進み遺跡近くの村に着いたのは町を出てから二日目、セルラノフィートを出てから三日目の夕暮れ時のことだった。


「ある程度は予想してたけどまさかここまでとはね」

 村に一つの宿へとやってきたものの宿には部屋を借りるための予約をするべく受付へと並ぶ人の列があった。

その人の多さに二人は盛大にため息をつき。列の最後尾に並びながらルシーナはぼそりと嘆く。

セフィーはセフィーで順番が回ってくるまでの間、暇つぶしにと列に並ぶ人々をきょろきょろと観察する。


列には課題実習でこの地に赴いた者以外にもたくさんの人が並んでいた。

それは大きな鞄を抱えて手には遺跡の調査道具を持った考古学者だったり。

一攫千金を夢見る若者だったり。

腰に提げた剣をいつでも抜けるよう片手で持ったままの傭兵だった。

セフィーはこの一つ宿のしたにこんなにも見た目や職種の違う人が集まっていることに驚いた。

「みんな新しい遺跡に向かうんだろうね」

自分たちも同じ遺跡に向かうことなどお構いなしにセフィーは他人事のようにそう言う。

「そ、そうね。たぶんみんな行く遺跡は同じじゃないかしら。」

そんなセフィーに引きつった笑みを浮かべながらルシーナは答える。


列の最後尾だった二人もいつの間にか前へ前へと進み気が付けば二人の前の二組が済めば

彼女たちの番となっていた。

長いようで短かった待ち時間に終わりが見え始めた頃には二人の後ろに客はおらず彼女たちがこの日の最後の客のようだった。

宿の利用者に部屋の鍵を渡していた宿の店主らしき人物もどこかほっとした様子だった。


 しかし、それを打ち破るかのように宿の木製の扉が音を立てて開かれ何人かの人が騒がしく入ってきた。

先に部屋へと荷物を運び終わり夕食をとるため食堂ちかくに集まり始めていた先客たちも何事かとその原因へ目を向ける。

「レベッカ、、、様、どうやら間に合った、、、みたい、です」

「ええ、そうのようね」

彼らの視線の先ではローブを着た先頭の二人がなにやら会話していた。

「それにしても汚い宿ですこと。装飾一つないなんて、これじゃあの狭苦しい町宿のほうがましに見えるわ」

聞くものを不愉快にさせるような発言をするローブを着た少女の一人。

その表情からは不満の色がうかがい知れる。

よく見ると彼女の着ているものはすべて質がよく一般的に出回っているものとは比べものにならなかった。

表情に貴族特有の品が漂うその少女をもう一人の少女は必死に宥めようとしていた。

「レベッカ様、不満なのは解りますが今は宿が取れるだけで幸せと思うべきでは、ないでしょうか」

そんな彼女に貴族の少女は鼻を鳴らし答える。

「ふんっ確かにその通りよ。まぁ、閑古鳥が鳴くような宿でもぉ、先客をどかす手間がないことを考えればありがたいと思うべきかしらね。それにこんな宿その気になればいつでもつぶせるかしらね。いろんな意味で・・・・・・」

