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出発


 ゆっくりと日が昇り夜の終わりを告げる兆しが見え始める頃、学園都市セルラノフィートの中心にある時計塔が一日の始まりの鐘の音を鳴らす。

人々はその鐘と共に起き始める。

その鐘の音は広大な面積を持つ学園都市全体に響き渡る。

全体的に見ると円形の形をしているこの都市には東西南北にそれぞれ都市外へと出る門がある。

またそのすぐそばには近隣の町や村に向かうための乗り合い馬車の停留所や都市の安全を守る自警団の支所などがある。



朝、二度目の鐘の音が都市に響こうとする頃。

西の門の近くにある馬車停留所の前でルシーナはセフィーを待っていた。

あたりはまだうっすらと暗く彼女以外には誰一人としていない。

この時期、課題実習で近隣の町や村に出かける学園都市の生徒が馬車を使うため、普段商人や旅人ぐらいしか訪れないこの場所もたくさんの生徒でごった返す。

しかし朝早せいかまだ生徒の姿は見えず停留所の周りにいるのはルシーナだけだった。

朝一番の馬車を引く馬たちが大きくたくましい姿を停留所の前に現し、出発の時を待ち始めた頃、ルシーナは薄暗く朝靄のかかる通りの遠くから走ってくるセフィーの姿を見つける。

