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意志をつぐ者  作者: 花咲 匠
混沌の始まり
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第三十二話 花だけど……

 「えぇーと、デイジーさんは何かしらの移動手段を持っているってコトでいいのわよね?」


 デイジーを一人囲むようにして、6人が座り、ユキがその真ん中でデイジーに問う。

 なぜ6人かと言うと、さきほど失礼な真似をしたワタルは、外で見張り役となっているからだ。

 本人は寒いところが苦手なので、いい罰になるだろうとミホから提案されたのだ。

 自分の恋人を苛め抜くところがミホらしい。


 「あら、私が持ってるわけじゃないわよ。 ただ、あるのを知ってるってだけだからね」


 「どういう意味よ?」


 「だって、私はニンフよ? どこかに移動すると思う?」


 「ニンフって、移動しないのか?」


 さも当然という風に告げるデイジーに、キョトンとしながら聞く誠二。

 さっきはあれほど部外者を入れるのを拒んだのに、もう頓着していない様だ。

 流石は「王の意志をつぐ者」ということか、器が広いのかもしれない。


 「守護する木がなかったら移動するかもしれないけど、木が死んだら私も死んじゃうわけだし。 そばにいたいわね」


 「そうか」


 「話を戻すけど、知ってるっていうのはどうゆう意味? 誰かの持ち物ってこと?」


 「惜しいわね。 昔はそうだったみたいだけど、今では誰も使ってないわ。 というよりも、人が立ち寄らなくなったって方が正解かしら」


 「なんか、引っかかる言い方するな?」


 「だって、使われてたのはもうずいぶんと前だもの」


 「それ、ホントに動くんだよね!?」


 「知るわけないじゃない。 私は、移動手段があるって言ったの。 動くかどうかなんて知らないわ」


 誠二が叫ぶように言ったのに対し、胸を張って堂々と宣言するデイジー。

 話を進行させていたユキは溜め息をつき、コータは苦笑している。

 いつも通り無表情のミツルを除き、基本みんな似たような態度を取る。


 「ねぇ、そんなことより、早く行きましょうよ」


 「そうよ! 使えるか試さないと!」


 ワタルがこの場にいたら、「お気楽能天気コンビが、またなんか言ってるよ」とか言い出しそうなくらい、明るい声で提案する。

 ユキは、どちらかというと現実主義なので、このコンビを呆れたような目で見る。

 そう、ミホとカオリの二人を。


 「あのなぁ、ニンフのデイジーがずいぶん前って言ってるんだぞ? 下手すると1000年くらい前だぞ? 動くわけないだろ」


 「失礼ね! 私はまだ200年くらいしか生きてないわよ!」


 「いや、十分だと思う」


 「なによぉ、せっかく教えてあげたのに!」


 コントを繰り広げる誠二とデイジーの間に、コータが仲介する。

 主にデイジーの機嫌を取るために。

 森の中でニンフを敵に回しても、何一ついいことがない。

 敵に回したら最後、森中の木の実や枯れ葉、果ては木々自体が襲ってくるかもしれない。

 死因が松ぼっくりの頭部直撃なんて、死んでもゴメンだ。


 「まぁまぁ、デイジーさんも落ち着いてよ。 今のは誠二が悪いからね。 せっかく教えてもらったんだから、ちゃんと謝ってよね!」


 「お、おう、悪かったな……そのせっかく教えて貰ったっていうのに」


 「わかればいいのよ、わかれば。 ただ、あなたには後で一つだけやってもらうわよ」


 「え、何を」


 「うふふ、お楽しみに」


 「なんか、すっごい怖いんだけど!!」


 妙なやりとりを交わしている二人には気にせず、コータはミツルに話をするために近づいて耳打ちする。


 「今のところ、敵は?」


 「まだだ」


 「なら、だいじょ……」


 「ただ、変な気配が引っかかってる」


 「変? どういうことさ?」


 「敵意ではないが、味方ではない。 そんなカンジだ」


 「一応、警戒はしておいてね」


 「了解」


 短く返すミツルの肩をポンポンと叩き、頼むとの意思表示をする。

 そして、外に出て見張りだったワタルに先ほどの話をする。

 最初は驚いた様子だったが、あのコンビの話を出すと、やはり呆れたような顔になり、なぜか意志を固くするワタル。


 「ここは、俺がしっかりとしなきゃな」


 「普段しっかりしなきゃいけないのはワタルの方だけどね」