貴族の少女は見下すような視線で宿の先客たちを見たあと受付へと向かう。

もう一人の少女は彼女の後に俯きながら続く。

その後を盗賊か傭兵か解らぬような姿をした三人組が、さらにその後ろには教会の白い神官服を着た一人が続いた。

大げさな音を出して歩く先頭の少女に、先客や宿で働く者たちは冷たい視線を向ける。

そんな視線など気にせずレベッカは歩を進める。

そして受付にいる先客へと気が付く。

「あら、あなた方はセフィルーナさんとルシーナダさんではありませんこと」

それはセフィーとルシーナであった。

ここにきて見つかってしまった不運を二人は心の中で嘆いていた。

「よろしければ部屋をご一緒願いたいですわね」

二人の胸中を察して敢えてレベッカはそう言う。

「二人部屋を一つ借りたいのですけど、あいてます? 」

冗談ではないと、ルシーナが答えようとする前にセフィーが受付の女性へと尋ねる。

「あぁ、開いているよ。ちょうどお嬢さん方で最後になるけどね。一番、角部屋だけどその分、他の部屋より広くなってる、ゆっくり休めるよ」

「そうですか、よかった。それじゃその部屋を借ります」

レベッカの発言など聞こえていないかの様にセフィーは部屋を借りる段取りをする。

セフィーにルシーナは驚きの視線を向ける。

視線に気づいたセフィーはルシーナに優しく微笑む。

いつものどこか幼さの残る愛らしい笑顔ではなく、まるで愁いを帯びた母親のような優しいその笑顔にルシーナは言葉を失う。

「それじゃぁ宿泊記録に名前を書いておくれ」

受付の女性の言葉にセフィーはルシーナから視線を戻す。

と同時に消える優しい微笑みに名残惜しさを感じながらルシーナも受付の女性が示す宿泊記録へと目を向ける。

「行こう、ルシーナ」

名前を書き終えるとセフィーはルシーナの手を取り笑顔で言う

「ええ、そうね」

ルシーナも笑顔で応じる。

 セフィーの笑顔は普段通りに戻っていた。

そのことを少し残念に思いながらルシーナは手に荷物を持ち歩き出す。

「少しお待ちになってくださらない」

完全に無視され気分を害したように言うレベッカに二人は立ち止まる。

「あなた方は貴族である私っ」

「まさか貴族ともあろうお方がご自分で約束なさったことをお忘れになどなりませんよね」

更に何か言おうとしたレベッカにルシーナは振り向き大げさなまでに丁寧な言葉遣いで問いかける。

言葉こそ丁寧なもののその言い方は大いに嫌みを含んでいた。

「あっ当たり前ですわ、そのようなこと」

切れ長碧眼の鋭い眼差しから逃れるようにレベッカは顔を背けそう吐き捨てる。

「そうですか。これは大変失礼なことを申しました。どうかご許しを」

笑いを耐えるような口調で言葉だけ丁寧に言うとルシーナはレベッカに背を向ける。

意外そうな顔を向けるセフィーに彼女は片目を瞑り悪戯っぽく笑ってみせる。

その笑顔にセフィーも笑みをこぼし二人は上機嫌で部屋へと向かっていった。


後にはどこか晴れ晴れとした先客たちと、たいしたものだと二人の後ろ姿を受付机越しに見つめる宿の店主である女性。

苦虫を噛みつぶしたような険しい表情のローブを着た貴族の少女、そしてその少女を心配げに見つめるローブを着た少女の姿があった。



それぞれの部屋に設けられた浴室で旅の疲れと汚れを落としたセフィーは着ていた服を就寝用の物へと着替えベッドの置かれている部屋へに入る。

「あれルシーナ、起きてたの?」

先に部屋へ入ったルシーナがすでに寝ていると思っていたセフィーは少々驚いた。

「どうしたの?」

「ちょっとね・・・・・・」

起きていた理由を尋ねるが曖昧な答えしか返さないルシーナ。

不思議に思ったセフィーはルシーナに近づく、数歩近づいたところでセフィーは彼女が何をしているのか理解した。

ルシーナはベッドに腰掛け小さな明かりを手元に置き本を読んでいた。

セフィーは彼女の隣に腰掛け話しかける。

「何の本、読んでるの?」

「ん?あぁこの本のこと」

話しかけられるまでセフィーに気づかないほど本に集中していたルシーナはあわてて顔を上げる。

ルシーナは読んでいた本を閉じ表紙をルシーナに見せる。

「え?んんぅと、詠唱魔法、、、陣式応用?」

初め書いてある文字が普段使う言語の物ではなかったため困惑したセフィーだが、すぐにそれが魔法言語だと言うことに気づき題名を読み上げる。

そして無言で執筆者名を見る。

・・・・・・エリーダナ・シャムラ・・・・・・

その名前はルシーナの母親の名前だった。

「それ、もしかしてルシーナの、、、、、、」

「そう、私のお母さんが書いた物」


・・・・・・詠唱魔法陣式応用・・・・・・

陣式魔法。広く一般的にそう言われる魔法

詠唱魔法の派生に位置する魔法とされるが全くの別物と言っても過言ではない。

普通、詠唱魔法は攻撃、補助、共に杖もしくはそれに準ずる物を媒介として自らの魔力を具現化する。

しかし、この陣式魔法では杖などの代わりに特殊な魔法言語を使った陣を書くか掘ることでそれを媒介として自らの魔力を具現化し魔法を発動する。