「遅いぞセフィー」

自ら手を大きく振り居場所を知らせるルシーナ。

セフィーもそれを見つけ手を振りながら自らを呼ぶルシーナの元に急ぐ。

セフィーが息を切らせながらルシーナの元にたどり着いたのは朝一番の馬車が出発する直前だった。

二人が馬車に乗り込む頃すでに都市には本日、二度目の鐘の音が学園都市に響き渡っていた。



「いつものことながら、あえて聞くわ。今日はどうして遅刻したのセフィー」

ゆっくりと速度を上げながら走る馬車の中でルシーナは半ばあきれ気味にセフィーに遅れた理由を聞く。

彼女たちの本来の待ち合わせの時間は一日の始まりを告げる鐘の音のすぐ後だった。

「そのぉ、御免ねルシーナちゃんと朝の鐘音六つ前には起きてたんだけど」

「起きてたんだけど?」

だいたい予想できるもののルシーナはセフィーの遅刻の理由の続きをせかす。

「着替えて準備して時計見たらちょっと予定より早かったんで、、、」

「早かったんで?」

セフィーはルシーナから視線を外しながら話す。

「少しだけと思ってベッドの上で転がってたらいつの間にか寝てて気がついたら、、、」

「約束の時間を過ぎてた訳ね」

「ごめん、、、」


しょんぼりと頭を垂れるセフィーにルシーナは軽くため息をつくと柔らかい笑顔でセフィーに言う。

「別にもう良いわ。セフィーの遅刻癖はいつものことだし、こうして馬車にもちゃんとのれたんだし」

許しの言葉を得てセフィーは一気に明るい顔へと表情を変える。

「本当にありがとうルシーナ」

その儚げで整った顔立ちなのにどこか幼さを残すセフィーの子供のような無邪気な明るい顔を見ながらルシーナは暖かな気持ちになっていった。


馬車は休む間もなく走り続け次の停留所へと向かっていた。


走り続ける馬車の中で今後の予定などを話していた二人。次第に話の内容はとりとめない物に変わり、やがて準備のための休みとした二日間のことへと変わっていった。

「そうだ、忘れてた」

「どうしたのセフィー?」

話の途中であることを思い出し鞄からなにやら取り出すセフィーにそれを困惑気味に見るルシーナ。

セフィーは鞄からいくつか取り出しそれをルシーナに差し出す。

ルシーナは訳が解らないまま差し出された物を受け取る。

受け取ったはいいが突然の出来事にルシーナはどう反応して良いか解らなかった。

疑問を投げかけるようにその切れ長で碧眼の視線を笑顔のセフィーへと向ける。

「それは私からルシーナへのプレゼント」

「プレゼント? 」

そんなルシーナの様子に気がついたセフィーが端的に説明するがルシーナはいまいち要領を得ない。

取りあえずお礼を言うべくルシーナは渡された物を眺める。

ルシーナの手のひらには小さな丸い飾り石が一つついた首から提げるペンダントと、小さな石がたくさん連なった紐が乗っていた。

ルシーナはそれがふつうの店で売ってある物ではないことに気がついた。

なぜなら両方とも特殊な魔法技術が使われていたから。

「セフィーこれってあなたが? 」

確かめるように尋ねるルシーナにセフィーは笑顔で答える。

「うん。私の手り昨日、一昨日で作ったんだ。私とおそろい」

その笑顔にルシーナも笑顔でお礼を言う。

「ありがとうセフィー。私のためにわざわざ作ってくれて」

そんなルシーナにセフィーは付け足すように説明する。

「それただの装飾じゃないよ。二つとも魔法の効果がついてるんだよ」

ルシーナは頷く。

「えぇそれは受け取ったときに何となく気づいたわ。でもどういう効果があるのかまでは解らなかったけど」

そんな彼女にセフィーは得意げに話し出す。

「さすがルシーナだね、私が言う前に気づくなんて。実はその紐みたいなやつは手首に巻くことで普段より早く動けるようになるんだ」

「凄いわね、ひょっとしてこの紐に風の魔法が込められてるの? 」

「うん、ちょっと違うけどにたような感じかな。そして首飾りの方はある一定の条件で光の補助魔法が発動するようになってるの」

「光の補助魔法が?、それじゃぁ、、、」