 「ねぇ、ここから変わっていくワタルさんの活躍の出鼻を挫かないでくれない!?」


 「まぁ、頑張ってね」


 「反応軽いな!!」


 喚くワタルに労いの言葉をかけてやり、その場を後にするコータ。

 そして、気配を殺して一旦チームメンバーから離れる。

 なぜこんなことをするのかと言うと、別にやましいことをするために気配を殺したのではなく、ミツルの言っていた妙な気配を探るためだ。

 ミツルの索敵半径には入ったみたいだったが、コータの方は全く音沙汰なしだったからだ。


 といっても、すぐに見つかるはずもなく、5分ほど経ってから、ひょっこりとみんなの所に合流するコータ。

 これで意外と影が薄いので、気づかれることがあまりない。

 本人は気にしているのだが、周りは全く気づいていない(二つの意味で)


 「よし、じゃあ、そろそろ行こうか。 デイジー、道案内よろしく」


 「わかったわ。 じゃあ、ちゃんとついてきてね」


 「はーい」


 本当にコータがいなくなったのに気づいていない誠二が、やけに慣れなれなしくデイジーに接する。

 当の本人も全く気にしていない様子だったので、いいのだが、いつの間に仲良くなったのだろう。

 戻ってきたコータに気づいたのか、ミツルが相変わらずの無表情で近寄ってくる。

 ミツルだけは、いつもコータの存在に気付いているが、その性格なので、わざわざ騒ぎ立てることはしない。


 「どうだ?」


 ここで言うミツルのどうだ?とは、「どうだ?見つかったか?」の意味だろう。

 面倒くさがって、何かと言葉を省略したがるミツルなので、長い付き合いでなければ誤解されることが多々ある。


 「いや、見つけられなかった。 僕が見つけられないなんて、相当な手練れじゃない?」


 「だろうな」


 「まぁ、ミツルに敵意を悟らせないあたりで、そんなに期待はしてなかったけど」


 頷いたミツルはコータを置いて、先に進んでいってしまう。

 しかし、そんなコータに近寄ってくる人がいた。


 「どうしたの、コータ?」


 「ユキは何か感じた?」


 「何のこと?」


 「ううん、なんでもない」


 同じ「すべての意志をつぐ者」なら、何か気づいたかもしれないと、淡い期待をかけてユキにも聞いてみるが、キョトンとした顔をされただけで終わる。

 このチームで今のところ、あの気配に気付いているのはコータとミツルの二人だけなので、まだ知らせなくてもいいだろう。

 不確定要素はなるべく少ない方がいい。


 「ほら、何してるの。 早く付いて来ないと置いて行くわよ!!」


 「あぁ、ゴメンゴメン」


 「全く、きりきりと動きなさいよね!」


 デイジーは、遅れているコータを叱り、自分も足早に歩いていく。

 呑気な性格をしているニンフが多いのに、このデイジーだけは、どうにも違うらしい。

 そんなコトを考えていると、


 「ねぇ、さっきワタルが失礼なことを言っていたのが外から聞こえたんだけど、コータはなにか知らない?」


 「あっ、テメェ!! それは卑怯だぞ、隠し事が苦手なコータに確認とるのは!!」


 「僕そんなに隠し事苦手かな?」


 「だって、バレバレだから! オイ、ミホ、何もなかったんだって!!」


 「あっ、カオリ! そういえば、さっきの私と一緒にカオリも失礼なこと言われたわよ」


 「ああん? おい、ワタル詳しく話を聞こうじゃないか」


 「ミホ、おまえ全部聞こえててやってるだろォォォォ!!!!」


 「なんも聞いてなかったけど、今のでボロが出たわね、ワタル!!」


 「しまったァァァァ!!!!」


 恒例となったいつものやりとりを交わしながら、ミホに殴りかかられるワタル。

 いつもと違う所と言えば、武闘派のミホだけでなく、魔法使いのカオリも混ざっていることだろう。

 拳と魔法の攻撃を、辛くも避け続けるワタルだが、目に見えてどんどんと消耗してきている。

 この分だと、力尽きて攻撃が当たるのは時間の問題だろう。


 そんなワタルを、呆れたような目で見ながらデイジーが隣にいる誠二に声をかける。


 「あなたたちって、いつもこんななの?」


 「そうだけど、どうかしたか?」


 「…………いや、別に何でもないわ」


 その会話を近くで聞いていたコータが、デイジーの言いたいことがよくわかるとでも言いたげにため息をついたのが印象的だった。


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