魔法を発動する人数も詠唱魔法が一人なのに対して陣式魔法は一人から複数人と幅広い。

 また、魔法に注がれる魔力の量も人数次第で増えるため、たいていの場合個人で扱う詠唱魔法より威力や効果は高くなる。

種類も属性ごとに数多くあり、数だけなら普通の詠唱魔法と変わらないか、少し少ないぐらいである。

ただし、陣式魔法を扱うにはそれ相応の準備が必要であり、陣式魔法の知識を持っていなければ全く扱うことはできない。


ルシーナの両親はこの陣式魔法を研究していた。

生憎、彼女の父親は研究の成果がまとまる前に、母親は成果を本として執筆を終えたところで共にこの世を去っている。


「もしかして、さっき読んでた項目って火の属性?」

本の内容を知った上でセフィーは尋ねずにはいられなかった。

「そうよ。火の詠唱魔法、陣式応用の項目。遺跡での探索で万が一って時に役に立つかもしれないでしょ。だからいくつか覚えておこうと思ったの」

「そうなんだ」

セフィーはルシーナのそのまじめさを尊敬した。

自身も出発前にいろいろと用心の為に準備をしたが、友人のように道中でさえもその準備を怠らないようにとは思いつかなかった。


「ねぇ、ルシーナ私も一緒に見て言い?」

すでに先ほどの続きを読み始めていたルシーナにセフィーは聞く。

若干不安が混じった声で。

その声にルシーナは一度本を閉じセフィーへと優しい眼差しを向けて言う。

「良いわよ。一緒に見ましょう」

そして本と明かりをセフィーにも見えやすいように移動する。

「ありがとう、ルシーナ」

「少しくっつきすぎよセフィー」

「いいから、いいから」

セフィーは抱きつくように体をルシーナの方へ寄せる。

柔らかく暖かいセフィーの感触を片側に感じながらルシーナは苦笑いする。


柔らかな明かりの中で二人は楽しげ話しながらその本を読んでいた。


「この陣式魔法、使えれば楽じゃない?」

「さすがに無理だよ」

「無理よねやっぱり」

「最低でも魔術者が6人いるって書いてあるよ」

「私たち二人でできないかしら」

「さすがに6人分の魔力を2人で補うのは無理があると思う」

「回復薬使いながらは?」

「できるかもしれないけど、」

「けど?」

「しばらく魔法が使えなくなると思う」

「却下ね」


そんな2人の会話は夜遅くまで続けられた。




 翌朝、夜明け前より降り出した雨は日が昇ると共に次第に激しくなり、朝には前も見えないほどの土砂降りとなった。

遺跡へと続く道がぬかるみ、馬車が出る出ないの問題以前に、外を歩くことさえできない状況にまでなっていた。

出発の準備を整えていた2人だったが、結局予定を一日ずらすことにした。


予定をずらしたことによって何もすることが無くなったのはセフィー達だけではないようで。

朝食を早めにとるために食堂へと集まった何人もの宿泊客が暇をもてあましていた。

最初の方こそ皆、食堂周辺あちらこちらで過ごしていたが朝食が終わる頃にはここに来た目的が同じ為か自然とうち解けあい和やかに談笑する姿が見て取れた。

当然と言うべきか、その中に昨日の貴族一行の姿は無かった。


 セフィーとルシーナの2人も朝食を食べに食堂へと行ったが、あまりに人が多かったため朝食は取りやめ、その分昼食を普段より多く、時間帯も早くとることにした。


「ルシーナ早く早くっ」

「そんなに急がなくても料理は逃げたりしないわよ、セフィー」

セフィーにせかされ二人が食堂に来た時、食堂にはまだ昼食は用意されていなかった。

「そんなぁ何でまだ用意されてないの」

「できあがって無いならない待つしかないわね」

しょんぼりと項垂れるセフィーを慰めつつルシーナは昼食ができるのを待っていた。

そんな二人の元に一人の女性がやってきた。

「おや、おや、そっちの娘さんはよっぽどお腹がすいてるようだね」

「えぇこのも私も朝食べてないんで」

セフィーの様子を気にする女性にルシーナが今の状況を簡単に説明する。

「そうかい、そうかい、それじゃぁお腹がすくのも仕方がないわね。待ってなさいもうすぐでできるからそしたらすぐに持ってきてあげるよ」

その女性は景気よく笑うと料理を作っている部屋へと笑いながら戻っていった。


 そう待たない内に二人の元に先ほどの女性が両手に料理の入った器を持って戻ってきた。

料理から立ち上るにおいと湯気にセフィーはすぐさま反応し項垂れていた体を起こす。

目を輝かせながら机に並べられていく料理をみつめる。

「さぁ熱い内にたくさんお食べ。といってもそう簡単にはさめないけどね」

最後の料理を机におくのと同時に女性は叫ぶ。

二人は朝食べ損ねた分をかねてできたての料理を心行くまで堪能した。

その量は少女二人が食べるにしては、どう考えても多かったのだが女性は気にする様子もなくにこやかに微笑んでいた。

二人を見つめる女性の鳶色の瞳は優しい眼差しで二人を見つめていた。













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