「うん。万が一怪我したときもすぐになおしてくれる」

時折ルシーナに答えながらセフィーは終始笑顔で説明していった。

ルシーナは驚きと尊敬の言葉をセフィーに言うばかりだった。


もらった物を身につけながらルシーナはふとあることに気がついた。

「セフィー、いつのまにこんな魔法技術を身につけたの? 」

昔からセフィーと一緒にいて時折彼女の魔法技術を見ることがあるが彼女はこのような魔法技術は持っていなかった。

セフィーはそんなルシーナの疑問に微笑みながら答える。

「実はルシーナと買い物に行った日から昨日の間に覚えたの」

そう言いながら彼女は自らの明るく色の薄い茶色の髪に付けている髪飾りを外す。

それは彼女の母親がセフィーのためにこの世に残した大事な物だった。

「それ、あなたのお母さんの形見の髪飾り、、、よね」

少々遠慮気味に尋ねるルシーナにセフィーはどこか儚げな笑顔で答える。

「うん、私の為にお母さんが作ってくれた髪飾り」

泣いてるようにも見える儚げな笑顔で髪飾りを見つめるセフィーの表情はいつもの幼さを残す少女ではなく、ずいぶんと大人びた表情にルシーナには見えた。

「やっぱりそうよ、ね。でも、それがどうしっ、、、」

控えめにその髪飾りが何の関係があるのか尋ねようとしたルシーナはあることを思い出した。

、、、、、、私、今回はこれを自分で作れるようになりたいなって思ってる、、、、、、

今と同じようにどこか儚げな笑顔で語った言葉。

ルシーナはそのことを思い出した。

「もしかしてその髪飾りを? 」

やはりためらいがちに尋ねるルシーナにセフィーは明るく答える。

「うん、実はちょっとだけ調べてみたんだ」

その明るい笑顔に儚さはなくいつものどこか幼さの残る笑顔だった。

そのことにルシーナは心の中でほっと息をつく。

「それでその結果はどうだったの? 」

ルシーナはいつもの調子に戻ったセフィーに安心してためらいがちではなく、ごく普通に聞き返す。

「まだ全部って訳にはいかないけど解ったことがあるの」

また得意げに話し出すセフィー。

「この髪飾りの片方に丸い飾り石がついてるでしょ」

「ええ確かに」

「これ調べたらこの石がアメシストだってことが解ったの。」

「アメジスト?それってよく魔法の杖や装飾に就いている魔法石のこと?」

「うん、そのアメジスト。」

セフィーは自身が手に持つ髪飾りについている魔法石について説明する。

「アメジストには元々魔力を蓄える性質があるのは知ってるよね」

「えぇ学園の魔法鉱物学の授業で習ったからある程度は 」

ルシーナのその言葉にセフィーは小さく頷き説明を続ける。

「その性質を利用すれば簡単な魔法たとえば詠唱補助魔法ぐらいの魔法ならその効果を石に込めることができることが解ったんだ」

「魔法の効果を込めた石は杖や装飾具なんかにつけてその効果を発揮させることができるの。」

「うぅん。なるほどね」

ルシーナはセフィーの手に持つ石を眺めながら感心したように頷いていた。

しかし髪飾りについている石を眺めている内にあることに気づいた。

「ねぇセフィーその髪飾りについてるのってアメジストなのよね」

「そうだよ」

「ならその髪飾りの石、変じゃない? 」

ルシーナの指摘にセフィーは小さく微笑む。

「やっぱり気づいた」

ルシーナの言いたいことが解るセフィー。

彼女も初めそのことに驚いたのだ。

本来アメジストは透明でガラスのような光沢がありうっすらと紫色をしているのだが、髪飾りについている石は違った。

ガラスのような光沢は同じなのだが本来のうっすらとした紫色ではなく全体的に淡い青色をしていた。

「私も詳しくはまだ調べてないから解らないんだけど」

どこか自信なさげにセフィーがその訳を彼女なりの見解で語る。

「このアメジストって言う鉱物は大きさに関係なくものすごい量の魔力が込められるの。 それこそ無限大のように。 込められる魔力が増えれば増えるほど紫色が強くなるんだけど、、、一定の量を超えるとある変化がでるの」


「一定の量ってっつまりその石の限界ってこと? 」

一端説明に区切りを入れるセフィーにルシーナが問う。

その問いに答えるようにセフィーは語り出す。

「そう考えて良いと思う。それでね、限界まで魔力をためることによって石に属性がつくの。そのことで紫色だった石の色は変わるんだと思う」

「これが私なりの結論。まだ全然信憑性がないんだけどね」

最後に恥ずかしそうに笑うセフィー。

「凄いじゃないこんな短い間にそこまで解るなんて。あぁ後、属性って魔法の属性のことなのよ、ね?」

ルシーナは恥ずかしそうに笑うセフィーをほめそれと同時に解らなかったことを質問する。

セフィーはうなずき質問に答える。

「うん、火、水、風、土、光の五大属性。私のお母さんは光と水のシャーマンだったからたぶんこの髪飾りのアメジストには水の魔法が込められてると思う」

大切に両手で自らの瞳の色によく似た色の石を見つめながら続ける。

「たぶんこの石に込められてる魔法はそう高度のもじゃない。おそらく簡単な補助魔法の類だと思う」

ルシーナは何も言わずただ聞き続ける。


「この課題が終わって町にもどったらルシーナに同じの作ってあげるね」

「楽しみにしてるわね」

最後にそう締めくくったセフィーにルシーナは優しく微笑んだ。


セフィーからもらった装飾具を身につけた後ルシーナは自らの鞄から小瓶に液体の入った物を一つ取り出す。

「セフィーこれ飲みなさい」

それをセフィーへと差し出す。素直に受け取りセフィーはそれを光にかざしながら見る。

「ルシーナ、これ何? 」

いぶかしげに聞くセフィーにルシーナは軽く微笑みながら答える。

「さっきのやつのお礼、私が作った薬、、、まぁあどちらかというと栄養剤かな」

片目をつぶりながら愛想よくいうルシーナだがセフィーは気になることがあった。

「これ苦い?」

子供の頃、風邪を引いたときセフィーは母親がどこかで買ってきた風邪薬で文字通り苦い思いをした。

それ以来彼女は薬嫌いになり特に苦みのある薬に関しては断固として拒否し続けてきた。

そんないきさつを知っているルシーナは安心させるようにどこかぎこちない作り笑顔でセフィーに言う。

「安心しなさい。薬嫌いのセフィーでも飲みやすく作ったから」

なおも疑わしげに見つめるセフィー。

「私、疲れてないから大丈夫」

そう言ってもらった薬を鞄に収めようとするセフィー。

「そんな見え透いた嘘は良いから飲みなさい」

それをルシーナが制止する。

「ほっ本当だよ。私つかれてっ、、、」

「そんな覇気のない顔で言っても無駄よ。どう見たって疲れてるようにしか見えない」

なおも言い張ろうとするセフィーにルシーナがきっぱりと言い切る。

セフィーはしょんぼりと項垂れると渋々液体の入った小瓶のふたをとる。

「本当に苦くない? 」

上目遣いでルシーナに再度確認する、それを苦笑いでみるルシーナ。

「大丈夫苦くないから」

ルシーナの言葉を信じセフィーは口元へ小瓶を持ってゆく。

「ただ、、、」

「ただ、、、なに?、、、」

飲もうと傾けた小瓶を戻しルシーナの気になる発言を気にするセフィー。

ルシーナはつい口が滑ったと思いながら答える。

「ただ、飲んだら体力と魔力を回復する代わりにかなり眠くなるって言おうってしただけ。」

「本当にそれだけ? 」

「それだけよ」

結局それほど対したことではなかったのだがセフィーは薬をなかなか飲むことができなかった。

しばし無言で薬を見つめていたセフィーは覚悟を決めて瓶に入った液体を飲む。

「ルシーナの嘘つきぃ。苦いよこれ」

液体を飲み終わると同時にセフィーはルシーナの方を見る。

そして涙目で騙されたと訴える。

「それを苦いと思うなんて子供の証拠よセフィー」

ルシーナは目を瞑りため息と共に言葉をはき出す。

「私、子供じゃないもん。ルシーナと同じ18だもん」

「胸や身長は大きくなったのに中身はまだ子供のままね」

なおも騙されたと主張するセフィーに仕方がないといった素振りでルシーナは鞄から小さな紙に包まれた丸い小石のような物を取り出す。

「これあげるから機嫌直しなさい」

それをセフィーへと手渡す。

「これ何? 」

受け取った物をあけ手のひらで転ばすセフィー

彼女の手のひらには小さなガラス玉のようなものがのっていた。

「ただの口直しのお菓子よ」

珍しげにそれを見つめるセフィーにルシーナは言う。

「何か珍しいお菓子だね。私、初めて見た」

しばらく手のひらで頃がした後、口へと入れるセフィー。

その様子を黙ってみていたルシーナはセフィーが口の中で何度か頃がしたのを見ると尋ねる。

「どうセフィー? 」

尋ねられたセフィーは先ほどの涙目の表情など嘘のように満面の笑顔で答える。

「甘くておいしい」

それを見てルシーナはほっとしたような表情で頷く。

「よかった。喜んでくれて」



口直しのおかげで上機嫌になったセフィーはルシーナと談笑していたが次第にうつらうつらと頭を振り始め昼食にと馬車の運転手から渡されたパンを食べてしばらくすると眠ってしまった。

魔法の装飾を作るために苦労したせいか、薬の影響なのか、おそらくその両方が重なった為にセフィーは隣に座るルシーナの肩にその頭を乗せたまま眠っていた。

「おやすみ、セフィー」

安心した様子で小さく寝息を立てるセフィーにルシーナはそう言うと、馬車にそなえつけの掛けぬのをセフィーにそっと掛けてあげた。

窓から外を眺めながらルシーナは軽い罪悪感にさいなまれる。

セフィーのためとはいえ苦い薬を苦くないと信用させ飲ませた後、騙されたと嘆く彼女に口直しと偽り薬の効果を高める薬を飲ませたことを。

窓の外を見ながら彼女は悩んでいた目を覚ました親友になんと言うべきか。

良い言葉が浮かばずルシーナは目をつぶる。

とその時、彼女はあることを思い出した。

それは自分がつくった薬に関してだった。

初めに渡した薬は確かに苦くしたがセフィーの反応はルシーナの思っていた以上だった。

また口直しと言って渡した物も甘くしてはあるが薬であることには変わりなく決してセフィーが言ったようにおいしい物ではない。

そのことは作ったルシーナが一番解っていた。

そのことをふまえて考えてみると、セフィーの発言や行動はおかしなものになる。

そこまで苦くないものを大げさに苦いと表現することも薬をおいしいと言うことも。

考えられるのはセフィーが初めから解っていて敢えてそうしたということ。

そのことに気づいたルシーナはそっとセフィーを見る。

自分の肩に頭を乗せ安心して眠るセフィー。

「お休みセフィー」

もう一度優しく囁くルシーナ。

優しいまなざしで見つめた後ずれ落ちそうになっている掛けぬのかけ直し、自らも別の掛けぬのを掛けそっと目を瞑る。

ルシーナはもう悩むことはなかった。

言葉などなくても自分たちはお互い解りあえていることに気づいたから。


馬車はゆっくり傾き始めた午後の日差しをあびながら、小さく寝息を立てる二人の少女を起こさぬよう目的地へと向かっていった。

















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